168 サタフェス時代の宝飾品の真実




 火の日は寝不足で学校に行き、珍しくぼんやりしてしまった。

 早寝が習慣になり、体も覚えたらしい。

 とはいえ、やっぱり授業が始まる頃にはしゃっきりしており、自分の体質は便利なのかどうなのかと悩むシウだった。


 古代遺跡研究科ではビルゴット元教授がアイスベルク遺跡について語っていたが、授業が終わると今の様子について皆にも話して聞かせていた。

 彼も発掘調査隊のリーダーの一人だったから、史跡保護官吏委員のイザイアから連絡が来るようだ。

 魔獣討伐はほぼ収束に向かい、今は宮廷魔術師を筆頭に魔法使いたちが魔素を散らすことに専念しているらしい。

 アイスベルク遺跡内部にも大掛かりな結界を張ったりなどして、保護しているようだ。

 調査は来年までお預けとなるが、来年もまた引き続き調査許可が下りるだろうと聞いてビルゴットは喜んでいた。


 昼休み、魔獣魔物生態研究科に向かおうとしたらビルゴットに止められた。

 彼の後ろにはアルベリクとフロランがいる。

「先週末、ものすごい大物が闇オークションに出たんだけど」

「サタフェス時代の、黄金の品々だ」

「先々週に胸飾りや足輪が出ていたそうだから、もしやと思って急遽参加したんだよ」

 アルベリク、ビルゴット、フロランの順番で喋ってくる。

 何故それをシウに言うのだと、若干引き気味に彼等を見たら。

「案の定、本命が出た」

 アルベリクの真剣な顔に、シウは頷いた。そうですか、と。

 するとフロランがシウの両肩に手を置いた。

「黄金の奴隷用品だ。そして貞操帯。あれほどの品はそうそうないよ」

「そうなの。ふうん」

 気のない返事だったのに、彼等は気にしなかった。

 最後にビルゴットが目を細めてシウの顔を覗き込んできた。

「出品者は明かせないが、確かな鑑定書が付いていた。代理人も立っていたが、遺跡品を扱う関係者の間では有名な男だ」

「えーと」

「君もよく知っているパーセヴァルク君だよ」

「はあ」

「……頼む。どこで発掘したのか、ヒントだけでも教えてくれないかね?」

 それが言いたかったようだ。

 というか、パーセヴァルクがバラしたわけではなかったのか。代理人契約を結んでいるのだから、それも当然である。ほんのちょっとだが疑ってしまった。

 シウは内心で彼に謝りつつ、口を開いた。

「僕は無関係です」

「嘘だ!」

 そんなに即、返さなくても。

 シウは苦笑して答えた。

「よしんば、僕が関係者だったとしましょうか。だとしても、儲けのネタを話すとお思いですか?」

「君はお金儲けについては一切考えないから、そこは気にしてない」

 ちょっと蓮っ葉な風に言ってみたのだが、あまり通じなかったようだ。

「仮にそうだとしても、代理人がいるということは、身元を明かされたくないということです。言い替えれば、その場所を教えたくない理由がある。そこを考えないのですか」

「むむむ。しかしだね、それは教師と教え子の繋がりというか――」

「ビルゴット教授、シウは頑固ですよ。だから無理だって言ったでしょう?」

 アルベリクが降りたようだ。

 諦めて、肩を竦めて笑っている。

 ただビルゴットとフロランはまだシウにへばり付いて、必死だった。

「だって! あんなにしっかりとした形で当時の宝飾品が残ってるなんて、有り得ないんだよ! 研究したかったのに、あの業突く張りの厭らしげな狸爺め! 白金貨一万枚だなんて気が狂ってる!!」

「……は?」

 聞き間違えただろうか。

「あいつは絶対、自分の愛人に付けさせるだけだ。勿体無い! こっちは当時のものとして研究したかっただけなのに!!」

「ちょ、落ち着いて、ビルゴット先生、シウが呆れてますよ」

 いや呆れているのはビルゴットにではないが。

「でもアルベリク先生、あいつビルゴット教授にせせら笑ったんですよ。たかが研究者風情が手に入れられるような代物じゃないって。あれは、僕に対しての宣戦布告でもありますよ!」

「フロラン、君もね、落ち着いてね」

「せっかくの古代遺跡物を、あんな下種野郎に買われたのが悔しいんです」

「あー、うん、それは同意するけどね」

「だから、他にもあるならぜひ、こちらに見せてもらいたいと!」

 オークションでは相当、揉めたようだった。

 なんとなく、申し訳ない気持ちになってしまったシウだ。


 そして、パーセヴァルクが彼に鑑定を依頼しなかったことも判明してしまった。

 きっとこうなることを予想していたのかもしれない。

 オークションに出す以上、高く売るのが代理人の務めである。彼もいろいろ考えたのかな。

 しようがないので、まだ出していないまともなのもあるので、パーセヴァルク経由で見せてあげよう。

 お金が欲しいわけではないのだ。


 しかし、あんな中途半端な時代のものでも欲しかったのか。

 パーセヴァルクも宝飾品に対しての高額さに驚きはあったものの、遺跡物としては捉えていなかったのに。

「そんなに価値のある時代のものだったんですか?」

「……知らないのかね? あれはサタフェスがもっとも栄えた時期の、そう、終焉を迎えたであろう当時を切り取った結晶のようなものなのだ。他国からは下品な黄金趣味とも呼ばれていたが、緻密で繊細な芸術品は、古代帝国時代を彷彿とされると言われていた。あんな代物でもね、細工は本当に素晴らしかったのだよ。彼等は古代帝国の聖遺物を持っていたに違いないんだ。それらを模倣して、技術を得た。つまり、古代帝国の芸術レベルが垣間見えたんだよ」

 そうだったのか。

 芸術にはとんと疎いもので、全く気付かなかった。

 細工が美しいことは分かっていたが、物の下品さに目が奪われていたようだ。

 でも言い訳させてもらうと、本当に下品なのだ。金ピカで、宝石がこれでもかとごてごて付いた王冠だったり、一体どうやって耳に付けるのだろうと思う耳飾りなど。

 もちろん、奴隷に使う下品なものも多かった。

 今回もパーセヴァルクに見せるのさえ憚られた品もある。

 あんなものに、古代帝国時代の栄耀栄華が伝わっているのかと思ったら、頭の痛いことだ。

「そうですか。残念でしたね。でもまた今週も出るんじゃないですか?」

「だからそれを止めに、って、え、今週も出るのかい?」

「さあ? 僕は関係ないですから。では、これで」

 シウはアルベリクに視線で挨拶すると、そのまま急いでもう一方の研究棟へ向かったのだった。



 その日の夜、闇ギルドから連絡が入って向かうと、パーセヴァルクと共にギルド長チェザルと、オークション担当長のコラディーノが待っていた。

「週末は冒険者ギルドの仕事で忙しいと聞いていたから連絡は入れなかったんだが、明日まで待てなくてな」

 シウがいつも水の日や木の日に納品するので、覚えていたようだ。

「いえ、僕も今日ちょっといろいろあったのでちょうど良かったです」

 そう言うと、いろいろが何か分かっているらしいパーセヴァルクが苦笑した。

「そっちに行ったか、やっぱり」

「代理人として出品者について黙秘してくれたことだけは分かったよ」

「信じてくれてありがとう。でも、バレバレだったろうな」

「だよねー」

 二人で話していると、薄々というよりも、しっかり事情の分かっているチェザルとコラディーノも肩を竦めていた。

「さてと。預かっていた例の黄金の品々は、この二週で捌き切った。全部で白金貨五万枚強だ。手数料は引いている。代理人への手数料もだ。これを金貨で用意するとなると時間がかかるんだが、待ってもらえるか?」

「白金貨のままでも良いですよ。すぐ使う予定もあるし」

 シウの言葉に、チェザルが眉を上げた。

 何か美味しい話なのかと思ったようだ。

「あ、違うよ。購入するわけじゃ、いやでもある意味そうなのかな。土地と建物を買って、改築改装する予定なんだ」

「自分の屋敷を持つってことか。それでも余りそうだがなあ」

「自分の屋敷じゃないんだけど、でもそうだよねえ。余るよね、きっと」

 困ったなあ、と溜息を吐いた。

 そこまで値段が跳ね上がると思っていなかったのだ。

 パーセヴァルクは手数料がたんまり入って、ニコニコしているが。

 確かに一度に手に入れる金額としては法外な値段となった。

 ありがとなーと、しきりにシウへお礼を言うほどだ。

「何か、良いものがあったら僕も購入する側に回ろうかな。お金は貯めていてもしようがないし」

「お、若いのに良いこと言うじゃないか」

「そうかな。でも、経済を動かすためには使うことが大事だからね」

 それに溜め込むのなら、物質そのものが良い。お金なんてただの貨幣価値しかないのだから。

 もっとも、この時代のお金にはある程度の価値はあるのだが、そこは棚上げにしておく。

「本当に、若いのに面白いことを言うもんだ。そうさ、金は使ってこそさ。お前さんも、せこせこ溜め込んでるんじゃないぞ」

 チェザルがパーセヴァルクに言うので、そこは止めておく。

「あ、冒険者はダメ。ある程度貯金してないと老後、大変なことになるんだから。ギルド長、唆さないでください」

「うお、そうかよ。分かった分かった。だとよ、ヴァルクさんよ。あんたは貯金しときな」

「……なんか、俺、ものすごくバカにされてないか? なあ、コラディーノさんよ」

「いや、俺も冒険者だけは貯金しとけと言いたいね。あんたも典型的な冒険者っぽいしな。働ける今のうちに、貯めておくことだぜ。子供いないんだろ? 老後、悲惨なことになるぜ」

「……嫌なこと言うな。分かったよ。分かりました。今回のもあぶく銭だ。なかったものとして、使わずに置いておく。それでいいんだろ。ちぇ、豪遊しようと思ってたのに」

 そう言うパーセヴァルクに、シウを含めて三人で白い目で見てしまった。

 典型的な冒険者の発言だったからだ。

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