224 ゲハイムニスドルフの村へ




 翌朝は早めに起きて用意し、食事の準備を済ませるといつもの体操を行ったり、付近の探索を行った。

 ここ最近、使者が行ったり来たりしているからか強い魔獣の気配は感じられなかった。

 ロトスも起きてきたのでストレッチし合い、探索魔法の勉強をさせていたらアエテルヌスが起きてきた。

 キルクルスとクレプスクルムは交代で夜番をしており、今は少し休んでいるところだ。

「お早いですね……」

「野営の場合は早め進行ですね。あ、ロトス、あっち方面探索」

「うへー。分かった、えーと、ああ、いるなあ。うーん、たぶん、岩猪、だと思う」

「何匹?」

「……四、五匹かな」

「うん。じゃあ、ブランカと一緒に行ってきて」

「はーい。ブランカ、行くぞー」

「ぎゃう!」

 朝から怠いなーと言いながらも、ロトスはブランカを連れて出ていった。

「あの、彼等は何をしに?」

「岩猪を狩りに」

「え? でも、朝食の後すぐに出るのでは?」

「それまでに戻ってくるから。これも訓練なんです。あと、群れになる前に討伐していた方が、今後楽でしょう?」

 料理の準備をしながら振り返ると、アエテルヌスは目を見開いていた。


 シウの言葉通り、ロトスとブランカは朝食の準備が終わった頃に戻ってきた。

「ごめーん、解体全部できなかったー」

「いいよ。保管したんだよね?」

「したした。失敗したのは燃やしてきた。ちゃんと土で埋めたぞ」

「うん。お疲れ様。ご飯食べて。あ、水分補給もね」

「ういーっす。あ、ブランカ、待て、食べる前に浄化するって言っただろ」

「ぎゃぅん」

 おなかすいた、と文句を言うブランカに、ロトスは覚えた浄化魔法を掛けて綺麗にした。藪の中にでも突っ込んだのかすごいことになっていたブランカは、おかげで綺麗になった。



 その日は、シウが飛行板に乗って探索するので、クレプスクルムとロトスはフェレスに乗ってもらい、ブランカにキルクルスとアエテルヌスを乗せた。

 シウはクロと交互に飛びながら周辺の警戒役だ。

「キルクルス、慣れたら騎獣も良いでしょー」

「これは確かに便利だよ。何より、こいつらが可愛い!」

 可愛いと撫でられて、ブランカは飛びながら尻尾を振っていた。

 フェレスは最近二人乗せても安定して飛べ、次の訓練では竜人族の戦士二人を乗せてみようと目論んだ。普通のフェーレースと違って体力もあるし、大柄な男二人でも大丈夫だという気がする。

 アエテルヌスはシウの乗る飛行板を見て目を丸くしていた。

 去年も見ていたはずだが、ヒュブリーデアッフェなどの騒ぎですっかり忘れていたようだ。

 休憩になると、ものすごく遠慮した感じで質問してきた。

 いわく、それは古代聖遺物なのか。

 いわく、相当高価な魔道具ではないか。

 いわく、どうやって手に入れたのだろうか。

 などなど。

 シウはどれにも曖昧に笑って、言えないこともあるんですよ、と濁してみた。

 ロトスも昨夜言っていたのだが、ゲハイムニスドルフに対しては頭から信じるよりも少し疑ってかかった方がいい。

 決して、血族至上主義で血も涙もないようなアポストルス一派と同じだ、と言っているわけではない。

 ただ、竜人族に対して意外とちゃっかりしているところが気になる。荷運びに関してはゲハイムニスドルフの方が下手に出ても良いぐらいなのに、村まで運ばせたりなどしていてどうかなーという気分なのだ。

 ましてや、アウレアのことがある。

 自分たちの血筋の者なのに、連れてきてくれるなと言ってしまうのは、どうだろう。

 アウレアを気に入っているロトスからすれば、気分の良い話ではない。

 まあそうしたことからも、こちらの手の内を全部見せる必要はないし、相手の望むように全て叶えることもないというのが二人で話した結論だ。

 もちろん、誓約魔法に関する対価は払う。

 そしてそれらは、キルクルスとクレプスクルムにも話している。ソヌスからも今回は竜人族には関係のないことだし、恩人であるシウがやりたいようにやるのが良い、とゴーサインを出してくれた。

 よって、アエテルヌスの「いいなあ、それ」という暗黙の要求にも応えないのである。




 結局、二日目は騎獣に乗っての移動ばかりということもあり、三日目の朝にはゲハイムニスドルフの村が見える山頂に到着した。

 彼等の村は高山に囲まれた盆地にあり、霧が発生しているせいか幻想的に見える。

 盆地全体を覆うように結界が張られており、途轍もない規模だ。

 来たことがある竜人族ならば村があると分かるらしいが、初めての人間には見えないようになっているらしい。

 シウにもロトスにも見えるので、アエテルヌスは愕然としていたけれど。

 しかもシウには村の詳細な様子も見えており、何気なく「あの塔は物見かな」と呟いたことで結界が機能していないことを悟り、アエテルヌスはかなり焦ったようだった。


 山頂から降りていくと、村の中心にある塔から鐘の音が鳴らされ、他所者から身を守っている様子が分かる。

 結界だけでなく、背の高い石造りの壁もあり、等間隔に当番兵が立っていた。

 殺気に近い警戒心の塊が飛んでくるが、シウもキルクルスたちも全く気にならない。

 ロトスは少々びっくりしていたものの、怯えるということもなかった。

(イグの存在感に比べたら屁でもないよなあ)

 ということだ。

 当然、フェレスたちも平然としており、アエテルヌスは益々悄然としていた。


 唯一の門に到着すると、アエテルヌスがまず水晶に手を置いて調べられている。

 洗脳されていないかどうかを見ているらしい。

 大丈夫だと分かったら、キルクルスから順番に水晶へ手を置いていく。

 ロトスがやけに目をキラキラさせていたので、何がそんなに楽しいのかと思ったが、シウも続けて手を載せ、門を抜けた。

「……つまんねえ」

「え、何が?」

「……水晶が爆発するとかさ、それか『こっこれは! 伝説の勇者を超えた!?』っていうのを期待してたのに」

「えー」

 そうなったら困るだろうに、何を言ってるんだという目で見たら、ロトスもばつが悪そうにそっぽを向いていた。

(……ロマンだよ。ラノベ読者の、定番なんだ、ほっといて)

 ということらしい。

「でも能力がバレたら困る、っていうより、面倒臭そうだし。爆発しなくて良かったんじゃない?」

「まあなー。俺はともかく、シウの場合はヤバいよな!」

「いや、ロトスも全面的にバレちゃうのは良くないんじゃないかなあ」

 小声でやり取りしつつ、案内の兵士に付いていく。

 アエテルヌスは先に戻って、村長へ報告するようだ。シウたちは客人用の宿泊棟へ連れて行かれた。


 村と呼ばれているが、小さな街程度には大きい。

 鐘が鳴らされてから人々が隠れてしまったため、姿は見えない。

 牧歌的な田舎の街だけが、見えるだけだ。

 その街は、あまり富んでいるとはいえない。

 花壇や鉢植えがあった形跡はなく、花を飾る余裕はなさそうだ。家畜も肥えているようには見えなかった。

 土地が悪いのか、穀類の畑はない。豆を植えていたと思しき跡や、芋を干したものが家の裏で見え隠れしている。

 なんとなく、寂しい気配がして、シウもロトスも段々と会話が途切れていった。


 時折見かける人は壮年男性ばかりで、胸当て鎧と弓を手に立っていた。

 自警団かなと想像する。

 耳がほんの少し尖っていたり、ハイエルフの名残があった。ただ、表に出ているのは本当に「名残がかすかにある」人だけだろう。『エルフっぽい姿』の者は家の奥に隠れているに違いない。

 全員、肌の色は透けるように白く、鍛えている男でも色は白かった。

 全く人族そのものという男たちも多く、鑑定しても『人間』としか出てこない。フル鑑定すれば、ハイエルフの血を引くという情報はあるかもしれないが。


 やがて、宿泊棟に到着し、簡単な説明をした後は置いて行かれてしまった。

 キルクルスが苦笑する。

「いつもこうなんだ。気を悪くしないでくれるか?」

「あ、いえ、別に。なんというか、警戒心が強いんでしょうね」

「そうなのよ。悪気はないの。彼等は弱いから、仕方ないわ」

 キルクルスもクレプスクルムも、自分たちは慣れているからと、気にならないようだった。ただ、シウたちへの態度が冷たいと感じたようで、代わりに気を遣ってくれる。

 竜人族は優しい人が多いのだ。







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宣伝のためのあとがきが付くよ。気をつけてね!




このお話の始まりとなる、

『魔法使いで引きこもり?』が

発売されました!!


KADOKAWAさんより、2018/02/28 出版!

・魔法使いで引きこもり? ~モフモフ以外とも心を通わせよう物語~

・ISBN-13: 978-4047350113

・イラスト 戸部 淑 先生

となります。


番外編『フェレスの大冒険』も付いています。

どうぞ、よろしくお願いします。



次回から通常運行の予定です。




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