229 結界と精霊、話し合い続き




 食事が終わると、一度休憩してもらうことにした。

 話し合いも必要だろう。

 屋敷の厨房付近ではもっと騒ぎになっているようだったから、ヒラルスも把握したいだろうし。

 その間に、シウたちも話し合いである。


 先ほどの結界魔法についてだ。

「さっきから試してるんだけど、よく考えたら僕には精霊が視えないんだよね」

「だよな。それでよく試そうと思ったな」

「……だよね」

「で、俺様の登場ってわけか。よし、任せとけ」

 ドンと胸を叩き、ゲホゴホッとするところまでが仕様らしい。

 何故ロトスが演技過多なのかは分からないが、楽しいのでまあいいかとシウはスルーした。

 スルーするなよぅと袖を引っ張られながら、シウは結界を張ってみた。

「うーん、出入りは、してないな」

「え、そうなんだ?」

「うん。あ、境界に行った。どうだ、行くか? 抜けちゃうか? あー、ダメだあ。弾き返されてるな」

「そうなんだ」

 一度解除して、今度はどの辺りにいるのかを聞きながら張ってみる。

「おー、やっぱり通り抜けはできないっぽい」

「ふうん。でも、中にはいるんだね」

「そうだな。埃じゃなければ」

 キルクルスとクレプスクルムも視えないらしいので、何やってんだろね、みたいな顔で椅子に座ってのんびりしている。

 フェレスたちは広間を走り回って遊んでいた。

 外側に防音を含めた結界を張っているものの、ちょっとはしゃぎ過ぎである。

「ちょっと、追い出せるかやってみる」

「追い出すのかよ。浄化! ってか?」

 笑うので、シウは半眼になった。

「だから、埃じゃないって」

「お、ツッコミ上手くなったな!」

「ロトスのおかげでね。さて、と。どうかな」

「うおっ、何それ」

 小さく張った結界を徐々に大きくするというやり方で、生き物は透過するとイメージしてみた。

「うへー、なんか気持ち悪いー」

「精霊は?」

「あ、えっとなあ、いるっぽい」

「……生き物じゃないのかな」

「生き物設定だったんだ?」

「うん」

 へえ、と間の抜けた返事で、ロトスはぽかんとしていた。そして。

「……やっぱり埃じゃねえのかな。あいつら」


 冗談かどうか分からないロトスの発言を無視して、シウは実験を続けた。

「今度は精霊を排除するって考えて、全体に張ってみる。いくよ」

「おし」

「はい、どうかな」

「おお! いなくなった。すごい。一発じゃん」

「そっか。こんなのでいいんだ」

 聖別魔法のような聖なる魔法がなくても大丈夫そうだ。

 光属性と闇属性があるので、できるかもと思ったが案外上手くいった。

 まずシウのイメージでは、精霊は闇に弱いのではと考えた。もっとも精霊にだって、闇に潜むものもいるだろう。

 ならば、基礎魔法属性の全種持ちであるのだし、どうせならと結界魔法に全種類の属性を盛り込んでみた。

「ところで、俺、気になってることあるんだけど」

「何?」

「もし境目に精霊がいたら、どうなると思う?」

「……どうなるのかな」

「やってみる?」

「僕には視えないのに?」

「よし、多いところ教えてやる」

 そう言うと窓まで連れて行かれた。

 でも万が一消えたらどうするんだろう。

 とは思ったが、ロトスではないが気になる。

 ロトスの細かい指示を聞きながら、小さな結界を張ってみた。

「……」

「どうだった?」

「あー、いや」

「えっ、もしかして本当に消えた?」

 シウが心配したのに、ロトスはどこかつまらなさそうに答えた。

「消えてない。ていうか、弾かれるように、どっちかに移動してる」

「そうなんだ?」

「てっきり真っ二つになると思ってたのに」

「ロトスは案外怖いこと言うよね」

「スプラッタ嫌いだけど、あれ、埃かもしれないじゃん」

 まだ言うのかと思いながら、今考えついたことを口にした。

「結界は、武器じゃないからじゃないかな?」

「おえ?」

「防御であって、武器じゃない。僕のイメージがそうだし、そう考える人は多そう」

「おお! そうか!」

 だから、ここにかまいたち的な想像の空間壁を作れば、ひょっとしたらスッパリ行くのかもしれない。

 なんにしても、すぐに消える儚いものだとはいえ、消してしまうのは可哀想だ。

 害のあるものではないし。

 どうやらシウは、好かれているようでもある。そんな相手に実験してしまって、悪いことをした。

「ロトスに唆されて実験したけど、不発で良かった」

「俺だけが悪いのかー?」

 突かれたものの、シウは笑って逃げただけで返事はしなかった。

 おかげで追いかけられることになり、広間で走り回っていたフェレスたちも「あそぶの?」と参加して、良い腹ごなしとなった。




 午後はまたヒラルスたちと話し合いだ。

 今度は積極的に質問であったり、頼み事は可能かどうかなどの前向きな話題が多くなった。

 もちろん、大前提に、

「誓約魔法については、必ず行うと約束させていただく。先ほど、使える者へも再度、伝えに走らせた。かなり大掛かりなものとなるので今日明日というわけにはいかないのだが……」

「使っていただけるのなら、構いません」

「そうですか! 良かった」

 プリスクスは大袈裟に安堵していた。

 というのも、引き伸ばしをしていると思われるのではないかと気を揉んでいたようだ。

 あくまでもこれらは交渉なのだと、彼女は分かっている。

 いくらシウがこの村出身の者の血を引いていたとしても、彼等を無償で助ける義理はない。そうしたことをきちんと理解している。

 実は感覚転移で彼等の話し合いを見ていたのだが、若手の中にはどうも反感を持つ者もいるようだ。

 特に、「血族ならば村のために働いてもらっていいじゃないか」という意見を出した若者などは、村長のことをバカにしているフシがあった。

 どこにでも血気盛んな若者というのはいる。

 大変だなあとシウは村長に同情した。

「誓約魔法を使うにあたって、対価はどれほどでしょうか?」

「――それは、本来はいただかなくても結構なのです」

「長!」

「グラキリス、あれらの言うことを聞かずともよい。シウ殿、以前トイフェルアッフェを一匹いただいた。あれの魔核は大層な値段で売れました。対価はそれです」

 なるほど、村長は矜持を持っているらしい。

 となると、若手の方が暴走しているのかな、と思った。

 そして仕入れには若手が行っているはずだ。魔核を売った時に、護衛の竜人族に知られないようにしていたとも聞いた。

 つまり、今の村の大変な様子は若者たちが原因なのかもしれないと、シウは想像した。


 ヒラルスが正しい道を進みたいと思うことに、グラキリスもプリスクスも従うようだった。

 元より、若手の意見を諭していた彼等だ。

 シウはロトスとも念話で相談していたが、ひとつ頷いて、答えた。

「それでは申し訳ないので、もしよろしければ村の発展のために、お手伝いさせてもらえませんか?」

「えっ」

「と言っても、なんでも僕がやってしまうのは、良いことではありません。オリーゴロクスでもそうでしたが、そこに住まう人間が自らの手でやらねば意味がないです。どうでしょうか? アエテルヌスさんから報告があったと思います。オリーゴロクスの様子を知って、どう思われましたか?」

 三人は顔を見合わせると、ゆっくりと肩の力を抜いて、それから笑みを見せた。

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