221 風呂の完成と鞄作り




 すぐそこ、という通りに、シウがゆっくり歩いて五分ほどのところにレスレクティオが生えていた。シウが、これを採ってみてねと言ったら、全員がじいっと見つめてからむしり始める。ちゃんと伝わっているらしいのがすごい。

 ソノールスは二歳になるので分かるが、三人組はまだ一歳にもなっていないのに。と思っていたら、すぐ脱線していた。むしった草を口に入れようとするし、アウレアと一緒になってそれを止めたりと、結構大変なことになった。

 フェレスは我関せずで草を爪でちょいちょいと器用に刈り取っていく。

 皆でわいわいやっていたら、クロが飛んできた。

「どうしたの?」

「きゅぃ」

「気になったの? ブランカはリングアたちもいるからいいよ。こっちで一緒に遊ぼうか」

「きゅぃ!」

 スリスリしてきて、いつものように肩の上に乗った。

 クロは赤子三人がほんの少し苦手で――たぶん遠慮なくがっつり掴まれたことがあるからだろう――普段は少し離れて見ている。でもシウがいると安全なので来てみたようだ。


 存分に採取すると気が済んだのか、みんな飽きてきたようなので帰ることにした。

 フェレスにはマルガリタとソノールスを乗せ、動き回るガリファロはシウが背負う。

 アウレアとカティフェスは手を繋いで帰った。



 畑のあたりで迎えに来た女性にソノールスを渡し、シウたちはコースを少し外れて風呂作りの現場へ向かった。

「ロトス、お疲れ様ー」

「おー。ていうか、子供まみれだなあ。遊んでたんかい」

「午後はずっと遊んでた」

「ひでえ! 俺、一日頑張ってたのに!」

 わあん、と突っ伏して泣いたフリだ。でもフリだと気付かなかったアウレアが、慌てて近付いて頭をなでなでしている。

「うう、ありがとな、アウルー。アウルは優しいなあ!」

「嘘泣きで心が痛まないんだ、ロトス」

「……シウはたまにグサッと来ること言うよなあ」

「あはは」

「別にいいんだけどさ。あ、そだ、壁ってあれでいいのか?」

 というので確認したが、なかなか良い具合になっていた。これなら竜人族の人たちも補修し易いだろう。

「上手にできてるよ。ありがとね。お疲れ様」

「いや、そうマジで言われると。俺も、なんつうかホラ……」

 まともにお礼を言うと照れるし、どうしたらいいのだと思いながらシウは新たな任務を与えた。

「この子たち、お風呂に入れてくれる?」

「うえーい」

 任せとけってなもんだ、と返事をして、きゃいきゃい騒ぐ赤子三人組を引き取ってくれた。


 料理を作るにはまだ時間があったので、シウはアウレアの鞄を作ることにした。

 そう言うと、目をキラキラさせて喜んでくれる。

 クロとフェレスはブランカを迎えに行くと言って、また山へ向かったので、珍しくアウレアはシウと二人っきりだ。

「アウルはガルが好きなんだね」

「うん!」

「猫も好き?」

「ねこたん、すき!」

 慌てて、クロも好きだよと告げる。どうやら、フェレスとブランカは猫扱いのようだ。クロは鳥だけど好きなんだよと言っているわけで、可愛らしい。

「こういう丸い形にする? それとも、四角い、僕がやってるみたいな鞄にして刺繍にしちゃおうか。どっちがいいかな」

「うーんとね、うーんと……」

 考えた末に四角いのを選んだ。鞄はその方がいいと、考えたのだろうか。

 まあ、デフォルメされたフェレスの猫鞄やロトスの兎鞄と比べたら雲泥の差で良い選択だと思う。

 いや、子供のうちは可愛いものを付けているのが良いのだろうか。

 でも目立ってもいけないしなあと、シウがあれこれ考えているうちに、アウレアは全体の形まで決めたようだった。

「ポケットがここでね。ねこたんはこれぐらいがいいの。つのは、ここまであるんだよ」

「了解。ポケットは横にも付けていい? ほら、こういう感じで」

 シウのものを見せたら、うんと頷いた。

 期待の籠もった目で見つめてくるので、少々恥ずかしいが、まずは刺繍を始めた。

 革に直接するのではなく、薄手の生地に縫っていく。

「わあ」

 はやい、すごいと眺めていたアウレアも、遊び疲れたのかいつの間にか眠ってしまった。

 借り家に戻っていたため、お腹に毛布を掛けて横にさせ、また続きを始めた。

 穏やかな夕暮れだった。



 食事の後も続きをやったのだが、夢中になって夜なべしないよう、シウはロトスに「寝る前に僕を叩いてでも止めて」と頼んだ。まさか本当に叩かれるとは思ってなかった。

 一瞬「なにするんだ!」と思ったのは秘密だ。

 でも、わずかな希望でも育つ可能性があるのなら、睡眠は大事なのである。

 ロトスにはお礼を言って、眠りに就いた。ムッとしたのは気付かれていたようだった。




 翌朝、さあ続きをと思ったのだが、ソヌスたちに完成したお風呂について説明することになった。

 ロトスも一緒になって、使い方指南をする。女性陣にはアントレーネがしてくれた。

 男女別というところに、アントレーネは、

「なるほど、そうした気遣いも必要なんだね。さすがシウ様だ」

 とか訳の分からない感動をしていたから、ロトスがゲラゲラ笑っていた。

 それぐらい大雑把でなければ、シウと一緒にお風呂に入ったりはしないか。そう言えばククールスも一緒だった気がするので、冒険者だとか、脳筋らしい戦士職の人は繊細さに欠けるのかもしれない。

 シウも自信はないので、ロトスが指摘してくれるようになって本当に良かった。


 この風呂だが、意外と興味津々に受け入れられているようだ。今日から解禁にする予定だが、晩ご飯の後に皆で一緒に入ろうということになった。

 楽しむのは良いことだが、お酒を飲んで入るのは禁止だと告げたら、ショックを受けていたのが何人かいた。

 飲む前に入ればいいのにとロトスが告げたところで、ショックからは解放されていた。



 その後、なんやかやと流れで料理作りに参加したり、フェレスたちがそろそろ構ってくれと突撃したりで鞄作りは一時中断となった。

 アウレアは別にいいよと健気な様子なので、胸が痛む。

「一日ぐらい徹夜しても大丈夫かな……」

「シウ?」

 ロトスに冷たい声で咎められたので、心を鬼にする。

 鞄作りとはすぐにできないものなのだ。普通はそうなんだ。だから、だから……。

「そんなに言い訳が必要って。シウ、もしかしてロリコンなんじゃ――」

「ロトスに言われたくない」

「なんでこういう時だけ返しが早いんだよ!」

 とりあえず、二人して、お互いにそれはないと言い合いして落ち着いた。

 あと、突発的災害でもなければ、優先順位は「きちんとした生活」と言われて「睡眠時間はしっかり取ること」と約束させられた。

 ロトスはロトスで、シウのことをちゃんと心配しているようだ。

 小さいのもそれはそれで仕方ないけれど、伸びる可能性があるのに伸びないのは可哀想だと、そういうことらしい。

「二十歳までは頑張ってみたらいいんじゃねー。そんでどうしようもなかったら、後は好きに生きると。な!」

「……男は時に二十五歳でも身長が伸びるというデータが、あったハズ」

「それどこデータ? ていうか、あー、こっから内緒話な」

(ハイエルフの血を引いてるんだったら、ちょいと前後するかもしれねえしな。よし、分かった。二十五歳ってことにしておいてやるよ)

「なんでロトスが決めるんだよ」

「シウのためじゃん! これで二十五歳までは規則正しい生活をすること、って決まったな! つまりあれだ。二十五歳過ぎてもそれなら諦めろってやつだ」

 シウのため、というのは分かる。

 アウレアの鞄のために自分ルールを破ろうとしていたシウだ。こうしてロトスが決めてくれたのもシウのため。

 分かっているが、いちいち「二十五歳過ぎたら諦めろ」というのを挟んでくるから、シウもムキになるのだった。


 それもまた、友人としての掛け合いに過ぎないのだが、こうした年相応のやり取りを恥ずかしく思わないようになったことに、シウは気付くことはなかった。

 シウは、成人してようやくこの世界にすっかりと馴染んでいたのである。





**********

宣伝です。

このお話の始まりとなる、

『魔法使いで引きこもり?』が

本日、発売されました!!


KADOKAWAさんより、2018/02/28 出版!

・魔法使いで引きこもり? ~モフモフ以外とも心を通わせよう物語~

・ISBN-13: 978-4047350113

・イラスト 戸部 淑 先生

となります。


番外編『フェレスの大冒険』も付いています。

どうぞ、よろしくお願いします。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます