093 飛行系魔獣との戦い方、成長、部屋




 羽のある蛙の魔獣ウォラーレラーナの群れを倒すと、すぐさま解体を始めた。

 細かな作業のできないフェレスとブランカ、クロたちは周囲を警戒だ。ロトスは人化して解体の手伝いをしてくれた。

「蛙ってー、食べられるって聞いたけど」

「食べられるよ」

(戦時中食べた?)

(僕は食べなかった)

 ロトスと念話交じりの会話をしながら、目玉をくり抜き、どんどんとスライム製の袋に入れていく。肉は強力な脚の部位が一番美味しいらしいので、鑑定して毒もないことを確かめてから後脚部位だけ切り取った。丁寧に処理すれば本体も食べられるようだが、そこまでしてと思うのと、ウルバン=ロドリゲスが『ピリリとして案外おいしい』と末尾に書いてあったので、嫌な予感がして捨てることにした。

「残りは焼却処分だね」

「燃やすの、やっていい?」

「いいよ」

 穴を作ってゴミは放り込んでいたので、ロトスがそこに枯れ枝などを用意して捨て、火属性魔法を使った。

「んーと、《火の精霊よ、我に火の恵みを与えたまえ、点火》」

 これまでも練習していたので小さなロウソク程度の炎は生み出せていたが、きちんと対象物に火を付けることができた。

「やった!」

「うん、上手だね」

 手元に出すのと、少し離れた場所へ出すのとでは難しさは格段に違う。

 安定しているし、操作も上手だ。

 アントレーネもへえと感心していた。

「やはり、聖獣様だからだろうか。すごいものだ」

「そう?」

 えへへ、と可愛らしく喜んでいるが、

(聖獣だからってよりは、前世でゲームやってたからだろ、やっぱ)

 などと案外冷静に考えているロトスなのだった。


 魔法はイメージ力が大事で、ふわふわっとした思考程度では実行までに移せない。

 確固たる強い意思も必要だ。

 そういう意味では、地球の日本という場所で生活していたシウやロトスは、この世界の人と比べたら優位だろう。

 シウはゲームをした経験はほとんどないが、テレビっこ(爺)であったため、イメージ力はある。割と柔軟な方だったため、情報も素直に受け取っていたところがあった。

 スマホは持っていなくともパソコンは持っていたし、これでなかなか当時としては最先端爺だったのだ。

 強い意志については言わずもがな。

 ロトスにも言われたが、頑固なところがある。

 ロトス自身も、若いなりに意外としっかりモノを考えるところがあって、魔法を覚え始めたら使えるまではあっという間だった。

 人化の時もそうだが、覚えるまでは時間がかかるものの、覚えたら早い。


 ロトスは言葉も急速に覚え始めており、成長に伴うものなのか、舌っ足らずなところも徐々になくなっていた。

「レーネ、あれぐらいでいい? もっと火を出す?」

「いや。もういいだろう。軽く土を掛けておけば、これなら残り火を気にしなくても大丈夫だ」

「分かったー」

 ふたりのやり取りを聞きつつ、シウは目玉を浄化してからひとつずつラップにして、空間庫へ放り込んでいた。

 そこに周辺の偵察に行っていたククールスが戻ってきた。

「南東側で、大物だ」

「大物?」

 聞くと、メガロイェラキという鷹に似た魔獣がいるという。大きさは五メートルから七メートルほどで、鷹とは比較にならないほど大きい。

「群れ?」

「いや、微妙だな。四から五匹ってところだ」

 鳥なら一羽と呼びたいところだが、魔獣なので「匹」である。

 五匹までなら、群れとは言いづらい。ククールスの言うとおり微妙だ。

「でも、フェレスやブランカの訓練にはちょうど良いんじゃないか?」

「そうだね。じゃあ、すぐ出発しよう」

 ということで、フェレスたちを呼び戻し、早速南東に向けて足を進めた。


 一際高い山があり、シウたちのやってきた側が切り立った崖の底になっている。

 遙か頭上にハーピーの巣、中腹あたりにガーゴイルの巣があり、魔獣が混在する崖地のようだった。

 メガロイェラキは別の場所からやってきて、これら魔獣の巣にある卵を目当てにしているようだった。

 卵には魔素が詰まっており、ご馳走なのだ。

 もっとも、ロトスやブランカ、ククールスといった美味しそうな魔力持ちを発見し、彼等の目当ては変わった。

「あたしも魔力はある方だと思ったけど、さすがに彼等には負けるね」

 魔獣が自分を目当てに来ないことから、アントレーネは苦笑していた。

 シウとフェレスも狙われてはいたが、小さいことや弱いことから簡単にやれると思ったらしい。ロトスたちへ対する強い欲、執着とは別のもっと気軽な感じが伺えた。

 強い個体はロトスを、弱い個体がシウを狙っているようだ。

 やはり、魔力を感知する能力が魔獣にはあるのだろう。


 ロトスは囮役を引き受けて逃げ回っていた。顔はちょっと引き攣っている。

 赤ちゃんだった頃のことを思い出してしまったのかもしれない。一応、彼の護衛として傍にフェレスもいるのだが、当てにしてないのか、必死の様相である。

「ロトス、こっち。途中でフェイントかけて」

(わっ、分かった、わわっ)

 ウルペースレクスの姿だと速いのだが、気持ちが焦るのか時折つんのめったりしていた。が、上空から狙いを定めて突っ込んでくるメガロイェラキからはちゃんと身を躱せている。少し危ないなと思っても、フェレスが鼻でツンと押してやったり、あるいは反撃して爪で引っ掻いていた。

 そうして囮役をこなしている間に、クロとブランカが上空からメガロイェラキを追い込んでいた。

 今回はクロも参戦して、メガロイェラキたちとの戦いの場を縫うように飛んでいる。フェレスの指導の賜物で、ちょこまかと上手に軌道を変えていた。

 メガロイェラキは大型魔獣の例に漏れず、細かい進路変更が苦手だ。上空を優雅に飛んで、狙いを定めて突っ込むタイプだから、クロを捕まえられない。そして彼等の飛行を妨げるようなクロの動きに、イライラしているようだった。

 その動きに乱れがあるところへ、ブランカが襲い掛かる。

 一撃必殺で、大きな前足を勢い良く振り下ろしながら爪で屠っていく。

 アントレーネが地面からクロに動きを指示し、ブランカはそれに従って倒していくのだ。

 囮役のロトスは、ククールスの笑いながらの指示通り走り回り、最後はハアハア言いながらへばっていた。

 フェレスは最後まで守りきったと、騎士ごっこを楽しんでいたようだ。


 倒したメガロイェラキを解体する前に、ガーゴイルたちが騒ぎに気付いて出てきた。

 ハーピーは狩りに出ているらしく巣にはいないようだったので、ガーゴイルの相手だけして帰路についた。

 秘密基地に戻るとロトスやブランカはぐったりして、クロも少し疲れていたようだが彼等ほどでなく、シウの頭の上で解体の様子を見ている。

 フェレスは元気いっぱいで、周辺を見回ってくると飛んで出ていった。

 ククールスはもう仕事は終わりと、勝手に小屋から椅子を持ち出して、お酒を片手にのんびり景色を楽しむ。

 フェレスとククールスは安定のマイペースだ。

 アントレーネは武器の手入れなどをしていたので、性格の違いがよく分かる。

 シウは解体の残りを済ませ、夕飯の用意に取り掛かった。

「あたしも手伝うよ」

「ありがと。でも、レーネ、料理苦手って言ってなかった?」

「……お、覚えるよ」

「うん、まあ、見ててくれるといいかな?」

 アントレーネの顔にしっかりと、料理は嫌い、と書いている気がしたのでそう言ってみた。彼女は素直に、手を引っ込めていた。




 翌日は崖の巣へ向かった。

 転移ではなく、飛行でだ。だから一日かかった。

 ただ上空を飛んでいくだけなら一日かからなかっただろうが、なにしろ飛行系魔獣が多くてその都度倒していたし、まだまだスピードの遅いブランカに乗っての移動だから仕方ない。

 ククールスも一日中飛行板に乗っての移動は疲れると、途中からフェレスに乗っていた。魔獣を倒す方が楽だとぼやくほどで、案外「飛び続ける」というのはしんどいものなのだ。

 考えるに、飛竜乗りというのは普通とは違うのだろう。特にキリク率いるオスカリウス家の飛竜騎士たちは、やっぱりどこか、他とは違っている。

 かつて何度か強行軍に付き合ったシウは、思い出し笑いをして、ロトスから気味悪がられてしまった。


 その夜、崖の巣では、シウの思い出し笑いの理由を肴にして大いに笑いあった。

 また崖の巣を作った時の話や、炭酸水のこと、いつか炭酸温泉に入りたい野望なども話して、ククールスには呆れられ、アントレーネには応援されたりした。




 翌朝、皆がまだ寝ている間に、崖の巣を少し広げておく。

 避難場所としているここに、ククールスやアントレーネも来るのだとしたら手狭だろうと思ったのだ。

 昨夜はロトスが、アウレア用に作った部屋だけは皆に隠そうとしていたので、やはり個人の部屋というものは大事なのだと気付いた。

 コルディス湖畔の山小屋などは大部屋で過ごしていたし、ブラード家でも個室にこだわっていなかったが、ロトスは嫌だったのかもしれない。

 彼ももうそろそろ思春期に突入するような成長具合だ。

 だからロトスにも、そして他の人たちにも個室を用意しようと張り切った。

 防音もしているし、結界を張って魔法で作るから早い。

 岩石魔法と空間魔法を併用しつつ広げていき、廊下を作り、部屋には板を貼ったりして形にした。家具などの配置は各自の好みにすればいいかと、そこまで終えてから居間に戻ると、アントレーネがまず起き出してきた。

「シウ様、何か、されてましたか?」

 まだ寝足りなさそうな顔をしながら――そんな顔をすると少女のようだが――アントレーネが聞いてくる。

「うん。増築してた。みんなの部屋を作ったりして」

「……えっ?」

「だから、レーネとか、ククールス、ロトスの部屋をね。僕とフェレスたちは一緒の部屋だけど」

 一応、希少獣用の部屋は別にして、シウの部屋と続きにしただけなのだが。

 そうしたシウの説明に、アントレーネはぽかんとした顔をして、それから破顔した。

「あたしの部屋まであるんですか……シウ様ってホント……」

 変な主だよ、そう小声で付け足して。

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