145 草原と貴族の関係と鬼竜馬狩り




 金の日も授業は恙無く終了し、土の日になった。

 シウたちは冒険者ギルドへ顔出しして、とりあえず幾つかの依頼を受けようと見ていたのだが、ルランドに別室へ呼ばれた。

「悪いが、アイスベルクへの応援に行ってくれないか?」

「あー、俺はちょっとパス」

 ククールスがのんびりと答える。

 彼はルシエラのギルド本部でも頼りにされる冒険者の一人だ。夏休み明けにダラダラ過ごしていても情報は耳に入っており、事情は分かっているはずだった。

「ククールスよ、お前にも行ってほしいんだがな」

「いや、俺まずいんだ。調査隊の応援としてノウェム族に案内や護衛を頼んだらしいじゃないか。俺は里抜けしているから、見付かるとやばいんだよ」

「……お前、何かやらかしたのか?」

「はあ? なんだって俺に問題があるってことになるのよ。ひでえな」

「まあまあ。ルランド、それ僕のせいなんだ。ククールスは僕にあれこれ良くしてくれた関係で里を抜けることになったんだよ」

 シウが間に入ると、ルランドは益々怪訝そうな顔になった。

 が、ククールスが気まずそうな、困ったような顔でシウを見るので、詳細は分からずともシウの言いたいことは理解したようだ。

「……分かったよ。これ以上は踏み込まない。だが、緊急招集になる可能性もある。そうなったら、俺の一存では省けないからな?」

 だから、自分で上手く立ち回るようにとの助言だ。

 たとえば暫くの間どこかへ雲隠れしているか、遠いところへ向かう護衛仕事を入れるなどすればいい。

 ククールスは少し考えてから、頷いた。

「シアンへの護衛仕事が増えているみたいだから、そっち、行ってみるわ」

「そうしろ」

「シウ、少しの間パーティーを抜けることになるが、いいか?」

「もちろん。それに、ククールスは自由なんだから気にしないでね」

 パーティーを組んでいるとはいっても、シウは皆を縛るつもりはない。自由にやりたいようにやってくれたらいいのだ。

 それに転移もできる。

 そうした意味合いを含めてウインクしたら、ククールスは肩を竦めて笑った。

「下手くそ、ウインクってのはこうするのさ」

 きちんと実演してみせて。


 アイスベルクへは明日の朝に飛竜便で一気に送るということだったから、シウたちは近場での仕事を受けることにした。

 ククールスには長距離の護衛仕事なら準備もあるかもと思い、抜けていいと言ったのだが、特にないからと付いてきた。

「準備も何も。魔法袋のおかげで全く問題ないからなあ」

「そうは言うが、あんたは中身の整理をしていないだろ? ちゃんと確認しておかなといざって時に困るよ?」

 アントレーネが注意するがククールスはへらっと笑う。

「あ、大丈夫。飯ならシウが入れてくれてるし」

「ククールス、あんた、シウ様になんでもかんでもやってもらうんじゃないよ」

 叱られても全く気にせず、ククールスはのんびりしたものだった。


 王都を出て、フェレスとブランカに分乗して飛んでいたが、人の目のないところまで来たので転移する。

「あん? 今日は草原か」

 どこだ? とククールスが問うので、シウは南側を指差して答えた。

「あっちがヴェルトハイム領、こっちがエストバル領」

「……って、デルフ国との国境かよ!」

「え、デルフ国ってのは確か、揉めている国だよね、シウ様」

 ロトスには話してあったのでニヤニヤ笑っているだけだ。彼はシウのやりたいことを知っていたので、おーやれやれ、と応援してくれていたほどだった。

「大丈夫だよ。このへんは小領群との境目にあって、特に何もないところだからね」

「そんなところに転移して、どうするんだ?」

「ふっふー」

 シウが不気味に笑うと、ククールスとアントレーネは顔を見合わせて怪訝そうになった。

 発言をしたのはロトスだ。

「馬の肉、食いたいんだってさー」

「「馬?」」

 二人揃って返すので、シウは二人に向かって頷いた。

「前にデルフ国で狩った鬼竜馬と黒鬼馬が美味しかったから、もっと欲しくて。で、この間からずっとチマチマ感覚転移で探していたんだ」

 これが意外と面倒で、自動化しながら頭の片隅で追っていたのだが、ようやく群れを見付けたのだった。

 狩りの訓練にも良いので、依頼仕事の合間にやってみようと転移してきたのだ。

「尻尾ブラシも需要があるみたいだから、このあたりの狩りつくそうかなと」

「お前、相変わらずやることが変だな」

「……あたしも、シウ様には慣れたと思ってたけど、まだまだだったみたいだ」

「まあまあ。とにかく、パーティーとしての狩りを練習できるし、やっちゃおうよ」

「おー」

 ロトスが拳を振り上げたので、釣られて二人の大人もおーと手を上げていた。


 草原と言っても、泥土湿原もあれば、岩場もある。小さな山々もあって、魔獣の住処には十分な場所だ。

 よって、敬遠されているのだろう。

 領土侵犯を行うデルフ国のヴェルトハイム領も、こちらまでは出張ってこないようだ。

 逆に言えば、ラトリシア国の小領群が東の地にあるのだが、この草原が緩衝地帯となってデルフ国の脅威から守ってくれている。

 当然、小領群から西にあるエストバル領への便はほぼない。北に大回りすれば良いのだが、際どいところでオプスクーリタースシルワという深い山脈が広がっているので、そこまでしてエストバル側へ行く必要がないのだ。

 その為小領群の付き合いは北東側のクストディア領が必然的に多くなる。移動も王領かクストディア領を通って行われるため、小領群にはクストディア派が多いらしい。

 このあたりの情報はファビアンなどから教えてもらった。

 シウにはあまり関係ないと思っていたのだが、エストバル領は前生徒会長のティベリオの実家となるし、クストディア家というのは強権派でエストバル家とも仲は悪いが、もっとも有名なのはヴィクストレム家と犬猿の仲であることだ。

 ヴィクストレム家領主の孫がアマリアで、彼女とティベリオの友人でもあるシウにとって、この情報は知っておかなくてはならないことらしい。

 そうした理由で、一度は見てみたい土地柄だったので、偶然にも来ることができて良かった。


 シウが軽く説明している間に、フェレスとブランカが群れを発見し追い込んできた。

 クロが上空から他に問題がないか警戒している。彼自身は魔獣に襲われないよう、隠蔽魔法で周囲から見えなくしている。

 ロトスとステルス戦闘機の話題になった時、クロに覚えさせたら便利だと思って教え込んだものだが、思った以上の成果をあげていた。

 玉環にも水晶竜の鱗を細工した際に出た端材を付けているが、おかげでより視認しづらくなっている。

 水晶竜の鱗は端材になっても魔法を無害化する高性能さを持つので、魔法による探知や視認なども妨害できる。

 そのクロから連絡が入った。

「あと五分ほどで視界に入るみたいだよ」

「おー。結構来てるな」

「あたしの方は問題ないよ」

 アントレーネは飛行板に乗ってホバリング状態となった。

 ククールスは弓を使うので即席の足場に立っている。

 それぞれ身を隠すための岩場にいたが、いつでも迎え撃てる状況だ。

 ロトスは転変してウルペースレクスの姿となって勇ましく立っていた。

 今日は彼も狩りに参加する。

 あと二月弱で彼も成獣となるため、そろそろ本格的に参戦しようと決めたのだ。

 ロトスはブルッと奮えると、きゃん、と甲高く鳴いた。

(来た!)

 予想より少し早く視界に入り、全員が警戒態勢に入った。

 クロからの視界を見てみると、想像以上に追い込んできてしまってブランカが少々焦っているようだ。

 左右に分かれているため、フェレスがフォローしようにも全く聞こえていない。

 それでも怖くなって逃げたりしないところが彼女の良いところだ。

 追われ役をやりつつ、時折反撃する素振りを見せては鬼竜馬をこちらに連れてくる。

 フェレスのように尻尾を振って挑発するようなことはないが、鬼気迫る勢いで相対するものだから魔獣側も自分たちが釣られているとは思わないようだった。

 やがて、待ち構えていた岩場の近くまでやって来た。


 ククールスが重い一撃を、群れのボスらしき一際大きな鬼竜馬の首に打ち込んだ。その下に魔核があるのだが、無事、脳と魔核を繋ぐ命を切ったようだ。

 首を落とせば良いのだが、弓の場合は落ちないことも多い。いくらククールスの弓が特注品で、重力魔法を掛けていても。

 そのため魔核ギリギリの、急所となる首を狙ってもらったのだ。

「おお、マジか。一発で仕留められたぞ」

「うん。このまま撃っていって。僕が囮になるから」

 魔獣はボスをやられると逃げるものもあるが、目の前に美味しそうな餌があれば惑うこともある。

 シウはその餌役だ。

 魔力の偽装魔法を使って、シウが高魔力保持者のように見せたのだ。

 案の定、ボスを失って戸惑い始めた群れは、すぐさまシウに飛びついた。

 飛行板で間を縫うように飛び回るシウへと鬼竜馬たちが集まってくる。

 そこをアントレーネが大剣に魔力を添わせて首を落としていく。

「よしっ」

 魔法を合わせた戦い方にはあまり慣れていなかったアントレーネも、魔法の便利さが身体強化だけではないと知って剣と併用した戦い方を覚えていた。

「ロトスと、勉強したっ、甲斐があったよ!」

 ぶんっと振り回して、大きな魔獣相手に大剣を振るう姿は鬼神のようだ。

 飛行板にも器用に乗りこなし、時に降りて、また乗ってと、上手く相手を翻弄している。

 シウも彼女が戦いやすいように一匹ずつ向かうように調節したり、ククールスの待つ岩場へと追い込んだ。


 フェレスとブランカは攻撃を仕掛けながらも、群れを集めるために奮闘していた。クロがそれぞれに危険を知らせているので、二頭ともやりやすいようだった。

 フェレスに決定打は少ないが、隙があれば首に噛み付いていた。一撃必殺とはならなかったが、一撃離脱で何度か攻撃するうちに倒すことができていた。

 ブランカなら一撃で噛み殺せそうだったが、まだ大物への対応に慣れておらず、時間を掛けて倒している。鬼竜馬の蹄ももらって「ぎゃうん!」と転がっていたものの、不屈の精神で立ち向かっていた。

 まあ、なにしたんだコイツ! と、ひどい口調で立ち向かっていたのだが。

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