208 不要な報告とモテない事実

前回に引き続き、ある種、ドン引き案件かもしれません。

お気をつけください。






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 翌日、ロトスに「ありがとうね」とプレゼントのお礼をしたら、案の定「別にー」と言いながらそっぽを向かれてしまった。その耳は赤かったし、さささと逃げ去っていったので、もし聖獣姿だったなら尻尾を振っていただろうと思う。


 ついでに、彼には後で竜人族の里でのことを話してみよう。

 実は今回こそ、近くにあるハイエルフの血を引く秘密の村ゲハイムニスドルフへ行くつもりだった。彼等への連絡も頼んでいる。そこで聖獣との契約について頼むつもりだ。

 このままひっそりと暮らしていても、成獣になったロトスは自由に生きていけるだろう。しかし、生まれ落ちていた場所の王が所有権を口に出したら、厄介なことになる。

 聖獣を相手に痛めつけるような捕縛はないと思いたいが、ウルティムス国は普通とは言い難い国だ。

 すでに気を許した相手と契約を交わした、ということにすれば一番簡単だった。

 それも聖獣自身が望んだことならば。

 また、契約の上位「誓約」であれば、捕縛されても強制的な支配下に置かれることはないし、誓約相手に伝わるから助けに行くのも可能だ。転移してもいいが、召喚と似たような形で呼び戻せる。

 ウルティムス相手にも悠々と逃げ回れるだろう。

 シウはどの国にも属していない流民扱いの冒険者だ。土地を所有はしていても、国民ではない。だから、国が戦争を吹っ掛けられることもない。


 ロトスの心身が大人になるのを待ってのことだったが、改めてきちんと聞いて、納得の上に誓約魔法を掛けてもらうのが良い。

 残念ながら、彼にはとうとう、ハーレムを許してくれそうな美女の相手は見付からなかったので仕方ない。



 しかし、それらの話の前にシウは言うべきことがある。

「ロトス、僕、精通したよ」

 にこりと笑って告げたら、ぶはっと吹き出されて、その後に頭を叩かれてしまった。

「いったー」

「なんちゅう報告をするんだ! ばっかじゃねえの! シウのバカタレ!」

「えっ。こういうのは男同士の嗜み、ええと、報告会じゃないの?」

「誰がそんなことシウに吹き込んだんだよ!」

「えー」

 シウは冒険者たちに以前ものすごく同情されたことや、もし精通したら報告するんだぞと慰めてもらったことをロトスに説明した。

 すると、大変白い目で見られてしまった。

「お前、ちょーバカにされてんじゃないの? そういうシモの情報教えてんじゃねえよ。恥ずかしいなあ、もう」

「でも冒険者って割とこういう話する人多いけど」

「あー。まあ、俺もするけどさあ。でもなんか、シウが言うのは違うんだよなあ」

「僕が言うとおかしいってこと?」

「うーん。なんだろ。なんつうか、えー、変な感じー」

 なんなんだ。

 シウはムッとして、でもそれから、確かにこの世界に慣れ親しんだが前世だとセクハラ案件かもしれないと思い直した。

 他人の精通話なんて、確かに聞いて嬉しいものではないな。

 シウは大人になったと自慢する意味で伝えたのだが。なにしろロトスにも以前バカにされていたので。

「……うーん、分かった。じゃあ、とりあえず、男になったって言えばいいんだよね」

「いや、それだと別の意味になる。つうか、ヤメロ。俺のシウがケガレていく……」

 最終的には泣いて止められてしまった。

 ロトスはどうやら、シウに夢を求めているようだ。

「俺の妖精さん……俺より先に男にならないで……」

 いや、先を越されるのがどうやら嫌らしい。

 大人げない。

 ――まあ、シウも自慢しようとしたので、大人げないのだが。


 とりあえず、この手の話は聞かれない限りはしないことと厳命された。

 あと、アントレーネにも教えてはいけないとのことだ。アントレーネに言うと、最初の相手を務めさせていただきますとか言い出す可能性があるので「絶対ダメ」らしい。

 笑い飛ばしたものの、確かに彼女は少しばかりシウ信者なところがあるので、ロトスの真剣な勢いに飲まれて頷いた。

 一緒のお風呂も禁止にしないと、間違いが起こるぞと脅される。そうした経験がないものの、小説などを拝見するにその可能性も捨てきれず、了解した。

 時に男女というのは、その場の盛り上がりで過ちに至ることもあるらしい。

 シウは古い考えの持ち主なので、互いに好きあっていなければ、性交渉は行ってはいけないと思っている。誰かに強いるつもりはないので、考え方の違うアントレーネに言ったことはない。言ってしまうとシウ信者の彼女は従ってしまう可能性があるからだ。

 さすがに、この世界に転生して育ってきたので「結婚相手だけと閨を共にする」などとお固いことは言わないが、最低限、好きあっていなければダメだ。

 よって、間違いを犯さないようにする努力が必要となる。


 ロトスの指摘はごもっともだ。

 時に男の衝動は意思を伴わないこともあるというのだから。

 シウも自分がどうなるのか分からないので、信用しないことを大前提に気をつけようと自戒した。


 それにしても、シアン国へ行っている時にならなくて良かった。

 これからは子供だからと安穏としていたら、襲われる可能性だってあるのだ。恐ろしい。

 愛していない相手との子供を育てるなんて、シウの倫理委員会が許さない。

「ん? そうだ、ロトス、じゃあ普段は不能にしておく状態異常を魔法で施したらどうかな。そうしたら不幸な出来事が防げるよ」

 ものすごくいい考えのように思って口にしたのだが。

「……シウ。俺はさ、時々シウがすごいバカなんじゃないのかって思うことがあったんだけど、今初めて気付いたよ。シウはバカなんじゃない。変人なんだ。大変人で、天然で、ただのバカじゃない超がつくバカ」

 肩を掴まれて、揺さぶられてしまった。

「今、シウの頭の中でどういう連想ゲームがあったのか分かんねえけど、とりあえず、落ち着け。魔法で状態異常掛けても、シウには効かないよな? な?」

「あ、うん。そうだった」

「これでひとつ、バカだってのが分かったな。良かったな」

「うん、そう、だね……」

「あと、不幸な出来事は、自分で防ごうな。どうせチャームは効かないんだろ?」

「魅了? あ、そうか。僕には効かないね」

「それと、シウ、そんなにモテないから安心しろって。大丈夫。レーネが心配して相手してやろうか思うぐらいが精一杯で、モテない男が心配するようなことじゃない。分かった?」

「う、うん……」

 でも未遂だったが夜這いの話だって、あったのに。

 そう思ったが、あまりに怖い顔で説教するので、シウは黙っておくことにした。

 それにしても、何度もモテないと連呼するのはいかがなものか。

 確かに、モテたことはないのだけれど。




 その夜は、いつも冒険者たちと行く居酒屋へ顔を出した。

 ロトスとレーネも一緒だ。フェレスたちは居残りである。ブランカが大きすぎて店の中へ入れるには厳しくなってきたので、ついでに全員残ってもらった。

 店にはククールスもいて、開口一番に、

「おー、成人おめでとう。良かったなあ!」

 と言ってくれた。

 他にも顔見知りたちが口々に祝いの言葉を投げてくる。

「いやあ、めでたいめでたい」

「良かったなあ、シウよ。これでいっぱしの冒険者じゃねえか」

「何言ってやがんだ。シウはこれでもいっぱしの冒険者だぞ」

「そうだそうだ。お前よりずっと頼りになる冒険者だぜ」

「なんだと!?」

 ところどころで喧嘩が勃発していたものの、おおむね仲が良い感じだ。ロトスはちょっと引いていたが。

「なあ、あれ止めなくていいのか? マジ喧嘩じゃね?」

「あれはああいうものだよ。冒険者なんて大体あんな感じだし」

「うげ、マジかよ。てか、動じないなあ、シウは」

「そう?」

「シウが動じるのって、身長のこととフェレスたちのことだけだよな」

「……そうかな?」

 納得してない声で返したのだがロトスはもう聞いてなどおらず、ククールスのところへ突撃していた。

 正確にはククールスというよりも、その周りできゃいきゃい騒いでいる女性冒険者のところへ。


 認識阻害で見た目を誤魔化しているロトスだが、整った様子というのはなんとなくでも相手に伝わる。

 よって、若い青年が女性にポーッとなる姿は、女性からすれば嬉しいことのようで。

「いやーん、可愛い!」

「お姉さんのところへ来なさいよ。ドメニカなんてオバサンよ」

「何言ってんのよ。あんただって良い歳してんじゃないの」

「はーい、この二人はほっといて、ぴっちぴちのあたしのとこへおいで!」

 取り合いになって、間に挟まれたロトスはニマニマと嬉しそうだった。

 ククールスは、

「こんなので嬉しいのか。妥協すんなよ」

 と言って、女性陣にしこたま怒られていた。

 アントレーネは呆れた顔で見ているし、なかなかにカオスだ。


 シウはと言えば。

「なんでフェレス連れてこないんだよ」

「クロが見たかったのに」

 とゴネられていた。ブランカの名を口にしないあたり、まだ頭は正常で酔っていないようだ。さすがに大型種の騎獣は店の中へは入れられないことを分かっている。

「ブランカが拗ねるから。考えてみようよ。ブランカだけ店に入れなかったら、悲しいでしょ」

「ううう。そうだな。可哀想だよな。あいつ大きくなったもんな」

「大きくなりすぎたっていうか」

「あんなに小ちゃくて可愛かったのになあ。まさかあんなに大きくなるとはなあ……」

 しんみりしてしまった。


 それにしても、何故シウの周りにはこういう人ばかり集まるのだろうか。

 不思議だ。


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