094 間取りと空気穴、訓練と甘えん坊




 アウレアとガルエラドの部屋、その横にロトス、ククールス、アントレーネ、客室と並べて、シウの部屋は入り口と厨房に近い場所へ置いた。居間も隣り合っている。

 こうなるとお風呂も本格的に温泉を引きたいものだ。

「また、凝り性の顔してる」

「え、そう?」

「うん。たんさんおんせん、ねらってるんだろー」

 ロトスに指摘されて、シウは苦笑した。

「とりあえず、抜け道側の、この上、地上の確認をしないとね」

 言い訳するように答えると、ククールスも頷いた。

「空気穴もあるんだろ? じゃあ、先に確認しておきたいな」

「でもシウ様のことだから、対策はしてるんじゃないのかい?」

「あー、うん。一応結界は張ってる。空気穴の途中にも魔道具を仕込んで、毒や煙を排除するようにはしているけどね」

 そうした安全のために空気穴は他にも作っていたが、来る度に必ず確認はしていた。

「蔦が張っていたりしてもダメだしね。フィルターが壊されていても嫌だし」

 虫が入り込んでいたら、自分はともかくロトスは絶対気持ち悪がるだろう。アウレアも繊細そうなので、以前部屋を作った時にフィルターを付けた。

「とりあえず、この崖の上に行ってみようか」

 ということで張り出し台から各自飛び出た。


 崖の上は毎回綺麗に整備しているので、どこか人工的な気配が漂う。低木が多いし、間引いてもいるので森という感じは全くない。

 岩をところどころ、カムフラージュ的に配置しており、草はあまり生えていない。草木が多いと虫も発生するので整地したのだ。

 と言っても、住居の上部分のみだ。少し離れて周辺には林があり、やがて森へと繋がっている。

 ただ、上空からだと降りてきやすく見えるかもしれないので、岩を配置したのだ。

 これだと微妙に降りづらい。特に飛竜などの大型種には降りてほしくない。

 もちろん、ハーピーなどにも近付いてほしくないので、あちこちに惑い石と魔狂石を置いて、結界も張っていた。

「なんだろう、この不快感」

 アントレーネが不調を訴えるので、かくかくしかじかと説明したら、ククールスから、

「やりすぎだろ」

 と怒られてしまった。

「狩人の里へ行った時、俺、あれでも結構辛かったんだぞ」

「え、そうなの?」

「まあ。ほら、お前を連れて行く手前、格好悪い所見せられないしさ」

「そうだったんだ」

 びっくりしてククールスを見たら、バツの悪そうな顔をしてそっぽを向いた。

「里へ入ったら楽になったし、慣れたらまあ、大したことはなかったけど」

「そうかあ」

「俺もちょっと変。でも平気」

 だから落ち込むなよとロトスがポンポン叩いてくる。ククールスはそれを見て苦笑しながら、肩を竦めた。

「ロトスは聖獣だからだろ。フェレスも大丈夫だったし、俺たち人間や魔獣とはやっぱり違うんだよ」

「そっかあ。俺、聖獣様だもんね!」

 元気よく笑うロトスの頭を撫でながら、ククールスはアントレーネに向き直った。

「最初は辛いだろうけど、体内魔素をじっくり練り直して、魔法の基礎をさらうつもりでやりゃあマシになるよ。俺もやったが、まあ、結果的には良いことだらけだから」

「そ、そうなのか。分かった。……あたしも強くなれるんなら、訓練するのはやぶさかじゃない」

 悲壮な顔をして言うので、シウは申し訳ない気持ちで眉がへにょりと下がるのを感じた。


 ククールスがアントレーネに体内魔素の感じ方を指導するというので、任せる。

 彼が言うには、同じ目に遭った人間からの指導の方が良いだろうということだ。シウは最初からできていたので教えるのに向いていないらしい。

 なるほどと思って、シウたちは周辺の探索に出た。

 いつもやっていることだが、今回はクロとブランカも実戦を交えての探索だ。フェレスは前面に出さず、クロとブランカで一掃する。ロトスも一緒だが、あくまでも見学だ。

 かなり魔獣の姿にも慣れてきたので、この調子で頑張ると本人もやる気に満ちている。

 まだ怯えているところもあるが、聖獣は強いのだということを感じられてきているので、少しずつ自信につながっているようだった。


 森では、ウォラーレタルパという、空飛ぶモグラを相手にした。飛ぶと言っても羽はなく、空飛ぶ蛙同様に射出してきて風属性魔法で飛行を続けるという、魔獣だ。一メートルもある大きさなので、一度地面に落ちると再度飛ぶには射出場所が必要で、地面に潜って踏ん張らないといけないことから、倒すのは案外簡単だ。ただまあ、突然射出されてきたら、気配に気付かないと危険ではある。

 しかし、ブランカはこの魔獣をとても気に入ったようだ。

 シュッと飛び出てきたモグラ、大きいのでモグラとはもはや呼べない代物だが、これに目を爛々と輝かせ前足ではたき落としていた。爪がシャキーンと伸びて、あっという間にとどめを刺している。

 クロには攻撃する力も魔法もないが、気配は分かるらしくてブランカに、あっち、こっちと、場所を教えていた。ふたりが連携してモグラ叩きをしているのを、シウたちは少し離れた場所から笑って見学した。


 このウォラーレタルパは肝臓が滋養強壮の薬になり、高価だ。それ以外は特にお金になるわけでもないので肉はまとめてラップして空間庫に投げ入れ、肝臓は丁寧に処理して仕舞った。毒があるわけではないので、肉はまた何かに使うつもりだ。

 こういう、何かに使うだろうという素材が多く溜まっているのだが、いよいよシウの空間庫はゴミ屋敷状態になってきている。一応中は整理されているのだ。ちゃんと脳内でツリー型に区分けされているのだから。ツリー型なのはシウの前世でのパソコン操作イメージから来ているようだ。ロトスと話していて気付いた。

 というわけで、食べない魔獣の肉がたくさん溜め込まれている。

 食べる素材も異常に溜まっていることには目を瞑っているシウだった。


 その後、薬草探しに、食べられる山菜と果実の採取、山歩きに必要な情報をロトスに教えながら森を探索した。

 時々、魔獣とも戦う。

 水辺ではアクアアラネアもいて三メートル級の水蜘蛛の姿にロトスが慄き震えていた。

「あれ、防御防水布に使われる高級素材なんだよ?」

「そんなこと言われても、クモ!」

「まあ、蜘蛛だよねえ」

(俺、ファンタジー好きだけど、リアルファンタジー嫌い!)

 地団駄を踏んで、ロトスは子狐姿でぐるぐる回っていた。喜んでいる時だけでなく、動揺している時も回るのかと、シウは苦笑して眺めた。



 崖の巣へ戻ると、アントレーネが飛行板を乗りこなしていた。

 どうやら体内魔素を感じる訓練を終えて、飛行板の訓練に移ったようだ。

「体幹を鍛えられるって言ってただろ? 飛行板の上級テクニックの訓練にもちょうど良いと思ってさ」

 ククールスが戻ってきたシウにそう言うと、アントレーネが降りてきた。

「なかなか体内魔素を練り直すってのができなくてね。気分転換にとこっちをやってたんだが、やっぱりまだまだだね」

「いや、戦士職だけあって物覚えが早いし、安定してるぜ? 冒険者仲間でもこうはいかない」

「そうかい?」

 アントレーネは満更でもない顔をして、嬉しそうに答えていた。

「まあ、体内魔素の感じ方はおいおいやってればいいんじゃない? それより、飛行板にも安定して乗れてきているし、レーネも専用の飛行板を持っててもらおうかな」

「え、いいのかい?」

 驚かれてしまった。

「もちろん」

 何故そんなに驚くのかと逆に思うが、彼女は申し訳なさそうに耳を倒してしょんぼりしている。

「え、どうしたの」

「……あたしは、してもらってばかりで。まだ何も返せてないのにさ」

 喜んでしまった自分を恥じているらしい。

 なんとも可愛い人である。

 シウは、笑って彼女の腕をぽんと叩いた。まだ肩を叩けるほど背が追いついていないのだ。

「冒険者パーティー、組んでくれてるでしょ。ロトスのことも引き受けてくれた。これ以上、何をもらうんだよ」

「そうだよそうだよ。俺なんて、すごく大変なことシウに押し付けてるんだぜ!」

「ロトス様――」

「レーネがそんなにしょんぼりしてたら、俺もっとしょんぼりしないといけないよ。俺が一番迷惑かけてるんだからね!」

 何故か胸を張って――人型に転変していた――ロトスは声を上げた。

「でも、シウはこんな俺でも大事だって言ってくれた。だからいいの。レーネも、もうそういうのは言わなくていいんだから!」

「……そうだよ、レーネ。ロトスの言う通りだ」

 シウがアントレーネの手を取り握ると、彼女もまた握り返した。それから感極まったようにシウと、それからロトスを引き寄せて抱き締める。

 何も言わないが、感動しているようだ。

 それを見て、ククールスがふふーんと鼻歌のような、口笛を吹いていた。

 どうやら彼は彼で、照れ臭かったようだ。

 ちなみに、フェレスは羨ましかったのか突撃してきて、シウたちは巻き込み事故に遭った。その上にブランカまで飛んでこようとして――。

 幸い、クロとククールスに止められて、ブランカとの事故は起こらなかった。



 その夜、甘えん坊になったフェレスとブランカ、そして相変わらず甘えるのを我慢しようとするクロの三頭には十分マッサージをして遊んであげた。

 何故か自分もと、ロトスまで聖獣姿で混ざってきたので、本当に前世人間で青年だった彼は大丈夫なのかしらと思いつつ、彼も撫でてあげたのだった。

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