149 各自の戦い方




 宮廷魔術師のリーダーはイラーリオ=ノーニという貴族出身者で、炎撃魔法がレベル五もある実力者だ。彼は第二級宮廷魔術師という役職にあった。

 他に、オラツィオ=パドーラという宮廷魔術師もいるが、こちらは伯爵位だが第三級なので役職的には階位が下にある。しかし、伯爵なので、口調が偉そうだ。

 シウや他の冒険者へ罵詈雑言を浴びせていたのも彼である。

 もっとも誰も全く気にしておらず、冒険者たちは無視して動いていた。

 さすがに面と向かって文句を言うほど馬鹿でもなく、悪口を言って発奮するタイプなのだろう。

 冒険者の中には、

「若いもんなー、あいつ」

 と生温かい目で見ていた。


 イラーリオは宮廷魔術師にも拘らず、シウたちが間引きに出るというと一緒に付いていこうとした。

 それを止めたのは今回共にやって来た冒険者たちだ。

「あんたは指示役だ。この場所を守ってくれないと困る。俺たちが戻ってくる場所だからな」

「しかし、攻撃力のある魔法使いはわたしたちだけだろう?」

「舐めてもらっちゃ困る。こうしたことを見越してギルドも俺たちのパーティーを混ぜてるんだぜ」

 攻撃特化のパーティーが二つ入っていて、彼等もまた魔獣狩りには自信があるのだった。

「それに、こっちにゃ機動力がある」

 彼等は飛行板を見せつつ、チラリとシウを振り返った。

「グラキエースギガスを討伐した奴等が、一番オススメする冒険者があいつだ。立派な騎獣も連れているしな」

 その言葉に釣られて、イラーリオはシウと、その両隣に立つフェレスとブランカに視線をやった。

「……確かに。探索の能力も高いのだったな。では、君たちに頼む」

「よし来た。じゃあ、正確に追い込んでいくから、おい、ユッカだったな。お前に通信魔道具を渡すから――」

「分かってる。ここから探索の結果を逐一報告してやるよ」

 彼等はさっさと計画を立てて、北側の対応に向かった。

 シウはここでもソロでいいと言われたので、周辺魔素の吸収を行うことにした。


 イラーリオにも軽く説明したら、魔素が分かるのかと大変驚かれた。

「まあ、なんとなく」

「すごいな。しかし、どうやって吸収するのだ?」

「そうした魔道具を開発したので。ですが、外に出す予定のないものです。忘れていただけると助かります」

「……ああ、勿体無い。しかし、そうだな、わたしも魔法を研究する身であるから、気持ちは分かる。承知した」

「では、暫く森へ入ってきます。土壌の改良を行いながらなので、帰りが遅いかもしれませんが気にしないでください」

「ああ」

 オラツィオは威勢だけは良かったのだが、イラーリオが攻撃へ出るだのなんだのという会話を始めてからは、ずっと黙り込んでいた。

 今もイラーリオの横にいたのに真っ青な顔で立ち竦んでいる。

 シウは心配になって、彼にも《魔力量偽装》の魔道具を貸してあげることにした。

「これを付けていると、魔力量が一ほどしか感じられないはずなので魔獣に狙われ難くなると思いますよ。大丈夫ですからね?」

「あ、ああ……」

 まさか本当に前線へ出ると思っていなかったのか、イラーリオの台詞に驚いたのか。

 イラーリオは「わたしたち」と言ったので、オラツィオも改めて自分が来たことの意味を知ったのかもしれない。

 もちろん、宮廷魔術師は魔法攻撃を行ってもらうために来てもらっているのだが。



 シウが森へ入ると、先に進んでいた冒険者パーティーの後方支援担当が声を掛けてきた。

「あたし、カフルよ。治癒と弓を使うの。よろしくね」

「うん。そっちのパーティーは戦力過多?」

「どうかな。アルダスたちのところと違って、地道に釣ってきて前衛が叩く形よ」

「そっか。じゃあ、最終的に遺跡広場前へ釣ってきて、高火力持ちの宮廷魔術師に炎撃を放ってもらう方がいいかな」

 思案しつつも、そんな提案をしたら。

 カフルという女性冒険者はふふふと笑って、手を振った。

「分かった、リーダーに話してみる。でもさっきの坊や、ビビっちゃうでしょうね」

「ああ、彼ね。実戦初めてなのかな。ちょっと可哀想だったかも」

「……シウみたいな子供に言われると宮廷魔術師様も形無しだわね。りょーかい。あなたが、良い子だっていうのは分かったわ。このへんは任せて。遊撃なんだよね?」

「うん。じゃあね」

 カフルは手を振って、シウたちを見送った。


 アルダスというリーダーがいるパーティーでは全員が攻撃タイプだからか、一番危険なオークの群れに向かっていた。

 十匹の群れを狙うつもりらしく、ユッカの指示の下、動いているようだ。

 カフルたちは近場のルプスを言葉通り地道に狩っている。

 他の冒険者数人もまとまって行動しており、臨時で集められたにしては動きが整っている。

 宮廷魔術師と共にやって来た兵士部隊の者よりは動きが軽快だ。

 今回は調査のためだったからか魔獣対策に強い部隊ではないようだ。単純に護衛として出された兵士かもしれない。

 彼等はノウェム族と共にベースキャンプ周辺を守っている。


 そのノウェム族は、すでに半数を里へ戻していた。

 見たところ、あまり強い人は残っていない。里に戦力を移したのだろう。

 彼等の気持ちも分かる。

 命を張ってここを守るよりも、里を守る方がずっと大事だ。

 本当なら全員引き上げたいところを残っているのは、やはり契約だから。

 冬期でもアイスベルク周辺を見回っているそうだし、年間を通して国と何らかの取引があるのかもしれない。


 シウは土壌を確認しながら、あちこちに《魔素吸収》の魔道具を放っていく。

 魔法でもできるが、幾人かエルフの偵察もいるし、気配探知をしている冒険者もいるので念のためだ。

 魔道具は後で回収すれば良いし、これならイラーリオに話した通りの行動を取れる。

「ブランカ、北北西にルプスがいるよ。狩ってきて」

「ぎゃう!」

「フェレスはここで待機。心配だろうけど、行っちゃダメだよ」

「にゃ、にゃぁぁ」

 でもしんぱいーと、不安そうな声だ。

 ブランカの突撃姿を実際に目にしていないと、確かに不安だろう。シウも感覚転移で見ているから落ち着いていられるのだ。

 でも、任せる、ということも大事だった。

 そして任されるということも、大事なのだった。

「あ、土蚯蚓いるよ」

「にゃっ!」

 たおす! と、飛びついてすぐさま爪で引き裂いた。土蚯蚓程度なら一瞬だ。

 二メートルから十メートルはある、ミミズと名の付いたもはや別個の生き物だが、それほど脅威ではない。

 もちろん、一般人からすれば脅威だ。でもシウやフェレスの敵ではなかった。

「そのへんに巣があるね。揺らすから、出てきたら退治して」

「にゃにゃ」

 土属性魔法でひっくり返してみると、わらわらと土蚯蚓が出てきた。

 その間にシウは魔素吸収だ。

 簡易鑑定でも、魔素が濃いことがよく分かる。土蚯蚓の数も多ければ、当然のように体の大きいものが多い。

「うーん、やっぱり北に向かって増えているかな。これは地道にやらないとダメかも」

「にゃ?」

「あ、終わった? じゃあ、進もうか」

 とりあえず人目のあるところだけでも魔道具で魔素を吸収させ、視線がなくなったところで一気にやってしまおうと進み続けた。


 ブランカはルプスを倒して一匹ずつ運んで戻っては、また倒しに行くということをやった。

 三匹目からフェレスはもう気にしないようになった。

 安心したらしい。

 そのうちフェレスも、自分はあっちへ行くねーとシウに断って飛んでいってしまった。

 仕方ないのでシウはひとり、歩きながら土壌の確認を行いつつ魔素吸収を行ったのだった。


 昼ご飯は簡単に済ませ、そのまま北へ向かう。

 途中でアルダスのパーティーと出会ったが、彼等は順調にオークの群れをひとつ潰して、次へ向かおうとしていた。

 せっかく倒したオークをそのままにするので、シウが代わりに魔法袋へ入れておこうかと提案したらとても喜ばれた。

 彼等はヒュブリーデケングルの簡易魔法袋しか持っておらず、いつもこうした獲物は諦めていたようだ。

 別れ際に、

「最近、魔法袋が安くなっているから買えば良いのに」

 と言ったら、マジで? と目を輝かせて乗り気になっていた。



 午後もひたすら土壌の鑑定をしながら進んでいたら、ようやく人目がなくなった。

 よって、ピンポイントの簡易鑑定を、広範囲に使ってみた。

 フル鑑定のような状態でつらつらと脳内に表示されるが、簡易鑑定結果の羅列だからフル鑑定よりはマシだ。

 流れていく表示の中に、魔素がもっとも濃い場所を見付けた。

 周辺には魔道具ではなくシウ自身の魔法で魔素を吸収したが、その濃い場所は省いた。

 近くまで行って見てみると、地下に穴がある。

 そこから全方位探索の強化版を使って、細い糸を辿るように探っていく。

 すると、裂けた地下の隙間を縫うように、細く細く繋がっていることが分かった。

 水晶竜たちの暴れた、あのウィータゲローに。

 やはり、あの辺りで充満していた魔素が、流れ込んでいたのだ。

 空気に溶け込んだものなら自然と拡散されるが、地下は充満し易い。

 これでは土壌の魔素を吸収したところで意味はない。元を断ち切らねば、いつまでも流れてくるのだから。

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