067 ロトスの王都観光




 翌日からは、ロトスを連れて王都観光だ。

 偽装魔法を掛けてはいるが、念のため、目立たないように派手な服は着せていない。

 あくまでも庶民風のもので、近付けば仕立ては良いことに気付かれるだろうが、おとなしめの色合いにしている。

「ロトスは、綺麗な顔立ちをしているみたいだから、変装も大変だね」

「……みたいだから?」

(俺、初めて鏡見た時の衝撃、忘れらんないんだけど! シウの鈍感!)

「前の顔と違うから?」

(ちがーう! いや、違わんのか。じゃなくてさあ、すっげえ、美少年? 美幼児? だからさ、驚いたの。前世の俺、ふつーの顔だったし。イケメンじゃないけど、ブサイクでもないっていう、微妙な感じ。だからさあ、神々しくて目が潰れるって、ほんとにあるんだなって思ったものさ……ふっ……)

 妙な格好で立ち止まってまで演技をしているロトスに呆れつつ、シウは早くおいでと手を振る。

「ちぇ。シウが、つっこんでくれないー!」

「あ、ごめんね。僕の冗談こっちの人にも通じないみたいだし、【ノリツッコミ】だっけ、あれ、上手くないんだよね」

「いいけどー。でも、シウ、ええと」

(美的センスはゼロだね。この美しい顔に、うっとりしないんだから)

 冗談らしいが、通りすがりの窓ガラスに映る自分を見て、両手を頬にやり「ほぅ」と溜息を零しているのはちょっとおかしい。彼はこういう小芝居が好きだ。シウも、見ていて面白いと思うのだが、時々ついていけない。

「綺麗だっていうのは分かるんだけどね。人の顔を覚えるのにも、なんていうのかなあ、見たままの情報、骨格とか形とか色とか? そういう全体の情報としてインプットはしているんだけど。そこに感情が乗ってこないだけで」

(……それを言っていいのは、美形だけだと思ってたぜ)

「あはは。僕こそ、ふつーの顔らしいしね。特に特徴も無いし」

「あんさつしゃ、むき」

 シャキーンと、何かのポーズを決めてみせるので、シウは苦笑しながら彼を近くに寄せた。

「ロトス、後ろから人が来ている時は、それ、止めようね」

「はあい」

 通り過ぎていく商家の下働きらしい男性が微笑ましそうに見ていった。小さな子がきゃっきゃとポーズをとりながら歩いているのが可愛かったのだろう。

「なあなあ、ところでさ」

「うん?」

 自然と手を出してきたので、その小さな手を掴んで歩き始める。

「フェレスたちがいないのってめずらしいね。ふたりだけって」

「そうだね」

「いいの?」

 拗ねたりしないのか、気になるようだ。常に一緒、置いて行かれることを嫌がる彼等のことを、ロトスはよく知っている。

「たまにはね。留守番も覚えさせなきゃならないし、第一、クロはともかく、あの二頭を連れて歩いていたら目立ってしようがないよ」

「そうだよね~。ブランカ、きゅうにすっごく大きくなったよね!」

「びっくりするね」

 体長はフェレスとブランカが、同じぐらいで一・五メートルほどある。フェレスも成獣後に育ってきて、ようやくこの大きさなのに、ニクスレオパルドスのブランカは更に大きくなる予定である。

 見た目は長毛種のフェレスの方が大きそうに見えても良いのに、頭の骨格自体が違うのと、ブランカの太い足を見るとどうしても「巨体」に見えてしまう。まして、長いふさふさ尻尾のフェレスよりも、もっと長くて太い尻尾を持っていると、どうしたってブランカの方が大きいと錯覚されるのだ。

 フェレスも、ある日急に大きくなったブランカを前にして、あれ? と思ったらしい。

 何度かシウに、ブランカはブランカだよね、と確認しに来ていた。

 彼の中でどのような考えが組み立てられたのかは分からないが、ロトス曰く『シウも自分より小さい、けれど自分よりも上』ということを口にして、無事ブランカは子分その二のまま納得できたようだった。

「まあ、そういうわけだから、二人でお忍び観光も良いんじゃないかな。それに、ロトスはずっと部屋で一人お留守番して我慢してたわけだし」

「……うぉぉ」

(男前な発言するなよなあ。シウって、見た目そんなだけど、中身超イケメンだよな!)

 照れ臭いのか、握った腕をぶんぶん振って早歩きになったロトスだった。


 ロトスが見てみたいというので、貴族街を抜けて王城がよく見える場所にも連れて行ってあげた。

 フェレスを連れずに、ローブもなかったせいで貴族街にある門では止められてしまったが、裏書きのある通行証を三つも見せたら、さあどうぞと通してくれた。

「おれ、ぜったい、しんたいけんさすると思ってたのに!」

「通行証がなくても、そこまではしないよ。ギルドカードあるし」

「それ! おれもギルドカードほしいなあ」

「まだちょっと早いよ、って、そうじゃなくて、君は無理でしょ」

「つっこみ、おっけー」

 ニマニマ笑うロトスは、分かっていて言ったようだ。

 しかし、現実問題として、こうして兵から誰何された時に、身分を証明してみせるものが必要だ。

 まさか聖獣に転変するわけにもいかない。

 成獣になる頃には自由に街も歩けるだろうから、それまでに対策を考えておかねばならないなと脳内メモに記す。

「ほら、ここがロワルの王城だよ」

「おおー!!」

 格好良い! とぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

 王城の正門前には大きなロータリーがあり、外国からの客人も通るため美しく整備されている。格下の客の場合は馬車での乗り入れがここまでとなるので、回転場もあるのだ。中央には石造りの小さな建物があって、そこに兵も常駐している。

 正門内側には兵の待機場と、専用馬車が並び、それらに関わる人たちのための屋敷と呼んでいい、建物もあった。こちらも他国の目を気にしてか、見栄えが良い。

「このまま正門から進んでいくと、一番手前にあるのが役所にあたるところで、謁見する人を振り分けたりする第一関門になるんだよ」

「うわー。めんどー」

「あそこまでは馬車に乗せてもらえるよ。そこから、上級役所の本丸とか、王様の仕事場、客人を迎え入れる場所となる王城までがまた遠いんだよね」

「やせるね」

「太ってる貴族も多いけどね」

「え、なんで」

「移動に小型馬車を使うんだって。あと、簡易転移門が仕掛けられていて、上の立場の人は頻繁に使ってるらしいよ。ここだけの秘密ね」

 第一級宮廷魔術師のベルヘルトに教えてもらったので、間違いない。

 あの距離を歩いて何故痩せないのかと思ったら、そういうことだった。

 ちなみにベルヘルト爺さんも、お爺さんだからという以前に体力が昔から貧相だったらしく、移動には専用魔道具を開発して使っている。いわゆる三輪車のようなものだ。

 先日、里帰りした時に遊びに行って、屋敷でそれを発見し教えてもらった。

 屋敷にも設置したのは、これからもっと足腰悪くなるであろう自分や妻を思ってのことだったようで、つくづく結婚とは良い結果を生むのだなと感じ入ったものだ。

「僕らみたいな庶民は、歩いて移動だけどね」

「ひぇ」

「体力はあるからいいけど、普通の人はちょっとしんどいかも」

「そっかあ。じゃあ、いがいと、メイドさんって体力あるのかあ」

「そこ?」

「そこ。おうさまのメイドさん、見たい」

 でも、できれば儚い方向で、と言うので、夢を見るのは良いけどねと笑ってまた貴族街を抜けて中央地区へ戻った。


 喫茶ステルラへ行くと、シウたちは歓迎されて一番良い席に案内された。

 ロトスはさっきから念話で、シウには理解できない言葉を乱発していた。それを無視して、少しだけ店長と話をしたりする。

 時折、こんなのどうかなとレシピを送ってはいたものの、お店自体も新たなメニューを作成して、人気のあるものだけを残していくという手法で頑張っているようだ。

 もしシウのレシピがランク落ちしているのなら、もう送るのは止めようと思っていたが、定番になるほど人気があるから今のままでお願いしますと言われて、了解した。

 でも、一応、ランク落ちしたら遠慮せずにメニューから外して欲しいと頼んだ。気を遣って残される方が恥ずかしい。

 店長はシウの性格をよく分かっているのでにこにこ笑って、そうしますねと了承してくれた。

 そこでロトスがようやく現実世界に戻ってきた。

 彼にメニューを渡すと、ここでも若干意識がどこかへ飛んでいっていたようだが、メイド姿のウェイトレスをそれほど待たせることもなくメニューは決まった。

「ぷちぷちいちごの、パンケーキ、ふわふわクリームのせ。おねがいします!」

「はい、かしこまりました。お飲み物はいかがされますか?」

「ほっとみるくで!」

 認識阻害はかかっているのだが、可愛らしさまでは失われていない。だから、ウェイトレスも頬を緩めてにこにこと注文を受けていた。


 ステルラは他にも系列店をあちこちに出して、成功しているそうだ。ロワル王都以外では、オスカリウス辺境伯領の領都に出しているとか。

 更に別の領からも打診があるとかで、現在、従業員育成に力を入れており、店長も忙しそうだった。

 でもやりがいはあると、ウェイトレスたちも張り切っている。

 店を出るときには、忙しいのにそれぞれが顔を出して挨拶してくれた。ここでお別れになるかもしれないので、ということだ。

 本店で学んだ知識や経験を活かして、各店舗の店長であったり、チーフになるらしい。

「おいしかったー! それにメイドさんのれべる、たかい!」

「そうだね。あれなら、他所でも繁盛するだろうね」

「うんうん。ルシエラにも出してほしいねー!」

「ほんとだね。あ、でも、シュヴィが毎日入り浸りそうだよ」

「あの人、とうにょうになるよ。ちょっとたべすぎ」

 顔を顰め、小さな体で肩を竦めるので、面白くて笑ってしまった。

「聖獣だから、大丈夫じゃないかなあ? 聖獣で太っているの、見たことないよ」

 古書にもなかったので、たぶん、種族特性というやつだ。

(えっ、マジ? じゃあ、俺もどんだけ食べても太らない?)

「かもね。でも、気を付けてね。鏡を見てうっとりできなくなるよ」

「……シウのじょうだん、わらえない! もう!」

 あはは、とシウは笑ってロトスの手を引いた。

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