160 台車でGO、爺様のこと




 大きな台車を引きながら、かなりのスピードで草原を駆け抜けた。

 フェレスが三台、ブランカが五台、アントレーネとシウが四台ずつだ。

 フェレスにはロトスとクロが乗っているし、彼は下位希少獣なので順当な数だと思う。

 もっとも、これを見た冒険者のほとんどはそんなことに驚いたのではない。

「なんでそんな重いもん運んでるのに走ってんだよ!」

 らしい。

 途中、何度か指を差してまで声を上げられた。


 身体強化、風属性魔法による補助、実はうっかり浮いてました、というようなことを一々説明するのも面倒だったから、こんにちはーと手を振って挨拶し、シウたちは駆け抜けていった。


 王城の外壁門でも目を剥かれた。

 顔見知りとなった門兵にも、

「毎回驚くのはこれが最後って思ってるのに」

 と、ぼやかれてしまった。

 門を抜けるのは、全く問題なかった。ギルドからすでに連絡が来ていたのだ。律儀に指名依頼だったのだとシウの名前を出して通達されていた。

 おかげで王都内に入るのは問題ない。

 問題は、王都内を歩くことだ。

 半ば飛ぶように走ってきたシウたちだが(実は人目のないところでは軽く転移した)、王都内では歩くしかない。

 ギルドまでの道は、興味津々の視線に晒されてちょっと恥ずかしかった。

 ロトスはフェレスにべったり張り付いて布を被って隠れていたから良いのだが、シウとアントレーネはものすごく目立ってしまった。

 注目されていることに慣れているフェレスとブランカは論外だ。

 シウはアントレーネと、恥ずかしいね、ごめんね、と話し合いながらギルドへ着いた。



 ギルドには通信で知らせてあったから、すでに業者も落札が終わり、用意万端で待ち構えていた。

 本来ならもう少し時間を置いて入札期間を設けた方が良いのかもしれないが、その間角牛を預かっておけるところがない。

 だから、角牛を飼う準備が整っている業者を選出した上で、競わせたようだ。

 落札金額はちょっとすごいことになっていた。

 費用対効果の高い、結果となった。

 実際彼等は、シウが高価な魔道具を使って運んだと知るや、その分も別に払わなくはならないのではないかとギルド職員に相談していた。魔道具は魔核や魔石を食うので、それを使ってまで運ばせたということが、増額の要因というわけだ。

 これ以上は不要だと思ったものの、特に腹は痛くないような雰囲気だったし、ギルド職員もシウに黙っておけと目交ぜしてくるので口を閉ざした。


 結局、かなりの金額を受け取ることになった。

 これはシウに半分、アントレーネに半分という形にした。彼女の口座に入れて、と言ったらものすごく反対されたものの、自分で自分を買い取るんでしょと言えば素直に受け入れてくれた。

 奴隷の身分を解消するには最低でも買った時の金額分は契約者に払わねばならない。

 いくらアントレーネがオリヴィアたちに騎士として認められたといっても、大手を振って名乗れるとは彼女も思っていないのだ。

 シウのために、本物の騎士となるべく、彼女は奴隷である自身を買い戻そうと決意したところだった。

「あと、ほら、今日狩った角牛の精算もしてきて。級数は上がらないけど、お金にはなるよ」

「あ、そうだった! シウ様ちょっと待っててくれ。行ってくる」

 彼女にも魔法袋は渡しているので、早速タウロスのいる受付まで走っていった。


 アントレーネを待っている間、シウとロトスは受付横のカフェスペースで待っていたのだが、そこへ昼に見かけた冒険者たちがやってきた。

「よう。今日は助かったぜ。ありがとよ」

「収穫あったみたいだね」

「おう。結構な数が狩れた」

 背負った魔法袋をポンと叩くので、本当に予想以上に良い成果だったのだろう。共に来ていた仲間の男たちも嬉しそうだ。

「余分は売っぱらおうと思って来たんだが、お前さんもかなり納めてるんだってな」

「僕というか、仲間がね」

「あの虎獣人族の姉ちゃんか。ありゃあ、強いだろう」

 手合わせしてみたいなーとリーダーの後ろにいた男が言う。彼は拳闘士らしく、腕っ節に自信があるようだ。

「ところで、カニスアウレスの件、あれも助かった。あらかじめ何がいるか分かっていると対策しやすいからな」

「お互い様だからね」

「お前さん、年の割に冒険者のことをよく分かってるじゃないか。親の教育が良いんだろうな。あの姉ちゃんは別だろうから、今はどこか依頼でいないのか?」

 彼等はルシエラ王都のギルドを拠点にしていないのだろう。

 騎獣を持っていることからも流しの冒険者だと思われた。

 というのも、シウはルシエラ王都のギルドでは、自分で言うのもなんだがそこそこ有名人なのだ。騎獣を持っていることもそうだが、飛行板の発明者として、知られている。

 当然、子供のシウの事情とやらも大抵知られているのだった。

 夏の時期は他国からの冒険者も多くやってくるので、たまにこうして聞かれることがある。

 だから、いつものように普通に答えた。

「親代わりの爺様はもう死んで、いないんだ。元冒険者だったから仕込まれたおかげで、今こうしてやっていられるんだよ」

 すると相手は、少し考えてから、いつもとは違う質問を投げかけてきた。

「……なあ、ちょいと聞くんだが、お前さんの親代わりの爺様って、ヴァスタって言わねえよな?」

 その名前に驚いて、シウは身を乗り出した。

「ヴァスタは爺様の名前だけど。もしかして、知り合い? どうして分かったの?」

「うお! マジか。あ、いや、お前さんの腰に差しているもの、旋棍じゃねえかと思ってな」

 さすが冒険者だ。目敏い。

 旋棍警棒はシウの防具であり武器でもある。これはいつでも腰に差していた。

「そうだよ。そっかあ。それで分かったんだ」

「おー。俺もびっくりだわ。マジか。いや、俺の師匠がヴァスタって人の仲間でさ。よく名前を聞かされていたんだ。あと、変わった人だってことも」

 そう言いながら、シウの旋棍警棒を見る。

 やっぱり武器として旋棍を使うのは珍しいらしい。

 キリクも言っていたが、爺様はよほど変わり者だったのだろう。

「冒険者の中でも、自由に流れていくってんで、風来人って呼ばれていたらしいぞ」

「僕が知っているのは、山奥で樵をしながら生活していたところだけどね」

「マジか。え、マジで?」

「うん、マジマジ」

 シウが相手に合わせて答えると、横でロトスが笑い転げていた。


 ちょうどアントレーネが戻ってきたので、このまま別れるのもなんだと言われ、皆で居酒屋へ行くことになった。

 ギルドを出ると他の冒険者たちに可愛がられていたフェレスとブランカ、クロがやってくる。

「獣舎に預けないで大丈夫かと思っていたが、人気者なんだな、お前」

「うーん、僕というより、この子たちが人気あるんだと思う」

「俺たちぁ、シウも好きだぞ? おい、拗ねるなよ?」

 肩を竦めると、フェレスたちを可愛がっていた冒険者に突っ込まれてしまった。

 そうじゃないんだけどと思ったが、すでに酒でも入っているのかぐだぐだになって絡まれてしまった。撫でてやると言って髪の毛をめちゃくちゃにされるので、シウは溜息を吐きつつ、居酒屋へ行こうと皆も誘った。


 爺様の仲間の弟子はエサイフと名乗り、彼がリーダーで他に四人とパーティーを組んでいた。

 皆、一流冒険者ばかりだったものだから、居酒屋ではぐだぐだの冒険者たちは離れて飲んでいた。畏れ多いのだそうだ。

 もっとも、フェレスとブランカとクロで遊びたいだけなのかもしれないが。

 シウはエサイフから爺様のかつての話を聞いたり、爺様の晩年について語ったりした。

「師匠のカンタリウスさんはご存命なんだね」

「怪我をしてから冒険者は引退したが、いまだに村を守る防衛隊に入って張り切ってるよ」

「そっか。爺様は病気の進行が早くてね、気づいた時にはもう手遅れだったんだ。それでも薬草なんかで、かなり頑張った方なんだよ」

「そうだったんだな。最近ヴァスタの噂を聞かないってんで、師匠やその仲間たちが落ち込んでいたからさ。俺もあちこちで調べてはいたんだ。でもまさか、養い子がいるとはなあ」

「爺様に拾ってもらったから、命が助かったんだよ。育てにくい子だったろうに、辛抱強く教育してくれたしね」

(おかげで天然爺様キャラになっちまったけどな!)

 おとなしく食べていると思ったら、突然ロトスが念話で伝えてくる。

 シウは笑いながらロトスを見て、軽く睨んだ。


 話題はヴァスタ、カンタリウス、そして彼等の偉業について変遷し、やがて角牛の話に戻ってきた。

「そうだ、角牛だった。お前さん、生きてる角牛を連れ帰ったんだって?」

「そうそう。ギルドで聞いて驚いたんだ。あんな大きなのを、しかも何頭だっけ、台車を何台も連ねて帰ってきたんだってな」

 驚く彼等に、説明を始めたのは地元の冒険者たちだった。

「そんなの、シウにはお茶の子さいさいってやつよ。去年、子連れの角牛引き連れて戻ってきた時は騒ぎになったけどな!」

「そんなことあったよなあ。あと、王子様と角牛狩りに行ったり! あれ聞いた時、シウはやべえやつだって思ったよ」

 がははと笑っているが、シウは笑えない。

 やべえ、ってどういうことだ。

 シウが半眼になっていると、エサイフに背中を叩かれた。

「ははは、やっぱ子供は親を見て育つんだな! お前さん、ヴァスタの性格そっくりだぜ」

「えっ、そう?」

「ああ。ていうか、気付いてなかったのか?」

「人間ってのは、自分のことは見えないんだってよ」

「お前、良いこと言ったって思ってるだろ! それこの間誰かが言ってたぞ」

 いや、シウも言ったことはある。

 彼等の言葉に耳を傾けながらも、なんとはなしに恥ずかしくなって顔が赤くなった。

「おっ、ヴァスタに似てるってのが嬉しいのか。そうかそうか」

「まだ子供なんだな。可愛いな」

「ヴァスタも、お前さんを育てられて良かっただろうよ。亡くなるには早かったかもしれんが、幸せな最期だったと思うぜ。今度、師匠にもそう報告しておくよ」

「……うん」

「ははは! 可愛い子供も育てていたってな、言っておく」

「可愛い、は要らないけどね」

「ははは!」

 どうやらそこは聞いてくれないようだ。諦めて、エサイフたちのからかいに身悶えたのだった。

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