034 人型は内緒、嗅覚バレ、蓮根料理




 Tシャツをワンピースのようにして着替えさせはしたが、見た目があまりに寒々しい。なので、シウの冬装備の一つ、猟師風の毛皮ベストを着せた。また、幼い頃に手荒れ防止で寝るときに使っていた手袋の先を切って丸め、タイツのようにして穿かせた。

 パンツは他人のものは嫌だろうと、適当にTシャツを切ってその場で簡単に縫い、間に合わせる。

 多少、いやかなり変だが、今だけ我慢してもらった。

 本当なら聖獣姿に戻ってもらえば良いのだが、本人がやり方を忘れたくないから暫くこのままでいると言い張ったのだ。


 そんな風にゴソゴソしていると、フェレスたちが起き出してきた。

「にゃ!?」

「ぎゃぅ……?」

「きゅぃ!」

 フェレスもブランカも、ロトスが人化したことには気付かないらしくて、ちっちゃい人間がいる! と驚いていた。

 クロは普通に、よかったね、と言っている。

「やっぱ、クロ、おとな! フェレス、ブランカ、おれー、おれだよー」

「にゃ? にゃにゃ」

「ぎゃぅ」

 あれ、ロトス? とフェレスは気付いたようだが、ブランカは、分かってないのに返事をしたような感じだ。

 彼女は大体いつもこうなので、放っておく。

「みんな、ロトスは人型にもなれるからね。覚えといてね。あと、このこと秘密だからね? ものすごーく大事なことだよ。誰にも言っちゃダメだからね?」

「にゃ!」

「きゅぃ!」

「……ぎゃぅ?」

 一頭分かっていないようなので、頭を抱えて、ジッと目を見て再度教えこむ。

「ブランカ、いいね? 絶対に内緒だからね? ロトスのことを誰かに話したら、もう二度と会えなくなるかもしれないからね? 寂しいよね?」

「ぎゃぅ!!」

 さみしい、と慌てるので、落ち着いてと首を撫でる。

「どこにも行ってほしくないよね? だったら、内緒。分かった? 君らが嘘は付けない性質なのは分かっている。だから、黙っていること。黙っていれば、嘘にはならない。分かった?」

「ぎゃぅぎゃぅ!!」

 わかった、だまってる! と急いで鳴くと、ブランカはロトスに体当たりしてべろべろ舐めだした。

「わ、わ、やめろって。ブランカのからだで、ぶつかると、おれ、しぬー」

 伸し掛かられると完全に被食者の図だ。

 シウは笑いながら、ブランカを引き上げた。もう抱えるのが難しいぐらい大きい。確かにシウでも圧迫されるので、ロトスが聖獣でなく人間なら死んでいるだろう。

「ブランカー、もうそろそろ自分の体の大きさを把握して。小さい子は死んじゃうって」

「ぎゃぅ!」

 わかった、と相変わらず返事だけは頼もしいのだった。



 その後、水晶竜の交尾が一通り終わったのを確認すると、なるべく大きな巣に戻ってくれと頼んで地下へ移動してもらった。

 これで彼等から流れ出る自然の魔素もそのうち消えるだろう。

 波動も治まってきたので、エルフたちも警戒を止めるはずだ。

 念のため、大きな結界を張って、魔素や波動が流れ出ないよう細工して、自然と薄くなるように術式を付与してから固定した。

 ガルエラドにも通信で連絡を入れると、笑っている様子で、お礼を言われた。

 自分が行くことになるとは思っていなかったそうで、予想通りだったのがおかしかったらしい。

「(雌の言い分も分かるが、よく話ができたものだ。しかも間引きした雄を引き取るとはな)」

「(え、まずかった?)」

「(いや。普通は交尾の最中に死体はめちゃくちゃになるのだ。無駄にならずにすんで良かった)」

「(たくさんあるから、また解体したらそっちの魔法袋に入れておくよ)」

「(む。……なら、少しだけ、分けてもらえると有り難い。だが、本来はシウの取り分だ。余分には要らぬ)」

 一瞬の間に彼なりの葛藤があったようだが、シウが譲らない性格なのも分かっているらしく、折れたらしい。

 しかし何度も、「少しでいい、数枚の鱗でいい、絶対に多く入れないように」と念を押されてしまった。




 ロトスが人化で疲れたのか、うとうとし始めたので帰ることにした。フェレスの上に乗り、抱っこする形で安全帯を結ぶ。更にその前にブランカ、クロはその上だ。

 念のため、エルフが遠見魔法を使っているかもしれないので認識阻害を掛けながら飛び上がり、ロトスが寝ているのを確認して転移する。

 一気にルシエラ王都の外にある一つ目の森まで移動し、素知らぬ顔で王都門をくぐった。

 その際に、ロトスはおんぶ紐で背負い直した。上にローブを掛けて隠し、認識阻害魔法を使う。

 本当は人を隠して入るのは褒められたことではないのだが、犯罪者の場合のみ罪に問われるだけで、そもそもルシエラ王都の出入りはザルなので許してもらうことにした。


 ギルドでも採取した薬草を渡したり、依頼達成の手続きをしたのだが、特に誰かに注意を受けることもなかった。

 シウよりももっと目立つ存在、まだ幼獣だということでギルド内をウロチョロしているブランカの方が余程注目を浴びているのだ。しかもブランカの上を気に入ったクロが、ロデオのように体を揺らして楽しんでいるので、皆が大笑いだ。

 ギルドの表ではフェレスが冒険者たちに可愛がられ、結局最後まで誰もシウの背中がこんもり盛り上がっていることは指摘しなかった。



 屋敷へ戻ると、出た時とさほど変わらないのでこちらも気付く者はいなかった。ロランドだけ、背中の膨らみ具合に眉をピクリとさせていたものの、できる男の彼はいちいち口にはしないのだった。

 とりあえずはまだ屋敷の人には秘密だ。

 ロトスの人化がどれほど保つか分からないし、もう暫く様子を見てから、今度は幼児を拾ったという方向に持って行こうか考えながら部屋に入ろうとした。

「おかえりなさい、シウ!」

 リュカがシウたちの隣の部屋から出てきて、パッと笑顔になった。

 それからすぐに、あれ、と首を傾げる。

「にんげん?」

「あ、そっか。嗅覚がすごいんだっけ。リュカ、秘密ね?」

「……うん」

 神妙な顔をして、それこそ一大事を前にしたような決意を見せたので、どうしてだろうと思ったら。

「僕と同じような子、拾ったんだね? 分かった。僕、黙ってる」

 師匠について薬草学を習うようになってから歳相応、いやそれ以上に大人びて賢くなったリュカは、両手の拳を握って宣言してくれた。

 ある意味彼の言葉は正しくて、シウは嬉しような騙して申し訳ないような気持ちも抱きながら、ぽんと頭を撫でた。

「ありがと。もう少し落ち着いたら、皆にもちゃんと紹介するからね」

「分かってる。僕、その時にはお友達になれるように頑張るね!」

「そだね。ありがとう」

 舌っ足らずだった喋り方もなくなり、身長もぐんぐん伸びて頼もしい限りだ。

 というか、獣人族のハーフだけあって、奴隷の子という立場から解放されると本来の成長期に入ったらしく、ものすごく育ちそうな気配がある。

 今のところシウより目線は下なのだが、今年中に追い越されそうな勢いだ。

 彼はまだ九歳。シウはもう十四歳だというのに。

 内心で衝撃を受けつつ、これはもう諦めるしか無いことなのだと自分に言い聞かせて、部屋に入った。


 子供たちを、奥のロトス専用の部屋に置いて寝かせると、シウは自室でロトスの服を何枚か作った。

 下着類などだ。お出かけ用の服は、街で買ってこよう。ブラード家御用達の仕立屋だと着心地の良いものを用意してくれるだろうが、会わせる訳にはいかないので仕方ない。

 既成品でも、王都の店のものならば良い品も多いらしいので、楽しみである。なんといっても幼児服だ。可愛いのを選んであげたい。


 そうこうしているうちに夕食の時間が近付いており、本日の一品を急いで作った。

 レンコン料理だ。

 ブラード家でも大人気の食材で、歯応えが良いと喜んでくれている。女性陣はレンコンをおろして豆腐と合わせたもちもち団子が好きだ。これに醤油ベースのあんかけを掛けてあっさりといただく。男性陣は同じ団子でも、刻んだレンコンを混ぜて歯応えを感じさせ、揚げた上にあんかけを掛けるのが好きなようだった。

 他にレンコンの挟み揚げも若い男性陣には人気で、お酒とも合うし、ご飯も進むと喜ばれていた。

 この日はこれらのメニューにしたが、他に天ぷらにして大根おろしと天つゆでいただくのも良いだろう。明日あたり、天ぷら祭りが開催されるかもしれない。

 シウは今日のうちに筑前煮を仕込んで、明日のお弁当にしようと同時に作った。

 ついでなので、お弁当のおかず用にきんぴらも仕込んでおく。

 彩りに人参も入れるが、どうせならと夏に穫れたいんげんも混ぜてみた。

 爺様の小屋の近くの野菜畑は、下草の処理だけしているのだが意外と以前の作物が自生のように生えてきていて、夏に収穫できるのだ。

 インゲン豆を揚げたものは爺様の好物だったので、見る度に思い出す。あれを食べる時だけ爺様は、生ぬるくて糞不味いビーアでいいから飲みたいなと言っていた。日本人らしい発想だと思って笑った記憶がある。

 いんげんを見て連想したことに苦笑しながら、きんぴらを作り終えると急いで子供たちを起こしに行った。

 きっとお腹を空かせているだろうと、母の気持ちになって。

 その後ろで、スサたちがワゴンにシウたちの分の料理を乗せてくれていた。

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