230 能力者と若手の暴走
詳しくは明日からということになったが、主にオリーゴロクスでやったように畑作りの手伝い、水路の確保、食事事情の確認及び相談ということになった。
また、「生産魔法持ちがいたらヒュブリーデケングルの簡易魔法袋作りも教える」と伝えたら、とても喜んでいた。
幾つかは竜人族に融通してもらったようだが、おんぶにだっこでは悪いと感じていたようだ。
持ちつ持たれつのはずが、徐々に比重が変わってきていて心苦しかったらしい。
ただし、若手の中には勘違いする者もいるという。
「嘆かわしいことですが、久々の高位能力者ということもあって、調子に乗ってしまったようなのです」
プリスクスはそう言うと、眉尻を下げて情けなさそうに溜息を吐き、扉の向こうヘ視線を向ける。
別室に陣取っているのはシウにも分かっていた。
「……能力者というのは?」
質問すると、プリスクスはすぐ表情を改めて、微笑んだ。
「そうですよね。シウ殿はゲハイムニスドルフのことはご存知ないのでしたね。ぜひ、知ってください」
そう言うと、ハイエルフの血を強く引く彼女は、その証である耳を見せてくれた。
「わたしたちは血が濃い者ほど、姿にも現れます。たとえば、わたしの耳は尖っておりますでしょう? 能力によっても違いますが、これでレベル四と呼ばれています」
「レベルですか」
「ええ。そうね、寿命で見ると分かりやすいのかもしれません。シウ殿は鑑定が使えるとか」
「はい」
「では、長の年齢も分かりますね?」
シウが頷くと、彼女はまた口を開いた。
「実年齢が四百歳を大きく超えてます。それであの見た目ですから、血は濃いと考えられます。能力も高いのですよ」
そうしてヒラルスを見ると、彼が頷き返したのでプリスクスは続けた。
「固有魔法の強圧魔法レベル五、封印魔法レベル四もあります。ですから、長はレベル五の能力者です」
「そういうことですか」
「わたしは、レベル二なんですよ」
グラキリスが苦笑気味に教えてくれる。
彼も強圧魔法はレベル四あるのだが、年齢と見た目を考えると能力が劣るというのは分かる気がする。
「わたしは二百歳ほどが寿命であろうと思われます。プリスクスなどはひょっとしたら四百歳まで行くかもしれません」
「いえ、それは無理よ。最近、能力に限らず、寿命が短くなってきているの」
グラキリスに答えてから、プリスクスはシウに振り返ってそう告げた。
「村も、全体的に能力者は減ってきていて、実はレベル一しかない者も多いの。寿命も人族よりは少し長いという程度ね。見た目もまるきり人族だから、普段、外へ出るのは彼等へ任せているのよ」
長老や、その補佐には能力者が選ばれるそうで、対外的なことを鑑みて強圧魔法持ちの人が選ばれることが多いらしい。
だからグラキリスが選ばれたのだと、彼は笑顔で教えてくれた。
偏ってもいけないし、考え方も中道の者が選ばれるとのこと。
およそ指名制ではあるが、おおむねそれで上手くやってきた。
ところが、最近、若手の中に異議を唱える者が出てきた。
「久しぶりの能力者レベル六が出たものだから、周りがチヤホヤしたのも良くなかったのね。困ったことに、彼より上の能力者レベルを持つのは二人だけで、どちらも争いには向かない性質なの。年を取りすぎているというのもあって……」
「一人は、シウ殿、あなたの血縁者でもある」
「そうなんですか」
「驚かないのかね?」
「あ、いえ。だって、血縁者ぐらいはいるだろうと思っていたので」
というよりも、この村はとても狭い。ほぼ全員が血縁者だろうと思っている。
不思議なことに中にいる人はそうは思わないようだ。
「頑固者なので、会えるかどうかは分からないのだが、声を掛けておくよ」
「はい。でも無理には――」
シウの言いたいことが分かって、彼等は静かに頷いた。
「もう一人は、レーウェというのだが、体の弱い男でね。レベル七あるのだが、残念なことに村を出られるような体力はないのだ。そう、誓約魔法レベル五の持ち主で、今回あなたのことを頼む相手でもある」
「そうですか。魔法のレベル五というのは最高値ですよね?」
「さよう」
シウの質問に答えてくれたのはヒラルスで、逡巡した後に、小さく続けた。
「……アウレアの曽祖父でもある」
シウに近親者がいると知った時よりも、ずっと緊張してしまった。むしろ、アウレアの近親者がいることの方が当然であったのに。
なにしろアウレアの両親は共にこの村の出身者だ。
そして共に先祖返りでもあった。更に。
「レーウェは先祖返りでね。先祖返りは体の何処かに弱い部分がある。欠陥というのだろうか、それぞれに違うのだが。その代わりと言ってはなんだが、高レベル保持者で長生きもするのだよ。レーウェにはもう直系の親族はいないので、アウレアだけなのだが……」
「アウルの引き取りを拒否しているのは、その方なんですか?」
「いや」
「さっきも話していた青年団の一部よ。というより、能力者が言い出したことなの。賛同する村人もいて、意見が統一されない限りは長でも無理はできないの」
言い訳がましいと自分でも思ったのか、プリスクスは顔を赤くした。
彼女を助けるようにグラキリスが話を継ぐ。
「レーウェ自身は引き取りたいようだが、なにしろ体が弱くてね。一人では育てられない。助けが必要だが、ほとんどの村人は強い者の意見に靡いてしまう。つまり、強い意見の能力者にだ。今では、青年団の団長が意見を通すようになってしまった」
ということは、村長の力も発揮できなくなっているということか。
結構まずいところまで来ているようだ。
話を聞いていたロトスも顔を顰めている。
(ヤバくね?)
(だよね)
誰かがガツンと若者を叱るべきなのだろうが、この村では能力者が一番みたいなところがあるようで悪循環に陥っている。
その上、分かっていたことだが、保守的だ。
ものすごく優柔不断だと思っていたが、話し合いを重ねて意見を統一させようとしたりするところはまあ良いとしよう。
でも、新しいことへの挑戦に今までは時間がかかっていた。
今回シウの話に乗ったのは、食糧事情もあるだろうが、たぶん一番はその若手の横暴ぶりをなんとかしたいからだ。
シウを起爆剤にしようと考えたに違いない。
そう考えると、彼等はしたたかだ。
竜人族を上手に使ってきただけのことはある。
とはいえ、シウも話に乗るつもりで来ている。
というか、彼等の暮らしがまともであればスルーするつもりだったが、竜人族よりもひどいとあればテコ入れする気で来ていた。
でないと、竜人族にもっと負担がかかる。
気の良い彼等の負担が増えるのを見るのはシウが嫌だし、アウレアのこともあって手伝う気でいた。もっとも、今となってはアウレアをここへ連れてくるのは止めた方が良いのでは、ということでロトスとも一致している。
とにかく明日から忙しい上に、大変なことになりそうだという予感がして、シウとロトスは顔を見合わせて苦笑し合ったのだった。
夜、宿泊棟に戻るとやっぱり見張られている気がした。
人間だけかと思ったが、どうも違う。
「もしかして精霊が入り込んでない?」
「ふぁ? マジか? ちょい待て。見てみる。うーんと、おお、結構大きいのがいる」
「にゃ」
落とす? と聞いてくるフェレスを、笑って止める。
ロトスを見ると、彼の視線があちこちへ動いて、それから止まった。
大体の予測を付けて結界を張ってみた。
「入った?」
「おおー、入った入った。シウ、すげえな」
「ぎゃぅ!!」
囲まれたー! とブランカも嬉しそうだ。目がキラキラしているので猫が獲物を見付けた時のような気がして、クロに助けを求めた。クロはすぐさまブランカの前でホバリングして彼女の気を引いてくれる。さすがだ。
そのすきに、結界を空間壁に切り替えて引き寄せてみた。
「どう?」
「入ってる入ってる。結構大物。なんだろ、ぼんやりしてるなあ。埃、ではない。モヤ? 結構キモい。これ、マジで精霊か? あ、怒った?」
「キモいって言われたら怒るよ……。ごめんね。ちょっと話ができるか確認したかったんだけど、分かる?」
「シウ、微妙に視線が合ってない。あと、視えないものに話するの怖くねえの? おかしい人みたいだぞ」
「あ、うん。通訳はロトスに任せるつもりで――」
「言えよ、そういうことはさ」
ニヤニヤ笑って、ロトスは手元まで引き寄せた小さな空間の箱の中を見つめた。
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