226 黒くて意地悪なのと物悲しさと




 キルクルスとクレプスクルムは、えー帰らないのかーといった顔で残念そうだ。

 なんだかもう、シウは彼等のことが可愛く見えてきた。

 ロトスも、素直な竜人族マジ最高、と変な歌を作っている。


 玩具を片付けたフェレスたちは暇なようで、ウロウロしているからシウが相手をした。ブラッシングしたり、猫じゃらしを作って遊んだり。

 クロは偵察ごっこで天窓から急降下する遊びに夢中だ。床に追突するすれすれで止まってホバリングするのだが、ハラハラしてしまう。

 ブランカもそうだが、上にフェレスという豪快な遊びの申し子がいたせいか、やることがみんな元気すぎる。

 怪我もせず楽しんでいるだけなので構わないのだが、よその子とは違うなあとほんのり思うこともある。

 ロトスも、飛竜大会でいろいろな希少獣に出会ってから「普通の希少獣ってこんな?」と驚いていたから、フェレスたちは自由すぎるのだろう。


 そんな時間を過ごしていると、アエテルヌスがまた走ってやってきた。

 ゼーハーと息を吐いて、ごにょごにょと言い訳のようなことを告げた後、こう言った。

「あ、明日。歓迎の宴、宴? いや、たぶん食事会をしますから。どうかそれまでは、せめて――」

「はい。では明日に。また、昼食の時には配慮がなくてすみませんでした。今度は匂いを立てないようにしますね」

「あ、あー、はい」

「ご確認に来ていただかなくても結構ですので、今日のお昼のように女性や兵の方など、訪問は不要ですよ。もちろん、キルクルスがいますから、ルールを破らないよう静かにジッとしていますね」

「……はい。では、明日の朝、いや昼かな。それまで待っていてください」

 そう言うと、しょんぼり肩を落として戻っていった。

「あれ、絶対、晩ご飯に誘ってほしかったんだぜ」

「そうだろうね」

「シウの意地悪ぅー」

「でも、他の人に悪いって話だったのに、彼だけ誘ったらそれこそ配慮がないんじゃない?」

「おう、真面目な話だったのか。てっきり嫌がらせかと」

「そういう気持ちも、ないではない」

「おお! そうだそうだ。シウも少しは黒いところがないとな!」

「なんでそんなに嬉しそうなんだろね」

「へっへー」

 ロトスはシウを清廉潔白な人間だと思っているようだが、そんなことはないのに。

 でもまあ、黒い部分とやらは見えないのなら見えない方がいい。

 へらりと笑っているロトスに、シウもにこりと笑って返すだけだ。


 晩ご飯は結界を張ってしっかり料理した。

 とはいえ、竜人族にこれまで振る舞ったことのあるものばかりだ。彼等が手に入れられない材料で作ることはしなかった。

 昨年はシャイターンで手に入れられるようなものを作っていたが、今回は仕入先を変更するということもあってシュタイバーン国産の小麦を使ったりした。

 幸い、彼等が次に行く予定の仕入先はアクリダ街だ。あそこはシャイターン国からの隊商が必ず通るとあって、シャイターンのものが大変多い。

 調味料もそうだし、米もある。

 竜人族たちは米を大層気に入ったようで、今年の買い出しでも米やもち米を手に入れているほどだから、シウの作るものにも慣れていた。

「山菜炊き込みというのか。これは美味しい」

「本当! なんだかお餅みたいな食感もあるわ」

「もち米も入れてるからね」

「小豆と炊いたものみたい!」

 赤飯も好まれているようだ。

「コカトリスの唐揚げも好きだったが、野菜と一緒に煮て食べるのもいいな。汁も美味い」

 炒め煮に大根おろしを掛けてサッパリさせているのだが、気に入ってもらえたようだ。

「味付けの種類が増えたから、里ではみんな食べるのが楽しみになったのよ。春に醤油が切れちゃった時はもう大変だったの」

「それで急いで仕入れに行かせたな、そう言えば」

 クレプスクルムが大袈裟に言うと、キルクルスも大仰に頷いた。

 聞いているロトスは、味のなんとか革命やー、と訳の分からないことを言ってはひとり「くくく」と笑っている。

「大根って、味気ない野菜だと思ってたのに、美味しいのねえ」

 キルクルスは味噌で味付けしたものが好きだと力説していた。

 これまでは野菜など腹の足しにもならないと思っていたらしいキルクルスは、体調が良くなったと熱く語る。

 また肉と一緒に調理することで旨味が互いに作用して美味しくなると知り、料理に興味を持ったようだ。

 たまにウェールたちの料理の様子を見ることがあるらしい。

「キル兄貴、料理がデキる男は女にモテるんだぜ」

「そうなのか!? そうか……」

 何やら決意めいた顔をするので、彼もまた結婚相手を探しているのだと知って笑った。

 冷静そうに見えると思っていたがそこは普通の若い男性なのだなと思う。若いと言っても見た目は二十代半ば、実年齢に至ってはその倍と、シウよりはずっと上である。




 翌朝も宿泊棟の庭にしか出ず、おとなしく過ごした。

 匂いも何も分からないように結界は張ったままだ。そのことで気になるのか、夜半と早朝に、見回りなのかは分からないが覗きに来る男たちが数人いた。

 しかし、内部の部屋に入ってくることはなかった。

 そこまでしたら敵対行為のようなものだから、最低ラインは守ったのだろう。


 昼前、アエテルヌスが迎えに来た。

 そしてとても言いづらそうに、こう言った。

「食事会というよりも、お茶会のようなものなのだが。なにぶん、人数が多いので……」

 チラッと部屋の中を見回して、目を逸らす。

 キルクルスたちを排除するわけにも行かず、ましてや誓約魔法に関係すると伝えているロトスも外せない。希少獣たちは問題ないかもしれないが……というのが透けて見える表情だった。

 そこまで困窮しているのかと思うと、同情もする。

 だが、ソヌスからの情報では、食料品などかなりの量を持ってきているはずだ。

 去年までの買い出し班の人数から換算しても、相当なものなのに。

 昨夜、キルクルスたちとも話し合ったのだが、ゲハイムニスドルフでは何かが今起こっている。

 それをこれから確認することになるわけで、シウはアエテルヌスに「構いません」と伝えてにっこり笑い返した。



 ゲハイムニスドルフの村は、中央に大きな塔があり、取り囲むように頑丈な建物がある。避難場所でもあり、精霊信仰のあるハイエルフの祈りの場所だろうと考えた。

 物見の塔はあちこちにあり、必ず誰かが詰めているようだ。

 街の北部には大きく深い湖があって、その周辺に畑が作られていた。冬だからというのもあるかもしれないが侘しい。

 ところどころにサイロがあって、家畜の方に力を入れているようだ。しかし、家畜の飼料も作るのは大変である。

 大型結界を張る外側の森も手は入っているようだが、餌を集めるのも大変だろう。

 養蜂もしているのか、来る時に感覚転移で周辺を探索した時に巣箱を幾つも見付けた。

 村の様子を見るに、冬はかなり厳しいだろう。急傾斜の屋根や、外から補強できそうな窓のある家の造りなどからも、雪が積もるのだろうと思われた。

 時折、チラと見かける老齢の女性は、すでに毛糸で作られた暖かそうな分厚い帽子を被っていた。

 石造りの土台の頑丈な家が迷路のように並ぶ。魔獣でも人間でも、時間稼ぎのできる形だ。

 各家に防御系の魔法も掛けられていた。

 彼等はずっとここで隠れ住んでいるのだ。

 魔獣に怯え、血族至上主義のアポストルスを恐れて。


 村の様子を眺めていくにつれ、物悲しい気持ちになっていく。

 なんて寂しいことだろう。


 何よりも、こうして外から客人が来るたびに、彼等は息を潜めるように静かにしていなければならないのだ。

 長く共闘関係にある竜人族にさえ、心を開いていない。

 シウたちがこの村へ入ってから、子供の声ひとつ聞こえないのだ。

 キルクルスが証言してくれたから分かっているが、竜人族と違ってこの村ではもう少し子供がいる。

 いくら子供のできにくいハイエルフの血を引いているとはいえ、人間と交わって続いてきた一族だから、増加することもないが絶滅への道を即辿るということもない。

 だから、キルクルスが把握しているだけでも子供は幾人も存在している。

 なのに、客人が来たことを知らせる鐘が鳴って以降、人々は息を潜めている。


 そこまで警戒しなくてはならない。

 なんて悲しいことだろう。






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※重版が決定しました。

これも読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


てことで、引き続き……

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・ISBN-13: 978-4047350113

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よろしくお願いします。




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