146 狩り狩り狩りと本好き仲間




 そしてロトスも、倒すまでは行かなかったが急所である魔核近くに何度も噛み付いて、しまいにはロデオ状態となっても離れず相手をへばらせていた。

 首を噛んだままぶらんぶらんしているので、膠着状態の彼等に引導を渡す。

 魔核を転移させたのだ。

 ロトスがいたので塊射機を使うことも、空間魔法で首を切り落とすのも止めた。

 大丈夫だと分かっていてもロトスが怖い思いをするだろうからだ。

 案の定、ばったり倒れた鬼竜馬を見て、ロトスはホッとしていた。

(良かったあ。血がドバーッと出たらどうしようかと)

 シウはロトスの頭を撫でて、よく頑張ったねと褒めた。


 群れの数が多かったために、処理しきれないだろう分についてはシウが魔法で取り囲んでまとめて倒してしまった。

 微妙な顔をしたのはククールスだけで、アントレーネやロトスは喜んでいた。

 その後、フェレスとブランカがまた探して追い込んでくるというので任せ、その間に鬼竜馬の解体などを済ませてしまう。


 フェレスとブランカは先ほどまで大変だったにも拘らず、終わるとケロリとして次に向かうあたり、やはり大物だと思う。

 ククールスは呆れた顔で二頭を見送っていた。

「あれ、絶対遊びだと思っているよな?」

「シウの教育のたまものだねー」

「お前もああなるのかね」

「俺、聖獣だから、それはない」

(きりっ)

 ロトス風に言うと「決め顔」で答え、彼は人化からまた転変して聖獣姿に戻った。

 鬼竜馬を倒し終わった後、みんなに褒めて褒めてとやって来たのだ。

 気が済んだらしくて、またウルペースレクス姿でウロチョロしている。



 そうした狩りを幾度か繰り返し、大物である黒鬼馬の群れを釣るのにも成功し、一日を終えた。

 夕方、草原のど真ん中でバーベキューをして黒鬼馬の肉を堪能することも忘れなかった。

「転移ができると便利だよなー。ギリギリまで現地でいられるし」

「あたしは、まだちょっと怖いけどね」

「へ。何でさ」

「だって、一瞬で景色が変わるんだ。緊張しないかい?」

「うーん、そうかねー」

「ククールスはそういうとこ、鈍感なんだろ。俺もちょっと緊張するー」

「ほら、ロトス様もこう言ってるよ」

「えー、なんだ、俺だけかよ」

 そんな話をしながら、楽しく夕飯を済ませた。


 皆が休憩している間、シウは少しだけ抜けた。北にオプスクーリタースシルワという山脈があり、この地との境目にあるプレリエ遺跡の付近で、探していたグララケルタの群れを発見したのだ。

 クロにもし見かけたらよろしくと話していたのだが、黒鬼馬を追い込んでいる最中に見付けてくれたらしい。

 発見者のクロと共に転移して向かうと、コロニー状態になっていた。

 遺跡からは少し離れているが、このままでは唯一ある小領群とエストバル領への細い道が完全に潰れてしまいそうだ。

 これだけ多いと討伐依頼も大掛かりになるだろう。

 小領群には荷が重い。

 シウは手前勝手な理由を付けつつ、グララケルタを狩ることにした。と言っても魔法を使うので簡単だ。

 他にもコカトリスなど、岩場に住む魔獣も混在しており、良い猟場となった。


 自動化でほとんどを処理していると、クロがまた何かあると知らせてくれた。

「三目熊と、岩猪か。こっちも多いね」

 狩っておく方がいいと判断して、少し森へ入ることになった。周辺の魔獣は全て始末した。

 これらも自動化で解体まで済ませて保管する。

 すると、クロが警戒気味の念話を送ってきた。

「……エルフかな。クロ、転移で戻るから全ての魔法を消して」

 すぐさま魔法を全て解除し、ただの鳥としての機能だけで飛ぶ。すぐさまシウが転移でクロを迎え、そのまま皆の待つ草原へと戻った。

 感覚転移だけ残して見ていると、かなり後になって様子を見に来たエルフの姿があった。

 魔獣が多く跋扈していたのに急に気配が消えたから気になったようだ。

 聴覚も飛ばしてみると、そうした話をして、首を傾げながら里へ戻っていった。

 彼等はエルフのセプテム族のようだった。

 このあたりに居を構えていることはククールスからも聞いていたが、かなり行動範囲が広いようだ。


 オプスクーリタースシルワへ入って狩りをする予定だったのなら、シウが狩り場を荒らしたことになる。

 申し訳ないことをしただろうか。

 転移で戻ってからククールスに話を振ってみると、あまり付き合いはないがオプスクーリタースシルワへ入ろうとするのはバカだけだ、と言うのでホッとした。つまりシウは彼等の狩り場を荒らしていない、ということだ。

 ロトスには、バカだって、と顔を覗き込まれてしまったけれど。

 少し視線の上がった彼に覗き込まれると、こう、思うところがないわけでもないが、シウは無言で半眼のまま笑うに留めたのだった。



 その日は鬼竜馬の肉を厨房に差し入れした。黒鬼馬だと魔素が強すぎて、一般的な魔力しかないブラード家の面々では食するのに少々厳しいからだ。

 もちろん、小量なら大丈夫なので、取り扱いに注意するよう言ってから料理長には渡してある。

 ククールスの魔法袋には夕方に調理したものを入れているため、しばらくは彼も食事に苦労することはないだろう。

 念のため、野菜を使った調理済みのものも入れた。





 翌朝、予定通りに王城近くの飛竜発着場へと赴いた。

 偶然にもヴィンセントの秘書官の従者でシウとも仲の良いアルフレッドがいて、少しだけ話をした。

「ジュスト様から、念のため宮廷魔術師がきちんと同行するか確認するように命じられたんだ」

 ここだけの話として耳打ちされて、シウは笑った。

 よほど宮廷魔術師たちはヴィンセントの気に障るらしい。重い腰を上げないので、睨みを利かせているのだろう。

「あ、そうだ。アルフレッドに教えてあげたい本があるんだ」

「えっ、なんだい?」

「ふふふー。実はアロイス=ローゼンベルガーと知り合いになってね、彼の所蔵する本を譲ってもらったんだ」

「えっ、すごい」

「資料まで譲ってもらったから、もったいなくて。アルフレッドは筆耕にも造詣が深かったようだから、今度一緒に見てみないかと思って」

「見たい見たい! ぜひ!」

「じゃあ、空いてる日があったら教えて。僕がお邪魔してもいいなら――って今おうちから通ってる?」

 成人しているがまだ十七歳だったはずだ。だが従者なら、もしかしたら住み込みかもしれない。はたして。

「今はジュスト様と共に王城内に部屋を頂いているんだ。だから、そちらにお邪魔しても良いかな? 来てもらうのは悪いしね」

「別にそれは気にしないよ。むしろアルフレッドの方が大変そうだから。あ、そうだ、シュヴィのところへ行くついでに応接間を借りようよ。あそこ広いし」

 良い案だと思ったのだが、アルフレッドは黙ってしまった。

 ついでに彼の護衛のためか、いつもはヴィンセント付きになっている近衛騎士のダグリスも、唖然とした顔をしていた。

 そこに冒険者の男の声が割り込んだ。

「全員集まったかー!?」

「あ、はーい」

 飛竜が引き出されてきて、係員や宮廷魔術師が乗り込み始めたのでシウもそちらへ返事をしつつ向かおうとした。

 するとアルフレッドに、後ろから声を掛けられた。

「シウ、君、本当に普通に接しているけど、聖獣様のこと敬ってね?」

「あ、うん」

「……まあ、それが君なんだよね。えーと、とにかく気をつけて。君たちもね」

 アルフレッドはフェレスたちにも声を掛けて、手を振った。

 シウは曖昧に頷きながらも彼に手を振り、飛竜へと乗り込んだのだった。


 今回のアイスベルク行きに、シウはフェレスとブランカだけを連れてきた。

 クロはロトスのために置いてきた。

 アントレーネもいるのだが、屋敷にいるのならばとサビーネが彼女の勉強を見たいと言い出しているので当てにならない。

 サビーネは母親業については厳しく言わないのに、読み書きやマナーについてはとても厳しい。

 それもこれも、シウが今後もっと上の立場へ行くことになるかもしれないと思っているからで、そんなことないよと言っているのにロランド含め誰も聞いてくれない。

 アントレーネも飛竜大会の後のパーティーに出た際、自分が大陸中央の礼儀に疎いということが身に沁みたそうで、素直に教えを聞くと答えていた。

 学ぶ意欲があるのなら別に反対しないが、無理はしないでほしいものだ。

 ロトスが嫌々勉強しているのを見ているだけに、シウはなんとも言えない気持ちなのだった。


 そのロトスも、クロと共に魔法の勉強をして待っていると約束してくれた。

 ロワイエ語の勉強も進んでいるがやはり魔法の複雑な使い方の方が興味はあるようだ。

 昨日戦ったことで、物理的な戦い方の他にも魔法は有用だと知って、クロを先生にして覚えるのだと言っていた。

 彼は複雑に組み合わせるものや、細かい作業が苦手だ。

 雷撃魔法も持っているのに、なかなか的に当てられないし、分身魔法はうんともすんとも言わない。

 単体の属性魔法は使えているのに、複合技になってくると怪しかった。

 装備変更の魔法を使えるようになったのが、奇跡のように感じる。

 あとは自力で認識阻害などを覚えたり、付与魔法が使えるようになると尚良い。

 勉強することは、彼にも山ほどあるのだった。

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