156 怒られからの騎獣専門料理店と奏上案
帰宅後、どこ行ってたんだよーとロトスに言われ、フェレスとブランカにも散々拗ねられてしまったシウは、皆に古代竜の話をした。
ロトスは、
「うっひゃー!!」
と喜び回っていたけれど、アントレーネは真っ青な顔になっていた。
フェレスとブランカはよく分からないらしくて、ふうんと曖昧な返事だ。
それでもクロが、とってもこわかったよと教えていたら、今度は一緒に行くと鼻息荒く喋っている。
クロとシウを守るのだと宣言しているので、可愛いやら面白いやらだ。
クロは必死で、それはむり、だめ、と二頭を諌めている。
ロトスも喜んでいたのに、クロの様子にだんだんと鳴りを潜めて、不審そうな顔だ。
「シウ、もしかしてマジでヤバい相手?」
シウは肩を竦めて笑った。
「人間に危害を加えるとか、そういうタイプじゃなくて良かった」
「~~~!!!! そんな問題じゃないだろ! ばか!!」
「そ、そうですよ、シウ様!! そ、そんな相手、まさか、どうして、なんだって近付きに行くんだ。信じられない! 危ないじゃないか!」
「あ、うん。ごめん」
でも危険じゃなかったんだよと言いかけたのだが、二人はそれどころではなく、ものすごーく真剣に怒り続けたのだった。
一応、最初の邂逅はシウの責任ではないと言い訳する。
そこで話のできる相手だったから、また遊びに行っただけなんだと必死で弁明し、なんとか許してもらった。
しようがないと許してもらってから、これで話は終わったなと思い、今度一緒にみんなで遊びに行こうねと言ったら二人からはものすごく冷たい目で見られてしまった。
呆れているらしい。
シウは、反省していないということで、暫しの間くすぐりの刑にあったのだった。
週末はブランカの尻尾の先に嵌める輪を作ったり、商人ギルドで騎獣の介護用機材について話し合ったりで終わった。
ブランカは、最初は気持ち悪そうにしていたものの、尻尾を口に挟むと安心するので、輪におしゃぶりを付けてみたらあっという間に慣れてしまった。
以降はおしゃぶりを外しても気にならないので、引き続き尻尾に輪を付けている。
外れないよう細工しているが、失くしても分かるようにマーカーを付けたので大丈夫だろう。
介護の機材については商家からの提案で幾つかのパターンに分けて作ることになった。
大きさや、介護の度合いによっても違うからということで、オーダーメイド形式も取り入れることにする。高くなるが、相手は高位貴族だ。吹っ掛けてやりましょう、と気炎を吐いていた。貴族と何かあったのだろうかと、シウはシェイラと共に笑ってしまった。
騎獣専門の料理店についても絞り込みが進み、ようやくひとつの商家と契約できた。
料理店として人間と騎獣双方が来店することも見越しているが、配達を主な内容とする。おやつの販売も行い、貴族と冒険者どちらにも門戸を開く。
王都外壁門近くに騎獣預かりの専門宿もあるのだが、この騎獣専門店でも預かることができるように施設を作る予定だ。
少々高くついても、王都の中央にあることで他国の高レベル冒険者や貴族などには有り難い。
ルシエラ王都でも高級宿には騎獣ごと預かれるところもあるのだが、貴族街にあるため入りづらいのだ。
ラトリシアでは高位貴族しか持てない騎獣でも、他国では下位貴族だって持てる。そして冒険者も。
しかしそんな彼等が貴族街にある高級宿へ行けるかというと、少し無理があるのだ。
中央地区なら貴族も冒険者も共に来られる場所なのでちょうど良かった。
養育院を建てる土地についても良い候補地があり、シウは諸々の許可をもらう前に国王の第三秘書官へ話を通すことにした。
面会の申し出を正式に送ったのだが、念のためブラード家カスパルの名を連名にして届けた。
そのおかげか、風の日の午後に登城するよう返事があった。
行けば、秘書官の従者が待っており、忙しいのに申し訳ないと頭を下げた。
が、以前ほど厳しい視線をくれるでなく、こちらも待っていたのだと従者が言う。
事実、秘書官の控え室へ案内してもらうと、第三秘書官のみならず第一秘書官まで待っていた。
「資料を拝見したよ」
とは第一秘書官だ。筆頭秘書官の彼がここにいてもいいのだろうかと思ったが、全方位探索で、国王には第二秘書官が付いていることが分かった。
「以前ガヴィーノからも提案があったのだが、君は民間運営について詰めているようだね」
「はい。第三秘書官さんは国で運営することを考えているようでしたが、それに反対する貴族も多いのではないかと思って。運営資金的なところで」
国だと、寄付を集められないような気もした。
民間だからこそ寄付を募れる。それに、民間ならではの気楽さも必要だと思うのだ。
なにしろシウは、この養育院に一般市民の出入りも検討している。
「職員には、元冒険者か……。我々では考えつかないことだな」
「一般市民の出入りで万が一事件が起こっても嫌なので、諍いに慣れた熟練の元冒険者がいれば違うと思うんです。逆に彼等の再就職先にもなれる。冒険者は怪我をしたり、年令を重ねたらつぶしが利きませんから」
「なるほど」
「誰もが出入りできると言いましたが、その誰もに騎獣たちのお世話をしてもらう。こうした奉仕精神は神殿への奉仕活動と趣が似ていると思うんです」
「だからこそ、神官の在中も考えているというわけか」
カスパルがよく寄進する神殿で、老後の騎獣たちのお世話施設を考えていると言ったら、それはとても良いことだと賛成してもらった。
養護施設を運営する神殿も多いため、奉仕活動への下地は誰よりも持っている。
「神殿も、国からの助成はあるようですが、基本的には寄進などで運営を成り立たせていますよね。そうすることで国とは別個の存在として、庶民の受け入れ場所となっている。養育院にも通じるかなと思うんです。ほら、国が完全な後ろ盾となっていたら、国のお金があるからと寄付も集まらないだろうし、経営もザルになっていくかと。国のお金が余ってるわけじゃないのに、人間ってついつい甘えるんですよね。役人にもいるでしょう?」
自分のお金でもないのに、国のお金ということで基準が緩くなったり、どうかすれば経理を誤魔化して懐に入れたり。
それで処分される役人は、この世界、この国にだっているはずだ。
第一秘書官は苦笑して、そうだねと頷いた。
「あと、シュヴィが名誉顧問に就いたら、庶民にももちろんだけど、強権的な貴族相手にも立ち向かえるし」
「聖獣様は就任すると?」
「自分からやりたいって言ってたので、たぶん」
「自らお仕事をされようとするとは――」
皆が目を丸くして驚いていた。あのシュヴィークザームが仕事をすると言ったことが信じられないようだ。
シュヴィークザームの仕事への意欲のなさが分かってしまう。
仕組みについてはまだ考え直さないといけないところはある。
事実、第三秘書官のガヴィーノも企画を立てて奏上はしたものの、国の資金を使っての運営ということもあって横やりが入ったらしい。仕組みの粗も突かれたようだ。
けれど、第一秘書官は惜しいと考えた。
国王も詳細について語らなかったが、諦めずに進めてほしいと頼んだらしい。
「民間で進める方が、早いかもしれんな」
「その為の手助けをお願いしても良いでしょうか。ええと、ガヴィーノ様とお呼びしても?」
シウが尋ねると、彼は笑顔で頷き改めて名乗ってくれた。
「ガヴィーノ=カザリーニだ。これから、よろしく頼む」
「わたしはカレウス=ミゲリ。次席とも今後やり取りするだろうから名前だけ教えておく。アパス=ノルディというので、今度挨拶してやってほしい」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
シウが頭を下げて挨拶したところで、廊下で待っていたらしいシュヴィークザームが顔を覗かせてきた。
秘書官たちは驚いて、聖獣様!? と叫んでいたが、本獣はどこ吹く風で「もういいか?」とシウを連れ出そうとするのだった。
もちろん、今日はシュヴィークザームと遊ぶ日ではない。
きっぱり断ったら、彼は拗ねた後に、相手をしてもらえないと悟ったらしく、居座ってしまった。
第一秘書官は仕事があるので部屋を出ていったが、入れ替わりにヴィンセントの第一秘書官がやって来た。彼もシュヴィークザームの姿に驚いていた。
こんなところまで出てくることはないので、何かあったのかと思ったらしい。
ヴィンセントの第一秘書官はジュストといい、シウとも何度も会っているため挨拶は済んでいる。慣れていることから、彼がいると安心だ。
それに、ジュストの従者アルフレッドとは「本」友達である。
「あ、手紙もらったよ。明日来るね」
「わざわざ悪いね」
軽く話をしていると、シュヴィークザームがまた拗ねた。どういうことだと聞くので説明したら、怒り始めてしまった。
「我には会いに来ないのに! 王の秘書と密会していたかと思えば、今度はヴィン二世の秘書のお付きか!」
ジュストはアルフレッドから報告を受けていたからだろう、シウとの仲の良さには驚いていなかったが、シュヴィークザームが怒ったのには驚いていた。
部屋に残っていたガヴィーノたちもだ。
「そんなこと言っても。シュヴィとはいっつも遊んでるでしょ」
「いっつもは遊んでおらん! 我は最近お仕事で大変だったのだぞ!」
えー、そうかなーとシウは周囲を見回したけれど、みんなそれどころではないようだった。
青くなって震えているのだ。
どうも聖獣の王様に対する畏れ多いという気持ちが大きすぎる。
「シュヴィが怒るから、みんな震えてるよ。もう。今日もこんなところまで出てきて、近衛騎士の人が困ってたみたいじゃないか」
「我は我の行きたいところへ行くのだ」
「はいはい。じゃあ、一緒にお仕事の話に付き合ってくれるんだね? あと、明日はアルフレッドと本の話しかしないけど、それでもいいなら一緒にいればいいよ。別にいいよね、アルフレッド」
「あ、ああ、あの、はい、そうです、ね」
チラッとジュストに視線を向けている。主のジュストは首を小さく横に振って、
「諦めなさい、アルフレッド」
「はい……」
という会話をしていた。
そしてガヴィーノは。
「聖獣様にあのような……。いや、それよりも、仕事をなさるとか?」
有り得ん、ともごもご呟いて頭を振っていた。
シュヴィークザームの仕事嫌いは相当のもののようだった。
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