038 論文とコタツ




 火の日になり、午後の授業が終わると、バルトロメに相談して論文を提出した。

 魔獣が人間の魔力をある程度測っていることから、簡易鑑定の能力があるかもしれないなど、実験結果を元に書いたものだ。合わせて、《魔力量偽装》の魔道具で回避ができたことも付け加える。

 下位の魔獣だと、本能的な察知、気配探知と似たような「感覚」でうっすら理解しているだけのようだが、中位、基本的に体の大きな魔獣は簡易鑑定のような能力が備わっているようだとも記した。魔獣を鑑定しても表示されないことからスキルではなく、専門の器官があるのかもしれないが、これはまだ解体などだけでは発見しきれていない。今後の研究によると、締めくくった。

 上位の魔獣にスキル持ちがいることは分かっているが、これらは意外な発見になるだろう。

 いや、冒険者たちには分かっていただろうが、実験をしたり系統立てて論文にしたのはシウが初めてなのだ。

 当たり前のことを、実験して結果にしただけの事だったが、それに加えて回避する魔道具を示したことが新しい形だった。

 バルトロメも《魔力量偽装》の魔道具の仕組みを聞いて、興味深そうにしていた。

「まだ一部の冒険者の人に頼んで実験は続けてもらってますが、おおむね回避は成功だと思います。できれば上の人に認めてもらって、魔道具を広めたいのだけど」

「君の場合、それが商売目的じゃないってところがすごいんだよね。僕は術式を読むのが苦手だけど、もしかしなくても、かなり安く仕上がってるんじゃない?」

「はい。だって庶民にこそ必要なものだし」

「だろうねえ」

 よく考えたなあと、晴れやかに笑う。

「分かった。なるべく、知り合いの学者や、現場に行っている大物先生に声を掛けて、裏付けしてもらうよ。お墨付きがあれば売り出せるしね」

「はい」

 もちろん売り出したとしても魔道具を鵜呑みにしてはいけないが、魔獣避け薬玉と併用すればより安全に移動できるだろう。

 魔獣の被害を避けるためにも、安全な道具は増やしたい。

 そうしたことも説明して執務室を後にした。




 水の日は生産科で、ひたすらコタツ造りに精を出した。

 集熱石があれば良かったのだが、まだ発見されていない鉱脈がシアーナ街道の奥にあるのは探知で分かっているのに、微妙にシアン国へ重なっているので言い出しづらい。

 そもそも、シウが見付けたと言ってもややこしいだけなので、もやもやしている。

 仕方ないので、どの家にも竈はあるから、それを利用しようと頭を切り替えた。ロトスの言う通り、石を火にかけても良いのだが、もう少し安全な方法はないかと思案して、金属板にしようかなと考えた。

 どうせなら、以前から気になっていた酸化鉄を再利用したい。

 これを授業中、繰り返し実験していたら、加熱されて、また鉄に戻った。

 あれ、こんなだったっけと思いながら加熱を続けたらまた酸化鉄になってしまった。

「途中で止めないとダメなのかあ。でも再利用できるんだ」

 本職の鉄工所職人ではなかったため、耳学やテレビでやっていたような知識しかないのが悔やまれる。

 しかし、地道な作業は得意とするところだ。その後も続けて何度も実験を繰り返し、当初の予定ではないが、酸化鉄を再利用するところまでなんとか道筋ができた。


 昼ご飯をそのまま教室で取ると、レグロにお願いして午後も教室を使わせてもらった。

 午後の生徒たちは「あ、またいるな」といった様子で、特にシウに声を掛けることもなく、スルーしてくれた。

 カイロの機能をそのままコタツにしても良いかなと一瞬思ったが、カイロは使い捨てなので少々高くつく。

 その場で再利用ができるものが良いので、もう少し粘ってみる。

 散々あらゆる、熱に関する素材を取り出しては実験を繰り返し、やがて火鶏というとてもポピュラーな魔獣の部位に、目をつけた。

「うわー、【灯台下暗し】だなあ」

 火鶏は、火を噴く魔獣で危険ではあるが、魔獣としては比較的小さく、狩りやすい。

 その肉もよく食材として流通しており、毛以外の部位は捨てるほどだ。

「あー、勿体無い」

 火を噴くだけあって、嘴は熱を貯め、尚且つ火に耐性があった。

 つまり燃えないのだ。

 確認すると、これを粉にして鉄と混ぜてみた。簡単に板にしてから、庭に作った竈へ火を入れてくっつけてみる。

 内部にくっつけても燃えることはなかった。

 配合は後々考えなおす必要があるかも知れないが、第一段階はこれで終了だ。

 その後、直接触ることのできない鉄板を、熱を通さない入れ物にセットし、竈側は受け入れる枠を設置する。竈内部に火を入れる際、邪魔になってはいけないので板状の細身にしてみた。

 板を受け入れ側の枠に入れると、中身がシャコンと飛び出て竈に沿って伸びる。端っこだけ、鉄板を入れていたケースが引っかかって残り、取り出す時はこれを持つのだ。

 触ってみるが、熱は伝わってこない。これは火鶏の毛を乾燥させて粉にしたものを、もはやなんでも係と化してしまったスライムゲルに混ぜて、アルミと混合したものだ。アルミは熱を伝えやすいが放熱も早く、外側を覆うのにちょうど良いかなと適当に選んだものだった。何層かに分けて金属板にしたが、一番外側はニクスルプスの毛を混ぜたものにした。ひんやりとして気持ち良い割に、内側の熱を外に出さない効果がある。ラトリシアに多い魔獣だから、ぴったりの素材だ。

 何度か配合をやり直して、外側のケースも、中身の熱を貯める鉄板も出来上がった。

 温石よりは軽くて扱いやすく、熱の保ちも良い。

 これを、最後にコタツの天板裏側へはめ込むと、木組みで作った内部に通した蓄熱するスライムゼリー入りパイプへ熱が伝わっていく。

「おー」

 普通の綿入りの布団を掛けただけのコタツだが、なかなか良い。

 シウが試していたら、午後の生産科の生徒たちが興味津々で寄ってきた。教室内は暖かいが、まあどうぞと勧めたら皆恐る恐る入ってくる。ついでにレグロも入ってきた。ちょっとギュウギュウ詰めだ。

「おお! あったかいじゃないか!!」

「ですよねー。良かった」

「何やってんのかと思ったら、朝から今まで、これ作ってたのか!」

「今回はものすごく苦労しました」

「だろうな。いつも以上に実験していたものな」

「魔法を使わないっていうのは、大変ですね」

「……魔道具じゃないのか?」

「はい。魔道具だと、庶民が買えないでしょ? 今回は寒さ対策だから」

「……お前やっぱ、頭のどっかがおかしいんだな」

「えっ」

「まあ、いいことだけどな」

 そう言われてみると、魔法学校の生産科で、魔道具でないものを作るのはどうかと思ったが、作る過程では魔法を使ったのだからまあいいかと自分を納得させた。

 レグロも怒りはしなかった。

 元より、シウはもう生産科は卒業扱いされている。アマリアもだが、卒業しているのに居座っている、というやつだ。もしかすると、嫌な先輩かもしれないが、生産科の生徒はそんなことを気にしない子ばかりなので、いいのである。たぶん。



 夕方、早速、商人ギルドに行って、シェイラに相談してみた。

「まだ作ったばかりで実験回数少ないんだけど、できれば商品実験にも付き合ってくれる商家がいれば紹介して欲しくて」

「それは、ギルドがやることよ! もちろん、手を挙げる商家も多いでしょうね。この仕組みは素晴らしいわ」

 大寒波のせいで、死人も出ているそうなので、どこもかしこも暖を取る商品を挙って開発しているようだ。それでも追い付かない。

「一番安上がりなのは温石だったけれど、怪我も多いのよ」

「あ、やっぱり」

「これだと木組みの分、薪にしちゃえって思う人はいるかもしれないけれど、長い目で見れば絶対に安上がりで暖かいわね。そのへんは売る際の注意文句として付けましょう。何よりも魔核を使わないのが良いわ。かなり安くできる」

「うん。素材もできるだけ流通しているもので、安いのを選んだんだ」

「最高だわ!」

 他に、ざっと気になる点を上げてもらい、その場で修正していき、話を通してもらった。特許を取る際もだが、商品ごと持ち込む時もギルドでは動作確認をしてくれるので、担当部署で念入りに見てもらう。いつもなら実験を繰り返して持ってくるが、今回は急ぎだったので任せる。

 本来は使う者の自己責任的な発想が主流だが、商人ギルドへじかに持ち込まれたものはしっかり確認してくれるのがいい。

 後を頼んで、屋敷に戻った。



 屋敷ではロトスの部屋にいち早くコタツをセットした。

「わー、コタツだー!!」

 でんぐり返しで喜びを表すロトスに、まだあるのだよ、と笑いながら魔法袋からあるものを取り出す。

「そ、それは、みかん!!」

「そう。コタツと言えばミカン」

「だよねー。あ、あと、あいす」

「あはは」

(俺、学校の友達に、コタツなんて家にないって言われてびっくりしたんだけどさあ。俺んち親が田舎育ちだったから、コタツ必需品だったぜ。都会育ちのマンション暮らしは、部屋が暖かいんだろうなあって思ったもん)

 まだ難しい言葉になると人語が出ないらしく、ロトスはすぐ念話を使う。

 シウがメッと睨むと、はあいと溜息のような返事で、人語に戻った。

「とりあえず、ひとをだめにするどうぐ、つかおうぜ」

 笑いながら、中に入れる鉄板に直接熱を注ぐ。魔法を使える人間はこうしても良いのだ。

「あったかい~」

 すると、すぐにブランカがコタツの中へ突入してしまった。しかし彼女は普通の猫とは違う。もう成獣間近の巨体である。

「わ、こら、こたつ、つぶれる!」

 コタツ全体が揺れて、天板に置いていたみかんが転がってしまった。

「ブランカ、こら、出ておいで」

「ぎゃぅ」

「寒くないくせに。ほら」

「ねこ、せまいところ、すきだよねー」

「正確にはブランカは、猫じゃないけどね」

 雪豹型希少獣なのである。そのため、尻尾も太くて長い。それがパシパシとロトスやシウを撫でるように当てていく。

「しかえしされた! よし、きょーいくてきしどーだ! まて!」

 ロトスがコタツから出て追いかけてしまった。すぐに獣型に変身する。追いかけるには人型だと無理なのだ。その後はもう大運動会である。

 少ししてちょっとお怒りのフェレスに首根っこを掴まれて、しおしおと二頭が戻ってきていた。どうやら逆鱗に触れたようだ。たぶん、フェレスの玩具を蹴飛ばしたとかだろう。苦笑しながら、シウはクロと一緒にコタツでぬくぬく過ごしたのだった。

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