219 お風呂造り
翌日は、女性の体の仕組みについて講義したり(ロトスもニヤニヤして付いてきていたが途中で恥ずかしくなったのか出ていった)、本を竜人族の言葉に翻訳してウェスペルに渡したりで午前中は過ぎた。
午後はソヌスに了解を取っていたので温泉掘りだ。
ロトスもアントレーネも今日は一緒にいて、楽しみにしていた。
女性陣も流れで見学に来ており、赤子を抱っこして見ている。その中にはソノールスもいて、きゃっきゃと嬉しそうだ。
体が弱いからと家の中にばかり置いていたそうだが、太陽の光に当てるのも大事だと言ったら素直に信じて連れてきてくれた。
「それにしても、食べ物だけでこんなに変わるものなのね」
アプリーリスも狩りには行かずに、今日は朝から傍にいる。
「ソノールスのこと?」
「ええ。今にも死ぬのではないかと、皆で気を揉んでいたのが嘘のよう。顔色も良くなったしね。でも、それだけじゃない。ウェールがすぐ妊娠したことよ」
「そうだね」
「肉ばかり食べててもダメってことねえ」
「野菜も摂らないとね」
偏りすぎてしまったことが良くなかった。昔は特殊な岩塩を得ていたから足りない栄養素もなんとか取れていたのだろう。しかし、無くなって以降は徐々に出産数が減ってきていた。
取れない栄養は別のものから取ればいい。
「そのうち、赤ちゃんの泣き声でいっぱいになるかもね」
「いいわね! わたしも結婚しようかしら」
「ガルが泣くかも」
冗談で言ったのだが、アプリーリスはそうかしら、と真面目に答えた。
「いや、分かんないよ? 【シスコン】かどうかは」
(シウ、それ、日本語)
ロトスに注意されて、気付いた。
「えーと、結婚したら喜ぶだろうね!」
「あ、すごいまとめ方した。逃げたな、シウ」
「いいから。えーと、とにかく、お相手がいるなら、ぜひ頑張って!」
「そうね! そうするわ。誰と勝負しようかしら~」
(勝負!?)
ロトスの念話がガンと飛んできたが、シウも衝撃だったので注意することはなかった。
そんなことを言っているうちに、汲み上げに適した場所と、公共の風呂場として使えそうな場所の最適化を行った。少し集落からは離れているものの、畑よりは手前というところに当たりを付けた。
「ここを掘るね」
機械など使わず、一気に魔法で穴を開けていく。
同時に固定魔法で崩れ落ちないよう補強し、もう少しで温泉地下水が流れる岩盤に到達するというところで一旦止める。
パイプを落としていき、感覚転移で確認しつつ固定していく。シウが度々来てチェックできるわけではないので、念入りに固定していった。
汲み上げ側の方にも念のためポンプを付けておく。自噴できそうなことは分かっていたが、あくまでも保険だ。
「じゃあ、最後の穴を開けるね。すぐ飛び出てくるからみんなは離れていて」
そう言うと、最後のパイプを落としながら、穴を開けた。一瞬で固定してしまうと、地下からすごい勢いで温泉水が飛び出てくる。
パイプの先から湯が出てくると、皆が歓声を上げた。
「わー! すごい! 熱い水だー」
「寒いのに、熱気がすごいよ!」
きゃっきゃと喜んでいる。
シウはすぐさま排水側を見て、問題ないことを確認するとホッとした。
この湯は、幾つかの階段式排水溝を経て、生活用水とは別の川へ流れるようにしている。
詰まらないようにだとか考えるともっと手をかけてしまいたいが、それはまた今度でも良いだろう。
簡易的な風呂場を作っただけだったので、これから建物部分を用意しなくてはならない。
男性用女性用に家族用など、幾つか必要になることを考え、場所は広めに取っている。
歓声が聞こえたらしく、ソヌスもやって来た。
「おお、これが風呂ですか」
「長老は外へも出たのに、風呂を知らないの?」
アプリーリスに聞かれて、ソヌスは頷いた。
「わしらは風呂なんぞ入れるような宿に止まったことはないからなあ」
「えー、そうなんだ」
ソヌスも嬉しいのか、女性たちと一緒になってわいわいと楽しそうである。
アントレーネがお風呂の入り方なるものを説明している間に、シウはロトスを呼んで一緒に湯屋作りだ。
「土台は作ってあるから、その丸太を板にしてね」
「げっ」
「なるべく統一して作るように」
「うげげ」
「魔法の勉強にもなるから、頑張って」
「うへえ。……分かった、分かりましたとも」
昨夜も魔法について勉強したので、今度は実践だ。ロトスは面倒臭そうな顔をしたものの、しようがないと唸りながら丸太を切り倒していた。
壁材は彼に任せることにして、シウは柱を立てて屋根をつけるところまで進めた。
衝立を作ったり、お風呂場の小物を用意したり。
フェレスとブランカが突入してきて遊び始めてしまったが、まだ出来上がっていないので良いかと、見ないフリだ。
クロはアウレアと一緒にいて、赤子たちの面倒を見ている。
本当はアウレアも面倒を見られている立場なのだが、お世話しているつもりなのが可愛い。
感覚転移で見ながら、シウはサクサクと作り続けた。
ロトスの板作りも徐々に上手くなっており、出来上がった都度から壁にしていく。
簡単な造りにしたのは、竜人族で補修ができるようにするためだ。屋根さえあって、柱がきちんとしていたらなんとでもなる。
雪が積もっても大丈夫なように屋根は急勾配にしているが、熱気でたぶん積もらないだろう。
源泉のところは頑丈に囲い込んでいる。ただし、管理する者に詰まりがないかどうか確認してもらうため、出入り用の扉を作った。
温度計も設置。
夏場のことを考えて冷ますための水も生活用水用の川から引くことにした。
井戸の水は別の地下水を使っているため、それとは別にしたのだ。飲用水が枯渇してはいけないので、あくまでも風呂は別物として稼働させる。
他に湯あたりするかもしれないので休憩場所と、ついでに水風呂も用意した。
家族用は個室にしており、浅めのものを作った。子供用だ。
大きな風呂には手すりもあるので、年を取っても入れるだろう。
後は壁だけである。
「ロトス、残りできた?」
「うう、まだ……」
「明日も頑張る?」
「頑張るうー」
そうは言いつつも、本当に綺麗に削り取れるようになっていた。
水属性魔法で切っていたのだが、その後乾燥させて板にする際に歪んでしまったりと、いろいろ試行錯誤しているようだ。
明日には全部出来上がりそうなので、壁は彼に任せることにした。
夜にはシウが持参したお米で料理する。
昨夜はマグロだったので、本日は蟹を出す。蟹といっても魔獣の方で、アトルムパグールスだ。ククールスたちとのシアン行き仕事の帰りに狩っていたものがまだ大量に残っているので、幾らかは置いていくつもりだった。
幻と呼ばれているペルグランデカンケルも出そうとしたのだが、食べたことのあるガルエラドが「皆の口が肥えたら後で困る」と止められたため、出していない。一匹だけはお祝い事の時用にと解体して真空パック状態で置いていくことにした。
とはいえ、アトルムパグールスでも十分に美味しい。大型魔獣であるため味――というよりは魔素だろう――が濃いのだが、さすが竜人族だ、皆がペロリと食べ切っていた。
ただ網で焼いただけでも美味しかったが、シウはかに玉を作って皆を唸らせた。
いわゆる天津飯というもので、とろりとした餡と共に絶賛である。
ロトスが、
「蟹シュウマイ食べたい!」
と言い出したので、急遽作ったりもした。こういう時のために生地を幾つも用意しているので、すぐに作れる。
岩猪を挽肉にし、炒めたタマネギのみじん切りとアトルムパグールスの茹でたものと混ぜ合わせる。薄い皮に種を詰め込んでいく作業はロトスも手伝ってくれた。そのうちウェールたちも気付いて手伝い、蒸し器に入れて終わりだ。
「なるほどねえ。『蒸す』っていうのか。面白いなあ。肉は焼くとか炙るぐらいしか考えなかったから、面白いよ」
「煮るもあるんじゃない?」
「ああ、スープね! 作ってて面倒になったり失敗した時はスープにするよ。あはは」
「豪快なお姉さんだなあ」
ロトスが茶化すように突っ込むと、ウェールはそう? と照れたように笑っていた。
(いや、褒めてねえんだけど……)
今回の念話は、ちゃんとシウにだけしか届かないような指定がされていたようだ。やけにクリアで、やけにまっすぐ届いた感がある。
ロトスも日々、成長しているようだった。
ところで、蟹シュウマイの食べ方では意見が別れてしまった。
そのまま食べる派と、醤油だけ派、醤油に辛子を付ける派、辛子派、ソース派だ。
ロトスを先頭に喧々囂々とやり合っていたのでシウは笑って見ていた。
ソヌスやウェスペルなどは、食べ物についてこれほど意見が出てくるなんてと、驚きの様子だった。
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宣伝です~!
このお話の始まりとなる、
『魔法使いで引きこもり?』が
(第一部とか言っちゃってるやつです)
明後日、発売です。
KADOKAWAさんより、2018/02/28 出版されます。
・魔法使いで引きこもり? ~モフモフ以外とも心を通わせよう物語~
・ISBN-13: 978-4047350113
・イラスト 戸部 淑 先生
となります。
番外編『フェレスの大冒険』も付いています。
どうぞ、よろしくお願いします。
しばらく宣伝のためにあとがき付けますから、ウザーな方は飛ばしてね!
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