214 情報交換とロトスの希望




 朝ご飯の後はソヌスのところへ挨拶に行く。

 全員でのんびり歩いていると、顔見知りの竜人族たちがやって来た。

「ソキウス・シウ、元気だったか?」

「相変わらず、ガルエラドやアウルを助けてくれているようだな」

「でも無茶はするんじゃないぞ」

 と、気さくに声を掛けては去っていく。

 今日は歓迎会をしてくれるそうだ。アントレーネにも興味津々で、今度手合わせしようと頼む者もいた。

 何よりも、彼等はブランカに載せられている赤子たちが気になってしようがないようだ。

 ただ、あまり近付いてこない。

 目はしっかりそちらを向いているのに、何故だろうと思っていたら。

 ソヌスと補佐のウェスペルが笑った。

「ゲハイムニスドルフの村では、我等は怖がられるのだ。体格も、あちらは人族と混じったとはいえ、細くてひょろりとしているのだよ。顔付きも怖いと、子供らからはもれなく泣かれてしまうのだ」

「ああ、なるほど」

 それで遠慮したらしい。優しいものだ。

「アウルは別でな。生まれた時からガルエラドの顔を見ているせいか、泣かれたことはないのだが」

「ガルエラドはまた特別怖そうな顔をしてるもんね」

 何気なく答えると、ついてきていたガルエラドが少し肩を落としたようだ。

 たぶん、ソヌスやウェスペルとシウだけが気付く程度だろうが。

 人の悪い笑みでガルエラドを見ていたウェスペルは、肩を叩いて慰めていた。


 それからソヌスの家でシウたちの紹介と、そして情報などを交換する。

 途中でフェレスたちは追い出した。つまらなさそうだったので、遊びに行っておいで、と。お目付け役にはアントレーネを選んだ。ブランカに載せている赤子のこともあるからだ。

 ガルエラドの辿ってきた道筋や各国の情報などを報告してから、シウもデルフ国での内乱やシアン国の食糧不足、ラトリシアの不穏な空気についても話した。

 また、ハイエルフの一派で血族至上主義のアポストルス対策についても話す。

 一息ついたところで、お茶を煎れた。

 すると、空気を読んで黙っていたロトスがシウの袖を引っ張った。

「なあなあ。ソキウスってどういう意味?」

 ずっと気になっていたようだ。シウが説明しようとしたら、ウェスペルが「先生」らしく答えてくれた。

「同志や仲間という意味だ。元々は同じ竜人族同士が会った時の挨拶のようなものだった。だが、我等のためにと働いてくれた者も同志である。竜人族は受けた恩は忘れない。今では竜人族ならば挨拶だが、それ以外は尊敬の念を込めて呼んでいるのだ」

「ほえー。そうなんだ。シウ、ここでもいろいろやらかしたんだー」

「その言い回しだと、僕が変なことやったみたいに聞こえるんだけど」

「……半分ぐらいは、そうじゃないの?」

 ロトスの言いように、ソヌスとウェスペルは笑っていた。


 ロトスについては、隠さねばならない聖獣だと、順を追って説明した。

 聖獣信仰がそれほどない竜人族だが、情に厚い人たちなので、ロトスの生い立ちについてはひどく憤った。

 そしてシウがずっと守ってきたことに、それは良いことをしたと手放しで褒める始末だ。

 人が好すぎて心配になると、ロトスもこっそり言っていた。

 実際に、彼等の利になることでもないのに、竜の活動を見守ったりしている。

 特に今は大繁殖期真っ最中だ。ガルエラドだけでなく、各地の竜人族が対応しているらしい。

 そんな彼等だからこそ、シウも何かしたいと思うのだ。

「今年もたくさんの苗や種を持ってきましたよ」

「おお、それは助かります!」

「ウェールたちはちゃんとやってます?」

 ウェールは料理担当の女性だ。畑の面倒を見ると張り切っていた。

「そりゃあもう。張り切りすぎて、変なものを育てたりして大変なこともありましたが。そうそう、コカトリスも増えましたぞ。卵が毎日食べられるので有り難い」

 変なものってなんだろうと聞いたら、食べられる野草だと思って山から持って帰り植えたところ、実は魔物だったということらしい。一晩で育って、襲ってきたとか。

 畑も少し潰されてしまい、怒り狂って殺したそうだ。

「勝手なことをするなと、ウェスペルに怒られましてな。シウ殿からもらった資料はウェスペルが持っておるというのに……早合点をするのはあれの悪いところだ」

 はあ、と溜息を吐きつつも楽しそうだ。

 それもそのはずで。

「実はウェールが妊娠したかもしれぬのです」

 ウェスペルが教えてくれた。

「エンボリウムと夫婦になりまして、期待など誰もしていなかったのだが。……先日プルクラ様が占いで」

 占術師のプルクラが子ができただろうと言ったらしい。ただ、まだどうなるか分からない初期段階なので、本人たちには告げていないそうだ。

「食糧事情が良くなっただけで、これとは。いやはや、本当にシウ殿には有り難いことだ」

「皆が頑張ったからでしょう。畑も順調に育てているようだし、ガルエラドだって外から便利なものを持って帰ってる」

「……そうですな。皆が、新たなことに挑戦した。それも良かった。そのきっかけはシウ殿だ。本当にありがとう」

 里の重鎮に頭を下げられて、シウは困ってしまった。

 ロトスはにやにや笑って肘でつついてくるし、ガルエラドも助けてはくれない。

 仕方なく、シウはいえいえと曖昧な返事で誤魔化したのだった。



 昼時になり、ソヌスの家から出て皆で集まる広場へと向かった。

 屋根はあるものの完全に外の状態の広場は、テーブルや椅子が並べられており、全員で食事を摂る。

 近くに大きな竈も設置されており、ウェールたち女性が調理中だった。

 見回りの当番ではない男性陣もやってきて、ガルエラドとシウを見付けるや走ってきた。

 彼等の親愛の示し方は豪快なので、シウはさりげなく避けたものの、ガルエラドは受けている。大きく手を挙げ叩きあったり、肩を小突くような仕草で語り合っていた。

「シウ、避けないで抱き上げてもらったらよかったのに」

「放り投げられるよ、あれ」

「まあなあ。すげえよなあ、竜人族」

(ぶつかり稽古みたいだぜ。なんだあれ。シウだと吹っ飛ばされるな!)

 念話でケラケラ笑いながら告げられたが、ロトスだって同じだろうに。

「ロトスも吹き飛ばされるよ」

「俺は神々しいから大丈夫。ていうか、あんまり聖獣ってところに驚かなかったな、長老さんたち」

「古代竜信仰だからねー」

「あー」

 ドラゴンには負ける、負けるよなあと呟いて、それから座り込んでしまった。

「どうしたの?」

「いやー。だって、イグと同じ存在ってことだろ? あれには勝てないよな」

 何やら思い出したようだ。

 確かに、勝ち負けで言うなら、勝てないだろう。

「でも、別にいいんじゃないの? 戦いたかった?」

「んなわけねーじゃん。ドラゴンと戦うとか、頭イカれてるとしか思えねー。ていうかさー」

(もうちょっとチヤホヤされると思ってたの! 聖獣様ぁぁ、って……)

 また変な夢を抱いていたのだなと、半眼になって笑ったシウである。


 アントレーネがロトス様ロトス様と呼んでチヤホヤしていたので、てっきり竜人族もそうなると思っていたらしい。

 特に今回は種族をバラす予定だったので、チヤホヤ度が高いと思ったとか。

 そんなにチヤホヤされたいとは知らなかった。

 が、そういうことではないのだそうだ。

「俺は! 竜っ娘もいいな! って思ってたの!」

「あ、うん」

「強いけど、ムキムキじゃないスレンダー系の、それでいておっぱいがこうほわほわした感じでー。角を触らせてくれたりー、尻尾、じゃなかった竜尾を『さ、触ってもいいんだからね!』とか言われて、それで――」

「ロトス、声に出てるよ。変な目で見られるからそろそろ止めた方がいいんじゃない?」

「げっ」

 集まってきていた竜人族の男性に、何だコイツという視線を向けられて、ロトスは慌てて噤んだ。

(早く言えよ! やべえ、俺、変態って呼ばれる!)

(一応、変態の自覚はあるんだね)

(ぎゃー! シウにまで変態呼ばわりされた!!)

 念話がガツンと飛んできて、シウは思わず頭を振ってしまった。


 それにしても、ロトスはぶれない。

 竜人族の里でもハーレム要員を探すつもりのようだったらしい。

 そのためのチヤホヤ要求だったようだ。

 でもその前に。

「ロトス、竜人族の女性は割とムキムキ系だと思うよ。戦士職多いし。レーネと同じぐらいがっちりしているから、たぶん、ロトスのタイプの女の子はいないんじゃないかなあ」

 若手は修行の一環として外に出ているので、ちょうど良い頃合いの女子というのはいない気がする。

 諦めたら? と肩を叩いたら、座り込んだまま立ち上がれなくなっていた。

 希望と現実の間には深い溝があるようだった。

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