197 シルトとロトス、ロトスと若手冒険者
シルトたちがやってくるのと同時に、レイナルドも戻ってきた。
ヴェネリオは当番を大幅に過ぎていたので別れ、シウはレイナルドと二人だけという苦行から開放されることになった。
何故か夕方の当番はシウ一人だったのだ。レイナルドは常にいるため、問題外だ。
「お、友達か? どうだ、挑戦してみるか?」
レイナルドは気さくにロトスへ話しかけ、ロトスもまた気楽に答えていた。
「あ、じゃあ、やっちゃおーかな」
「おう、そうこなくっちゃな! よし、シルト、お前が先導してやれ」
「え、あ、はい」
シルトは何故か、ロトスのことをチラチラ気にしていた。
強力な認識阻害を掛けているものの、アントレーネ同様に獣人族の彼は鼻が良い。
彼の従者のコイレとクライゼンは全く気付いていないので、種族的な力の強さが関係あるのかもしれない。
シルトが少々不安そうな素振りを見せたものの、レイナルドの命令は絶対だ。
言われるがまま、先導役になってコースを示すことになった。
競争相手はレイナルドがやるようだ。
シウは呆れながら、他の参加者に詳細を説明した。
顔馴染みの冒険者もいたが、彼は午前中に参加したらしく、もういいやと手を振っていた。
「ロッカは誰かと来たの?」
「ドメニカさんとガンツとでな。たぶん、ルスツも来てると思う。昨日そんな話をしてたから」
「そうなんだ」
午前中までは一緒にガヤガヤと見て回っていたそうだが、昼からは勝手に歩き回っているそうだ。冒険者らしいというか、自由気ままである。
どこを見て回ったとか話すのでシウも聞いていたら、古代遺跡研究科も覗いたという。ふと思い出して尋ねてみた。
「あのね、こういうの見たら、何を思い浮かべる?」
絵を描いてみせると、ロッカは暫くクルクル回して見てから、呟いた。
「鉄甲だろ?」
「だよねっ!!」
「お、おう。なんだ、普通の質問かよ。てっきりシーカーなんか通ってるから、ひっかけ問題かと思ったぜ」
「あ、違う違う。ええと、これは僕の常識を再確認するための質問」
なんだそりゃ、とロッカは首を傾げていた。
そこにロトスたちが戻ってきた。
「あ、おかえり」
「ただいまー。ていうか、このアスレチックおかしいよね? あと、あの人おかしい」
「分かる分かる。お前もあの人のおかしさを知ったか!」
「えと、アンタ誰?」
「おう、俺はロッカ。冒険者だ」
「俺、ロトス。冒険者」
「へえ。何級?」
「九」
「俺も九級」
そう言うと、二人は何故か固い握手をしていた。なんだろう、若手冒険者同士の友情が芽生えたのだろうか。
シウが困惑げに二人を見ていると、ロトスが手元を覗き込んできた。
「あ、【メリケンサック】だ」
「へ? 今、なんつったの?」
「ロッカ、気にしないで。これ、彼の方言。ものすごーく田舎の出だから時々変なこと言うんだ。分かった? 気にしちゃダメだからね?」
「お、おおう、分かった」
(おっと、ごめーん! シウ。でもこれ、メリケンサックだよな? なんだっけ、ナックルなんとか。ヤンキーな方々が使う武器だろ)
(うん、それそれ)
適当に返事をしたら、ロトスがぷくっと膨れた。ポーズなのは分かっている。
ロッカは気付かず、話を再開した。
「そういう武器も、いいっちゃいいけどな。でも致命傷は与えられないだろ。対人用だよな」
「そうだね」
「拳闘士が、最初の頃の訓練で使うって聞いたことあるぞ。見た目に強そうだもんな。でもそのうち専用の革手袋になるらしいぜ」
「あれって傷めないためにだよね?」
「そうそう。保護目的な。身体強化を腕だけに込めるっていうけど、俺には無理だなあ。武器なしで戦うのはつれえわ」
魔獣を間近でぶちのめすのも怖いし、と続ける。
殴り殺す、というのは確かに初心者には難しい。
「でもなんか、ロマンがある……」
膨れたロトスを放っておいたら、諦めて会話に参加してきた。
そのロトスの意見を聞いて、ロッカがにやりと笑う。
「分かる。俺、分かるぞ、お前の気持ち」
「分かってくれるか!?」
「おう!」
また、固い握手だ。
なんだかシウだけ除け者になってしまった。
ロトスがこちらを見て、フフンという顔をするので余計に。
彼等が冒険者としての熱い友情を育んでいる間に、二度目の挑戦を終えたレイナルドが戻ってきた。
シルトは息が上がっている。
彼等を見て、ロッカが聞いてきた。
「シウはやらないのか?」
「うん」
「あー、お前がやったら勝負にならねえのか?」
「いやまあ」
そんなことはないと思うが、フェレスではないが、こういう人工的なものに対してあまり面白味を感じないのだ。
施設を作った手前、一通りのことはやったが、それだけだった。
レイナルドもシウに強制しないのでそのままである。
そのレイナルドは別の挑戦者がいないか、見学者の間を勧誘しに行ってしまった。
残ったのはシルトだけだ。コイレとクライゼンは周辺の警備にあたってくれている。
「シルト、お疲れ様」
「あ、ああ」
彼はやっぱりチラチラとロトスを気にしながら、近付いてきた。
「全力でやったんだ?」
「いや、八分目と言われていたから、ある程度の力は抜いた」
「えー、そうだったんだ? じゃあそれに勝っても嬉しくないなー」
「ロトスは全力だったの?」
「へっへー」
と笑うだけで答えない。
どうやらチートを発揮したようだ。こういう場合は、能力を隠して戦うのが良いのだと、前に語っていたことがあるのに。
「あ、なあ、ところでさ」
「何?」
「今日はお嬢様来ないの?」
「お嬢様?」
シウが首を傾げていると、シルトが、ああと声を上げた。
「クラリーサさんのことじゃないか、シウ」
「あ、そうそう、その人ー」
ロトスがニコニコ笑って頷く。シルトはやっぱり気になってしようがないようだ。ものすごく緊張した面持ちで、しかし興味があって仕方ないと耳がピンと立っている。
相手がロトスでなければ、初恋の相手に出会ったかのような仕草である。
多分に、ロトスの聖獣としての力を感じているのだろうが。
「クラリーサさんは、当番やってないから来ないよ?」
「えっ。えーっ? そうなんだー!」
「なんだ、ずっとニマニマしてたの、それでだったんだ」
「だってー。本物のお嬢様に会えると思ったのに!」
「ていうか、お前、大物だなあ」
ロッカがちょっと引いていた。貴族の女性を相手にこんなことを言う人間を、見たことがないのだろう。シウだって、ない。
「アマリアさんには会ったよね?」
「人のものになんて、興味ない」
(キリッ)
ロトス曰く、キメ顔で答えてくれたが、シウは笑えなかった。
とりあえず、背伸びして彼の頭をポカリと叩いておく。
「えー、なんでー」
「貴族のお嬢様相手にそういうこと言わないの。分かった?」
「はーい」
(ちぇー。でもまあ、今日だけでいっぱいお嬢様見られたからいっか。ついでにどうでもいい男どもも見たけど)
ロトスの、一貫した「ハーレムを作りたい」という願望には、シウも時々尊敬の念を抱く。
なんだかんだで諦めてないし。
そのうち本当に清いハーレムが出来上がりそうだ。
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