216 赤子の取り合いと余りもの二人




 夜になると歓迎会が始まった。

 見回りで外に出ていた次代の長候補キルクルスもやってきて、ガルエラドの帰還とシウの訪問を喜んでくれた。

 アウレアも走り回って楽しそうだ。この里ではこそこそしなくてもいい。だから嬉しいのだろう。その後ろをフェレスとブランカがついて回っているので、傍目には少々怖い絵図となっていたが。

 クロはシウの近くで過ごしている。

「きゅぃきゅぃ」

 今日、森であったことを報告しているのだ。フェレスは相変わらず縦横無尽に森を楽しんでいたようだが、ブランカにも教えに戻ったりしてちゃんと「先輩」をやっていたらしい。

 シウも時々は感覚転移で見ていたが、フェレスの要領の良い動きには笑ったものだ。

 ブランカは訓練と遊びがごっちゃの感じで、それでも楽しそうだった。

 時折、見回りのリングアやブーコリカ、アルティフェクスなどに会って遊んでもらったようだ。

 歓迎会では皆が、ブランカの大きくなった姿に驚いていた。

 それでも彼女の本質が変わらないことを知ると、かわいいかわいいと撫でてくれる。本獣もゴロゴロと転がって愛嬌を振りまいていた。

 時々、こうやったら肉をくれるから、とあざといことも言っていたが。

 このあたり、冒険者たちに逞しく育てられたようだ。


 アントレーネは相変わらず女性陣にモテモテだった。

 赤子を三人も産んだことで尊敬を集めたようだ。更に、戦士職ということが彼女らの琴線に触れたらしい。

 筋肉の付き具合が良いだとか、岩猪相手なら何分で倒せるかなどを話している。

 女性の話題としてはどうかなと思うが、仲良くなったのは良いことだ。

 昼間は任せっきりだったので、シウが赤子の面倒を見ようと近付けば、里にいる間は自分たちが見るんだと言って離してくれない。

「いや、でも、僕の子供でもあるんだから……」

「父親はシウじゃないって、レーネは言ってたよ。第一、あたしらは子供を皆で見るんだ。少しぐらい良いじゃないか」

「そうだそうだー。ソノールスも最近は元気になってきたけど、まだまだ不安だからって家から出せないんだよ。あたしたちは赤ちゃんに触りたいんだ!」

「ああ、うん、気持ちは分かるけど」

 構いすぎて弱ってしまう子猫を想像して、シウは苦笑した。

 ガリファロとマルガリタは元気だから大丈夫だろう。カティフェスがマイペースタイプなのでもしかしたら繊細になるかもしれない。三人とも母親が太鼓判を押すほど頑丈なので安心はしているが、一応釘を差しておく。

「赤ん坊は急変することもあるぐらい繊細だから、構いすぎてもダメなんだよ。分かってる? 少しでもおかしな様子があったら、必ず僕に言うこと。あとレーネの許可を取ったら、後は任せます」

「ほんと!?」

「やったー!!」

「あ、おい、俺たちも抱っこしたい」

「俺も将来のために」

「あんたは相手がいないでしょう!」

 なんだか大騒ぎになってしまった。

 それでも泣かないのだから、赤子三人は逞しい。

 念のため、この三人がものすごく動き回ることを教えて、リードを渡した。

 ウェールは「えっ?」という顔をしたものの、今日一緒にいて三人がどれだけ動き回るか思い出したらしく、黙って受け取った。

 この赤子たちは竜人族も驚くほど、元気なのである。


 赤子共々アントレーネも連れて行かれ、毎日どこかの家で厄介になるようだ。

 ガルエラドも実家へ行き、アウレアも女性陣が引き取った。こういう時ぐらい幼児を可愛がりたいそうだ。

 とにかく、子供を大事にする里なのだった。

「……俺も子供のうちなら!」

「まだ言ってる」

 シウが笑うと、ロトスもへらっと笑って、暗い夜空を見上げている。

「なんかさー。不思議な感じ」

 彼の言葉が、なんとなく分かる気がした。

 そうだねと頷くと、ロトスは里を見回して、また空を見上げていた。

「この一年いろいろあったなあ。まだ一年なのに、すっげえ時間が経った気分」

「分かるよ」

「去年、シウはここで俺のことを知ったんだろ?」

「うん」

「……すげえよなあ。すげえ」

「ほんとにね」

 借りている家に着くと、ロトスはフェレスたちを中へ入れながら言った。

「シウ、ありがとな」

「どういたしまして。って、もういいよ。何度も言わなくても、ちゃんと伝わってる」

「分かってるけどさあ。なんかこう、浸ってんの! 情緒ないなあ、シウは」

 よく言われることなので、シウは肩を竦めて無言で返した。



 ところで、ロトスは念話は続けるのだと宣言した。

 確かに便利なので使えた方がいい。

「範囲をちゃんと指定する。あと、ピンポイントで飛ばす。どうだ!」

「うん、いいんじゃない?」

「……また冷静な」

「乱れ飛びみたいなアレをなんとかすればいいんだと思うよ」

「……そんな乱れ飛んでた?」

「飛んでた飛んでた」

 ロトスっぽく答えたら、彼はニヤッと笑って喜んでいた。


 魔法の勉強はまた順調にできているので、焦ってはいけないが徐々に進んでもらいたいものだ。

「そういや、分身魔法が全然なんだけどー」

「レベル一のまま?」

「うん。鑑定も上がってない」

「使い方が分かってないとか?」

「うんにゃ。あ、分身魔法は分からないな~」

 レベル一あるなら何某かできそうだが、うんともすんとも言わないそうだ。こればっかりは種族特性なのでシウにも分からない。

 頑張ってとしか言えず、応援のみだ。

 本人は使えるかどうか分からない分身魔法よりも、鑑定と雷撃、そして複合魔法を頑張りたいようだ。

「装備変更や状態隠蔽ができたんだから、他の複合魔法もできるよ。火属性以外が伸びてないから、地道にレベル上げしないとね」

「それな。ほんと、頑張んないと」

 今のところ、聖獣としての地力で狩りに付いて来れているが、魔法での補助はできていない。レベルを上げないと、身体強化や結界防御などが難しいのでキリキリとスパルタするつもりだ。

 竜人族の里には良い先生たちが多いので、今回の旅はロトスにとって良い結果となるだろう。


 夜更かししながら話をしているうちに、二人とも眠りに就いた。

 今日はたくさん寝られますように。

 昼寝ができなかったので、そう祈ったシウである。

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