281 ディスられスネての報復のち、ついで仕事
シウが心配するようなことはなく、雪に邪魔されながらもアントレーネとククールスは三目熊を狩って戻ってきた。
「あれ以上吹雪くと飛行板は無理だな」
「あたしは新雪というのが、あれほど怖いとは思わなかったよ」
と、感想を言い合っている。
三目熊を見付けると、アントレーネは地面ヘ降りて倒そうとしたようだ。が、深い場所だったらしく、ずぼっとハマってしまったのだ。
シウも《感覚転移》で「視」ていたが、ククールスがすぐさま助けていたので転移はしなかった。
二人にかかれば三目熊もあっさりと倒せる。そのまま魔法袋に入れて戻ってきた。
「飛行板は、やはり次善の策だね」
「そりゃあ騎獣に勝るものはないだろ」
どこかで聞いたような台詞だ。シウは笑って二人を労った。
「お疲れ様。小屋の中に入って。暖かくしてるからローブは脱いでね」
「ああ。ていうか、小屋? 建てたのか……」
「小屋じゃ、ないよねえ」
二人はブツブツ言いながら、小屋に入っていった。
もちろん勝手に作ったわけではない。ちゃんとイグに了解を得た。遊びに来る時に休める場所を作っていいかと聞いて快諾を得たのだ。
ついでにイグ用の扉も付けたし、中にはイグ専用の部屋もある。そこに鏡も設置した。ロトスが見に来て悪ノリしたので、ベッドなどトカゲサイズで作られている。
喜んでもらったので問題はない。
さて、小屋の中では皆で楽しく昼ご飯を食べた。
三目熊の焼肉はイグを喜ばせたようだ。
([このソースとやらがまた美味い])
「焼肉ダレだね」
([ふむ、なるほどのう。人間は調理をするので、そこは素晴らしいと思うぞ])
器用に前足の爪で掴んでパクパク食べていく。
あの小さい体によく入るなあと思うが、大きな恐竜ほどもある古代竜から転変して、小さなトカゲになっているのだ。胃もそれなりなのだろう。
それ以前に、冷静に考えると聖獣の転変にも驚くが、古代竜からトカゲになるというのは一体なんだろう。質量を無視していると思うのだが。
シウがロトスにそう言うと――。
「そこらへん、俺も分かんねえけどさ。そういうのは【ファンタジー】でいいんじゃね?」
「【ファンタジー】でいいの?」
「いいんじゃね?」
「そっか」
これまでも、理解の範疇を超えたものに関しては「異世界だから」で済ませていた。
なるほど、では気にするだけおかしいか。
そもそも魔法が存在するのだ。
地球にはなかった魔素というものも。
であるならば、きっと質量も魔素と同じ何かで処理されているのだろう。案外、ここにある濃厚な気配、威圧感のような強い存在力こそが消えた質量分の「魔素」のようなものかもしれない。
そう考えると面白く、シウが「見えない質量=魔素のようなもの=威圧感」に対して鈍感な理由も分かる気がした。
なにしろシウには外付けではあるが、無尽蔵の魔力庫というものがある。
身の内ではない、亜空間のような場所にある魔力庫だが、それに触れていることが案外「鈍感」の理由かもと考えた。
ところで、アントレーネはイグに対して尊敬や畏怖といったものを感じたようだが、土下座するほどではなかった。
最初に威圧感に引いてしまって通り越したのかもしれない。
ビクビクとまではいかないが遠慮しいしい話をしていた。
ククールスも同じような感じだ。おかげで、二人ともシュヴィークザームに対する垣根が低い。
聖獣の王だと思って接しているらしいが、イグと比較したら対応が普通だ。
「じゃあ、シュヴィ様は一日中ゴロゴロしていられたら幸せってことかい?」
「あ、俺も。ついでに飲んでられたらいいな。朝から酒飲むとか幸せだよな」
「兄貴、それアル中発言だぜ」
「あるちゅう、ってなんだよ。お前もシウと同じで意味不明な言葉使うよな。飼い主に似るっていうけど、気をつけろよ」
「ちょ、ひでえ。俺は飼われてるわけじゃねえ! あと、俺は言葉が多いの!」
「語彙、ね」
シウがそっと交ざると、ロトスが振り返って怒った。
「意味不明な言葉使うのはシウだけだっつうの!」
「あ、うん」
([まあ、許してやれ。こやつはわしが生きていた頃の、古い言葉とやらで話しかけてくるような子だ])
「わしもそれは驚いた。どこの世界に、ドラゴンと古代語で話す人間がいるかとな」
そのうち、シウの「あるある」と「ない」話を始めたので、交ざるのは止めた。
ひっそり片付けていると、フェレスがやって来て尻尾をぶつける。シウがしょんぼりしているのが分かったのか慰めてくれているようだ。
クロも飛んできて頭の上に乗る。ブランカは暖炉の前で開きになったままだ。
「ま、いっか」
「にゃ」
「きゅ!」
楽しそうな彼等には、後で酸っぱいものでも出しておこう。
想像して溜飲を下げるシウなのだった。
ちなみに、ロトス以外は全員、梅干しを食べて悶絶していた。
ロトスが引っかからないのは分かっていたので、彼にはシャイターンの港で見付けていた珍味「くさやモドキ」をゼリーで包み食べさせる。
こういう冗談をシウがやるとは思っていなかったロトスは、最初は目を白黒させて驚いていたが、大笑いで許してくれた。
残りの面々は、大変衝撃を受け、ロトスの大笑いに釣られるように引きつった笑みを見せたのだった。
イグは変な動きで固まってしまったが、意外と気に入ったらしく壺ごと置いていけとのことだ。彼はここにいるメンバーで一番の美食家かもしれない。
皆が慣れてきたので、シウは一人でウィータゲローへ行くことにした。
水晶竜の様子を見に行くためだ。
イグに皆のことを頼み、軽い調子で「じゃあね」と言って転移する。
ウィータゲローは相変わらず生き物の気配がしない、極寒の地だった。自分自身に結界を張っているものの寒さに変わりはない。少しだけ温度を調節してから巣穴近くの地面に降り立った。
水晶竜達の巣穴があちこちにあるが、その中心地となる場所に杭がある。
認識阻害も掛けてるが、製作者はシウなのでもちろん分かる。
この杭は、円形に付近一帯を囲っているものだ。
空気はある程度流れるが、魔素などを完全に閉じ込めている。
中は濃厚な気配を漂わせ、すごい。魔素に噎せ返りそうな気がして、シウは少しだけ顔を顰めた。
水晶竜から生じる魔素を吸収させることも考えたが、生き物相手のことなので止めていた。上空に少しずつ流れ出るよう結界に穴を空けていたものの、薄まっていないのは中の魔素が予想よりも濃すぎるからだろう。
穴はそれ以上開けるとスタンピードに繋がる可能性もある。
この濃い魔素を杭に吸収させても良かったが濃厚すぎて耐えきれない場合が怖い。それを考えたら結界内に留めておく方がマシかと思っていたのだが、予想以上に多かった。
少し考えて、自身の魔力庫に吸収してみた。
「……問題ないか」
しばらく様子を見ていたが特に異常は感じられない。
そのため自動化で吸収できるかやってみた。
「いけるかな」
転移で、結界の外へ出てみる。そこから転移で吸収させてみるが上手くいった。
ただこれも、見えないところでの自動化は少し怖い。
「たまに来て吸収すればいっか。あとは、自然に混ぜ返す機能でも作るかな」
どのみち魔素とは自然にあるものだ。地中深くへ戻すか空気中に混ぜてしまえば良い。
転移で杭の近くへ戻ると、杭とは別に魔道具を作る。
魔素を集めるような形にして少しずつ拡散する魔術式を施す。これを地中深く、地下迷宮などできようもないほど奥へ流れるようにしてみた。
一部は地下という自然に返すことにして、一部は水晶竜たちのため、そして残ったものをシウが回収すれば良い。
ふと思いついて、ウィータゲローが見えない場所まで転移し、そこで《感覚転移》し「視」ながら、魔素の吸収を行ってみた。
「『視』ているからか、不安がないなあ。転移しない場合はこの形でもいいけど……」
とはいえ、転移は簡単にできる。
忘れさえしなければいいのだから気を付けておこう。
と、そこまで考え、シウはふうと溜息を吐いた。
「……神様から魔力庫を使うように言われているのに集めてしまったら怒られるかな」
最近は自重しなくなっているから神様の望む通りに使っているはずだった。
今回のことはイレギュラーだ。
「また、転移をばんばん使えばいっか」
それで許してくださいと心の中で神様に伝えたのだった。
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恒例のアレです。読み直し修正が追いついてない感じの。8月末までは3~4日ごとの更新になるっす。
この季節になると毎年思うけど、今年ほど真剣に思ったことはない。
「無事に乗り切る」
ほんと大切。これを目標に頑張りまっす。
命にかかわるようなと言われる異常気象です。皆様もどうぞお気をつけください。
梅干し、いいよ、梅干しwww
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