036 着せ替え、水晶竜解体、一冬草栽培




 思ったより服屋で時間がかかってしまい、シウは店を出ると、急いで幼児用の靴を買ってから屋敷へ戻った。

 ロトスはまだ原始人みたいな格好をしていたが、それはそれで楽しかったようだ。

 子供たちとインディアンごっこをしていた。

 何故か、シウが部屋に入って行くと見られたことに驚いたのか、ガーンと自分で口にしてショックを表していた。


 ロトスに「服買いすぎ」と叱られたものの、スサたちがシウやカスパルたちを着せ替え人形にする気持ちが若干分かったシウである。

「可愛いねえ、ちっちゃい服」

「そこは、かわいいね、ロトスちゃん。と言うところで、ない?」

「あはは。うん、可愛い可愛い」

「……ぜったい、おもってない!」

 ぷんすか、と怒るフリをしているが、それさえも可愛かった。

「思ってるって。聖獣は人型になっても綺麗なんだって言うけど、ロトスも整った顔をしているよ。今は三頭身だけど、将来は【イケメン】になるんじゃない?」

 マジ? と念話で伝わり、それから嬉しそうにでんぐり返しをした。

「あ、まちがった。いま、おれ、にんげんだったー」

「嬉しさのあまりグルグル回っていたの、人間の姿だとそっちになるんだ」

 笑うと、ロトスには笑うなーと怒られてしまった。もちろん、笑顔で。


 念のため、元に戻れるかやってみたいから、見ててな! と言われ、目の前で変身をしてくれた。

「えい!」

 なんとも言えない可愛い掛け声で変身したら、ちゃんと子狐になっていた。

(やっぱこの姿の方が、妙にしっくりきて落ち着くけど。でもまあ、俺は元人間だしな! もう一回やってみる)

 んーっ、と唸って、今度も上手に変身できた。

「やった!」

 できたーと、喜んでまたでんぐり返しだ。

 でも少し、よろめいていた。

「あれれ?」

「もしかして、変身に魔力を使うんじゃない? まだ魔力操作が苦手なのかもね」

 鑑定してみたら案の定、かなり減っていた。

 友人のシュヴィークザームは大人なので分からないが、知り合いのモノケロースの子も、一日に何度も変身することはなかった。驚きすぎて人間の姿のまま、変わらなかったこともあり、幼獣の間は魔力操作が上手く行かないのかもしれない。このあたりは、希少獣全般に言えるので、同じように扱おうと思う。

 ロトスにもしっかりと、幼獣教育を施さねばと、その旨伝えた。

「えー、またべんきょーか。ちぇ」

「でも、魔法使いたいんでしょ?」

「うん。わかった。べんきょーする」

 そうしてほしい。今も変身したせいで、着ていた服が剥がれてしまった。人間に戻ったら元に戻るのかと思ったが、よく考えずとも装備変更魔法が使えないのだ、そんな都合よく服が元に戻るわけがなかった。

 今のロトスは無属性魔法がレベル一しかないので、まだ装備変更魔法は使えない。

 そのため、伸縮可能な首輪に、付与を追加しておく。指輪だと子狐になった時困るので、首輪が妥当だった。

 少し細工して、服が入るだけの空間も作っておく。

「おれも、ふよまほー、おぼえたいなー」

「覚えると便利だからね。頑張って」

「ううう……そうだよな、べんきょ、すること、いっぱいある」

 その場に蹲って泣く真似をするので、はいはいと頭を撫でて慰めてあげた。


 そうこうしているうちに昼が近付いてきたので、全員まとめてコルディス湖の畔にある小屋へ転移石を使って移動した。

「てんいって、こんなかんじ。すごい」

「人の目線だと分かりやすいのか。今まで籐籠の中とか、抱っこしていたからね」

「うん。おもしろーい」

 幼児姿だと、動きまわるのも大変そうだが、これも訓練だと言って本人は家の中を探検していた。

 その間に昼ご飯の用意をする。昨日作っていたものもあるし、作り置きも多いので、そこから簡単に済ませた。

 ロトスは幼児の姿だとかなり食べにくかったようで、しばし幼獣姿に戻るか悩んでいた。いろいろなものを天秤にかけて、結局は幼児姿でフォーク片手に食べることにしたようだ。箸はさすがに無理だった。



 子供たちを小屋の中で遊ばせて、ロトスは勉強をする。フェレスは山の中だが、シウは外で昨日の戦利品を処理することにした。

 水晶竜を一頭取り出し、解体を始める。

 硬い水晶でできた鱗がびっしり生えているので、最初の解体作業はなかなか大変だった。しかしこの鱗は聖別魔法に匹敵すると言われるほど聖なる力が強く、浄化作用があるそうだ。本人たちがあんな感じだっただけに、驚きの装備(鱗)である。また、それ以上にすごいのが、この水晶鱗は、あらゆる魔法を跳ね除けるとされるところだ。シウの持つスキル無害化魔法と似ている。これを加工するのも大変だが、加工できたら、良い装備品となるだろう。

 鱗を剥いでからの皮も、魔法装備に向いた強い素材だ。鞣すのに力は要るが、下処理まで力技でこなした。というのも加工する前の下処理段階では、魔法が使えないのだ。

 道具を魔法で作って、その道具自体を魔法で動かした。面倒くさいが、直接掛けられないのは仕方ない。この道具は、ヒヒイロカネとミスリルを混ぜ込んだ、爺様のとっておきだ。どこだかの遺跡で拾った業物らしかったが、それをただの解体用肉切り包丁にしたのはシウだ。おかげでサクサク切り取れる。

 さて、水晶竜はこうした外側以外は、普通の竜と一緒である。

 捨てるところなど何一つないほど、良い素材ばかりだった。

 大繁殖期に入ってしまったがために大量に死んでしまった雄たちだが、今後、その数以上に同族たちの数は増える。ベビーブーム到来だ。その礎となった彼等には、素材としてちゃっかりいただいたシウがせめてもの冥福を祈る。


 ところで、水晶竜が何故水晶のような鱗を身に着けていたのかと言えば、とても簡単なことだった。巣が石英で囲まれており、彼等はそれを食べていたのだ。

 魔素で生きているのかと思っていたら、鉱物を食べていた。

 もちろん、その巨体や生きてきた年数を考えると、おやつ程度にしか食べていないのだろう。しかし、鉱物を食べちゃうのかーと、久しぶりに異世界気分を味わったシウだ。

 あと、巣には大量の糞もあった。

 見た目にすごかったので、鑑定したら、驚いた。

 高濃度水晶と表示されたのだ。水晶が圧縮されて、上位鉱物に変異していたのだ。

 古代帝国時代の高位貴族が書いた財物一覧にあったが、当時でさえ高価な素材であったらしく、加工すれば虹入りの美しい装飾品になるようだ。王族の女性か、高位貴族の一部でしか着けることが許されないほどの高価なものだったらしい。

 それは美しさもさることながら、魔力を蓄える量が半端なかったということで、女性の身を守るためにも必需品だったのだろう。

 元々の素材自体に高濃度の魔素が混じっている上、高魔力を蓄えるというのは垂涎の品だ。売ってみたい気もするが市場破壊になりそうで、止めておく。

 ちなみに、ギルドや行政官が置かれているような街レベルには必ず置かれている精霊魂合水晶の、上位版である。

 人間のステータス確認を行う、あれだ。

 それが、水晶竜の糞よりも下位であることに、シウはちょっぴり悲しい思いがしたものだった。


 一頭を解体するのに三時間もかかってしまったが、その後は魔法の自動化でさっと片付けてしまった。念のため、一頭だけ全体をそのままに残しておく。残り十九頭を自動化でさくさく解体し、部位ごとにまとめてラップしてまとめてまた空間庫に放り込んだ。

 空間庫の中には下位竜だけでも山のように、古代竜の鱗や骨さえびっくりするほどあって、いよいよ混沌としてきた。

 何かに使いたいのだが、思いつかないので宝の持ち腐れだ。

 せめて加工まではやっておきたいものである。

 考えられるのは薬ぐらいで、すでに秘中の秘と呼ばれる禁忌の薬『時戻し《スペキアーリス》』は作っている。死んで一日以内、かつ腐っていなければだが、蘇生させることも可能だ。これに、四肢欠損さえも修復させることのできる組み合わせもあって、各々用意していた。

 それらに必要な素材の一つに竜の部位があるので、古代竜の鱗の代わりに水晶竜は使えるのか、試してみても良い。

 ただ、時戻し《スペキアーリス》は禁薬だ。

 作って試したところで意味は無い。純粋にシウの興味のためだけで、失敗したら材料がちょっと勿体無い。


 他に、現存するレシピの中でもっとも高価な最上級薬もあるが、こちらなら使っても問題なさそうな気はする。これも大っぴらに人様に見せられない代物なのだが、まあいいかと作り始めた。

 結界を張って埃厳禁の状態で行ったが、すでに作ったことがあるので、あっという間に出来上がってしまった。

 竜の肝臓が必要で、そこを火竜や水竜から水晶竜のものに変えてみる。

 最上級薬でも、欠損部位を修復するには追加で素材を足す必要があり、こちらも竜の心臓と竜尾粉が要る。これらも、水晶竜のもので作ってみた。

 鑑定してみると、見事に効能が高まっている。

 薬は大抵、その指定した素材でこそ機能を発揮するものと決まっているが、どうやら竜素材に関してはその限りでないらしい。

 そもそも、本来はもっと上位の竜の素材が良かったのかもしれず、それをランクを落とすことで手に入りやすくしたのかもしれなかった。

 竜種のランクによって、効能のレベルとやらも順番になっているようだ。

 当然、水晶竜が一番効能が高く、もはや時戻しと同レベルに近いほどだった。

 次に水竜、それから火竜とランクは落ちていった。

 とはいえ現存するレシピで、実際に王国などが保管しているものは首長竜か砂漠竜程度だ。貴族でさえも、飛竜のもので作った薬しか持てないというのだから、素材それぞれが高価になるのも頷けた。

 飛竜なら、一冬草の方がより高価だから、これを売っても良いかなと密かに思ったりもした。最上級薬が広まった方が、その下の上級ポーションも出回りやすい。

 全体的に値も下がるだろう。

 しかも、この貴重な一冬草、実は増えているのだ。


 ロワイエ山の中では頂上付近にしか自生していなかった一冬草だが、雪の下という条件なら他でも良いのではと、こそっとその近辺に種を撒いていたのだ。種も鑑定したら思わぬ場所にあったので保管していたのだが、すると翌年にちょこっと芽が出ていた。

 なので、欲をかいて周辺一帯に、一応間隔を開けて種を撒いてみた。ついでに光属性レベル五で浄化した、高濃度の魔素水となったコルディス湖の水を振りかけて。

 後はほったらかしで、冬になって来てれみれば頂上付近は辺り一面、一冬草だらけになっていた。

 ちなみにこの種、実は根っこにあるのだった。この根が伸びる範囲でしか生えず、それで頂上付近にしか生えていなかった。元々はどこかの妖鳥なりが運んできたのだろう。こんな高い山、しかも頂上に落としていくのだからそれなりの生き物である。

 とにかくも、シウの実験の結果、一冬草の群生地が出来上がったのだった。

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