215 占術師




 昼ご飯の時も情報交換が行われた。

 ガルエラドとシウは男性陣に捕まった。

 そしてアントレーネと赤子三人は女性陣に囲まれていた。

「な、泣かないわ……」

「この子たち、あたしを見ても泣かない」

「肝が据わってるわね」

 みんなドキドキしながら近付いているようだ。腰が引けているので面白い。

 ちなみにロトスは、

(もっと小さい頃だったら、俺、チヤホヤされていたのに)

 と、赤子に対抗するかのような発言をして地面に絵を描いていた。もちろんふざけているのだが、いちいち芸が細かい事をするので笑ってしまった。

 とりあえず、女性の方へは入れそうにないから、こっちへおいでと呼んだ。



 午後は、ガルエラドが狩りに行ってくると出掛けたので、アウレアとロトスと共にプルクラのところへ行った。

 アントレーネは女性陣に囲まれたままで、赤子をどうやって抱いたら良いのかや、育て方を教えてほしいと懇願されていた。

 せっかくなので赤子は女性陣に任せ、ブランカは騎乗帯を外してやった。

「お疲れ様。フェレスたちと遊んでおいで」

「ぎゃぅ!」

 仕事は終わったとばかりに飛び跳ねて森へ行ってしまった。クロもついていったが、フェレスがいるので大丈夫だろう。

 近場なら安全なので楽しんでくるはずだ。


 プルクラはシウたちが来ることを知っていたらしく、家の前で待っていた。

「よう、参られた」

「こんにちは。お久しぶりですね」

「そうでもない。わたしにとってはの。さて――」

 プルクラは見た目は三十歳頃の女性だが、中身は二百五十歳を過ぎている。

 エルフのように見た目年齢に精神も引っ張られるのが普通なのだが、彼女は占術師という職のためか、老成している。二百九十歳を超えたソヌスよりも、どこか達観しているのだ。

 ソヌスは見た目が九十歳頃なので、そろそろ寿命が近付いている。

 プルクラにとって達観せざるを得ないのかもしれない。

「無事、出会えたようだ」

 深い眼差しで、彼女はロトスを見つめた。ロトスは戸惑った様子ながらも、頭を下げた。

「シウに教えてくれて、ありがとう、ございます」

「何、わたしが教えずとも知ったであろうよ。そなたも、よう頑張ったものだ。そなたの命が助かったことで、新たな未来が生まれた。良い未来とすべく、生きるのだぞ?」

「は、はい」

「ふふふ。怯えておるのか? わたしはただの占術をするだけの婆さんだがのう」

「いや、婆さんでは、ないと思う」

(けどまあ、老獪っぽい感じ? ラスボス感あるよな!)

(ロトス……知らないからね?)

(へ?)

「ふふふ。面白い子だ。聖獣というのは、このような生き物なのか?」

「さあ。聖獣にもいろいろいるから。ロトスはちょっと、お調子者っぽいかな」

(えっ?)

「やれ、気付いておらぬか。シウよ、教えてやらぬか」

 ロトスがプルクラとシウを交互に見て、青い顔をしているのでシウは肩を竦めた。

「……ロトス、念話を受け取れる人は結構多いからね? あと、感情込めたら受け取れない人にも伝わるから。前から言ってるでしょ。もうちょっと抑えないと……ダダ漏れだよ?」

「うっそ、マジかよ……」

(ガーン)

「だからそこで念話にするからほら。小さい時はしようがなかったけど、僕もそう結界を張ってあげられないんだから気をつけてね」

「ううう……」

 落ち込んだロトスに、意味もわからずアウレアが慰めていた。

「だいじょうぶ? アウルがよしよしってしてあげるからね!」

「う、うん、その、ありがとな」

「いいんだよ!」

 にこにこと邪気のない笑みで答えたアウレアに、何故かロトスは打ちのめされているようだった。


 プルクラは毎回アウレアの未来を占っているようだ。

 去年はあやふやだったものが、今年は良い結果が出たようだ。

「そなたと、ロトス、お前様のおかげのようだ」

「えっ、俺も?」

「そうだとも。良き友を得たことが、アウレアの未来を確かなものにした。シウと知り合ったことで拓けた未来だがの」

 そう言うと、彼女はアウレアの頭を優しく撫でた。

「ガルエラドはそなたの命の恩人だ。親と思い敬うのだぞ」

「はい!」

「そして、シウは仲間である。ソキウスという意味ではない。もっと深い深い、繋がりのこと。今は分からずとも良いのだ。覚えておくが良い」

「うん……」

「ロトスとも仲良くな。そなたの長い人生に関わってくる者だ。良き者だよ」

「おともだち!」

「ふふ。そうだのう。仲良うな」

「なかよしだよ~。ね、ロトス!」

「あ、ああ、そうだな!」

 まだ衝撃から抜け切れていないロトスだったが、仲良しと言われてデレっとなっていた。

 本人いわく「ロリコンではない!(きりっ)」らしいが。シウも、それは心配していない。

 なんだかんだ言いつつ、ハーレムも作れていないような「ヘタレ」らしいし、何よりも彼等は聖獣とハイエルフだからだ。

 種族が違いすぎて、たぶんそうした関係になれないのではないかと、シウは想像していた。いつか、本人も気付く時が来るだろう。その時に慰めてあげるのがシウの役目だと思っている。

 もっとも聖獣のことは門外漢だ。万が一ということもあるし、古代竜が人間と交わったことからも「奇跡」は起こるかもしれない。

 だから、想像だけの情報は与えないと決めている。


 プルクラはウェールのことやアウレアの占いをしたことで少し疲れたと、奥に引っ込んだ。彼女の世話は女性陣がするそうだから、シウたちはお暇した。

 時間ができたので、シウはアウレアにどこへ行きたいか聞いてみた。

「こっこさんのところ」

 と言うから、三人でコカトリスの飼育場へ向かった。

「わー、増えてる」

 囲いを増やして、全部で三ヶ所にもなっていた。各囲いの中に雄が一匹で、ハーレム状態だ。

「へえ、コカトリス育ててるんだ。すげー」

 浮上したらしいロトスが、アウレアを肩車して見せてあげる。

「こっこさん!」

「いや、あれはこっこさんって可愛いもんじゃないだろ……アウルって時々アレだよな」

「まあまあ。それより、卵の取り出し口も改良したんだ。考えてるなあ」

「おっ、シウ、ここ見ろよ」

 出入り口のところに、石化した場合に付ける薬が用意されていた。

 使った形跡もあって気になったが、誰も石化したままとは言ってなかったので大丈夫だったのだろう。

「あと、この頑丈な盾とか、ボコボコじゃん」

「ほんとだ」

「コカトリスと喧嘩したんだな、これで。やべえ、コカトリスのキックどんだけすごいんだ」

「ていうか、工夫しつつもまだこんなことしてるんだと思うと……」

「脳筋だから、しようがねえんじゃね?」

「だよねー」

「のーきんって、なあに?」

 頭上から声がしたので、シウとロトスは揃って答えた。

「知らなくていいよ」

 と。


 その後、畑を見回ったり、水路に不具合がないかを歩き回って確かめた。

 ロトスにも竜人族の里を案内できたので、ちょうど良かった。

「のどかだなー」

 と、のんびり話していたので、良い気分転換になったようだ。

 念話も、今のところ飛んでくることはなかった。

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