177 順調な街道の旅と鉱石の街




 水の日になり、護衛の方針が決まった。

 ヤルノ、ユッカ、ダニアは探知に向いているため、隊商の護衛と組になって騎獣へ乗り、交代で先頭を行く。

 夜も交代での見張りに入るため大変だが、探知担当はそんなものらしい。


 シウたちは遊撃で、隊の左右を確認してくれたらいいと言われた。

 最後尾はアルダスのパーティーが請け負い、馬車もいざという時に切り離すためのボロいものを使っている。

 これが冒険者たちを運んだり、荷物を載せたりする馬車だ。だから、切り捨てるとなると彼等の荷物を捨てていくということにもなる。なかなかシビアな話だ。

 アルダスたちはこの仕事が上手くいけば、魔法袋を買うらしい。

 ウキウキして話してくれたが、後でロトスが、

「あれ、フラグだぜ。あいつら絶対に魔法袋は手に入れられないな」

 などと縁起の悪いことを言っていたので、シウはちょっぴり不安になったのだった。



 ところで、ロトスのことは誰にもバレていないようだ。

 フェンリルにも今のところバレていない。

 最初、ほんの少しだけ不安そうな視線を向けられたものの、飛竜の首輪をしているからだとか、竜のお守りを持っているせいだねと言い聞かせたら「そうかも」と信じてくれた。

 騙されやすい素直な子たちで良かった。

 いや、希少獣というのは総じて、そうした子ばかりなのだ。

 とにかく、ロトスは新人冒険者として紹介しているため、誰も気にしていないようだった。認識阻害も強めにしているため、元の美麗な顔付きも分からないらしい。

 隊商には女性もいるため、騒がれては困ると思って術式を修正した。

 本人は、俺のイケメンが隠されるなんて、とショックを受けていたが諦めてもらった。


 昼間はシウがフェレスとブランカへ交互に乗るようにして、彼等の乗せたがりを解消した。

 仲の良いククールスやアントレーネ、もちろんロトスもそうだが、彼等を乗せるのはもちろん気に入っている。

 しかし、やっぱり主が一番らしい。

 他の騎獣に比較して自由に遊ばせているため、一頭だけでどこかへビューンと飛んで行くことも多いが、戻ってくるのはシウのところだし一番乗せたいのもシウのようだ。

 彼等の不満を溜めないためにも、シウはなるべく交互に乗るようにしていた。

 空いた方に、ククールスとアントレーネが交互に乗っている。

 ロトスはシウと一緒だ。たまに、ククールスたちとも同乗訓練として乗っている。

 それ以外は飛行板で移動するため、フーバーのみならず、隊商の面々も最初は驚いた顔をしていた。

 冒険者が飛行板に乗って狩りをするのは知っていたが、ほとんど見たことはなかったらしい。

 シアン国への護衛仕事では飛行板を借りることはできないし、王都内では飛行禁止のため、知らないのも当然だった。


 これについてもアルダスたちは「いいなーいいなー」と連呼していた。

 そして、空き時間に飛行板の乗り方を教えることまで約束させられてしまった。

 ヤルノたちは、そんなもの乗りたくないと敬遠していた。

 彼等にすれば、騎獣に乗ることさえ、ちょっと怖いようだ。

 普段歩いて索敵するのだから、勝手も違うだろうし、高い場所が苦手な人にとっては恐怖以外ないだろう。




 シアーナ街道の移動は順調に進み、時折出てくる魔獣もルプス程度で、あっさりと片付けることができた。

 前衛職のアルダスたちがやりたいというので、ほとんど彼等に譲っているが、隊の左右から来る分には間に合わないのでシウたちが手を出した。


 フェンリル三頭とは仲良くなっておやつもあげたが、内臓入りスペシャルジャーキーはとても喜ばれた。

 フーバーには手懐けられていると苦笑されてしまったが、ガヤンは目をキランと輝かせていた。

 シアン国でも騎獣は大切にされているので、これは商機と思ったらしかった。




 ミセリコルディアの山中をそろそろ抜けるかという頃に一度、ニクスルプスの群れに遭遇した。

 ずっとそうだったが、探知担当が早めに発見するため、本隊を止めることなく殲滅できたのは良かった。

 フーバーも、ヤルノやユッカの能力には舌を巻いていた。彼等にフェンリルという機動力が合わさったことで、広範囲に探索できたのだ。

 ダニアも夜間の見張りでは力を発揮していた。

 攻撃力のあるアルダスたちにも感謝していたようだが、フーバーとしては探知能力を買って、ヤルノたち三人のうちせめて一人はと勧誘を繰り返していたようだ。


 シウとククールスも広範囲の探知はしていたが、彼等の仕事を奪ってはいけないと思っていたため、気付かれていなかった。

 ロトスなどは不思議がっていたが、これも協調性なのだと説明した。

 決してアントレーネに協調性が一番ないと言われたからではない。




 金の日に国境を超え、一番最初の、そして一番大きいといっても差し支えない街に到着したのは土の日の朝だった。

 五日で通り抜けられたのは、この規模の隊商からすればかなり早い方らしい。

 門兵にもかなり驚かれていた。


 シウたちの護衛仕事はここで終わりなので、サインを貰ってギルドへ提出する。

 ヤルノたち三人はもう少し隊商に付き合うようだ。

 アルダスのパーティーは戻りの隊商があれば護衛仕事を受けると言っていた。雪が積もるまではこの繰り返しで、積もり始めたら南下の隊商に付いていくということだった。


 ギルドで依頼成功報酬をもらうと、シウたちは宿を探した。

 幸い、シアン国では騎獣連れの冒険者も多く、ラトリシアのように貴族向け高級宿しか取れないということはなかった。

 シウは気にならないのだが、以前一緒に泊まった際にククールスが高級すぎて気が休まらないと言っていたため、ほどほどに良い宿を選んだ。

 部屋にも騎獣を連れて入っていいそうで、助かる。

 うちの子は甘えん坊なのだ。

 よしよしと撫でていたら、子離れできていないのはシウの方だとロトスに言われてしまった。

 そうかもしれない。



 ククールスが早速、馴染みのところへ商談の話を持っていくと出ていったので、シウたちは観光をすることにした。

 話の内容如何では、商談が終わり次第、次の街へ行くことになる。

 このように慌ただしいのには訳があって、できればシウの学校に間に合わせたいと思っているからだ。

 今回たまたま、学校の秋休みに当たったので、今は授業を休んでいる状況ではない。

 秋休みは二週間あるので、できるだけその間に済ませてしまいたいのだ。

 間に合わなければそれでもいいが、だらだらと過ごすよりはいい。


 このことで、プルウィアから今年の文化祭の手伝いを申し入れられていたが、断った。

 秋休みも割けないし、その後も予定が立たないと伝えたのだ。

 かなり残念がられてしまったが、冒険者でもあるので仕方ない。

 今の生徒会はグルニカルが会長として引っ張っている。彼は昨年の文化祭で一緒に頑張った仲間だ。彼も非常に残念がっていた。

 文化祭当日なら手伝えるかも、とは言ったが、それでもいいと手を握られてしまった。

 彼を補佐するミルシュカによると、

「去年のティベリオ会長より質が落ちたって言われるのが怖いのよ」

 ということらしいので、テンパっているのかもしれない。

 そんなこと気にせず、是非頑張ってほしいものだ。



 さて、午前中いっぱいを観光で費やしたシウたちだが、外の人間に向けてのお店はほとんどが鉱石で埋められていた。

 やはり鉱石の国シアンだ。

 ここはラトリシアに向けた外交窓口でもあるので、特に質の良い鉱石を取り扱っている。

 魔石も多く売られている関係から、魔道具も並べられており、なかなか楽しい。

 シウよりも楽しんでいたのは希少獣たちで、特にクロとブランカはじいっと見入っていた。フェレス的にはちょっと違う感じらしいが、シウよりはよほど喜んでいる。

 そしてロトスはと言えば。

「俺、女の子がなんで宝石欲しい、素敵って言うのか全然分かってなかったんだけど」

「うん?」

「ヤバい。俺、このキラキラしたの、すっげえ欲しい」

「あ、うん、そうなんだ」

 聖獣の本能が出てしまうようだ。ものすごく目を輝かせて宝石店の前でへばり付いていた。ちょっと、ドン引きである。

「……でも超高い。うううう」

 買ってあげようかと、喉まで出掛かったが、すんでのところで飲み込んだ。

 彼が気持ちを切り替えたのが分かったからだ。

「やっべ。おい、クロ、ブランカ、もう見るんじゃない。見たって俺たちには手が出ないんだから」

「きゅぃぃぃ」

「ぎゃぅん」

「欲しかったら、探すのみ! いいか。自分で見付けて掘り出したら自分のものだ。タダで手に入るぞ。いいな? シウになんでも買ってもらったらダメだぞ。そういうのはな、ヒモっつうんだ。分かったな?」

 また妙なことを言い出してしまった。

 その心意気は良いのだが、変な言葉を教えないでほしい。それでなくとも彼等はすぐに冒険者の汚い言葉を覚えてしまう。ある程度はいいのだが、下品なのは困るのだ。

 とりあえず、彼等にはちゃんとお小遣い分から出すならいいんだよ、と言っておこう。

 彼等だってちゃんと働いているのだから。

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