225 村の様子
竜人族の里よりは裕福だろうと思っていたゲハイムニスドルフの村だったが、今回の様子を見ると逆転したように思う。
これほど警戒心の強い村が――シウの事情はともかく――村への滞在を許可してくれたのは、情報が欲しいというのもあるだろう。
トイフェルアッフェ一体を魔核ごと譲ったのも、今回のことへ繋がっただろうが。
それにしても暗いなあと天井を見上げる。天窓がひとつだけ、小さくぽつんとある。
他の窓は全て、外の壁に遮られて村の中が見えず、宿泊棟と言われても牢屋のように感じる場所だ。
「外の壁が高すぎて、窓があっても全然暗いじゃん。なんかじめーっとしてるし!」
ロトスが文句を言い始めたので、見張りの気配を気にしつつ、空間庫からあれこれ取り出した。
絨毯を敷いて、テーブルと椅子も整える。
フェレスたちのクッションは各自で出させた。早速、彼等は自分の魔法袋からお気に入りのクッションやついでに玩具も取り出している。ロトスも、忘れてた! と慌てて背負っていた鞄から取り出していた。
その間に、シウはお茶の用意だ。
「立って待っていてもしようがないので、休憩しましょう」
「そうだな」
「そうね!」
ということで、部屋の中の浄化も済ませ、明かりは魔道具を設置した。
気分良く行こうと、香り高い花茶を用意する。
「まあ! 綺麗……」
「それに良い匂いがするな。いつもは茶など飲まないが、これはいい」
「ウェールにハーブ茶も教えてるから、今度から飲んであげて。お酒ばっかりは良くないよ」
「あ、いや。ははは」
ついでに、お茶請けのクッキーも出すと、ロトスたちが集まってきた。
「俺も! 俺、カフェオレがいい!」
「にゃにゃ!」
「ぎゃぅー!」
「きゅ……」
クロだけ遠慮気味に、残りは自分も自分もという感じだ。
テーブルに座っていた人間組は大いに笑ったのだった。
昼過ぎ、兵士と一緒に女性がやってきた。
「あの、お昼はどうされますか。持ってこられていますか?」
ということは、できれば自分たちで用意しろということだ。
キルクルスも事前に、荷運びの時は用意されるが、そうでない時は出ないと思うと言っていたのでシウも分かっていた。
「こちらで勝手に食べます。ありがとう」
「あ、いえ。その、お構いもなく……」
耳は人間そのものの女性は、困惑した様子でそうっと出ていった。
気配は分かるのでそのまま視ていたら、何度か逡巡したあと、ドア窓からこっそり覗こうとしていた。でもすぐに翻って宿泊棟から出ていった。
自分たちの行いがどういうものか、ちゃんと分かっているのだ。
可哀想な役目を請け負わされたのだなと、ちょっと同情する。
「客人への食事の提供もできないほど、苦しいんですね」
シウが思わず口にすると、キルクルスが悲しげな表情になった。
「少し前の我等と同じだ。そう思うと何とかしてやりたいとも思うのだが」
クレプスクルムが頷く。
「でも、わたしたちの提案に首を振ったものねえ。それ以上言う必要もないかって、気にしてなかったのだけど。さすがに、わたしたちだけじゃなくて、恩人のシウにまでこの態度は良くないと思うわ」
「貧しいと、そうなる気持ちは分かるのでいいですよ」
「でも、あの魔核で小麦をたくさん買えたのよ? 他にもいっぱい買っていたみたいだもの」
魔核を売りに行ったらしいが、どうやら竜人族に任せきりにせず一緒に付いていったようだ。しかも何を買ったのかは分からないようにしていたフシがある。
やっぱりどうも力関係がチグハグだと、シウは思う。
「これだけの規模の街だから、行き渡らせるのも大変なんだろうね。さ、僕たちは勝手に昼ご飯にしよう」
幸い、宿泊棟には簡易だが台所も付いていた。
そこで持参してきた荷物から食材を取り出して作った。
最近はロトスも手伝ってくれる。
なんでも、
「男が料理できるとモテるだろ」
ということで。まあ理由はともあれ、やろうという気持ちが大切だ。頑張って、と応援しながら作った。
キルクルスもクレプスクルムも全く料理はできないので、彼等にはフェレスたちの遊び相手になってもらった。
壁の内側なら庭に出ても良いそうなので、宿泊棟の周りを走り回っているようだ。
「なあ、シウ」
「うん?」
「最初、ここ、変な魔法かかってなかった?」
「かかってたね」
「やっぱり、そうかあ」
「何なのかは分からない?」
「まだ。なんとなーく、鑑定ぽい気がしたけど、どうだろ。シウの鑑定が空気みたいだから、感覚分かんねえんだよな」
「あれ、そうなんだ。あ、鑑定魔法なのは当たり。それと盗聴の魔道具も天窓に付けられてた」
「なんでそこまで警戒してんだろ。竜人族が裏切ったことあるとか?」
「それはないと思うけど。でも猜疑心強すぎるよね」
「だよなあ。俺の、田舎に対するイメージがガラガラと崩れ去ったよ」
「どんなイメージだったんだよ」
「えー。それこそオリーゴロクスみたいな感じ。気さくで明るくて、みんなで飯食ったり、わいわい騒ぐの。ちょいと脳筋すぎるとこ、あるけどな」
そう言って、トマトを手でグシャッと潰す。
そうしろとは言ったが、台詞と相まって笑ってしまった。
「トマト、酸っぱいから苦手だったのに。シウのトマトスープ美味しいよな」
「ありがと」
「陰険な田舎もあるって、婆ちゃんが言ってたの思い出したぜ。なんとか墓村だな!」
「古いなあ」
「婆ちゃんっ子だったから、俺」
話しているうちにスープもできて、コカトリスの唐揚げも完成だ。
クロに通信で伝えると、みんなを集めてきてくれた。
部屋で食事を摂っていると、匂いが気になるのか何人かの男が宿泊棟の周りを彷徨いていた。
さすがに中を覗くようなことはなかった。
でも、一人が村長の屋敷らしきところへ駆けていき、やがて、アエテルヌスと他数人が走ってやって来た。
食後の紅茶を飲んでいるところに、アエテルヌスが入ってきた。
「あ、あの、もう食事は終わって?」
「はい」
「そうなんですか……」
ちょっぴり目が涙ぐんでいる。あれ、食べたかったのかなと思ったが、捨て置かれていたのはこちらなわけで。
ようするに、しようがない。
気付かなかったフリをしたら、ロトスに肘で突かれた。
アエテルヌスはチラチラと台所を見つつ、話を続けた。
「そのう、我が村はあまり裕福ではなくてですね」
「はい」
「つまり、あー、豪勢なお食事をされるのは、少し、控えてもらえると……」
「はあ」
「村の者たちが、悲しい思いをしますので、どうかお願いします」
「……それを言いに、走って来られたんですか?」
「あ、いや、その――」
「ところで、村長と面会ができるとのことで僕は参ったんですけど、いつ頃になります? それによっては、ほら、食事も困りますし」
まさか延々待たされた挙句に、食事は自分たちでなんとかしろ匂いを立てるな貧しい食事にしろっていうのはないだろうな、という意味を込めて聞いたのだが。
「……それがその、村長も忙しくて」
「確かに予定ではあと一日か二日後に到着でしたもんね。その頃なら大丈夫ってことでしょうか。でしたら、それまで結界の外で野営してますけど」
シウが言うと、アエテルヌスは言葉に詰まってしまった。
村長が何を考えているのかは分からないが、放置しておくつもりだったようだ。
シウは腕を組んで、うーんと唸った。アエテルヌスはオロオロしている。
「仕方ない。僕等も暇ではないので、帰りましょうか。誓約魔法を掛けてくれる件については了承していただけたものと思ってました。そのつもりでご招待いただけたと。でもどうやら勘違いだったようですね。ご無理なら構いません。僕もゴリ押ししてまでお願いしたいわけじゃない。ということで、帰る準備を始めようか」
そう言うと、クレプスクルムが喜んだ。
「そうね!」
キルクルスもだ。
「そうしようか。うむ。俺も次期長としての仕事があるのでな。ヒラルス殿にはよろしくお伝えしてくれ。今回はお目もじできず申し訳ない」
二人とも満面の笑みである。ごちゃごちゃした話が苦手なタイプだし、話が終わったんなら帰ろうぜーみたいなものだろう。
ロトスは笑いを堪えているが、フェレスたちには玩具を片付けろよーと言って、合わせてくれる。
すると、案の定アエテルヌスは汗を大量に掻いて、押し留めてきた。
結局、村長に確認してくるので「少しだけでいいから待っていてくれ」と叫んで、走っていったのだった。
**********
通常運行になっても、相変わらず宣伝のためのあとがきが付くよ。
もう買ったよ! という方はスルーしてね!
このお話の始まりとなる、
『魔法使いで引きこもり?』が
発売されました!!
KADOKAWAさんより、2018/02/28 発売
・魔法使いで引きこもり? ~モフモフ以外とも心を通わせよう物語~
・ISBN-13: 978-4047350113
・イラスト 戸部 淑 先生
となります。
番外編『フェレスの大冒険』も付いています。
どうぞ、よろしくお願いします。
そろそろコレを止めるべきか悩み中。発売一週間はやってもいいんじゃ? いやいやもう少しぐらい! と作者の中の小心者が言っております。
何はともあれ、あたたかーく見守っていただけますと幸いです。
追記:大丈夫そうなので(きょーよー罪w)、ホッとしましたです。
更に追記:重版が決定したそうです。売り切れてナイよという方。お手数かけました。もしよろしければ、通販という手もあるそうです。本屋さんにISBNコードなどを伝えると、取り寄せも可能です。
どうぞよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます