夏休みのひととき

131 思春期の少女と少年の未来




 風の日になり、シウたちは飛竜に乗せてもらってロワル王都へと向かった。

 アマリアたちも飛竜隊の中で一番安定していると言われる飛竜に乗せられて出発だ。

 人員が多いため飛竜隊は何度か往復しなくてはならず、大変そうだった。荷物だけなら魔法袋に入れて運べるだろうが、人はそういうわけにいかない。

 シウたちは有り難いことに客扱いで一番最初に送ってもらえた。

 オスカリウス家の飛竜発着場では、戻っていく騎士たちを「お疲れ様です」と見送った。

 そのまま屋敷にどうぞと家令のリベルトに言われたのだが、子供もいて大変だし、家に戻りますと辞してきた。


 ベリウス道具屋までは馬車を貸し出してもらったから、赤子もいて、目立つ騎獣二頭もいるシウにはとても楽だった。

 馬車は表通りに止めるため歩いて裏の本宅側から入ろうとしたのだが、店内から丸見えでエミナが出てきてくれた。

「久しぶりね、シウ!」

「うん。エミナ、元気そうで良かった」

 多少痩せたかなと思うが、妊娠期に太っていたし母乳で育てていると痩せるというから、元に戻っているだけだろう。

 窶れたようには見えないからホッとした。

 赤子を抱えて痩せ衰えた姿の女性を、前世ではよく見かけていた。自身も体が弱くて入退院が多かったせいもあり、痩せている人を見るとどうしても気になってしまうのだ。

「どうしたの、シウ。飛竜大会で何かあった?」

「ううん。あ、仲間たちもいるんだけどいいかな」

「もちろんよ。お爺ちゃんも楽しみにしてるわ。入って」

 そう言うと店内から入るよう促してくれた。

 ククールスたちは気にせず入っていく。途中、ブランカにくくりつけられている赤子三人を見て、エミナは目を丸くしていた。

「わあ。いいわね、それ。可愛いし、動き回らないから楽そう」

 エミナの子アシュリーはまだまだ乳幼児で動くわけもないが、友人のクロエのところはハイハイしているそうで、苦労があるのだと言う。

「この子たちはもうハイハイしてるよ。獣人の子って早いんだって」

「そうなの。知らなかったわ。でも人族より体が大きいし、育つのが早いのも当然かもね」

 本宅の玄関まで付いてきて、エミナは店番があるからじゃあね、と戻っていった。

 玄関ではスタン爺さんが待っており、相好を崩して早う上がりなさいと、いつもの台詞を口にしていた。



 ククールスもアントレーネも、スタン爺さんをすっかり気に入ったようだ。

 打ち解けて、以前からの知り合いのように過ごしている。

 スタン爺さんはアシュリーの世話を普段からしているので、赤子たちのことも手慣れた様子で見てくれた。

 とはいえ、赤ん坊四人は大変だ。家の中では各自が担当を決めて世話をした。

 ロトスにはマルガリタを背負わせようとしたが、拒否されてしまった。光源氏計画は冗談だったのに、俺はそんなハレンチな真似はしない、と叫んでいた。

 なのでシウがマルガリタを背負い、ロトスはガリファロを、カティフェスはアシュリーを気に入ったらしいから一緒のベッドに寝かせた。

 大きくなったブランカは寝てるだけなら居間にいてもいいが、動くなら庭へ行くようにと言い聞かせた。可哀想なのでフェレスにも一緒にいてあげてねと言うと、子分だししようがないかといった様子で頷いていた。クロは優しいからブランカについててあげるだろう。性格が出ているなと思う。


 話をしていたらすぐに夕方となり、みんなでヴルスト食堂へ食べに行くことになった。

 ベリウス道具屋ではアキエラが正式に働きだしており、店を閉めて一緒に向かう。

「友達から、超近所で働けて良かったねって言われたんだけど、逆に近すぎてなんだか嫌なのに」

 数日置きに晩ご飯を食べに行くから、家族ぐるみで気恥ずかしいようだ。

 他にも、

「通勤距離が短すぎて出会いがないし」

 という悩みもあるようだ。

 アキエラの口から「出会い」だなんて聞くとは思わなかったので、大人になったんだなあと感慨深い。でも彼女も成人しているし、立派に大人なのだ。

「お店には冒険者の人もよく来るんじゃないの?」

「うーん。冒険者はちょっとなあ」

「ダメなんだ?」

「あ、ごめんね! シウ君はしっかりしてるけど。でもほら、普通はあんまり」

「おー、シウ、ごめんなさいされたのか! 青春だなあ!」

「ククールスは年中春だよね、頭の中」

「はっはー」

 彼は店にいた客たちと仲良くなって、誰が一番酒に強いか勝負を始めていた。

 ゴキゲンで何よりだ。

 あと、アントレーネもひっそりと参加している。母乳を止めたから解禁だと言って、男性顔負けで飲み比べていた。

「ねえねえ、お姉さんはどんな人が好きなの?」

「あら、ロトス君」

「出会いってどういうのがあるのかと思って」

「まだロトス君には早いんじゃない?」

 でも教えて教えてと、まとわりついている。必殺あざと可愛い顔で、だ。

 何を企んでいるのかなーと思ったら、二人してきゃっきゃと恋愛シチュエーションについて語り始めてしまった。

 どうやら、ハーレムは諦めきれないようだ。

 アキエラはロトスの意見を参考に、街角でぶつかる案などを採用しようか真剣に悩んでいた。

 ただシウだけは冷静に、

「アキエラ、そういうので知り合って恋に落ちても上手く行く確率は低いよ? 冒険者の方がよっぽど良いってこともあるんだから。ちゃんと考えるようにね」

 と、注意してみた。

「シウ君、お父さんみたいなこと言わないでよ。夢よ、夢。ただの夢なんだから、もう」

「だったらいいんだけど。とにかく、きちんとお話をすること。お付き合いするならお父さんとお母さんに一度は紹介して見てもらうことも大事だよ」

「もー。結婚するんじゃないから、いいの!」

「やべえ、うざい父親まっしぐらな発言してる。シウ、ほんと気をつけないと、将来子供がぐれるぞ?」

「えっ」

「まあ、シウも俺と同じで、結婚できる見込みなさそうだけどな!」

 シウが呆然とする前に、ロトスは自分で言ったことに自分で落ち込んで、また店の隅にいって座り込んでいた。

 彼を慰めたのはブランカで、太い前足でちょいちょい叩いて、だいじょぶ? と聞いていた。ロトスは、お前が可愛い女の子だったらなあと呟いて、彼女を抱き締めていたのだが、ブランカは可愛い女の子なのでそれは間違いだとツッコミかけたシウだった。




 光の日はククールスとアントレーネが飲み過ぎでダウンしていたこともあり、家でゆっくりすると言うから置いてきた。念のためロトスもいるので大丈夫だと思うが、赤子の世話に困ったら連絡するよう言ってある。

 シウはフェレスたちを連れて王都の外だ。

 そこでリグドールたちと待ち合わせていた。

「おー、シウ。待たせた?」

「ううん。元気そうだね」

「元気元気。な、レオン」

 いつもの王都の外の森で、狩りや採取の仕事がてら同窓会だ。

「レオンがさあ、そうそうに飛び級決定したんだけど」

「え、そうなんだ。おめでとう」

 そこで、あれ? と首を傾げる。

「じゃあ卒業決定?」

 以前からお世話になっているクランへ入ると言っていたので、いよいよかなと思ったのだが。

「それが、先生から勧められて、シーカーへ推薦するから行かないかって」

「えっ、そうなの?」

 もう一人、アルゲオも候補に入っているそうだ。他は年上でシウの知らない人たちらしい。

「どうするの?」

「断るつもりなんだけど、先生が後ろ盾になってくれるところを探すから諦めるなって」

「ああ、学費かあ」

 生活費もかかるし、奨学金をもらうのは結構大変だ。

 シウは去年に引き続き今年も枠には入っていたが、他の苦学生のことを考えて辞退した。その分を回してほしかったのだ。

「後ろ盾になってもらうのは、やっぱり嫌なんだ?」

 苦い顔をしているのでそうだろうと思ったら、案の定彼は頷いた。

「紐付きになるだろ? 卒業してからもそこでずっと働くとか、俺は嫌だ」

「そうかあ」

「俺ん家が、融資しようかって言ったんだけど」

 リグドールも友人のことをなんとかしたいと親に掛け合ったそうだ。将来有望な人間に融資するのは持てる者の義務とも言うから、彼の父ルオニールも了承したようだが。

「返せるかどうか分からない。友人の父親に、そんなこと頼めない」

「じゃあ、僕が融資しようか?」

「は?」

「友人だったらいいんじゃない?」

「……あのなあ」

 レオンは呆れた顔になって、それから眉間に皺を寄せた。そんな顔になっても森歩きはきちんとしていて、辺りを気にしているから偉い。

「友人にお金は借りたくない」

「あ、うん。でも、すぐ回収するよ」

「はあ?」

「向こうでパーティー組もうよ。今も仲間たちと毎週末ギルドの仕事を受けたりして、結構な額になるんだ。学費なんて自分で稼げるようになると思うよ」

 少なくとも、ロワルで稼ぐよりはずっと実入りは良い。

 冬のルシエラ王都なんて冒険者は引っ張りだこだ。シーカー魔法学院に推薦されるほどだから魔法も使える。となると、シウがいない時でもあちこちから呼ばれて働けるはずだ。

「あっち、魔物も多いんだ。最初は大変だろうけど僕等がいるし。シーカー魔法学院の生徒だって分かるとルシエラの冒険者ギルドはものすごく丁寧に扱ってくれるよ。冬は稼ぎ時だから帰省できないけど、夏は戻ってこれるし」

「マジか」

「うん、マジマジ」

「シウが言うと変だな。まあいいや。ていうか、レオン、すっげいい話じゃないか!」

「あ、うん、いや、でも」

「寮もあるけど、レオンだったらカスパルも知ってるし、下宿したらって言ってくれるよ」

「いや、そこまでは」

「あ、アルゲオが屋敷を借りるならそっちで下宿って案も」

「おい」

「下宿、いいよー」

「お前はな!」

「てか、シウやりすぎてない? カスパル様が良い人だからこそ許してくれてんだぞー」

 やりたい放題やれるので、今となっては下宿最高だ。でも、リグドールにも叱られたが、シウはやりたい放題やりすぎている。少しだけ反省した。


 とはいえ、冒険者ギルドで働きながら学生をやるのなら、下宿の方が良いと思う。寮だと門限があって面倒だし、宿暮らしは高くつく。自分で借りるなどしたらもっと大変だ。だから、そこは考えていてねと念押しした。

 シウもカスパルに話をしてみるからと、請け負って。

 レオンも、アルゲオに頼むよりはそっちの方が何倍も良いと言って、ならば無理しない程度に聞いてみてくれと前向き発言になっていた。

 でも、なんだったらシウが屋敷を借り切って、そこに呼んでも良いのだから、そこまで深く考えずにシウは胸を叩いたのだった。

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