159 簡単な角牛狩り




 フェレスとブランカは草原で見通しが良いことや、相手が魔獣でないことから「かーんたーん」と喜んで角牛を狩っていった。

 処理が追いつかないほどだ。

 ロトスもやってみたいというから、辺りに気を配りつつゴーサインを出す。

 念のため認識阻害も空間に掛けた。

 アントレーネと共に飛行板で飛んでいき、雷撃魔法で倒す。精度も上がっているが、レベルも上がり、今ではレベル三もある。一番使っているからかこれだけがぐんぐん上がっていた。他は横ばいに近いので、そちらもどんどん使ってもらいたい。

 アントレーネはロトス係をやるらしく、つきっきりなので任せてしまう。

 シウはフェレスとブランカの倒した角牛をどんどん魔法で処理していった。


 昨年ほどの異常繁殖ではないが、それでもまだ数は多く、全体数を把握しながら間引いていく。昨年よりは早めに来たせいか、草原にもまだまだ残っていたので辺り一帯の数はすぐ判明した。

 絶滅させるつもりはないので、先に全体数を調べようと、一度狩りを抜けてシウだけ転移した。

 上空から移動の流れを確認しつつ、エルシア大河まで到達している戻りの角牛を追ってみた。

 ルシエラ近辺は去年ほどではないが、総数で見るとかなり多かった。

 どこかしら、良い場所を見付けて山中で越冬したかもしれない。ラトリシアはデルフより北にありながらも低地にあるためか、あるいは地熱も他より高いせいか、見た目ほどに寒くはないのだ。雪は大量に降るし、それを溶かすほどの地熱ではないけれど。

 これは比較先があってのこと。つまり、デルフ国よりは寒さがマシな国というわけである。

 角牛たちもデルフを抜けて南下するよりも、ラトリシアの南方にある草原や森、あるいはもっと素晴らしい場所を見付けたのかも知れなかった。

 でなければこれほど長い距離を北上してきたにしては、残っている数が多すぎる。

 今度ギルドに、角牛の生態を調査するよう進言した方がいいかもしれない。

 このままだと豊作に合わせてどんどん増えそうだ。


 エルシア大河の手前で草原を食い尽くそうとしている角牛を、適度に間引いていく。

 転移で戻りつつ、同様に繰り返した。

 やがてフェレスたちのところまで戻ると、彼等が頑張って狩った分をまた処理した。

 十頭を除いて全部、自動化で解体してしまうとラップで包んで空間庫行きだ。

 この十頭はギルドを通して卸すことにした。

 そろそろ小出しにせずとも魔法袋が流通してきて、シウのことが印象に残らなくなってきたのだ。

 ただ、最初からやり過ぎは禁物なので、アントレーネの仕事として十頭ずつ納品するつもりだ。

 もう暫くは角牛も草原にいるだろう。なんだったら、飼いたいという人に連れて戻っても良いと思っていた。


 ロトスは結局三頭狩っていた。

 逃げ回る角牛を確実に仕留めるためには、まだまだ精度が足りなかった。

 ちょっぴり外れてしまったり、威力が弱いか強すぎたりしての失敗だ。

 強すぎた攻撃では、角牛が爆散したらしい。

 ロトスが半分死んだような顔で教えてくれた。

 動揺して浄化が上手く使えず、アントレーネにやってもらったと言っていたので、よほどひどい目に遭ったのだろう。


 その日は夕方に戻った。

 ギルドでは大変喜ばれ、明日もお願いと頼まれてしまった。

 ギルド職員のタウロスも出たいようだが、今年はあれこれ忙しくてまだ行けていないと残念がっていた。

 じゃあ、明日もと約束して、ついでに角牛の行動について調査するよう進言もしておく。それと飼いたい人がいるなら連れてくる、ということも追加して告げたのだった。




 翌日は朝から草原だ。他の採取依頼も受けていないので角牛狩り一本だ。

 ロトスは、今日こそ一発で決めるぞと張り切っている。

 フェレスとブランカは昨日楽ちんだったからと、少々飽きてきているようだったので、北にある森へ行って岩猪でも狩っておいでと勧めた。クロも行くというから三頭で向かわせる。

 その間にシウたちは草原の角牛を一掃することにした。


 昨日の話を聞いた冒険者たちがやって来たのは昼頃のことだった。

「こっち方面にいたのか」

 声を掛けてきたから、シウも答えた。

「もう南下する時期だからね」

「しまったな。真夏にゃ別の仕事があって来られなかったんだ」

「もう少し西に足を伸ばせば、まだ多くいるよ。このへんに留まってるのもあと半月ほどじゃないかな」

「そうか。情報ありがとよ」

「どういたしまして。あ、でも、カニスアウレスも餌を求めて来てるから、気をつけて」

「おう、そうか。面倒くさい相手だな。気をつけるよ」

 冒険者たちは気楽な様子で西に向かっていった。

 騎獣持ちがいたので、上級者だろう。残りの面々も立派な馬や、飛行板を持つ者もいた。

 あれなら魔法袋もあるだろうから、持って帰ることも可能だ。

 もしかしたら彼等は自分で食べたいのかもしれない。さほどギラギラした様子がなかった。



 そうして狩りを続けていると、冒険者ギルドのクラルから通信が入った。

「(どうしたの?)」

 緊急招集かと思ったら、違った。

 彼はのんびりと笑いながら話し始めた。

「(角牛を生きたまま連れ帰ってほしいって依頼、入ってるよ)」

「(あ、そうなんだ。何頭かな)」

「(連れ帰れるだけ)」

「(え?)」

「(あはは、いや、ダメですって。ユリアナ、自分でちゃんと断って。あ、シウ、さっきの本当だから。連れ帰れるだけお願い。言い値で払うって言ってる酪農家が多いんだ)」

「(そうなんだ)」

「(ユリアナが勢いに押されて引き受けたのもあるけど。なんでも王城から行軍演習として、来週角牛狩りに出るみたいで。噂を聞いた商家や酪農家が色気を出してるんだ)」

 ようするにそれほど需要があるのならと、取らぬ狸の皮算用となったわけだ。

 シウもクラルに合わせて笑うと、了解と返事をしてから通信を切った。


 フェレスたちを呼び戻そうとしたが、感覚転移で見ていると岩猪をかなり狩ったようだった。勿体無いので転移してからそれらを処理し空間庫に入れると、三頭を連れてまたロトスたちのところへ戻った。

「角牛を生かしたまま連れ帰るから、今度は怯えさせないように追い込んできて」

「にゃっ」

「ぎゃぅ!」

「きゅぃきゅぃきゅぃ」

 クロは上空から良さそうな個体を選ぶと言って、すーっと飛んでいった。

「おー、クロ張り切ってる」

「目が良いし、自分の役割を分かっているよね」

 ロトスの茶化す空気に、シウは真面目に答えた。

 が、ロトスはまた茶化してくる。

「仕事ができる男の目だぜ」

「何言ってんの、ロトス」

 格好をつけているらしいが、演技過多でおかしい。シウは笑いつつもロトスを促した。

「ほら、ロトスも。雷撃で追い込む練習」

「分かったー」

「レーネは調整してくれる? 罠まで追い込んでくるから、通り抜けないように」

「分かったよ」

 罠と言っても刈り取った草の山を積んでいるだけだが、そこに彼等の好むトウモロコシなどの餌を置いている。

 一度食べてくれさえしたら問題ないのだが、図体の割には気が小さいので、すぐに恐慌状態に陥って暴れる。

 追い込んでくるのも気を遣ってねと言ってあったが、ロトスの精度の悪い雷撃を見ていると、ちょっと角牛に同情したくなるのだった。


 最終的に雄が三頭、雌が九頭、子が十一頭の囲い込みに成功した。

 失敗したものは処理する。暴れ倒してどうしようもない個体や、雷撃が当たってしまったものなどだ。それらはまたギルドへ卸すことにする。

 待っている間にアントレーネが提出する分の角牛も狩ったので、早めに帰ることにした。

 なんといっても、この角牛たちを連れ帰らねばならない。

「シウ様、でもこれ、どうやって運ぶんだい? あちこちに冒険者がいて、転移したらこの多さだ、目立ってしまうよ」

「うん。でも大丈夫。彼等にはちょっと眠ってもらってね、あとはすいーっと運ぶだけだから」

 取り出したのは以前作った《騎獣用台車》に似た形の《騎獣用浮力式台車》だ。

「魔道具として使う分も作ってみたんだ。風属性魔法を書き込んであるから魔石は食うけど、こういう重い荷物を運ぶ時には便利だからね」

 費用対効果は合ってない気はするが。

「これも三輪なんだ?」

 ロトスが興味津々で長め、台の上に乗って飛び跳ねたりしている。

「三輪でも安定してるしね。あと、ここを折りたたむと狭い場所でも入っていける」

「おおー」

「それから、なんと連結もできます!」

「おお!」

 ロトスは良い観客役をやってくれる。大袈裟に手を叩いて喜ぶので、シウは逆に恥ずかしくなってきた。

「さて、というわけだからそれぞれ積んでいって、連結するよ」

「ちょい待って。え、どうやって?」

「そこはほら、魔法で」

「……魔法で?」

 そうですよ、と先生っぽく答えてから、シウは角牛たちに向き合った。餌に夢中で落ち着いてきたところだったので、特に怖がる様子もない。

 シウは彼等に向けて、精神魔法で穏やかな心地にさせた後、一頭ずつ誘導して台車へ乗せていった。

 横たわった時点で、そのまま眠らせてしまう。子は二~三頭ごとに積んだから、全部で十六台となった。

 ロトスとアントレーネはその間、唖然として見ていただけだった。

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