245 滞在の最後は




 その日の夕方に戻ると、キルクルスたちがまだ戻っておらず、シウたちは皆から説明を求められてしまった。

 おかげで言い訳に苦労した。

 一応、「別行動していたが、すぐに里へ戻ることになり、フェレスたちを全速力で走らせた」と言ったら、信じてくれたようだ。たぶん、だが。



 翌日、そろそろ帰ろうと思うとガルエラドに告げたら、彼はすでに準備をしていたらしかった。

「スタン殿のところへ行くのだろうと、思っていたからな」

「あ、そうなんだ」

「去年も、そう言っていたではないか。我も誘われたぞ」

「それは覚えてる。行く?」

「……いや、迷惑をかけるかもしれぬからな。止めておこう」

「迷惑じゃないんだけどなあ。ただ、王都を散策ってわけにはいかないかも」

「うむ」

 そうだろう、と納得顔のガルエラドに、ロトスがツンツンと指で突いた。ガルエラドにそうしたことができるのは、この世でロトスだけのような気がする。

「兄貴兄貴、でも、シウは転移ができるんだぜ? スタン爺さんとこで挨拶して、年末年始を『崖の巣』でゆっくりするのもアリだし」

「む」

「シウが、がっちがちの結界張って、アウルを王都観光させてやったりとか。喜ぶだろーなー」

「うむう……」

「俺だって聖獣だってこと隠してるけど、バレてないもんね。この首輪のおかげで」

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 ロトスの冗談はシウにしか届かない仕様なので、ガルエラドは「うん?」という顔をした。

 その為、ロトスは改めてガルエラドに、ほーらーと首輪を見せつけている。

「ガル兄貴はもう俺の本性知ってるから分かんないだろうけど、俺のこの溢れんばかりの輝かしい聖獣オーラ、普段は誰も気付かないわけ」

「……ああ、そういうことか」

「どうでもいいけど、ガル兄貴も冗談通じないタイプだったね。まあいいや」

 ガルエラドをたじたじにさせるのも、たぶんこの世でロトスだけだろう。

 シウはおかしいやら可哀想やらで、二人のやり取りを眺めていた。


 結局、ガルエラドはしつこいロトスの勧誘に負けて、一緒にスタン爺さんの家へ行くことになった。

 かなり大所帯になるが、離れ家は全部空けてくれているとのことだから改造なりして対処しよう。

 アウレアもまだ一緒にいられると知って喜んでいた。



 アントレーネは竜人族たちと随分仲良くなっていて、一緒に魔獣狩りへ行ったり、ヒュブリーデアッフェやトイフェルアッフェと戦う場合の訓練などをしていたそうだ。

「シウ様と組手をやっていた経験が役に立ったよ!」

 と、嬉しそうに報告されたのだが、それってシウのことを猿の魔獣に見立てていたということで……。

 別に構わないが、楽しそうで何よりだ。


 赤子もたった数日会わないだけだったのに、しっかりしてきた。

 アントレーネには大袈裟なと笑われたが、走ったり喋ったりするのが上達した気がする。

 しかし、ロトスには「親ばか」と言われてしまった。


 その赤子たちと、ソノールスもすっかり仲良くなっていた。

 言葉の遅かったソノールスは、言葉の早い赤子三人組につられて随分喋るようになったらしい。アウレアもそうだが、誰かと話すことでお喋りになっていくようだ。

 アウレアの場合は特に、接するのが無口な性質のガルエラドだったこともあって、随分遅かった。

 今ではガルエラドも頑張って話しかけているようだし、シウたちともよく話すようになった。

 おかげでアウレアもどんどん喋っている。

 表情も出てきて、明るくなった。

 人は人と接するのが大事だと言うが、本当だなとしみじみ思う。




 さて、そういうわけで竜人族の里を出ることが決まった。

 竜人族たちは随分惜しんでくれて、帰るまでの二日は予定を詰め込まれてしまった。

 料理作りだったり、魔法の勉強会に、訓練だ。

 なんだかんだとやってることはゲハイムニスドルフの時と変わらず、それでも気安い関係の里での暮らしは楽しいものだった。

 フェレスにも大柄な竜人族の男二人を乗せるという訓練も行ったが、なかなかのペースで飛べていた。本獣にとっては不本意な速さらしいので、今後もっと頑張るそうだ。


 ロトスと一緒に「空白の地」も見に行った。

「あそこが、彼等の祖カエルラマリスの墓標になるんだって」

「すごいところだな……」

 どこまでも続く何もない荒野に、ロトスは圧倒されたようだった。

「なーんにもねえや。本当に何も」

「うん。精霊どころじゃないだろうね」

「な。こういう言い方したら怒られるかもしれないけどさ。黒の森よりも、何もないな」

 生きているものの気配が一切ないのだ。

 黒の森でさえ、森は生きている。瘴気に塗れているが。

「すげーな。なんか、シウが古代帝国の謎、ってやつを気にするの、分かる気がする」

「僕のは謎解きをしたいっていうよりも、もしまた同じことが起こったら怖いってとこから来てるんだけどね」

「心配性だもんな、シウ」

「まあね」

「俺の婆ちゃんとそっくりだぜ。でもまあ、年寄りはしようがねえ。ぜひとも心配してくれ。その代わり、無茶はすんなよ」

「はい」

 なんだその聞き分けの良い返事は、とシウはロトスに肩を叩かれてしまった。



 最終日には、クレプスクルムに呼ばれて一緒に寝た。

 昼間、去年抱っこされて寝たことを知ったロトスにからかわれていたら、それを耳にした彼女が「今年も寝ましょうね」と言ってきたのだ。

 ついでにロトスも拉致されかけて、彼はなんとか逃げ出していた。

 恥ずかしいらしい。

 シウも、今年はちょっと恥ずかしい気がする。

 でもまあ、クレプスクルムからすれば、

「息子はあんなに大きくなって、もう一緒に寝てくれないのよ」

 ということらしいから、同情してしまったのだ。

 何故かアントレーネも付いてきたし、当然の流れで赤子三人も一緒だ。するとアプリーリスも来て、みんなでごろ寝することになった。

 フェレスとブランカは大きすぎて家に入れなかったので、追い出されて拗ねて、ロトスを巻き込み暴れていたそうだ。

 クロは小さいのでシウと一緒である。ちゃっかりと、潜り込んでいた。




 風の日の朝、シウたちは竜人族の里を出た。

 見送りは断った。

 彼等の見送りは一日がかりだ。そこまで送ってもらうのも悪いし、時間もなかった。

 なんたって次の日は光の日であり、年末最後の日だ。

「では、ここで送らせてもらうが……」

 と、渋々納得したキルクルスたちが、見送ってくれる。

「また来てくれ。でも今度は手ぶらでな」

「ううん。持ってくる。だって、僕はもうソキウスでしょう?」

「……そうだな。そうか。うん。その代わり、我等もシウの呼びかけには全力で応えると誓おう」

「ありがとう」

 ウェールやアエスタースがアントレーネと抱き合っていた。

「ソキウス・アントレーネ、またね」

 と呼ばれている。もちろん、ロトスもだ。

 最後に、長老ソヌスが告げた。

「また会おう。必ずだ。それまで皆が無事に過ごせるよう、我等が祖カエルラマリスに祈ろう」

「はい」

 手を振って、竜人族の里を後にした。



 ウェールの妊娠や、リングアの落ち込みようにキルクルスたちの婚活事情、温泉でのはしゃぎっぷりなど。色々あって、充実した日々だった。

 また、会いに来ようと思う。

 今度は春を予定している。

 甜菜の苗を持ってきたいし、ゲハイムニスドルフにだって寄りたい。

「予定が詰まっているのって、なんだか嬉しいね」

 そう言うと、ロトスは、

(リア充だな!)

 と発言して、シウを大いに笑わせたのだった。


 ちなみに、シウはもう「リア充」がどういう意味かは分かっている。

 今のシウは間違いなくリア充なのだ。

 神様の勧めてくれた「恋愛」に関してはちょっとクリアできていないが……。

 ロトスいわく、「女性と一緒に寝たのだからリア充ってことにしといてやるわ」だそうなので。

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