037 クロのご褒美と闇オークションの話
おやつの時間が遅くなって、ロトスにはブーブーと文句を言われてしまった。半分冗談のようだったが、何故かブランカがロトスを宥めていた。
「ぎゃぅ」
おちつけ、と。
(お前が言うな! さっきまでおやつおやつって騒いでいたくせに!)
咄嗟に人語が出なかったらしく、念話でブランカに怒っていた。もちろん、本気ではない。それが分かるから、ブランカはどこ吹く風で、ふーんと全く気にしていなかった。
むしろ無視して、シウに甘えてきた。
「ぎゃぅぎゃぅ~」
「はいはい。おやつすぐ出すからね」
「シウ、ブランカにあまいー!」
「うんうん。ロトスもおやついっぱい食べようね~」
(幼児語やめれ)
突っ込まれつつ、皆にサツマイモとリンゴのケーキを出してあげた。
出来立てを空間庫に入れていたので熱々だ。そこにバターを落とす。
「おいしそー」
「ロトス、涎落ちてる」
「わわっ」
慌てて袖で拭い、素知らぬ顔をしてフォークを握った。
全員、低いテーブルで食べる。
シウはラグを敷いた上にそのまま胡座をかいており、フェレスも並んで、クロは直接テーブルに乗って、ブランカとロトスだけ専用椅子に座っている。ブランカもそろそろ椅子は必要なさそうだったが、本人が気に入っているので無理があるまでは使うつもりだ。
シウとクロ以外、全員がガツガツと食べ終わると、温めた角牛乳を飲んで一息ついていた。
おやつの後は各自で遊ぶ。
フェレスはブランカの子分教育だーと、コルディス湖に連れて行った。
「あんまり遠くへ行っちゃダメだよ」
「にゃ」
いってらっしゃいと手を振ると、シウはクロを存分に甘やかすことにした。
キラキラ光るものが他の二頭よりも好きらしいので、水晶竜の鱗もあげてみた。
ものすごーく感動したらしく、しきりに甘えてきて、嘴でシウの髪の毛を繕い始めた。
「僕に求愛してもしようがないよ」
「きゅぃ」
「あ、それでいいんだ? 別にいいけどさあ」
「シウ、あまやかしすぎー」
隣でロトスがきゃらきゃら笑いながら転がっている。
グラークルスの求愛行動が面白かったのだろう。
「他に、何かしてほしいことある? 昨日頑張ったし、ご褒美だよ?」
「きゅぃきゅぃ」
首を右に左に振って、くねくね歩き、こういうところはフェレスを見習ったのだなと思わせる。その後クロはぴとっとシウの手のひらに入ってきて動きを止めた。
「きゅぃ」
「これでいいの?」
「いじらしーな。クロ、いつもおとなだから、あまえると、かわいーな!」
「そうだね。あ、ロトスも甘えたいなら、今だと膝が空いてるけど」
(やめてくれー! 俺は女の子の柔らかい太ももに包まれたいんだ! 決してショタではない!)
「……【ショタ】って子供の男の子のことだよね? 一応、言っておくけど、僕もう十四歳だからね?」
控え目に抗議したら、またきゃらきゃら笑って転がってしまった。
せっかく整えた髪の毛も滅茶苦茶だ。見た目は美麗な幼児なのに、中身が二十歳の今時青年だと残念なことになるのだなと、妙な感想を抱いた。
その後は、クロを撫でたり、手のひらで温めたまま本を読んだりして過ごした。
ロトスの勉強も隣で見守ったが、子供の体だからだろう、そのうちくーくーと寝てしまった。クロも暖かくなって眠くなったらしく、途中ものすごく頑張っていたが白目をむいてガックリ来ていた。面白すぎて写真に撮りたいほどだった。
フェレスたちを呼び戻すと、夕方には転移でブラード家へと戻った。
夕方はリュカとも遊んだ。フェレスたちは遊び疲れて遅い昼寝に入っていたからそのまま部屋に置いてきた。リュカとは庭で雪遊びをして、その後、弟子仲間の話を聞いたりもした。
いつも迎えに来てくれる子とは、今度遊びに行く約束もしたらしい。心配した兄弟子が付き添ってくれるそうで、有り難いことだ。
お小遣いをあげようとしたら、すでにロランドからもらっていると言って固辞されてしまった。二重取りはいけないんだそうだ。子供らしからぬ気遣いで、ちょっと泣けてくる。が、本人の意思を尊重しようと我慢した。
夕飯は、シウの予想通り天ぷら祭りになった。
エルシア大河ではこの時期ワカサギが釣れるので、それがメインだ。
野菜もレンコンや山芋、サツマイモ、カボチャ、ユキノシタなどを揚げる。
なんとなく煮付けが食べたくなり、シウはキンメダイの煮付けを作った。魚の煮物はまだあまり受け入れられておらず、これは個人用だ。
歳を重ねた男性の方に煮付けは好まれて、残りの大多数はイマイチなようだった。
この時期、牡蠣やホタテも美味しいので、市場へ行けば毎回のように買い集めているが、天ぷらにするにはメインが増えてしまうので止めておく。
「イカなら、構わないかな」
シウの中では何故かイカはメイン料理にならないのだ。
料理長に材料の追加として渡し、その後は、一品造りに取り掛かった。
ちなみに一品と言いつつ、ほうれん草とコンニャクと人参の白和えを作ったが、それだと簡単すぎるなともう一品、茶碗蒸しを作った。この時期、百合根も美味しいのでちょうど良いだろう。
相変わらず銀杏は集めてきていないが、あれはもう薬なのだと思うことにした。
この匂いが大嫌いなフェレスの為にも、封印だ。
食後、子供たちを寝かせた後に、シウは遊戯室でカスパルたちと話をした。
それとなーく、アイスベルク方面で強い波動があったけれどもう落ち着いたことや、街道の排雪事業が進んでいることなどを話す。
「アマリア嬢のゴーレムがすごく活躍しているそうだね」
「うん。あれだけの巨体を動かせるのはすごいよね」
「国家事業になっていて、商人ギルドでもかなりの経済効果があると話しているそうじゃないか」
「らしいねー」
「何故か、発案者が表に出てこないけれど」
「……良いんじゃないのかな」
「あ、そう」
カスパルが笑いながら、顎に手をやって、テーブルに肘を付く。見ていたロランドが目を細めたけれど、カスパルは軽く手を降って、お小言はなしだと示していた。
「全く、欲のないことだ」
「うーん、欲はあるんだけどね」
本日その一端を自分自身で感じていたので、苦笑いだ。
「そうなの?」
「うん。欲をかいて、珍しい薬草を栽培したりね。貴重な素材を狩ってきたり」
「それはいつものことだね」
「そーだそーだ」
ダンがもう酔っ払っていて、けらけら笑っている。お酒が楽しそうでなによりだ。
「そういうのは欲とは言わないのだけどね」
「そうかなー」
欲深いと思うのだが。特に、時戻しなどの禁薬は守りたい者の命を惜しんでのことで、ある意味、生命の倫理に悖ることだと思う。
言いはしないが、微妙な心理が顔に出たのか、カスパルは穏やかに微笑んで告げた。
「君の欲は、許される欲だと思うのだけどね」
「……そうかなあ」
「まあいいさ。深く考えるまいよ」
それより、と話題を変えてくれた。
「今度、オークションへ参加してみようと思うのだけど、君、興味あったよね?」
「あ、うん。前にクラスメイトが大熊蜂の女王蜂と巣をオークションに出したことがあって、見に行ったことあるんだけど、それしか見てなくて」
「うんうん。実は、闇オークションに行ってみようと思ってね」
「……闇って。いいの?」
ロランドを見たら、渋い顔だ。
「闇と言っても、まあギリギリ許される範囲のものを選ぶけれどね」
「闇にオッケーなのがあるんだ?」
「オッケー?」
「承認? 許されるのがあるんだなーと思って」
「まあね。僕が参加したいのは、発掘品の古代書だし。直接売り捌いても許される範囲なんだよ。遺跡発掘人が、古書店や古書本組合に買い叩かれるよりも一攫千金を狙ってオークションに出すんだ。高騰する場合もあるから危険だし、闇扱いだね。夜に開催されるのもあって、護衛は必須条件なんだ」
「ああ、そういう。だったら護衛がてら行くよ」
「よし。ルフィノ、これでシウを掴まえたから良いだろう?」
「しようがありませんな。ロランド殿も諦められた方がよろしいでしょう」
「あ、もしかして、僕待ちだったんだ?」
返事次第で参加を止められたようだった。困った顔でロランドに視線を向けると、彼は仕方ないと苦笑していた。
「シウ様がご一緒でしたら安全でしょう。仕方ありません。シウ様、若様の護衛は大変でしょうが、どうぞよろしくお願い致します」
「あ、はい。すみません」
「いえいえ。謝るのはこちらでございます。くれぐれも、若様の我が儘をお許しになりませんよう。首に縄をつけてでも」
「こらこら。ロランド、君は心配しすぎだよ」
「坊ちゃまが分別を付けられたら、わたくしももう少し心配の種が消えるのですが」
藪蛇だとばかりに、カスパルは肩を竦めていた。
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