198 獣人族の赤子たち




 翌日、光の日はアントレーネと子供たち、その子供たちを背負う係としてロトスを連れて学校へ向かった。

 途中で合流するスサたちにも助けてもらうが、基本はこれでいく。

 昨日も置いてけぼりで今日も置いてけぼりのフェレスたち三頭は、昨晩たっぷりマッサージしたので今のところ機嫌は良い。

 ロトスにハーレム作りは気をつけてやるんだよと話す間に皆のマッサージをしたのだが、いつの間にか聖獣姿に戻って彼も並んでいた。

 念入りにマッサージしたのは、話に身が入りすぎたからだ。

 朝になって、ちょっと痛いとぼやいていた。



 アントレーネがマルガリタを背負い、ロトスがガリファロ、シウがカティフェスを背負ってぶらぶらしていると、どうしても人目を引いてしまう。

 大柄な獣人族の女性が子連れなのだ。しかも、認識阻害を掛けていても分かる見目麗しい青年も、獣人族の子を背負っている。そしてシウはシーカーでは有名人だった。

 仲の良い知り合いなどはシウを見付けると笑っていたが、よく思っていない貴族出身の生徒などはひそひそとやっていた。

 気にせず見て回ったが、子供たちが興味を持った希少獣のふれあいコーナーでは少し揉めてしまった。

「危害を加えられては困るので、入らないでもらおうか」

 と、けんもほろろに断られた。

 召喚術科のクラスで、昨年あったふれあいコーナーとは別のクラスだ。残念ながら、昨年のクラスは別の催し物をやっている。

 なのでここへ来たのだが――。

「この子たちは希少獣に慣れているので、危害を加えるということはありませんが、それでもダメですか?」

 再度確認したのは、中に子供たちがいると分かっていたからだ。赤子も幼児もいて、元気いっぱいだ。だからシウも聞いてみたのだが。

「ダメだ。帰ってくれ。しつこいようなら警備を呼ぶぞ」

「シウ様、仕方ありません。行きましょう」

「あぶー」

 マルガリタは不満そうだったけれど、アントレーネにお尻をポンと叩かれて、ぶうと返事をして黙った。

 そうしたことを、受付の青年たちは見下すようにしらっとした顔で見て、手を振った。振り払うような仕草だったため、差別的なそれにムッとしたものの、アントレーネが視線で止めるのでシウも口に出すことは止めた。

 ただ、ロトスはイラッとしたらしく、

「ハゲの呪いを掛けてやるー」

 と、捨て台詞を吐いていた。

 思わずぶはっと吹き出してしまって、アントレーネも引きずられて笑っていた。


 途中、生徒会のミルシュカに出会ったので報告した。

「そんなことを……。ごめんなさい。お客様も申し訳ありませんでした。どうかお許し下さい」

「あ、いえ、あたしはそれほど気にしてませんから」

 アントレーネは慌てて手を振った。本当に気にしていないのだと。

「そう仰っていただけて助かります。ですが、どうぞ、お気を悪くなさらないでください。いろいろな生徒がいます。周知徹底させているのですが、どうしても差別意識があるのでしょう。自分が貴族だからと勘違いしているのですわ。本人が得たものではございませんのにね」

「ミルシュカさん、顔が怖くなってるよ」

「あら。ダメね。ほほほ」

「プルウィアに言うと怒ると思って、ミルシュカさんに報告したのに」

「あら、そうなの? でも、生徒会でも議題に乗せるわよ? そうしたらどうなると思う~?」

「……怒髪天を衝く感じ?」

「召喚術科のあのクラスは、前から目をつけていたし、生徒会長の尻を叩くわ。あら、わたしとしたことが、汚い言葉を使ってしまったわ。では、これにて。ごきげんよう」

 そう言うや、走らない程度にささーっと行ってしまった。

 グルニカルが追い込まれる図を想像して、心の中で祈ることにした。頑張って、と。


 歩きだすと、まずロトスが最初に笑った。

 そしてアントレーネ。

 シウも釣られて笑った。

「シーカー魔法学院というから、どれほどすごいのかと思っていたら。案外普通の人間が通っているんだね」

「ほんとー。感じ悪いのもいたり、でも頑張ってる生徒会の人がいたり。なあなあ。プルウィアって、エルフの女の子だよな?」

「うん。昨日会った子だよ」

「あの子、超気が強そうだったもんなー」

「生徒会をそのうち牛耳るんじゃないかって言われてるね」

「やべー」

 うひゃひゃと変な笑い方をして、それから背中のガリファロを揺すった。ガリファロが笑いに合わせて動いたからだ。

「こわーいエルフの女の子に怒られたらいいんだ、あいつら。なー、ガリファロー」

「あぶ!」

「よしよし」

「でも、シウ様が目を付けられたりしないかい? あたしは、それが心配だよ」

「何言ってんの、レーネ。このシウだよ? しれーっとした顔で受け答えしてさー。生徒会の【女番長】にもツテがあって、早速報告してるし。最強じゃん!」

「あ、ああ、そうかな」

 アントレーネはロトスが口にする変な言葉にもあまり突っ込まない。そんなものだと思って、前後を補完して考えているようだ。

 シウは肩を竦めて、ロトスに告げた。

「その最強の女の子が、もうすぐやってきます」

「ひょっ!?」

 なんだ、その声は。

 シウは笑って、指差した。

「あと三秒ぐらい。ほら――」

 その時のロトスの顔ときたらなかった。

 アントレーネも唖然としていたが、ロトスを見て、大笑いだ。

 そして廊下の角を曲がってやってきたプルウィアたち一行は、変な顔をして立っているシウたちを見てポカンとしていたのだった。



 不思議がるプルウィアを誤魔化し、ミルシュカに話したことをさらりと告げると、シウたちは急いでいるからと別れた。

 次は魔獣魔物生態研究科だ。

 時間があったので、アントレーネが解体競争に出ると言って参加し、何故か強制的にロトスも参加させられたので見ていて面白かった。

 昼ご飯では、火鶏のカツを食べるべきかどうかでかなり悩んでいたロトスだ。

 さっき解体したものとは別だよと言っているのだが、結局は岩猪のステーキにしていた。

 ここの希少獣たちとは、赤子三人、普通に触れ合うことができた。

 いつもフェレスやクロにブランカと暮らしているだけあって、慣れたものだ。

 赤子や幼児特有の遠慮のない掴み方もしない。

「教育的指導を受けてるもんなー、な、ガリファロ」

「あば!」

「返事したのかよ、お前ー」

 ロトスが可愛いなあと突いてガリファロがころんと転がったが、獣人族の赤子だけあって泣いたりしない。自力で起き上がると、遊んでくれる人と認定しているロトスに突進して、あばあばと意味不明の言葉を繰り出している。

 マルガリタはハリーのトゲトゲが気になって、触っては手を引っ込めを繰り返していた。

 厨房から覗きに来たアロンソが微笑んで見ている。

「可愛いなあ。大丈夫だよ、ハリーは怒らない限り毛を立てないからね?」

「あぶ?」

「わあ、耳が動いているね。尻尾も可愛いし。シウが獣人族の人に惹かれるの分かるよ」

「え、シウ、獣人族【フェチ】?」

 ぐるんと首だけ振り返ってロトスが質問してきた。シウは半眼になって答える。

「可愛いなあと思ってるだけで、僕は変質者じゃありません」

「あ、そういう意味で言ったんじゃないよ。ごめんごめん。ほら、遺跡科のミルトって子が、シウは獣人族の耳を見たらすぐに触りたそうにしてる、って言うもんだから。てっきり女の子の好みもそうなんだとばかり」

「種族で好みを決めたりはしないよ」

 苦笑すると、アロンソもそうだよねえとのんびり笑った。昼ご飯を一緒にすることも増えたので、アロンソたちはミルトの冗談を聞かされたのだろう。

 冗談だと、思うが。


 ところで、カティフェスはマイペースなところがあるので、希少獣たちがいるスペースでも我関せず、一人で遊んでいた。

 希少獣の方が気になるらしく、タマラがたたっと体を登って頭の上に立ったり、ゲリンゼルが身を寄せてじいっとカティフェスの一人遊びを眺めていた。

「まんま!」

 と言いながら、涎掛けの縁取りをぷちぷち剥がしていくという、よく分からない遊びを。

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