176 ロトスの冒険者デビューと護衛依頼




 ロトスはシウのスパルタに耐え、水晶を誤魔化す技を会得した。

 幸いにして、精霊魂合水晶の上位版でもある高濃度水晶があり、これに通過すれば絶対安心というラインがある。

 念のため、スタン爺さんからも使っていない精霊魂合水晶を借りてきて試してみたが、どちらもクリアできた。

 シウの鑑定では見えてしまうため、ロトスから数日の間「水晶竜の糞より上のシウ」と何度も連呼されてしまった。

 たぶんに、スパルタへの仕返しだったのだと思う。


 その甲斐あって、ロトスは冒険者ギルドのカードを得ることができた。

「やったー!!」

 名前はロットで、種族名はハーフエルフとした。これなら年齢が変わらないことの言い訳にもなるし、ククールスが紹介したという説明にも合う。

 ハーフエルフにしたのは、ククールスが自身の揉め事のせいでエルフ族が接触してきた場合を想定してのことだ。

 ハーフエルフなら、エルフ族の与り知らぬことで知らぬ存ぜぬと押し通せる。

「俺が里抜けした理由にもできるしなー」

「どゆこと?」

「ハーフエルフを拾って育てるから、抜けたんだって言えるわけ。お前を利用しちゃうことになるけど」

「それはいいよ、別に。大体、兄貴が里抜けしたのだって、シウのこととかだろー?」

「いや、まあ、それはなんつうか」

「兄貴、照れんなよ」

「お前、段々生意気になってくるよな!」

 二人がじゃれ合っている中、アントレーネが護衛の依頼を吟味していた。

 ロトスはシウたちのパーティーに入れるため、ギリギリ受けられるはずだ。

 ククールスが三級なのが良かった。

 シウやアントレーネの低級ランクでは受けられないからだ。

 知らない誰かが見たら、ものすごく差のあるパーティーだと思うだろう。

 今回は指名依頼ではないため、条件もよく考える必要があった。

「シウ様、これなんかどうです?」

「それ、荷物が人間だからなあ」

「ああ……重犯罪者の移動ってことか。字が難しくて分からなかったよ」

「シアン送りってことは、鉱山での強制労働だよね」

「あたしはともかく、シウ様やロトス様には良くないからこれは止めとこう」

 重犯罪者がいると教育に悪いと思っているようだ。アントレーネは時々、母親のように過保護になる。

「じゃあ、これはどうかな。あ、運ぶのは家畜か。匂いがきついか……」

「鼻が良いのも大変だね」

「魔獣よりはマシだろうけど、常に一緒ってのは厳しいよ」

「こっちはどうかな」

 文字の勉強は、自分で読んで書くことから始まるので、依頼書もアントレーネに見てもらっている。彼女は目を細めて一生懸命に読んだ。

「ええと、あー、大型隊商か。臨時の募集、荷物が増えたから急、いで、必要、かな」

「正解。急遽募集だって」

「なるほど。つまり、自前で護衛を持っているところか。そこに入っていくのは協調性がないとダメだね。あたしは、軍隊上がりだからなんとかやれると思うが――」

 チラッと振り返って、まだじゃれ合っている二人を見て、小さく溜息を吐いていた。

「……でもやってみないと、実績にならないよ」

 シウが告げると、アントレーネは肩を竦めた。

「あと、僕も協調性はある方じゃないから、良い経験になるかも」

「そうだね! そうだ、シウ様が一番問題あるんだったよ」

 え、一番なの?

 そう思ったが、口にはしなかった。

 ちょっぴり、本当にちょっぴりだが、落ち込んだだけである。




 山粧うの月になると、肌寒くなってきた。

 雪はまだ奥深い山中でしか降っていないが、そろそろ王都でも目にするだろう。

 フェレスが雪を、虫か何かと間違えていた時代を思い出すと笑みが零れた。ブランカにはそうしたところがなかったので、感性の問題だろうか。良くも悪くもブランカは物事に動じないというのか、気にしない性格だ。

 今もまた、隊商の護衛メンバーと顔合わせをしているのだが、彼等の連れる騎獣もいるのに平然としていた。

 気を遣うのはクロで、ブランカの頭の上に立ったままでぴょこっと頭を下げている。

 相手の騎獣たちは憐れむような視線でクロを見ていた。

 ちなみに護衛メンバーは、面白がって笑うだけだった。


 大型隊商の護衛頭はフーバーと名乗り、隊商の一員でもある。騎獣も三頭いるが、これらは全て隊商のものらしい。

 隊商頭のガヤンは最初の挨拶の時だけ顔を見せたが、後は全てフーバーに任せていると言って忙しなく戻っていった。

 とにかく急ぎ移動しなくてはならないようだ。荷物を慌てて積んだため取りこぼしがないか、あるいは足りないものはないかなど、隊商の全員が殺気立っている。

「まあ、そういうわけだから、落ち着いての挨拶は道中になるな。不安があるかもしれないが、うちはルシエラの本部ギルドとは付き合いは長いし、そのへんは安心してほしい」

「こちらこそ、僕らのような低級レベルが入ったパーティーで大丈夫なのか、心配だったんですが」

 何故か最初から受け入れ体制は万全だった。ククールスがいるとはいえ、不思議だったのだが。

 その理由は他の飛び込み参加者にあったようだ。

「そりゃあ、スピーリトのガンダルフォさんや、エサイフさんからの推薦があるんだ。俺たちもシウがどういう人間かってぐらいは見て知っているしな」

「あれ、ヤルノ?」

 他にユッカやダニアもいた。

「遅れているが、アルダスって奴等も来るぜ。シウも覚えているだろ?」

「ああ、うん」

 どれもアイスベルクで知り合った冒険者たちだ。

 シウがヤルノと話していると、フーバーが間に入ってきた。

「ヤルノとは以前一緒に仕事したことがあってね。その推薦ならと思っていたんだが、本部ギルドにも太鼓判を押されるし、あの有名なスピーリトもシウ君とククールス君がいるならと言っていたんだよ」

「そうだったんだ」

「エサイフさんたちは、俺たちでも知っているぐらいの有名冒険者だしね。というわけで、二つ返事で受け入れたってわけ。むしろ、断られないかドキドキしてたんだが」

 なにしろ、護衛が足りない。ここで断られたら少ない護衛で進むしかなく、道中の不安は一気に高まる。

「とにかく、有り難いよ。そっちの獣人族のも、級数よりずっと強そうだ。期待してるから、頼んだぞ」

「ああ、もちろんさ」

 アントレーネは気軽に返事をした。

 フーバーは簡単に必要事項だけ話すと、とにかく出発まで忙しいからと隊商宿の中に戻っていってしまった。



 出発は昼過ぎで、隊商の出発時間としてはかなり遅い。

 そんな時間に出てもすぐ野営を張らねばならないのにと思うが、幾らかでもいいので早く出たいという気持ちが現れていた。

 結局、シアーナ街道までは行けず、草原のど真ん中で野営となったのだが、その時にフーバーから急ぎの理由を教えられた。

 それはククールスの頼みとも通じるものがあった。

「食糧難がもう始まっていてな。ガヤン様も普段ならここまで急がせることはないんだが。急がせてもろくなことはない、っていうのが頭の名台詞だったぐらいで」

「そうなんだ……」

「家畜も買い入れちゃあいるが、あんなもの、すぐ増産できるわけもないしな」

 そう言えば、シアン行きの便に家畜運搬もあった。

 あれらは飛竜で運ぶには難しいので、馬車で移動するしかない。あるいは自力で歩かせるかだが、果てしなく時間がかかる。

「なにより、冬を越す家畜用の小屋が少ないときた。その小屋作りに必要な木材の切り出しにも人手が割かれていて、シアンじゃ今、仕事がたくさんあるよ。おかげで人も集まる。となると物入りってわけさ」

 隊商が慌ただしく向かうわけも、そこにあった。

 肝心の食材も大事だが、それに付随するもろもろの品が何もかも足りないのだ。

「商機ってのもあるけど、あんな顔してガヤン様も情に厚いところがあるからな」

 自分たちの隊商頭について、そんなこと言っていいのだろうかと思ったが、確かにガヤンは初対面だと強面に感じるかもしれない。

「慌ただしくて悪かったな。説明もなかったし」

「護衛内容は依頼書で確認していたし、取り立ててひどくなければこちらは大丈夫だよ」

 シウが答えると、フーバーはふと、真面目な顔になった。

 今までの和らいだものとは違って真剣な様子だ。

「どうかしました?」

「いや。……いや、最初にパーティーのリーダーがシウ君だと聞いてはいたが、何か裏でもあるのかと思ってたんだよ。悪いな。でもまあ、リーダーになるには相応の理由があるってことを、再確認したところさ」

 それは大いなる勘違いだ。

 シウは困惑しながらも、はっきりと理由を告げた。

「その、僕が一番、なんというか、常識を知っているというだけです。実力なら他の者の方がありますよ。ただ、ククールスはあの通りだし、アントレーネは他国の出身だし、最後の子も冒険者に成り立てなので」

 シウの台詞に、フーバーはふっと笑うと、そうかと納得したような声を出して離れていった。

 今夜の見張りは、彼等がやることになっている。

 順番や割り振りは翌日から様子を見て決めると、話しに来ただけだった。

 その間に、彼はシウたちが野営に手慣れているかどうか、周辺への警戒をきちんと行っているのかを確認したようだ。それにより、組み合わせを決めるのだろう。



 ところで、シウたちは自前で移動手段を持つため、馬車を間借りすることはなかった。

 魔法袋の所持者でもあり、野営はお手の物だ。

 しかし、他の冒険者たちは、移動の際は隊商の馬車へ同乗する。

 野営も同じく、彼等のテントを使うか、あるいはテントなどの道具を乗せてもらっている。そうした分は護衛料からも引かれるようだ。

 そのため、大変羨ましがられた。何よりも、機動力があることを。

 野営設置が終わってからも、しきりに、騎獣いいなあと冒険者たちに声を掛けられたのだった。

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