244 殲滅
黒の森では《広範全方位探索》を掛けながら、移動を繰り返した。
ヒュブリーデアッフェの小さな群れがあちこちにあって、それらを潰して回る。
かなり奥にトイフェルアッフェもいて、オークやオーガを生きた餌として洞窟に閉じ込めていた。
上位と呼ばれるオーガを飼うのだ。異常性がよく分かる。
それらの巣を潰し、近辺の魔獣も殲滅した。
夕方にはロトスたちのところへ戻ったが、彼等も彼等で魔獣を狩っていたようだ。
なかなかの戦果で、魔法袋の中身を取り出して自慢してくる。
シウは苦笑しながら、野営の準備を始めた。
「こ、ここで野営すんの?」
「うん」
「転移して、どっか景色の良い場所でも……」
「でも、これも良い訓練になるから。あと、フェレスたちが里で余計なこと言い出すかもしれないし」
そう言うとロトスがチラッと三頭、いや二頭を見て、頭を振った。
「だな。やめとこう」
今を生きるフェレスたちは、少ししたら時間軸があやふやになるのでいいのだが、たまに「今日こんなところに行ったんだよー」と話すため危険なのだ。
もっとも本当の理由は「野営をしたい」気持ちの方が強い。
こうした危険な場所での野営がどんなものか、強固な結界を張りつつ経験しようと思った。
おかげで、食事の後ぐらいからすごいことになった。
匂いは結界で阻んでいるのでしないはずだし、美味しそうな魔力だって漂わせていないはずだ。
強固な結界の中の空気は、かなり上空のものと循環させている。
それでも魔獣には「人がいる」と分かるらしい。
確かに、彼等の視力は良い。
人間がいると分かるだけの頭脳もある。
「とんだ、素敵なナイトサファリだな!」
「何それ?」
「前世で見たことねえ? 行ったことなくてもさ。ナイトサファリってあっただろー」
「ああ……」
どうやらジョークだったらしい。
「声が届かない分、マシだわ」
「ナイトサファリなら、声が聞こえた方が良くない?」
煩いと思って音も遮断していたのだが、解除しようかと提案してみたら。
ロトスはのんびり座っていた椅子から起き上がって、怒った。
「バカタレ! ヤメロよ、絶対ダメだからな」
「……絶対ダメって言われた時は、やってほしいって意味だって前に――」
「いや、マジでやめて。ほんと、お願いします」
「冗談だよ」
にこりと笑うと、ロトスはぐったり地面に手をついた。椅子に座ったままなのでおかしな格好になる。
ブランカが、遊んでる? と顎を乗せてしまい、ロトスはぐええと声を上げていた。
結界の外側の、争い始めたヒュブリーデケングルや岩猪、三目熊にナーデルハーゼなどなどを眺めながら大人になったシウとロトスはお酒を飲んだ。
フェレスたちはもう眠りに就いている。彼等の方が大物だと、ロトスは笑った。
「まあ、シウのこと信頼してるっつうか、安心しきってるんだろうなー」
「もうちょっと危機意識は必要だと思うけどね」
周りを魔獣に取り囲まれて眠れるほど、シウも呑気ではない。
ロトスと交代で休むつもりだ。
ロトスも、お酒への耐性はかなり強くなってきて、ほぼザル状態になっている。酔うのを楽しみにしていたロトスは、そうした気持ち良さは最初だけで終わってしまった。
シウの気持ちが分かったと、嘆いてもいた。
「そういや、シウの血縁者の爺さん、見てたよな。あの人、精霊使ってたぞ」
「そうなんだ?」
「だから気付いたんじゃねえの?」
「視線を感じたから」
「それが精霊だと思うんだけど。なんで視えないのかね」
「さあ。もう、諦めたよ」
シウが肩を竦めて溜息を吐くと、ロトスはまあまあと宥めるようにシウの肩を叩いた。
「ハイエルフでも全員が視えるわけじゃないらしいぜ。ほら、能力者とか言ってたじゃん。あのレベルが高くても、視えない奴もいたらしいしさ」
「ククールスも言ってたね。なんだろね、その基準って」
「心が清らか、だとか?」
自分が視えるからといって、良いように言う。
でも、このメンバーだと視えないのはシウだけなのでそうかもしれない。
「……レーネも視えないよ」
「はっはー」
そこは言及しないロトスだった。
その後、精霊が偵察に来ていた大半は、
「爺さんがやったっぽいな」
という話になった。シウには分からないが、雰囲気、空気感が見張り台にいた人物と同じらしい。
シウの大伯父に当たるウェールスというお爺さんは、恥ずかしがり屋なのかもしれない。それを言うと、ロトスは大笑いだ。引き笑いのまま、ウェールスがハイジのお爺さんに似ていると、シウにはよく分からない話を続けた。
話が一段落つくと、ロトスは先に寝ずの番をすると言ってシウをテントに押し込んだ。
いつもよりは少し早めの就寝だ。
「たーくさん寝ないとなー」
シウをからかうだけからかって、ロトスは魔獣が団子状態になっている結界の外に視線を向けていた。
翌日も境界線に並行し、竜人族の里方面へ向かって進んだ。
途中、珍しい魔獣にも出会った。
「ギガスウィーペラだよ!」
「何ソレ。そんなん、どうでもいい。俺、蛇、キライ」
「なんで片言なんだよ」
笑いながら、シウは七メートルほどもある毒蛇を倒した。
「この胃袋、特殊金属を運ぶのに使えるんだよ。まだ熱々のラーワ、溶岩だとか、溶けているミスリルとかを」
「へー」
「近くに巣があるかも。探そう」
「ええっ」
「あると絶対、便利だから。それに売れるよ?」
「よし、行くぞ。さっさと探そうぜ」
コロッと意見を変えて、早速探知魔法を使い始めたロトスである。
巣を見付けたので、ロトスにも倒してもらい、取りこぼした残りは全部まとめて狩った。
「うげえ。七メートル級の蛇がくんずほぐれつ。しかも、ほぐれてない」
「でも、結構大きな巣だったし、ここで倒せて良かったよ」
「それはなー。こいつら、あんまり移動しそうにないみたいだけど、他の魔獣の餌になって、そいつらが力つけたらヤバいもんな」
「そうそう」
「にしても、俺、結構レベル上がったんでない?」
「うんうん」
「お小遣いもできたしー」
自分が倒したギガスウィーペラを見て、にんまりしている。
「僕のと半分こにするのに」
「だから、それはダメ。俺を理想のヒモにするなよな。今だって、養ってもらってるっちゅうのに」
「……聖獣だから、いいんじゃないかなー」
と言ったら、デコピンされてしまった。
一応、人間としての意識はあるのだそうだ。プライドとも言う、と継ぎ足してから、笑う。
「ま、ニートにならないためにぼちぼち働くわー」
「そっか。……じゃあ、それ、解体してね」
「ええっ?」
「解体してね」
やり方が分からないもの……と小声で言うので、シウがお手本を見せることにした。
と言ってもシウだって解体したことはない。
全て本からの知識だ。
それでも一発でできてしまうのは、生産魔法のレベル五が効いているせいかもしれない。
ロトスは、半泣き状態でギガスウィーペラの解体をして、胃袋をゲットしていた。
良いお小遣いになるだろう。
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