073 血族至上主義についてと序列の話




 そこで、オリヴィアが口を挟んだ。

「でしたら、対等であれば構わないということですの?」

「分別のつく成獣頃になっていれば、ですけど」

「……誓約魔法でしたら、可能じゃないかしら? 契約魔法は、取り決めに応じて対等にもできるのですが、希少獣相手ですと、召喚魔法と同じく主と従に分かれてしまいますの。聖獣でも同じことです。宮廷魔術師の中に契約魔法持ちがおりますから、ええ、確かに間違いありませんわ」

「誓約魔法って、契約の上位だったか?」

「キリク様、そのような魔法はほとんど存在いたしませんよ」

「だそうだが?」

 キリクが半眼になってオリヴィアを見る。その横に座るロトスは、さっきから硬直していた。話の真剣さについていけないのと、シウの言葉を咀嚼しているようだった。

 念話で時折、唸るような言葉が届く。

「いいえ、ユニーク魔法と言われていますが、ないこともないの。それにハイエルフがそれを持つと言われていますわ」

「へえ。そうなのか。ハイエルフがなあ」

 あ、アウトだ。

 シウはすかさず手をバツにした。この世界でも意味は通じる。しかし、貴族出身のオリヴィアは分からずに首を傾げていた。

「ハイエルフの案は却下で。ほんと、無理です。ダメ」

「あら、どうしてかしら」

「ちなみにお伺いするのですが、どちらのハイエルフ族にツテがありますか?」

「……わたくしは直接存じあげないのだけれど、師でもある大神官のお話で辿れば、もしかするとサンクトゥスシルワの――」

「あ、ほんと、すみません! ダメです!」

「……何故か、お聞きしてもよろしいかしら?」

「それも言えないぐらい、大問題があるんです」

 シウの態度に、キリクが珍しいものでも見たといった顔で笑う。

「お前、何やらかしたんだ?」

「いや、ほんと、笑い事じゃなくて、本気でまずいんだってば」

 ただそれだけでは彼等も納得しないだろう。

 シウはしどろもどろになりつつ、第三者の話として、さらりと説明した。

 ちなみに、この場での会話は他言しないと最初に取り決めている。

「友人に、ハイエルフの血を引く人がいて、命を狙われているんだ。サンクトゥスシルワのハイエルフ一族は血脈にこだわる狂信的な考えを持っていて、ハーフは血を汚すと言って殺して回ってるんだよ」

「は?」

「オーガスタ帝国が栄えた時代に、帝国と同列に讃えられていたほどの栄耀栄華を誇った一族の、しかも王族の一派らしくて。特にその一派は自分たちを至高の存在だと思ってるから、血へのこだわりが強いみたい。そのせいで、その一派に与しなかった分派を蛇蝎のごとく嫌い、憎み蔑んで草の根を分けて探すほど、執念深いわけ。種族固有の魔法の歪さもあって、関わると百害あって一利なしって感じなの。だから絶対に関わらないことが一番だと、思ってる」

 皆がドン引き状態で、オリヴィアも、頭の上に「?」が見えるほどぽかんとしている。

「滅多にハイエルフには出会えないと聞いていたが、そこまで偏屈なのか」

「その一派はね。で、ラトリシア国にいるエルフのほとんどが、その下についている、というか強制的にかもしれないけれど従っているから、たとえ相手がエルフでも言わないでね?」

「いや、話しはしないし、その必要もないが」

 キリクは呆れたように、やれやれと肩を竦めた。

「とんだ、血脈主義者というわけだな。過去の栄光に未だにしがみついているのか」

 貴族にありがちだ、と笑う。

 オリヴィアがようやく我に返って、眉を下げて謝った。

「ごめんなさい。そんなこととは知らずに」

「いえ。僕も本当は言わない方がいいのかなと思ったんだけど」

「いいえ。知らないよりは知っていた方が良いもの。わたくしも、名前を出したものの、繋がりとしては細くて遠い糸だから無理かしらと、思っていたの。無理で、良かったわ」

「だが、シウよ。俺たちに話して良かったのか?」

 そうなのだ。少し悩んだことも確かだ。しかし、それとなく知らせておくのも良いことではないかと思った。

「情報を出して、いざ何かあった時に即、守ってもらえるかもしれない。なんて打算が一瞬の間に」

「お前はなあ」

 呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな声音で笑う。

「ロトスのことも親身になって助けてくれてるし。キリクたちなら信用できるかなと」

「ちっ、この性悪め」

 身を乗り出して、ガシガシとシウの頭を掻き混ぜると、キリクは歯を見せて笑った。

 それから、少し真剣な顔になった。

「ラトリシア国が、他の国に比べてハーフに厳しいのも、そいつらの考えがじんわりと伝わったせいかもしれんな。閉鎖的で暗い国だと思っていたが」

「あら。キリク様。そんな国のお姫様をお迎えしますのに、そのようなことを仰ってよろしいのかしら」

「また、そういう嫌味を言う。オリヴィアも、いい加減、婿の一人でも迎えろよ」

「ほっといてくださいまし」

 ふん、とそっぽを向いてしまった。

 仲の良い二人だ。



 オリヴィアからは、ユニーク魔法と言われている誓約魔法だが、それは一人もいないというわけでもないので、第一級宮廷魔術師という立場として調べられることは調べると請け負ってくれた。

 本当に有り難いことだ。

 ロトスと共に頭を下げて彼女を見送った。

 そのロトスは、部屋で二人っきりになると、ちょっと照れながらぷんぷん怒っていた。

「おれは、おれのこと、ちゃんときめれるからな! しゅじゅーになっても、すきすきって、しないから!」

「あ、うん」

「シウは! いっつも! かってに! まわ、まわり、あれ?」

(回りくどいの! 俺のことが嫌いなのかと思ったじゃんか!)

「あ、ごめんね。嫌いじゃないよ、好きだよ」

(……分かってるっての!! もう!! そういうこと、普通に言うなっての!!)

 きゃんきゃん騒いで(比喩的に)部屋中を走り回ったロトスは、落ち着くとソファによじ登って、ふうと一息吐いていた。

 それから、消えそうなほど小さな声で、

「でも、ありがと。いっぱい、考えてくれて」

 と言ってきたので、言葉ほどには怒ってなかったのだろうと判断したシウである。


 しかし、落ち着いた後、ロトスは本領を発揮した。

 昼ご飯の後、竜舎へ向かいながらこっそり念話で伝えてきたのだが。

(考えたんだけど。もし主従を結ぶなら、その相手には未来の正妻を選んでおかないといけない気がする)

「なんで?」

(だって将来チートハーレムやるんだぜ? そんなことしてたら、主の人、嫉妬するだろ? 聖獣ばっかりモテやがって! みたいに。だからー。それなら、絶対別れない正妻が主で、俺が従ね。んで、残りの女の子たちは正妻に認められたらメンバーに入れるの)

「……認めない場合もあるんじゃない? 主だし」

(そこはそれ、俺の魅力で。じゃなくて、聖獣の魅力で? それに正妻が一番なんだから。序列って大事だよね)

「そうだねえ、序列って大事だよね」

 同時に目の前に、賢く座って待っている子たちを見て呟いた。

(この中で一番はだれ?)

「賢さとか、そういうの関係なく言うなら、フェレスだなあ」

(おお! ていうか、賢さが入ると順位変わるのか。可哀想だな、フェレス……)

「フェレスは一番の子分で、お兄ちゃんだからね。ね、フェレス」

「にゃ!」

「じゃあ、つぎは?」

「次は、クロかな。賢いし、お兄ちゃんやれてるしね」

「きゅぃ!」

「ブランカ、かわいそー」

「いや、大丈夫だと思う。ほら」

 きちんと座っているものの、シウたちの会話を全く気にすることなく尻尾をふーらふらさせているブランカが目を輝かせて見ている。

 おとなしくちゃんと待っていたよ! と、褒めて褒めて状態だ。もう頭の中はそれしかないようだった。

「……かわいそーだって、やっぱ」

 よよよ、と泣き崩れる演技をする。

 シウは笑いながらロトスの背中をぽんと叩いて、それからブランカに近付いた。

「最近ずっとお留守番頑張ってたね。偉いねー」

「ぎゃぅ!!」

「よしよし。今日はじゃあ、いっぱい遊んで、ブラッシングもしようね」

「ぎゃぅん!!」

 きゃあっ、と嬉しそうにくねくねしている。尻尾もぱふんぱふんと、地面を叩いていた。

 そのブランカの横で、クロは賢く佇んでいる。ブランカの尻尾が飛んで来るとさりげなく避けているあたり、能力は一番高いかもしれない。

「クロも、お疲れ様。よく頑張ったね。ありがとう」

「きゅぃ」

 えへ、と嬉しそうに、そして誇らしげに鳴いた。

 彼はトトトと歩くように助走を付けて飛び上がり、ふんわりとブランカの上に着地した。

「きゅぃ」

 そろそろ落ち着いて、と念を送っているようだ。

 その間に、シウはフェレスへ向かう。

「フェレスが一番頑張ったね。ありがとうね」

 ふわふわのカールした毛をくしゅくしゅと混ぜるように撫でた。

「にゃん!」

(なんか、いーなー)

「何が?」

(俺も撫でてー。なんかさあ、聖獣に生まれ変わってから、獣成分多いんだよね)

「あ、気付いてたんだ?」

(気付かいでか。特に人化できるようになる前の、ひどかったこと。あれ、マジでヤバかった。ま、それはともかく)

 辺りを見回して、誰もいないことを確認するとフェレスの影で獣化する。

「しようがないなあ、こんなところで」

「きゃん!」

 えへ、とクロの真似をして鳴く。面白かったので、フェレスにしたよりも強めに、わしゃわしゃと撫でたら、お気に召さなかったらしくて「ふぎゃ、ふみゃ」と変な鳴き声の後、人化して怒っていた。

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