158 黄金の貞操帯、角牛ふたたび
水の日の午後、パーセヴァルクと冒険者ギルド近くの居酒屋で会うことになった。
昼からお酒を飲める店に行くとは、さすが冒険者だ。
「これなんだけど」
「おおーっ、こりゃすごい。シウ、すげえもの拾ったな!」
場所は明かせないのだがと前置きして、古い時代の魔法袋を拾ったのだと説明した。
「すごいの? 歴史的価値はなさそうだし、悪趣味な宝飾品ばかりだったから溶かしてしまおうと思ってたんだけど」
「そりゃまた、怖いこと考える奴だなあ。これはこれで需要があるんだぞ」
「そうなの?」
「そうとも。……そうだなあ、今度の闇ギルドのオークションで鑑定書付けて出したら、売れるぞ~」
こんなものが? と胡散臭そうに胸飾りや足輪などを見る。ごてごてと重たいだけの金ピカ品だ。
他に、首輪や鎖付きの足輪もある。奴隷にこんなものを付けていたのかと思うと本当に胡散臭い。
「まあ、貞操帯を黄金で作る意味は俺にも分からねえけどな」
「だよね」
そう。貞操帯などの、えげつない趣味のものも多かったのだ。他にもロトスに見せるにはよろしくないものもあった。
いくら内面が二十歳の青年だったとはいえ、まだ子供だった彼には早いと思った。
あと、天然で、そちら方面には一切興味のなさそうなシュヴィークザームにも見せられなかったが。
「そういや、サタフェス時代は文明が腐れきっていたんだったな。飽食の時代っつうか、絢爛豪華にすることが良しとされる時代だった」
「あー、ビルゴット先生も、サタフェス跡地の遺跡内部で妾妃の宮殿について教えてくれたけど、呆れていたなあ」
「だろ? だから後の歴史家の中には、鉄槌が下されたんじゃないのかって言い出すのもいたぐらいだ。もちろん、そんなことのために罪のない大勢の市民が犠牲になっていいわけないんだがな」
その歴史家は独自の持論を展開して、随分と叩かれたらしい。
「ヴァルク、詳しいね」
「まあな。俺の名前の由来でもあるパーセヴァルクってデルフ国の英雄が、同じ頃にスタンピード発生を抑え込んだことがあるんだ。このへんでは聞かないが、デルフ国じゃあ有名で、サタフェスは失敗、デルフは成功ってことでデルフの歴史家が自慢するのよ。それが嫌でな。なんだってこんな英雄の名前を付けたんだって、八つ当たりしたこともある」
「お母さんに?」
「そ。まあ、その母親ってのも義理の母さんでさ。捨てられていた俺を拾って育ててくれた、良い人だったんだが」
その人はもう亡くなったと言っていた。だからパーセヴァルクはラトリシアへ来たのだ。
「そっかあ。優しい人だったんだね」
「まあな。思春期だったもんで、からかわれてさ。八つ当たりして悪かったよ」
「最期を看取ってあげられたの?」
「ああ。それが唯一の親孝行だったかな」
冒険者になって家を長く空け、結婚したものの妻には早々に逃げられ、面倒ばかり掛けたそうだ。
最期は笑顔だったので、それだけが良かったとパーセヴァルクは語った。
シウを育ててくれたヴァスタ爺様も、最期は笑顔だったなと思い出す。
残していく人間のことを考えてそうできる人は、すごい。
シウは前世で孤独死をしたが、もう少しやりようがあったのではないかと思っている。
今度こそ間違えないようにしたいものだ。
もちろん、今生での死はまだまだ先だと思っているし、そうなるよう努力するつもりだが。
その日はパーセヴァルクと共に闇ギルドへ行って、週末のオークションに間に合うか交渉をした。
すると、目玉商品になるからと大変喜ばれてしまった。
ついでに先日狩ったグララケルタもあるので、また本体ごと持参しようかと相談したら、手間でなければ処理してほしいと言われた。
取引のある商家に念のため確認してもらったら、これほどの処理は滅多にできないと言われ、このクォリティで出品するよう求められたらしかった。
宝飾品に関してはパーセヴァルクに代理人を依頼したので、彼に全面的に任せることにした。
依頼人契約などを済ませてから、居酒屋にまた寄って付き合い、帰宅したのは遅い時間となった。
木の日は皆でコルディス湖に転移した。
シウだけ爺様の小屋へも寄ったが、おおむね皆と共に森の中での狩りや訓練などを行った。
温泉にも入って英気を養い、彼等を残してシウは金の日の授業を受けると、その夜にまた転移で戻るという過ごし方をした。
赤子たちは三人共、屋敷に置いてきている。コルディス湖では遊ぶといっても訓練だ。ずっと傍にいて面倒を見てあげられないのでスサたちに頼んだ。
代わりに土の日はブラード家で一日を過ごした。
赤子三人組はつかまり立ちができるようになっており、言葉はまだだが、意思表示をしようとし始めている。
幼児になるまでの成長スピードは人族より早いと言うが、スサたちも驚いていた。
シウはフェレスたちを育てていることから、ついこんなものかと思ってしまうが、人族はもっと成長は遅いものなのだ。
自身も成長が遅いくせに、すっかり忘れているシウだった。
風の日は冒険者ギルドの依頼を受けた。アントレーネとロトスも一緒だ。
依頼は三つ。シアーナ街道付近での薬草採取と、周辺の魔獣の調査、そして角牛の行動を把握することである。
薬草採取はいつものことだ。常にある仕事なので、これは問題ない。
次の、周辺の魔獣を調査する件はギルドからの依頼だ。アイスベルクでの少々多い魔獣発生率を鑑みて、シアーナ街道方面へ影響がないかどうかを適宜調べている。級数が上の冒険者で北への仕事を受けた者にはもれなく頼んでいる調査依頼だ。これはボランティアに近い仕事なので依頼料はほぼない。が、冒険者もそこはついで仕事として、皆が受けている。
最後の角牛については、昨年の事件が影響していた。
夏の間に北上してくるバイソンよりも大きな角牛が、昨年作物が豊作だったこともあって異常繁殖したのだ。
魔獣ではないことと、あまりの大きさに持って帰ることができないことから、冒険者の間でも間引きの依頼を受けない者が多かった。そのため、更に繁殖が進み、付近の農作物を食い荒らすことになったのだ。
これをシウやギルドの職員が間引いていったのだが、高級肉として有名だったために争いが起こったりした。
また、せっかくなので牛乳を得ようと、シウが角牛を持って帰ってしまった。
そして、ラトリシア国の王子でもあるヴィンセントがそれを真似てしまったのだ。
ここに角牛ブームがやってきた。
あのヴィンセント殿下が角牛を狩ってきて、かつ、王城で飼い始めた。
それを知った貴族たちが飼うことまでは無理でもせめて肉を手に入れたいと、冒険者に依頼を出したのだ。ところがそう簡単に手に入れられない。魔法袋のない冒険者は、狩れたとしても持って帰ることができなかったのだ。
やがて貴族自身がゲームの流れで狩りに出た。
そこで事件が起こった。
偶然にもシウが貴族の一行を助けたが、出会わなかった一行は魔獣に襲われて大怪我をしてしまった。付き添っていた者の中には死者まで出たのだ。
こうした昨年の事件があるため今年はギルドも警戒しており、冒険者たちには無理に角牛を狩らないよう通達されている。
数が多くて困るのならば、ギルドが指名依頼などして狩ると宣言したのだ。
が、そこは冒険者である。
依頼をギルドから受けずとも、勝手に動くことはできた。
実際、貴族から頼まれて角牛を追う冒険者もいるようだった。
彼等に何かあっても自己責任なので、ギルドもそこまで面倒を見るつもりはない。
が、貴族も共に行くとなれば話は別だ。
貴族というのは厄介で、後になって責任をかぶせてくる。
だから、せめて注意はしたぞという体がほしい。
ついでに角牛の様子も確認して、多いようなら間引きを、というのがシウへの依頼だった。
角牛肉は魔獣ではないものの赤身の多いしっとりした美味しさで、シウのみならず好きな人は多い。
シウもこれらを狩って保管しておきたいと思い、薬草採取を早めに済ませた。
シアーナ街道近辺の魔獣の数は、特に増えているということはなかった。
アイスベルクのように短期間に多くの群れが発生しているようでもない。冒険者の数も例年通り森へ入っているとのことだから、こちらまで影響はなかったようだ。
もしアイスベルクがスタンピード状態になっていたら、今頃シアーナ街道も恐ろしいことになっていただろう。
早めに連絡があって対処できたのが良かった。
今もアイスベルクでは地道に対処しているところで、土壌に含まれた魔素を散らしているようだ。
シウがやった範囲に関しては問題なさそうなので改めて確認はしていないというから、古代竜イグも見付からないで済む。
一応彼も周辺へ幻惑魔法を掛けているから、もう人が間違って近付いてくることはないだろうと言っていたが。それなら最初から掛けていてほしかった。
もっとも、シウにはそうしたものが効かないのでどのみち出会っていたのかもしれないが、そこには思い至らないシウである。
というわけで、午後には草原へ出てきた。
シアーナ街道とルシエラ王都を結ぶ道沿いから、周辺には冒険者も多くいるようだが、西の地帯までは足を伸ばしていないようだ。
飛行板があったとしても遠すぎて疲れてしまうから、騎獣を持つような冒険者しか出てこれない。
そして角牛は、今年はまだ東の方へは進んでいなかった。
「去年と比べてかなり数が減っているなあ」
「そうなのか。でも、あたしにはすごく多いように見えるよ」
「だよねー。うじゃうじゃしてるぜ」
草原地帯なので誰の目があるか分からないため、ロトスは人型でブランカに乗っていた。
シウとアントレーネは草原に着いてからは飛行板の上だ。
フェレスは早速追い込みに走っている。
「ロトス、ブランカには狩りの練習をさせるから、飛行板に乗ってるか岩場で待機」
「了解!」
彼は飛行板を選んだようだ。颯爽と取り出して乗っている。
バランス感覚に優れているので彼もすぐに覚えてしまったが、最近はアントレーネと競っているので使い方も面白い。冒険者たちのような裏技というよりも、見せ方を考えた乗り方をしている。
アクロバティックな競技のようで、格好良いものであった。
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