031 冬の仕事とチビっこ達への教育




 《魔力量偽装》はその必然性がまだ広く知られているわけでもないし、逆に不信感を抱かれても困るのでやはり暫くはお蔵入りということになった。しかし、《雨雪避け笠》の方はすぐにでも商品化して欲しいと冒険者ギルドから話が行き、商人ギルドは迅速に申請を処理していた。

 試作品はすでに冒険者たちから奪い合いで、早く商品化をと急かしているそうだ。

 というのも、雪がすごい。

 街道もものすごい勢いで降り積もっているらしく、ゴーレムを使った消雪事業もフル回転だが追いついていない。現場で作業するのは人間なので、あまりの寒さと雪の量にやはり命の危険を感じるとかで、休憩が多くなるのだ。

 軽微犯罪の奴隷たちが働くので、過酷すぎてもいけないから、いろいろ対応策が必要らしい。国家事業に匹敵するので、さすがに国からも宮廷魔術師が出て、休憩施設の建設などを行っているそうだ。


 毎年、冬のルシエラ王都は冒険者がフル回転状態だ。集めるのにも一苦労で、今年も綱渡り状態だった。

 週末はシウもできるだけ依頼を受けるようにした。ちらほらと、魔法学校の生徒もいて、シーカーの生徒などは顔馴染みも多いためによく顔を合わせて話をする。

「今日は城壁外へ行くのよ。リエトさんのパーティーとなの」

「三級冒険者が雪掻き?」

 びっくりしていたら、本来は休暇日だったのを出てきてるとかで、半分ボランティアのようだった。冒険者なのに働き者だなあと感心していたら、同じパーティーのメンバー、ドメニカが、

「若くて綺麗なエルフの女の子に、良い格好したいだけなのよ」

 と耳打ちされてしまった。

「まったく。リエトもジャンニも鼻の下が伸びきってるのよね!」

「へえ……」

「よく言うぜ、ドメニカよう。お前だって、魔法学校の若いぴちぴちの青年見付けては、乙女みたいになってるじゃねえか」

「なっ、あたしは、先輩として指導しているのよ! あんたたちとは違うの!」

「へいへい」

「ちょっ、シウ、違うからね! 絶対違うから!」

「うんうん、分かったから。だから、引っ張らないで」

「絶対よ!? あたし、そんな軽い女じゃないんだからー!!」

 ジャンニが、悪いなと手で合図しながら、連れて行ってくれた。

 笑っていたら、背中のリュックからロトスが小声で話しかけてくる。

(まんま、冒険者ギルドって感じだぜ。あまりに、らしすぎて、笑える。ていうか、あのお姉さん拗ねてたけど、全然イケてるのにな?)

「……もしかして、年上の女性好き?」

(割と。てか、俺、チートハーレム目指してるし。そういうのは、門戸を広くしておくべきなんだよな)

「……つまり、節操なしって感じかぁ」

 呆れた声になったからか、リュックの中からは焦った声がした。それを小声で制する。

「シウ、悪い、待たせたな」

「いえ」

「さっきの依頼、やっぱり違うやつに行かせるから、お前さんにはこっちを頼みたいんだ」

 人が足りないので、職員の方である程度選別して指示するようにしたらしく、シウも引き止められていた。

 指定されたのは、シアーナ街道付近にしかない薬草の採取だった。

「ああ、僕ぐらいしか無理そうな依頼だね」

 大雪の中、飛んでいけるのは騎獣持ちぐらいだ。飛行板で行けても、視界が悪すぎて《雨雪避け笠》も役に立たないだろう。なにより、方向がわからなくなる。ましてシアーナ街道までその状態で飛ぶのは危険だ。

「感冒薬は早めに用意していたらしいんだがな。しもやけやら、咳喘息、神経痛もひどくなってるらしい」

「分かった。じゃあ、行ってくるね」

「あ、ギルド前からの発着許可が出ているから、そのまんま飛んでくれ。いつも悪いな」

 ううん、と首を振って、表に出る。そして、フェレスを見てくれていた冒険者たちに挨拶してから、飛び上がった。

 最近、厩舎に入れなくても、誰かしらが表にいるので預けているのだが、お互い楽しそうで何よりだ。


 フェレスの上には、前にブランカ、後ろにシウが乗っている。そのシウの肩にはクロ、背中のリュックにロトスが入っていて、王都を出て飛び上がるとリュックを前にした。覗き穴から前方が見えた方が良いだろうと思ってだ。

 雪しか見えないが、流れていく後方の景色よりは、今自分がどこへ向かっているのか見える方が気分はマシだと本人も言っていた。

 蓋をしている部分から顔だけ覗かせて、こんなに雪がいっぱいなの初めてだーと驚いていた。

 大学生活の中ではスキーにも行ったらしいが、視界は晴れていて、豪雪地帯にも縁がなかったからと面白そうに見回している。

 雪の中でも相変わらずフェレスはスピードを落とすことなく、三十分弱で到着したが、その頃にはロトスも風景を見るのには飽きていたようだった。


 シアーナ街道はかろうじてそこに街道があると分かる程度で、積もりに積もっていた。ごく最近、それこそ昨日か一昨日ほどに隊商が通ったのであろう、他と比べて道が凹んでいる。

 冬の隊商は、地竜に専用の木組みで作った雪分け専用具を取り付けて移動する。正面から見たら、雪掻き車、排雪列車のような形になっていた。地竜が嫌がるので、調教魔法を持った魔法使いや、専用具が凍らないように常に見張っておくための魔法使いも必要なので、かなり大掛かりになる。

 そのため、掻き分けられた分の雪が両端にうず高く積み上げられていた。下の方の雪は押しつぶされて凍っており、山中を進んできた隊商は恐ろしかったろう。

 それらを上空から観察しながら、手っ取り早く採取しようと《全方位探索》のマップを見る。生物を検索から外すと、大量の情報に惑わされることもない。近くまで行けば普通にどこに何があるのか、これは経験則で分かるのでマップはほとんど景色と化す。見付けるのは簡単だった。

「そこに雪ノ下あるよ」

 指差すと、ロトスがここほれワンワンと言いながら頭を突っ込んでいた。

 本人が楽しいなら良いのだが、まるっきり犬である。いや、それで良いなら構わないのだが。

 ブランカも探してはいるが、興が乗るらしく地面の下まで掘ろうと躍起になっていた。

 フェレスは周囲を警戒して飛行したままだ。クロにも命じて、待機させていた。

「フェレス、クロはさすがにホバリングは苦手だよ」

 魔力もあって、魔法も使えるだろうが、一応まだ成獣ではない。そこまで求めるのは無理だとやんわり注意する。

「にゃ?」

「スパルタすぎない? もうちょっと優しくねー」

「にゃっ!」

 その返事がロトス的に面白かったらしくて、

(イエッサー、大佐! みたい! うはは!!)

 大爆笑していた。


 ほどなくして、必要な薬草は採取できた。

 本当はこれぐらいなら、大店をやれるほど在庫を持っているシウなので横流しも可能なのだが、依頼仕事の場合はちゃんと採取しに来る。

 ついでに予備として多めに採取してしまうと、ブランカが採ったらしい木の根を見て、顔を顰めた。

「齧ってるから、これダメ」

「ぎゃぅっ!?」

「売り物にならないって説明したよね。採るなら根っこをちゃんと噛み切るように。でも、これの横にあった眩木と間違えなかったのは偉いね」

 よしよしと、ブランカの首元を撫でながら褒めた。眩木はアルカロイド系の毒を含むので生で齧ってしまうと、体の弱い者なら死に至ることもある。薬は毒にもなるという、典型的な例だ。

 危険なもののことは特にしつこく教え込んでいたので、口に含まなかったのは偉いと思う。もっとも、

(でもさー、状態異常回避の付与もしてあるんだろ?)

 ロトスが余計なことを伝えてきたけれど、シウはにっこり笑ってそれを無視した。

 ロトスもシウの顔を見て、やべっと呟いてすぐ、視線を外していたので言いたいことは伝わったようだ。

 誰だって、安全だと分かっていても子供にはより安全に過ごしてほしいと願うものなのだ。特にこんな世界だ。シウが万一死んでも大丈夫なように教えこんでおきたい。

 これが、爺様がシウにスパルタだった主な理由なのだろうとも思う。



 時間も余ったので、フェレスとクロは訓練と称して山中ヘ入っていった。

 シウたちは沼地を探して、レンコンを採取だ。

(ところで、コタツの案はどうなったんだ?)

 薪が不足している話をしたら、コタツはどうだとロトスが提案してくれたのだ。電気がないけれど、そこは魔道具だろうと言われたのだが、庶民が魔核や魔石を使った魔道具を買うとは思えない。せいぜい、火をつける魔道具を買うぐらいだ。それさえ買わずに済ます人も多い。

「石焼き案も捨てがたいんだけどね。竈へ放り込んで、それをコタツの真ん中に入れておくっていうのは――」

(悩んでるってことは、問題があるんだな?)

「怪我をしそうで。あと、気をつけないと火事になりそう」

 あ、そうかとロトスが納得して、ふむふむと頷く。子狐姿でやるので、どこかおかしいのだが、シウは笑みを零しただけで話を続けた。

「他に案がないこともないんだよね。今日、午後から探索してみるから、付き合ってくれる?」

(おう。いいぞ。やっぱ、冬はあったかくぬくぬくしてたいもんな!)

 そう言う彼は、暖かそうな冬毛たっぷりに包まれて、楽しそうに沼の周囲を飛び回っていた。落ちないようにと注意の声を上げて、シウは次々と魔法を使って、レンコンを取り上げては雪の上に置いていった。

(魔法、最高! やっぱ俺ももっと勉強するー!!)

 ロトスではないが、本当に魔法があると便利なので助かる。この便利さに慣れてしまうのが時々怖いと思うのだが、それはロトスには黙っていた。彼にはまだ古代帝国時代の話はしていないのだ。むやみに怖がらせるのもいけない。何よりも、彼は今、勉強のしすぎで頭がパンク寸前らしいのだから。

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