090 打ち合わせと秘密共有
翌日、ククールスが屋敷へ遊びに来た。
これから度々パーティーを組むことが決定しているので、打ち合わせ兼、仲良くやりましょうという集まりだ。
アントレーネも子供を紹介したかったようだし、ククールスもリュカの顔を見たかったようだ。
「大きくなったなあ!」
「前も言ったよ? そんなにすぐ大きくはならないんだよ?」
そう言いながらも、リュカは嬉しそうだった。
そのリュカはガリファロを抱っこして連れてきた。スサがカティフェス、シウがマルガリタを抱っこしている。
アントレーネは何もせずに使用人用の客間にあるソファでゆったり座っていた。
「なあ、レーネの子供だろうに、なんでこいつらがあやしてるんだ?」
ククールスが怪訝そうに聞くのに、アントレーネは肩を竦めて答える。
「だって。あたしが抱いてたら、スサたちが怒るんだ。乱暴すぎるって。もっと繊細に持たないとダメなんだって」
「ははあ。なんか、想像つくわ」
呆れた顔をしてククールスが笑った。
「俺も、赤ん坊の世話とか苦手。ふにゃふにゃしてて、どこ持ったらいいか全然わからん」
「あたしもずっと戦士として働いていたからね。力加減がいまだに分からないんだよ」
ふたりが顔を見合わせて納得している中、ロトスがやってきた。
フェレスとブランカ、クロと一緒にだ。
スサはシウの顔を見て、すぐ、部屋を出ていった。
これから大事な話をするのだと、気付いたようだ。
パーティーを組んで動くことが多くなるのなら、ククールスにもロトスのことを話しておこうと思った。
彼のことは信用しているし、仲の良い友人でもある。
そして信頼できる冒険者だ。強い冒険者というだけで、安心して話せる。
「お、この間のチビじゃないか。あれ? 綺麗な顔してんなあ。そんな顔だったっけ」
不思議そうに首を傾げる。先日は認識阻害をかけていたので、ククールスでも細かいところまで顔認証できていなかったようだ。今は首輪を外しているのでロトスの素顔そのままだった。聖獣の常として途轍もない美しさなのだが、美形と名高いエルフからすれば「綺麗な顔してんなあ」で終わるらしい。
「この子、僕が拾ってきたんだけど」
「前に言ってた奴のことか」
それで? と視線を向ける。
シウはどうせならとアントレーネに対しても詳細を話そうと決めて、ふたりに向かった。
「レーネはもう分かってるだろうけど、改めて。ククールス、この子、ロトスは聖獣です」
「はっ!?」
アントレーネはシウの言葉を噛み締めていた。聖獣だとは言ってなかったが、聖獣だと信じ切っていた彼女だ。何度も頷いている。
そもそも、いくらなんでも一年で成人するという種族はいないのだ。特にアントレーネは小国群出身で、あちらには多種多様の不思議な生態の種族がいる。その彼女が、ロトスの本性に気付かないはずはなかった。獣人族の中には聖獣信仰が根強く残っているらしいが、それらは西の小国群に多い。
彼女が最初、フェレスたちと出会った時に「良い匂い」がすると言ったことがある。あれは聖獣の匂いのことだったのだ。
でも、彼女は屋敷の人と同じように「事情のある子供」として表向き接してくれていた。
一度は拝んだこともあるアントレーネだが、最近はすっかりロトスを普通の子として扱っている。
が、ククールスは唖然としたままだ。
「聖獣?」
「そうだよ!」
ぷりっと体を振って「あざと可愛いフリ」で、ロトスはククールスを見上げた。満面の笑みだ。
「変身してみせようか!」
「お、おう。だったら、まあ、やってくれよ」
仰け反り気味に狼狽えながらも、ククールスはロトスの提案に頷いた。
ロトスも悪ふざけが入っているが、シウの親友だと信じているからこそで、安心できる仲間を増やしたい気持ちもあるのだ。
本性を表すことで信じてもらいたいという、子供のような思いも。
ロトスは、えいっ、と可愛い声を出して転変した。
「きゃん!」
「うおっ、マジだった。マジだ。マジかよ……」
「ああ、ウルペースレクスだったのか。なんともはや、いや、可愛い聖獣様だ」
ククールスは呆然と、アントレーネは笑みを零してロトスを見つめていた。
およそ、キリクやシュヴィークザームに説明したのと同じこと、そう、神からの天啓により助けに向かった、というところまでを二人に話した。
どうせなので、空間魔法を持っていることも。
ククールスは「ぎょえっ」と、イケメンエルフ(ロトス命名)らしからぬ驚き方をしていたが、アントレーネは別の方向でシウに驚いていた。
「神の愛し子であられたのか。あたしは、なんてすごい方を主に持ったんだ……」
「あの、レーネ?」
「シウ様。あたしは、シウ様の奴隷になれて良かった、本当に感謝しかないと常々思っていたけど、今は誇りでいっぱいだ。あたしはシウ様のために命をかけて尽くす。だから――」
「レーネ、レーネ、落ち着いて。信仰心あつすぎ。神様そんなに偉くない」
「シウ、セリフおかしいよー」
「ロトスは黙ってて」
「はーい」
ロトスは自ら口チャックして――その仕草は古いんじゃないだろうかと思ったが――ニコニコ笑ってソファに座った。
「愛し子じゃないし、どちらかというと遊ばれてるの。だから、そんな目で見ないでね。で、スキルが特殊だっていうのもあって、いろいろ隠していたんだけどロトスを守るにはそうもいかないから」
「……ああ、それで今、俺たちに話そうと思ったのか」
「うん。レーネは今は僕の奴隷ってことになってるけど、もう家族同然でしょう?」
「はいっ!!」
「いや、そんな兵士みたいな返事いらないからね?」
ソファではロトスが声を殺して笑っていた。
「とにかく落ち着いて。で、ククールスは僕にとっては親友だし」
「おおう」
ククールスは照れたような、ちょっと嬉しそうな顔で返事をしてくれた。
「巻き込んで悪いなあと思うけど、ロトスのことや、この子たちのことを気にかけてくれる人が欲しかったんだ」
「おう、そりゃいいが。俺でできることなら手助けはする。でも、俺で大丈夫か?」
「もちろん。事情を知ってて頼りになる人ってそういないもん」
素直に褒めたのが気恥ずかしいのか、ククールスは頭をガリガリ掻いて、ロトスの向かいのソファに座り直した。
ふたりには、シウが転移できることを知ってもらったが、対外的には《転移礎石》と《転移指定石》を対として使うので気をつけてほしいと頼んだ。
そのうちまたキリクやシュヴィークザームと会うこともあるだろうから、彼等についても簡単に話した。
アントレーネは国が離れていたこともあって、英雄と呼ばれるキリクのことについては知らなかった。名前だけスサたちから聞いていたようだ。
「シウ様の後ろ盾の貴族だとしか聞いてなかったから、そんなすごい飛竜乗りだとは知らなかったよ」
「すげえんだぞ、あの人。そりゃ英雄と呼ばれるはずだって思ったからな」
ククールスが目を輝かせて話すので、アントレーネと、そしてロトスもワクワク顔になった。
そのため、それからしばらくの間、みんなの話題はキリクの倒したグラキエースギガスの話になったのだった。
話に夢中なので、赤ちゃんたちはシウが面倒を見ていた。
時々口を出して飛竜のひねりこみ攻撃がどれだけすごい技なのか、注釈する。
ククールスからは、なんでそんなこと知ってるんだよとツッコミが入ったが、ロトスは念話で、
(お爺ちゃんだもんなー。やっぱ、戦闘機の技には詳しいんだ)
などと伝えてきた。
「いや、違う。当時はそういう情報知らなかったからね?」
「え、そうなの?」
(あれ、戦争行ってなかったんだっけ)
「行ってないよ。病弱だって話、しなかったっけ?」
「お前ら、なにコソコソ話してんだよ。それより、英雄が英雄って言われた話についてだなあ――」
ククールスは意外とミーハーなのかなと、思う。
なんだかんだと他国の英雄話をよく知っている。冒険者の
また話が盛り上がり始めたので、シウはリュカを呼んで一緒に赤ちゃんの面倒を見てもらうことにした。
遠慮するより頼った方が喜んでくれるし、そも屋敷の者は皆が赤ちゃんにメロメロだ。
リュカを呼んだのにソロルも付いてきたし、スサも来てくれた。
「まあ、英雄のお話をなさっているのですね」
「ククールスは冒険者の仕事が長いから、よく知ってるよね。僕の知らない話ばかりだ」
「シウは知らなさすぎるって。せめてオスカリウス辺境伯のことぐらい覚えておけよ」
「あー」
笑って誤魔化した。
それにしても、アントレーネや子供のロトスはともかく、リュカたちまで英雄物語を楽しそうに聞いている。
そんなに面白いのかと、シウには不思議だ。
そういえばエミナも物語本が好きだったし、この世界の人は案外娯楽的なストーリーが好きなのかもしれない。
勧善懲悪というのか、分かりやすい話が特に好まれるようだ。
ククールスのキリク英雄物語が終わると、じゃあ次はとアントレーネが自国の有名な話を始める。リュカもソロルも目を輝かせていた。
スサはメイドとして切り替えができるようで、そろそろ昼の用意をしてくると言って、部屋を出ていった。
午後も、庭に出たりはしたものの、楽しく話をして過ごした。
庭では赤ちゃんを日光浴させ、フェレスを先生役にしてクロとブランカが走り回って遊んでいた。ロトスもちょっとだけ羨ましそうにしていたけれど、まだスサたちに聖獣だとは教えていないこともあって我慢している。
代わりに、ククールスとアントレーネに面白話を強請っていた。
ククールスは冒険者として一流だし、アントレーネも他国の戦士として先頭を切っていたので、前世が二十歳という若者だったロトスには楽しい内容だったようだ。
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