220 買い出し班とお店屋さんごっこ
翌日、ロトスは引き続き魔法を使いながら風呂場の壁作り。アントレーネはガルエラドやキルクルスたちと訓練するため森へ向かった。
シウは次の買い出し担当と話し合いだ。ウェスペルも一緒だった。彼は長老補佐で、財政担当でもある。
「ヒュブリーデケングルの腹袋、来年には百枚は卸せると思う」
「買い叩かれるかもしれんな」
「前回はどれぐらいで売ってきたの?」
聞くと、すでに買い叩かれている値段だった。
「うーん。安いねえ」
「そうなのか」
「買取屋を変えられないのかな?」
「竜人族が行くと、帰ってくれと言う店もあるのだ」
「ひどいなあ」
見た目に強面で怖いのだろうか。
「買い出ししてきた小麦とかお米も高いし。足元見てるんだね。商売とはいえ、いくらなんでもひどい」
「そうなのか」
「ちゃんと値引き交渉とかしてる?」
「前回担当のやつはすぐに出てしまっていてな。でも交渉っていうのは、俺たちにはちょっと」
次の担当のクロタルムは眉尻を下げて、視線を逸らす。
確かに、竜人族に交渉事はできない気がすると、内心で笑った。
「少し遠くなるけど、アクリダの街まで行けないかな?」
「アクリダか」
シュタイバーン国にあるアクリダ街なら、シャイターンのものも多く売られており、今聞いた値段ならアクリダの方がずっと安い。
何より、値切り交渉もできそうだし、品揃えも良いはずだ。
「買い出しに行ってる街って、シャイターンの辺境地にあるとこだよね。あそこ、僕も前回、馬車を戻しに寄ったことあるんだけど、閉鎖的で感じ悪いところだった」
「そうなんだよな。根掘り葉掘り聞かれるし。もう少し北の街にも行ったことはあるが、そこは感じは良いんだが、街の規模が小さくて必要量を揃えられないんだ」
だったら、多少遠くてもアクリダの方が良い気がする。
何よりも冒険者が多くて、竜人族の存在が霞むほどだ。多種多様な人種がいるし、とにかく他者に寛容である。
「僕等もそこで里に入用なものを揃えてきてるんだよ」
「だったら、そうしてみようか。往復に時間がかかりそうだけどなあ」
「飛行板五枚渡すから移動は楽になるよ」
「「えっ」」
ガルエラドに言ったのだが、まだ伝わっていなかったようだ。
「飛行板があると、便利だろうと思って」
「いや、それは助かるが」
「いいのか?」
昨年は、冒険者じゃないのだから渡さずとも良いとガルエラドに言われていた。まあそれもそうだと思っていたのだが、ようは冒険者だと名乗れば良いわけで。
何よりも黒の森が近くにあるような土地で暮らしているのに、空からの攻撃力がないというのは厳しい。
いくら身体能力の高い竜人族とはいえ。
「そのつもりで持ってきたし、使えるように訓練するから大丈夫だと思うよ。あと、使用者権限も付けるから、万が一盗られても大丈夫だからね」
「お、おう、そうなのか」
「いや、それはなんと言えばいいのか。……ありがとう、シウ殿」
いえいえと、手を振って、また買い出しについての話し合いを続けた。
総じて、竜人族は交渉下手で、見た目とは裏腹にナメられているようだった。
シャイターンの商人が悪いのかもしれないが。
念のため、商人ギルドへの紹介状を書いて渡した。
「商人ギルドで登録しているから、たぶん通じると思う。通じないと、もっと上の人に頼むから大丈夫だよ」
こういう時にキリクを頼るのは良くないのかもしれないが、アクリダはキリクが治めるオスカリウス領内にある。商人ギルドにも顔が利くだろう。会員であるシウの紹介が通じないなら、彼を頼ろうと考えた。
でも――。
「良い店を紹介してくれると思うよ」
「何から何まで本当にありがとう」
「ううん。なんかもうね、ガルといい、皆が心配でしようがない気分なんだよね」
人が好すぎて、これまでのことを考えたら可哀想になってきたのだ。
「とにかく、各商品の最低価格はこれぐらいだから、買い叩かれないようにね。あと、食料品を買う時は相場もあるから、先に市場で調べてみるのも良いよ。まとめ買いするんだから安くして、ってぐらいは言わないと」
「あ、ああ、分かった」
シウが言い値で買うのは、相場が分かるからだ。
それに、彼等ほどあからさまに吹っかけられたこともない。
鑑定魔法があるというのは、有り難いことだったのだと思う。
午後はアウレアたちのところへ行って、一緒に遊んだ。
ガリファロもマルガリタもすっかり慣れて、アウレアともソノールスとも楽しそうに遊んでいる。
カティフェスだけは一人遊びをしているが、途中で皆に参加したりとマイペースだ。
「アウル、今度は何して遊ぶ?」
シウが聞くと、うーんと悩んでからパッと笑みになった。
「おみせやさん!」
「お店屋さんごっこか。よし。じゃあ、売り物とか必要だね」
「アウル、くすりのはっぱをうるの」
「じゃあソノールスはどうする?」
「うるの!」
「売り子さんだね。アウル、店員さんをよろしく。僕はお客さん?」
「シウはかうひと」
というわけで、薬草を取りに行く。
ガリファロたちも行くというのでリードを付けてお散歩だ。ソノールスは覚束ないので背負ってあげた。
面倒を見ていた女性にはすぐ戻ると告げて、シウたちは畑近くの小さな林へ向かった。
みんなで草をむしっていると、フェレスがやって来て「なにしてるの」と興味津々だ。
ブランカはリングアと遊んでいるらしく山中で走り回っていた。こちらに一切気付かず、楽しそうである。クロはもちろんお目付け役として彼女と一緒だった。
「薬屋さんごっこだよ。フェレスも参加する?」
「にゃ!」
「じゃあ、薬草を探してね」
「にゃにゃん」
飛び上がって探しに行ってしまった。本格的に探すつもりだろうか。
「シウー。これは?」
「それは痒くなっちゃう草だね。薬草じゃないよ」
「じゃあ、こっち!」
「あ、それはお腹が痛い時に効くね。よく見付けたね」
褒めると、アウレアはきゃぁ! と喜んでその場でダンスのようにたかたかと足踏みした。つられてガリファロもキャッキャと足踏みだ。
ソノールスはマルガリタと手を繋いで、あっちへ行きこっちへ行きと楽しそうにしている。
カティフェスだけが、草の上の虫を一心不乱に眺めてジッとしていた。
そんな調子で草を集めていたが、アウレアがやる気になってしまって本物の薬草ばかりになってしまった。
その場でいきなりお店屋さんごっこも始まるし、子供というのは面白い。
「はい、これはくすりのはっぱ……? シウ、これは?」
後半小声で聞くあたり、アウレアは賢い。
シウは笑って首を横に振った。
「ちがうんだって。べつのをもってきてね!」
「あい!」
断られてもマルガリタは嬉しそうだ。ソノールスと手を繋いだまま、また草をむしりに戻った。
「しゃー。だー」
「んと、これはくすりのはっぱ、だよね?」
「そうだよ」
「えらいね、ガリファー。はい、おれいだよ」
「だあ! まんま!」
おやつに貰っていたクッキーを取り出して、お金代わりに渡すようだ。
ガリファロは喜んで食べた。
カティフェスはまだ虫に夢中なので、次は誰だろうかと思ったらフェレスがやって来た。
「にゃ!」
「えーと。シウ、これなあに」
「それはレスレクティオっていう栄養価の高い薬草だよ。よく見付けてきたなあ」
「にゃん!」
むふ、と鼻息荒く、自慢げだ。聞くと群生地があったらしい。場所を覚えているというので、後でまた採取に行こうと話したら、アウレアが行きたいと言い出した。
「フェレス、そこ遠い?」
「にゃにゃ」
「じゃあ、行ってみようか。おーい、みんな、おいで」
シウが声を掛けると、ちゃんと集まってきた。カティフェスもだ。
というわけで、意外と近くにあるという群生地まで、皆で行くことにした。
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引き続き宣伝でーす。
このお話の始まりとなる、
『魔法使いで引きこもり?』が
明日、発売!!
KADOKAWAさんより、2018/02/28 出版されます。
・魔法使いで引きこもり? ~モフモフ以外とも心を通わせよう物語~
・ISBN-13: 978-4047350113
・イラスト 戸部 淑 先生
となります。
番外編『フェレスの大冒険』も付いています。
どうぞ、よろしくお願いします。
しばらく宣伝のためにあとがき付けますから、ウザーな方は引き続き飛ばしてね!
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