162 角牛が多いということは




 行軍演習は草原に広がって行われ、飛竜を使った魔獣探索などを中心に、角牛狩りへと移行していた。

 聖獣や騎獣たちが角牛を追い込んでいくのも、魔獣討伐を模している。

 飛竜は後方に待機させて、兵士たちは草原に潜む魔獣の討伐だ。

 その間に騎獣を操る騎士たちが角牛狩りを行う。


 シュヴィークザームはやる気がなくて本営テント前に敷いた絨毯の上で横になっていた。

 なんというか、彼らしい。

 シウは高高度上空から全体の監視だ。

 ヴィンセントにもそうしていいと許可を受けている。

 今回の狩りの大まかな指示はヴィンセントだが、実際の細かな動きは軍が行っている。その為、兵士のバラ付きもあるし、見逃している魔獣もいた。

 それらを指摘するのが役目だった。

「(北北東からカニスアウレスの群れ、十六匹。囮役あり。西に回って潜んでいるのが本隊)」

 通信で、ヴィンセントと将校に伝える。

「(少し離れて、隊商と思しき集団。角牛の追い込みを失敗すると影響あり。南西方向。街道からは外れているので――)」

 何故外れているのだろう。

 シウは全方位探索を強化した。

 すると、魔獣に追われていることが分かった。

「(ヴィンセント殿下、隊商の後方が魔獣の被害を受けています。助けに向かっても良いですか)」

「(構わん、すぐ行け! エングホルム隊長、騎獣隊を抜けさせるぞ)」

「(承知しました)」

 徒歩の兵士を待っていられないと判断したヴィンセントは、シウの後を騎獣隊に追わせるようだ。

 シウは到着したら信号弾を打つと言って、フェレスたちと隊商のところへ急行した。


 隊商はコボルトの群れに襲われていた。ハイコボルトがいて、指揮をしている。近くの森を縄張りにして大きな群れに成長したようだった。

 シウは到着してすぐ信号弾を空に放ち、それから先頭の隊商の御者に近付き声を掛けた。

「僕は冒険者で魔法使いのシウ=アクィラです。手助けは要りますか?」

「頼みます!」

「了解です。すぐ対処します。もうすぐ騎獣に乗った騎士もやって来ます」

「ええっ?」

「行軍演習中だったんです。ご安心を」

「あ、ああ」

 助かった、という声も聞こえた。

 シウが後方へ飛んでいくと、最後尾がやられている。

 護衛の者たちが足止めをしながら、コボルトを切り倒していた。

「助太刀します」

「おおっ、助かる」

「頼む!」

 数が多く、時間をかければ彼等でも対処できそうだが、馬車の幾つかは失いそうだった。

 シウは上空から網を投げてコボルトの動きを止めた。

 これならサクサクと殺せるので、彼等の手柄にもなる。

 次々と周辺のコボルトに網を被せていき、離れている集団はまとめて風属性魔法で切り倒した。

 フェレスとブランカも獲物は遠くにいる方から進んで狩っていた。

 そのあたりで、ヴィンセントを乗せた騎獣隊の面々がやってきた。隊商の先頭へ降り立ったのはヴィンセントと近衛騎士たちで、残りが後方にやってくる。

「シウ殿、我々も討伐に参加します」

「でしたら、北側の離れた、あそこの林や茂みに隠れているのをお願いします。近辺のは彼等の獲物として残していてください」

「そうか。無理はないのだな?」

「彼等の腕前なら大丈夫です。ただ、異常に数が多かったので、援軍となる北側の集団までは手が回らなかったでしょう」

「了解した。では!」

 騎獣隊は張り切って飛んでいった。

 近衛騎士のへっぴり腰とは雲泥の差だ。


 その後、後方馬車を中心に戦っていた護衛たちはコボルトを全て倒し、フェレスとブランカも周辺に散っていたのをほぼ倒して戻ってきた。

 討ち漏らしたのはシウがこっそり倒した。

 護衛たちのところへ向かうと、彼等は疲れ切っていたものの笑顔でシウに礼を言った。

「助かった。本当にありがとう。あと、手柄を置いてくれたのもな」

「いえ。僕はあちら付きだったので手柄などは不要ですから」

 指差すと、まだ北側のところで戦闘を続けている騎獣隊がいた。

「国軍か」

 護衛たちは微妙な顔をする。

 彼等がどう出るのか不安なのだろう。手柄を横取りしたり、あるいは恩着せがましくされる可能性だってある。

 ラトリシアがどうというよりはどの国でもそうらしいのだが、率いる隊長によって、堂々と袖の下を要求する者もあれば善意で助けてくれる場合もあって悩ましい。

 冒険者の間では無理に助けに入られることを拒む者も多く、特に相手が国軍だとかえって迷惑なことも多いようだ。

「大丈夫ですよ。なにしろ、ヴィンセント王子が率いる行軍演習ですから」

「え、王子?」

「そうです」

「おお!」

「良かった、俺たちはついてるぞ」

 何人もがホッとしていた。

 そして、すぐコボルトの魔核だけを取り出しに掛かる。せっかく倒したのだから取れるものは取っておくのが正しい冒険者の在り方だ。


 フェレスとブランカも、いるならもってかえってくるー、とせっせと運んでいた。

 面倒くさいからとフェレスがブランカの背中に何匹も乗せて運ぶので、ブランカは汚物塗れになっていた。


 北側の林や茂みにいたコボルトは火属性魔法の持ち主がいてきちんと燃やして始末していた。

 その頃には護衛たちも魔核を全部取り出しており、まとめてコボルトを燃やした。


 護衛たちと騎獣隊が同時に作業を終えた格好となり、隊商の固まる前方へと向かった。

 使い物にならなくなった馬車は一台だけで、それも修理すればルシエラ王都までは持ちそうだ。

 先頭に行くと、隊商の頭とヴィンセントがテーブルセットに座っていた。

 何をやってるんだと思ったが、後方の様子を知って大丈夫だろうと判断したらしい。となれば、相手はこの国の次期国王だから、おもてなしをするのは当然と考えたわけだ。

「シウ、終わったか」

「はい。護衛の方々だけでも問題なかったですね」

 ヴィンセントに報告すると、彼は静かに頷いた。

 しかし、付いてきていた護衛のリーダーは、

「いやいや、俺たちだけだったらもっと時間がかかっていた。上空からの手助けがあったからとても助かったよ。お頭、こちらの冒険者には大変お世話になりました」

 と、シウを持ち上げた。

 シウが暗にお礼は不要だと告げたことになるので、慌てたらしかった。

 しかし、本当に要らないのだ。

 なにしろシウはヴィンセントの依頼でここに来ている。途中で狩りを抜けて助けに来たのも彼に許可を得たため、問題ない。

「北側にいた援軍の群れも、騎獣隊が討伐してくれました」

「そうですか。……殿下にはご厚情を賜り感謝にたえません」

「気にするな。狩りのついでであった。他に何か問題はないか?」

 最後の質問はシウに向けてだった。なので少しだけ考え、彼に報告した。

「最後尾の馬車が走れそうにありませんが、簡単に修理すれば大丈夫そうです。手伝ってきても良いですか?」

「ああ。行って来い。他にはないのだな? ならば、我々は狩りに戻ろう」

 シウの様子を見て、即行動に移す。

 騎獣隊と近衛騎士たちはまた狩場へと戻っていった。


 残された隊商頭と護衛たちは唖然としていたが、慌てて頭を深く下げていた。

 そしてシウを見て、破顔する。

「この度は誠にありがとうございます」

「いえ。ほんとうにたまたま、ついでだったんです」

「ですが、先ほど殿下から伺いました。我々が襲われていることを探知されたのはあなた様だと」

「ああ、そうですね。僕はちょうど高高度から行軍演習の様子を観察していましたので」

「さようでございましたか。後ほど、お礼申し上げたいのですが、お名前をちょうだいしてもよろしいでしょうか」

「お礼は不要ですが、名乗らずは大変失礼でしたね。僕はシウ=アクィラ、冒険者で魔法使いです。ヴィンセント殿下もお礼は不要かと存じますが、もしご心配なようでしたらお知り合いの貴族の方々などへ相談してみてください。でもたぶん、お忙しい方ですからわざわざのお礼というのは逆にご不興を招くかもしれません。お気をつけくださいね」

「あ、はい。わざわざご親切にありがとうございます」

「いえいえ。では、最後尾の馬車を直してきます。大丈夫、ルシエラ王都までなら持ちそうです。王都では必ずきちんと見てもらってくださいね」

 そう言うと、さっさと馬車のところまで戻った。

 その頃には馬車に乗っていた隊商の人間もぞろぞろと出てきており、通りすがりに何度もお礼を言われた。シウだけの手柄でないので困ってしまう。曖昧に笑ってやり過ごし、最後尾へ着くと急いで修理した。

 隊商にいる修理担当の男もやって来たが、なるほどそうやるのかと見学されてしまった。

 修理といっても、本当に車輪を直す程度のことしかできないようだ。専任でもないのでそんなものらしい。少しだけ説明して、修理を終えた。


 彼等には街道へ戻る最適な道筋を教え、角牛に注意するよう告げて別れた。

 狩場に戻った頃には角牛がほどよく集まっており、騎獣隊も張り切って角牛を追い立てていた。特に街道へは行かないよう、苦慮しているようだった。

 シウはまた上空から監視しながら、ヴィンセントにあることを通信で報告した。

「(殿下、コボルトの数が多すぎました。角牛という餌があって増えたのかもしれません)」

「(やはりそうか。魔獣ではないが、餌にはなるからな。他に群れはあるか?)」

「(はい。騎獣隊が討伐してくれた林の更に北、クセルセス街道方面の森に点在しています)」

「(点在?)」

「(各群れごとに、です。かなり多い気がします)」

 少し離れていたが、感覚転移をしつつ探知を掛けたら分かった。細かな数までは、実際に転移してからでないと自信がない。

 けれど、いることだけは確かだった。

 ヴィンセントはシウがどうやって探知したのかは気にせず、唸り声を発していた。

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