164 野営で晩ご飯、コボルトへ急襲




 晩ご飯もシウが作ったのだが、ナサとリゴには大変喜ばれた。

 いつもは彼等が料理担当らしいのだが、あまり得意でないらしい。この二人は兄弟で、若い頃、エサイフに拾ってもらって仲間になったそうだ。

「だから恩を返そうと思ってんだけど、料理だけはどうもなあ」

「料理って独特の感性が必要なんだってさ。ちょっとの間、勉強しようと思って弟子入りした店でも、壊滅的だって言われたもんな兄貴」

「馬鹿野郎、壊滅的なのはお前の方だ」

「あー、なんだと!?」

 兄弟仲良く言い合いながら、シウの作った角牛の肉じゃがを頬張っている。

 エサイフたちも戻ってきたら夕飯が待っていたと喜び、席に座るや無言で食べていた。

 冒険者は早食いが多いが、それにしてもみんながっつくようにして食べる。

 アントレーネも早食いだが、今日はより早い気がする。競争でもしているのだろうか。

「みんな落ち着いて食べてね」

 うんうんと口の中に入れたまま頷いていた。


 他にも、味噌汁に魚のフライ、青菜の炒めたものなどを出していたが、それらもちゃんと食べていたようだ。

「米がこれほど美味しいとはなあ」

 落ち着いてきたら、ようやく感想を言ってくれた。

「シャイターンではよく食べたが、パサッとしていてな。だから大抵焼き飯だとか、蒸し飯を選んでいたんだ」

 シャイターンで好まれるのは軽いお米だから、それも正しい。

 シウが好む、もっちりしたお米は一部地方にしかなく、有名ではなかったのだろう。

 最近はシュタイバーンやラトリシアで徐々に人気が出てきているからか、作付けする農家も増えたようだ。

「いいでしょ、お米。パンも美味しいんだけどね。腹持ちが良いし、お醤油系のおかずにはぴったりなんだ」

「こだわってるんだなあ。そういう冒険者もいるが、お前さんは料理番ってわけでもないのに。面白いもんだ」

 だったら、これは知っているか? と話題が続く。

 彼等がこれまで旅してきた場所の食材について、教えてくれたのだ。

 シウの好きな話題を探って、そうと知るやスラスラ話ができるのだから、上級冒険者の知識というのはすごい。

 アントレーネも楽しく彼等の話を聞いていたけれど、一番楽しかったのはシウに違いなかった。



 翌朝も夜が明けないうちから行動を開始した。

 すでに森の手前にある群れはチェック済で、そこを急襲する。

 最初は、自分たちのやりようを見ていてくれと言われたから見学したが、すごいの一言だった。エサイフのドラコエクウスと、スガルのフェンリルが上空から襲うため、あっという間に群れの一つを壊滅できた。

 やはり上空からの攻撃があると違う。

 パイサの追い込みも上手いし、コボルトたちの生態にも詳しく、魔獣の動きを自在に操っているように見えた。

 ナサとリゴは後方支援だと言っていたが、追い込まれてきたコボルトを一気に焼滅させるほどの攻撃力を持っている。類焼しないよう水属性魔法による結界も素早く、しかもピンポイントで張るので芸術的ですらあった。

 上級冒険者の戦いというのは動きがまるで違って、参考になることばかりだ。


 次はお前らの番だと示されたので、シウとアントレーネは気を引き締め、コボルトの群れが潜む別の洞穴へ向かった。

 近付いて、シウはあることに気付いた。

 逆にコボルトたちはシウたちの存在に気付いておらず、巣から出てこない。その為、燻り出し作戦を取る。

 というのも、巣の奥に彼等の戦利品があったからだ。詳細に探知して、判明した。

 上空から、気配を消したまま飛び降り、洞穴の上部に穴を開けて薬玉を投げ入れる。出口にはアントレーネやフェレス、ブランカが待機していた。

 クロは上部から偵察飛行だ。

 洞穴から飛び出てくるコボルトを、アントレーネはものともせずに切り倒していく。全くぶれることなく倒す姿は、相手の階位が下だろうと決して気を抜かないという真面目さがあった。

 フェレスとブランカも一匹ずつ確実に倒している。

 シウはその間に上部の穴を広げて、中に入った。

 洞穴の一番奥にコボルトの戦利品――人間――がいたのだ。

 そこへ、最短の距離で到達した。

「来るのが遅くなって、ごめんね」

 半数はもうすでに事切れていた。

 暴れたのだろうか、殴られて怪我を負い、そのまま亡くなったらしい人が多かった。

 残りの五人も、ひどく衰弱していた。

「気持ちを落ち着ける香りだからね。安心して。もう大丈夫だよ」

 優しく声を掛け、眠らせた。

 ガタガタと震えていた少女たちはそのまま静かに横たわった。

 布を取り出し、それぞれの上に被せる。

 それから亡くなっていた五人を、布で包む。


 暫くすると、外からアントレーネがやって来た。

 その間にシウは天井に穴を開けて空気の入れ替えを行い、また部屋の整理をしていた。

 コボルトにとっては人間の持ち物で、価値は分かっていたかどうか不明だが、結構なものを持ち込んでいたのだ。

 アントレーネは奥にあったこの部屋へ入るなり、言葉を失っていた。

「……そうか、人がいたのか」

「匂いがあんまりしなかったから、エサイフやレーネも気付かなかったんだね」

 シウも気付いたのは全方位探索の範囲に入ってからだった。

「シウ様――」

「助かったのは女の子ばっかりなんだ。後を任せても良い? 僕だと怖がるかもしれないから」

「もちろんだ。もちろん、あたしが!」

 勢い良く答える彼女に、シウは気遣う声で告げた。

「レーネも辛いのに、ごめんね」

「いえ。いや、いいんだ。むしろ、これはあたししかできないことなんだ。シウ様、大丈夫、あたしは大丈夫だよ」

 任せてほしいと胸を叩いて、文字通り叩いたので革鎧がべこっとなっていたが、彼女は頼もしく請け負ってくれた。


 シウは遺体を台車に乗せて外へ運んだ。

 そこでは倒したコボルトを、ちょっとした窪みに集めているフェレスとブランカがいた。クロはしゅーっと飛んできて、問題がないことを教えてくれる。

「みんな、お疲れ様。ありがとうね」

「にゃ!」

「ぎゃぅぎゃぅ」

「きゅぃー」

 それぞれ、可愛くお返事して、また仕事の続きに戻っていった。


 シウが溜息を吐いて立っていると、エサイフたちがやって来て、どうしたと気遣ってくれた。

「戦い方は良かったと思うが、燻し出しをしていたのは――」

「まさか」

 パイサが顔を顰めたので、シウは曖昧に笑って頷いた。彼等の視線は台車から、巣穴の奥へと向かった。シウは肩を落として答えた。

「僕も、コボルトだから大丈夫だとは思うんだけど……」

 一般的に、コボルトはオークのような性質はないと言われている。人間を苗床にする、という悪しき行動は。

 彼等コボルトは同族主義が強く、多種族とは交わらない。人間のことは他の魔獣と同様に餌として見るそうだ。

  ただ、古代の書物では「進化した上位種が率いている場合、オーク同様の行動を見せることもある」と書いてあった。あくまでも一例としてだ。だから、実際にどうかは分からない。

 エサイフたちは視線を落とした。

「遺体は男性の護衛が三人、従者の男性一人と侍女が一人」

 布で包んだ遺体を示して言うと、スガルが布を剥がしていく。身元確認などをするのだろう。あるいは顔を覚えておくためかもしれない。しかし、遺体は損傷が激しかった。

 襲われてから、ここに来て数日が経っているはずだ。餌は角牛があって豊富だったから手を付けられていないようだったが、数日経てば、この時期は厳しい。

 案の定、スガルは顔を顰めてまた布を戻していた。

 それでも残りの遺体を確認していく。

「シアンの者だろう。お仕着せから判断するに、襲われたのは貴族か」

 最後の遺体を確認してから、スガルはそう言った。

 パイサは思案げに唸る。

 言葉を発したのはナサだった。

「貴族なら、もっと人がいたはずだ。クセルセス街道のどこかが襲われたか」

「まずいな」

「魔獣が集まるぞ」

 シウも同意見である。

 街道に魔獣が集まるなど、危険すぎる。

 南の草原に角牛という餌があるので街道方面のことは誰もが楽観視していた。

 けれど一度餌がそこにあると知れたら――。

「どうする。このあたりの群れを討伐するのを優先するか?」

 依頼はあくまでもコボルトの群れの討伐だ。

 が、街道への魔獣の道筋ができた以上、そちらも最重要案件だった。


 シウは手を上げて提案してみた。

「街道へは僕が行く」

「シウが? まさか一人でなどとは言わないだろうな」

「僕とフェレスたちでだよ。クロとレーネは置いていく。彼女たちのことがあるから」

「ああ、そうか、助かった女性がいるのか。そうだな。それなら彼女にいてもらった方がいいだろう」

 俺たちじゃあな、と互いに顔を見合わせている。各自、顔が怖いことや冒険者特有の粗野な部分を自覚しているようだ。

「レーネなら、ここに一人でも大丈夫だから置いていく。その代わり、残りの群れを任せたいんです」

 彼等なら、コボルトの群れの幾つかぐらい、問題ないだろう。先ほども本気ではなかった。

 そうでしょう? と視線を向けたら、エサイフは苦笑して両手を上げた。降参というポーズだ。

「分かった。死ぬ気でやるよ。このあたり一帯の討伐は任せておけ」

「ちょ、リーダーよ。いくらシウが強いっても、一人で行かすわけにゃ――」

「いや。こいつはたぶん、俺たちの目がある方が、力を発揮できない。……そうだろ?」

 やはりエサイフは分かっているようだ。にやりと笑って視線で問われたので、やり返されたなと肩を竦めた。

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