148 魔獣異常発生の原因




 遺跡発掘調査隊の隊長イザイア=デマルコは、史跡保護管理委員会の委員だ。貴族出身で、国の機関から出向している。

 イザイアが文官側だとすれば、ビルゴットはメイン発掘リーダーで、今回の調査隊の現場側だった。

 他にも有名な遺跡調査の専門家が集まっている。

 しかし、険しい山中のことであり、ベースキャンプを守るためにエルフのノウェム族にも手伝いを申し出ていた。

 遺跡の内部へは専門の冒険者たちが雇われて入っているが、外までは手が回らなかったのだ。

 ところが、魔獣の発生が多い上に、普段は里に篭っているエルフたちだから大勢の調査隊メンバーと接してストレスが溜まったらしい。予定より早いが、もう帰ってくれと言い出したそうだ。

 エルフの手に負えないほど、魔獣の数も多くなってきている。

 本格的に里を守るための準備に取り掛かりたいのだと言い始めたらしい。

「そこまで多いの?」

「ルプスが増えているな。ニクスルプスも出てきている」

「オークも見かけているらしい。こっちはまだ見ていないが」

「そうかあ。じゃあゴブリンもいるね?」

「いるだろうな。岩熊も何度か見かけている」

 パーセヴァルクが忌々しい顔をして、教えてくれた。

 更に付け加える。

「遺跡内部でもアングイスが多い。岩蜥蜴もだ。大したことはないが、学者連中にはな」

 ビルゴット以外は全くの素人たちだから、冒険者であるパーセヴァルクには大変なのだろう。

 護衛の冒険者たちも疲れが溜まっているそうだ。しかし、調査をしたい学者たちはギリギリまで残りたいと言い張っていて、平行線のまま。

 イザイアは間に入って、ほとほと困っているらしい。


 話があらかた終わりに近づくと、ヤルノたちが挨拶を始めた。

 イザイアも含めて挨拶していると、ようやく宮廷魔術師たちの一行がベースキャンプに到着していた。



 イザイアとビルゴットが宮廷魔術師たちを迎えに行くというので、シウたちは周辺の調査に出かけた。

「お前さん、ここのリーダーと知り合いだったんだな。あ、俺にも普通に喋ってくれ。さっきからむず痒くてな」

 冒険者が敬語嫌いなのは仕様だ。

 シウは笑って頷いた。

「あの人、シーカー魔法学院の古代遺跡研究科の前教授。傍にいたフロランと僕は今の科の生徒なんだ」

「ほっ、なんだ、お前さん学生かよ」

「ヤルノ、知らなかったのか? 俺は聞いていたからな。それで、まあ、学生のくせして冒険者気取りかよ、と思っちまったもんだからよ」

 彼等はニーバリ領から逃げてきたらしい。元はルシエラ王都出身だったので、久しぶりに帰ってきてガンダルフォたちからシウの話も聞いたそうだ。

「ダニアもニーバリ領から?」

 シウが問うと、彼女は無言で頷いた。

「お互いソロでやっていて、まあ顔見知りではあるんだけどな」

「そうなんだ」

「最近はニーバリ領から来た奴が多いぜ。反対にあっちへ呼ばれる奴もいるが」

「呼ばれる?」

「そうさ。家族がいたり、しがらみがあったりしてな。仕方なく行くのもいる。俺たちは幸い逃げ出せたが、さて、あいつらは戻ってこれるのかね」

 ニーバリ領は噂以上に大変な方向へ行っているようだ。

 シウは内心で溜息を吐いて、調査を開始した。


 ヤルノたちもベースキャンプを出ると、各自の能力を発揮して周辺を調べていく。

 シウはフェレスとブランカを飛ばせ、自身も飛行板に乗って飛び回った。

 飛竜で到着する前から知ってはいたが、実際目の当たりにするとやはり多いと思う。

 スタンピード一歩手前というのも、あながち大袈裟ではないのかもしれない。


 何故だろうと考えて、不意に思いついてしまった。

「あれかあ……」

 クリスタルムドラコ、つまり水晶竜が、ここより北にあるウィータゲローで大繁殖期に突入している。

 割とつい最近、シウは彼等の雄同士の争いを仲裁、というか間引いて問題を沈静化させたはずだったのだが。

「そっか。地下ではまだ繁殖活動が盛んなんだ」

 普段は地下でおっとり暮らしている水晶竜たちだが、大繁殖期が訪れて活発になり地上へ出てきた。そのため地下に溜まっていた魔素や彼等自身から漏れ出る魔素が溢れたのだろう。

 一気に溢れ出ないよう調節はしたのだが、濃い魔素は周辺の森を活発化させた。

 また、地下が完全に塞がっているわけでもないので、どこかしらから魔素が漏れ出ているのだ。

 ちょうど、季節は夏だ。

 魔獣に季節はあまり関係ないとは言われるが、それでもやはり獣も盛んに活動を行う。

 そして都合よく、大量の人間がアイスベルクへやってきた。

 いわゆる魔獣たちの喜ぶ餌だ。

「あー、僕等は飛んで火に入る夏の虫ってわけかあ」

 離れているから大丈夫だろうと思っていたが、そんなわけなかったのだ。

 シウはその場で頭を振り、気持ちを切り替えた。

「スタンピードにはならなかった、それで良しとしよう」

 もし今夏、アイスベルクに人が入らなかったら。これほど活性化はしなかったのではないだろうか。

 だが、偶然は重なった。

 せめて、水晶竜たちを間引いて魔素を拡散させたからこそこれで済んだのだと、思い込むことにした。




 ベースキャンプに戻ると、宮廷魔術師たちが何かを指示していた。

 調査隊の面々がテントを片付けて遺跡に運んでいる。

 どうやら中に避難させておく方法を取るらしい。

 ベースキャンプを前線にするのだろう。逃げ場がないので少々危険だが、考え自体は理解できる。


 シウたちが戻るとビルゴットとパーセヴァルクがやって来た。

「遺跡内部の大広場に避難するよう言われているのだが」

「周辺はどうだった?」

 同時に話されて、シウもヤルノたちも苦笑した。

「これは情報を共有したいから、まとめて皆の前で話すよ」

 ソロ活動を許されているが、それはそうすることが可能な実力を持っているからであって、決して情報を隠すことを認めているわけではない。

 むしろ行動を狭められないためのソロ活動推奨なのだ。

 当然、宮廷魔術師たちにも情報は渡してもらう必要がある。

 ヤルノたちも頷いて、陣頭指揮を取っている宮廷魔術師たちのところへ向かった。



 王城から出発した際に名前は聞いていたが、改めてシウは挨拶した。

 相手もきちんと返してくれて、予想よりずっと良い対応だ。

 道中、隣の飛竜でこちらが聞こえないと思ってか仕事内容や冒険者に対する愚痴を延々と零していた者もいたから、考えたら随分まともだった。

「勝手にどこかへ行くから焦ったが、まともなようだな」

 相手も同じように思っていたらしい。シウは肩を竦めて、答えた。

「先に調査をと思いまして。事態は一刻を争うかもしれません」

「うん?」

「僕から話しても?」

 ヤルノたちに聞くと、顎をしゃくって示されたので、続けた。

「北にオークの群れが三つ、十匹程度から三十匹程度までです。ルプスは全体に散らばっていて、周辺を徘徊していますが、およそ百。ニクスルプスが三十匹強。ゴブリンの集落は少し離れているけれど、南西に二つ。潰しておく必要があります。それと――」

「ま、まだあるのかっ?」

 愚痴を零していた方の顔色が青くなっていた。

 シウは頷いて続ける。

「グランデアラネアが一匹、ただし子供が数百匹います。それと北東に岩熊の巣、結構大きいです。まだこちらには気付いていないけれど、周辺にいるルプスとやりあっているので、早晩見付かるでしょう」

「くそっ」

「なんてことだ」

「俺たちからも報告が」

 ヤルノがユッカやダニアと小声で話していたのだが、シウの説明が終わるや手を上げて報告を始めた。

「土蚯蚓が異常に多い。大したことがないと思われがちだが、これらは魔獣の餌になりやすいんだ。呼び寄せるかもしれない」

「……スタンピードか」

「土壌がかなり良くなっているみたいだな。これほど多いのは、滅多にないぜ」

「あたしが前に土蚯蚓の大量発生を見た時は、十日後にスタンピードが起こったわよ」

 ダニアが止めを刺すと、俄に騒ぎが大きくなった。

 シウは心持ち声を大きめにして彼等へ突き付けた。

「今すぐにでも魔獣討伐を始めないと、始まります」

 スタンピードの現実が。



 それからは早かった。

 国へ緊急連絡で状況を説明し、討伐隊を派遣してもらうことになったのだ。

 冒険者ギルドでも招集がかかっただろう。

 ここにいる冒険者たちはそれまで、間引きを行うことになった。

 ヤルノたちソロの冒険者はベースキャンプの前線基地を死守するが、シウや今回やって来た攻撃型の冒険者や魔法使いなどはチームを組んで討伐に当たる。

 元々ここにいた調査隊の面々は遺跡内部へと急いで引っ込んだ。

 彼等には魔獣避けの薬玉などと共に、試験的に使って欲しいと《魔力量偽装》の魔道具を渡した。

 フロランは知っていたので、詳細は説明してくれるというから頼んでおく。

 パーセヴァルクも外で手伝おうかと言ってきたが、彼には遺跡内部での護衛をお願いした。そちらはそちらで、魔獣がいるからだ。

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