196 仲良し子弟と巨大アスレチック




 疑似遺跡発掘体験コーナーへ戻ると、あちこちを土で汚した子供たちとロトスが楽しそうに地上へ登ってくるところだった。

 リュカが「どうだった?」と聞くまでもなく、皆、楽しかったようだ。

 シウが浄化を掛けてあげ、次はどこへ行くかという話になった。

「お昼は食べてきたの?」

「食べてきたよ」

「でも、動いたあとだし、食べられるかな?」

「食べる!」

「食べれるよ」

「あたしもー」

 と皆が言うので、食堂へ向かった。

 いつものランチメニューは昼の間だけだったのでもう置いていないが、この時間だとおやつ関係のものが出ている。

「わあ、美味しそう! これ、冷たいお菓子?」

「こっちはケーキだって!」

 子供たちが目を輝かせるので、欲しいものをそれぞれに買ってあげた。

 ちゃんとお小遣いを持ってきていたが、ここはシウの顔を立てて欲しいとお願いしたら、神妙な顔をして頷く。

 こういう言い方をすると、頭の良い子供たちなので分かってくれるのだ。

 庶民がほとんどの子たちだから、お小遣いと言っても本当に少ない。

 どうやら師匠からも貰ったようだが、それでもおやつを買ってしまったらそれで終わりになるだろう。

 リュカも彼等のことを考えて、ブラード家でお手伝いをして貯めたお金は持ってきていないようだ。

「シウお兄ちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして」

 それぞれが礼儀正しく、シウにお礼を言って、美味しそうに食べていた。

 ただ、ロトスは、

「お、お兄ちゃん、ありがとう……」

 と挙動不審になっていたが。


 食べ終わって移動している最中、さっきどうしたのかと聞いたら、ロトスは、

「俺、いい大人なのに買ってもらった」

 などと言うので笑ってしまった。

「ロトスはまだ子供だよ。見た目はそりゃあ、追い越されたけど」

「それが問題なんだよね!」

「でも、まだまだ庇護されるべき立場だと思うよ。気にしたらダメだって」

(気にしたら負け、ってやつだな!)

「また分かんないこと言って。あ、これが、いつもの皆の気持ちかあ」

 分からないことや変なことを言うとよく言われていたので、ロトスと会話していて感じていた「これ」がそうなのだと気付いた。

 そりゃあ、皆、変だと思うなあと苦笑する。

「なになに?」

「ううん。あのね、人の振り見て我が振り直せ、って言葉を今、噛み締めているんだよ」

「それ、なんかあんまいい話じゃないよね? しかも俺の言葉の後で!」

「あはは」

「シウ、ひどい!」

 笑っていると、リュカと他の子たちが不思議そうな顔でシウたちを見ていた。

「どうしたの?」

「ううん。お兄さんと、シウお兄ちゃん、年が離れてるのに仲良しなんだなあと思って」

「あ、うん」

「ぶはっ」

「あたしたちも、離れてるけど同じ子弟だから仲良しなんだよ」

「そうだね」

「学校に通ってる子には変なのーって言われたけど、変じゃないよね?」

「……うん、変じゃないね」

 ほらー、と女の子が笑顔になった。そして、年上の男の子たちに「ね?」と話しかけている。

 皆、微笑ましそうに彼女を見ていた。

 今、彼女の中の悩みがひとつ、解決したようだ。



 その後、皆の希望で薬草学の展示を見学したり、人体研究科へも足を運んだ。どちらも一般人が来ることを想定して、生々しい展示はない。

 専門的な展示もあったが、おおむね分かりやすく噛み砕いた表示にしてある。もちろん専門家へ向けた資料も展示しているが、それらは奥の方にひっそりと置かれてあった。

 シウが説明しながら進んでいると、薬草学の方では「ああ、シウ=アクィラか」といった様子で流してくれたが、人体研究科では「なんだアイツ」といった顔をされてしまった。


 夕方になると危ないので、リュカたちはここで終了となった。

 表門まで送っていき、気をつけて帰るよう告げ、皆が帰っていった。

 ロトスはこのままシウに最後まで付き合ってくれる。

「戦術戦士科の、楽しみだなー」

「そうかなあ?」

「熱血先生、見てみたいし」

 本当かなあ、と疑わしい気持ちでロトスを見ると。案の定、ロトスはニマニマしていた顔を慌てて引き締めていた。

「あ、やっぱり何か企んでる?」

「企むって!」

「じゃあ、その笑いはなんだろう」

「うへへー」

 話していると、ドーム体育館前に到着した。


 昨年よりも力の入ったアスレチックが出来上がっている。

(あ、これ、テレビで見たことあるわ。巨大アスレチック)

「そんな感じかな」

「でも、あれ……? なんか、思ったのより大きい? ええと、ほら――」

(縮尺が違う気がする)

 ロワイエ語が思いつかない時はすぐ念話になるので、ロトスはごちゃまぜでシウに話しかけてきた。

「だって身体強化を掛けられるんだよ? 普通のアスレチックだと、簡単すぎるからね」

「わー」

 棒読みで返事すると、ロトスは呆然と施設を見上げていた。

「なんか、ひとり、すごいのがいるけど」

「あ、あれがヴェネリオだよ」

「ああ、【忍者】のね」

 レイナルドは休憩なのか姿が見えず、当番のヴェネリオが冒険者たちと一緒に競い合っている。

 当番の意味があるのだろうか。

 あと、一般の見学者がほとんど冒険者だけになっているが、それでもいいのだろうか。

 ロトスと一緒になって呆然と見上げてしまったシウだ。


 ヴェネリオは一通り走り抜けると、シウに気付いて駆け寄ってきた。

「ちょうど良かった。レイナルド先生が昼に出たからさ」

「え、今もう夕方だけど」

「そうなんだけどさ。忙しくて今頃になったんだよ。さすがに我慢できないって走っていって。シルトたちは別のクラスの方で緊急事態が発生して遅れるって言ったまま来ないし、一人でどうしようかと思ったよ」

「そうだったんだ。連絡してくれたら良いのに」

 そう言ったら、ヴェネリオはロトスをチラッと見てから、笑った。

「いやだって、知り合いの案内があるって言ってただろ」

「あ、そっか。気を遣ってくれたんだ。ありがと」

「いやいや、まあ。でも、女の子じゃなかったんだなあ。残念」

「女の子が良かったの?」

「ラニエロやサリオと、シウの知り合いって女の子かなーと話していたからさ」

 シウの知り合いなんて学校にしかいないのに。

 後は冒険者ぐらいか。いや、商業ギルドにも女性はいるなあと考えていたら、ロトスがニマニマ笑ってヴェネリオに手を挙げた。

「シウがそんな甲斐性あると思うー? ていうか、男でごめんね!」

 そのノリに、ヴェネリオも笑って返していた。

「いやいや。でもやっぱ、君もシウに彼女ができないって分かるのかあ。そうだよなー」

「ねー」

「あのー。僕、もしかしてからかわれてる?」

(安心しろ、シウ。ディスってんじゃないから!)

(だから、それ、意味分かんないからね?)

(うへへー)

 今日は帰ってから、じっくりロトスに話を聞いてみるべきだなと、心に決めたシウである。

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