030 完成と試作品、偽装魔法付与




 とりあえず、《魔力量偽装》の魔道具に関して言えば、動作確認および魔獣の生態に関することが推測ではなくなった。もう、完成ということでいいだろう。

 ついでに、昨日作った雨除けグッズについても話しておく。商人ギルドへは申請したばかりなので、商品化は先になる。試作品だけでもと渡して説明することにした。

「《雨雪避け笠》って、まんま普通の商品名だな」

 ルランドには呆れられた。

「名付けのセンスがないのは、フェレスを見て分かるでしょ」

「ははは! 違いない」

 ルランドはこの試作品を、冒険者仕様の飛行板を借りる者ヘついでに渡して、使用感を教えてもらうと請け負ってくれた。

「とりあえず、僕はもう帰るね。チビたち、置いてきたから寂しがってると思うし」

「ああ、そういや珍しく今日は連れていないな」

「新しい子が寂しがると可哀想だから、全員置いてきたんだ」

「また拾ったのか! 今度はなんだ。角牛じゃないよな」

 笑いながら、からかわれてしまった。

 リュカも連れて帰るし、卵石、角牛と持って帰っているのはギルドの誰もが知っていることだった。

「王子殿下にも角牛を拾わせたって聞いたぞ。最近、その手の冗談が多いからな、聞いても怒るなよ?」

 自業自得だからな! と肩をバンバン叩かれて、シウはギルドを後にしたのだった。


 商人ギルドへは書類だけ渡して、どちらも保留中なので目を通すだけにしてと頼んで、屋敷へ戻った。




 木の日は学校の授業もないので、一日遊ぶことにした。

 出かける前に、ロトスには偽装魔法の術式を付与した首輪を付けてあげた。元人間の割には相変わらず、こういうことは気にならないらしい。むしろ火竜の革で作ったと教えたら、喜んでグルグルと回っていた。

(これで魔力量と、見た目も偽装されてるってことだよな!)

「うん。今は子狐らしく魔力量を一、見た目は犬にしてみた」

(犬!? なんで!!)

「……動きが犬っぽいから?」

(ええっ!?)

 マジかよ、と叫んで、それからしょんぼり落ち込んでいた。と言っても明るい性格のことだから、すぐに立ち直って尻尾を振っていたけれど。

(そこはせめて狼とか言ってほしかったぜ)

 九尾の狐が格好良いとか言っていた割には、彼はミーハーなのだった。

「騎獣には狼型もいるよ。フェンリルって言うんだけど」

(でも強くないんだろー)

「騎獣の中では上から三番目ぐらいかな」

 じゃあ、やっぱり九尾の狐で、と返ってきた。更に。

(普段は子犬、実は超強い狐の王! あ、それいいな。うん、やっぱ、犬でいいや)

 落差があればあるほど良いらしい。狼はなまじ強いだけに、それではインパクトがないのだそうだ。

 ロトスの面白い話を聞きながら、シウたちはコルディス湖まで転移した。


 転移のことはロトスにも話した。

 もちろん、空間魔法による方法ではなく「拾いものの魔道具と転移石を内緒で使っているから」と固く口止めした。

 ロトスは素直なので簡単に信じて、ほえーすげーと喜んでいた。ちょっと胸が痛むシウである。


 ロトスも、この世界の常識に毎回驚いていたが、盗賊を討伐したらその持ち物はもらっていい、という話には納得していた。

(だってファンタジーにはつきものだからなー)

「そうなんだ? 僕は最初は抵抗あったなあ」

(シウ、前世、爺さんだったんだろ? 戦争時代の人? って、そういうの厳しそーだもんなー)

 戦争前後の時代の人が誰でも高潔だったかというとそうでもなく、生きるためだが違法の闇市もあったしヤクザ者もいて、更には陰惨な事件だってあった。

 江戸時代でも「今の若い者は」と苦言を呈している文章が見付かっているほどだから、いつの時代にも変な人がいれば、真面目な者もいる。

 そうしたことを話そうかと思ったが、ロトスはすでに遊ぶことに興味が移っていた。

 今日は勉強はなし、と言ってあったからか、湖を見てはしゃいでいる。

 寒そーとか、凍ってたらスケートしたのにとか、楽しそうだ。

 ロトスが元気いっぱい飛び跳ねるので、フェレスたちも訳も分からずにはしゃいでいる。

 ふと、幼稚園のようだなと思った。

 小さい子たちが楽しげにしているのは、幸せなことだ。

(シウ、シウ、また目がおじいちゃんだぜ? 青春真っ盛りなんだからさー。もっと、バカやろうぜ)

 くいくいズボンを引っ張られて、シウは苦笑して湖に付いて行った。



 午前中はシウが作った木製のカヌーに乗って、コルディス湖を遊覧した。

 ロトスは景色の美しさに感動して、大袈裟なほど喜んでいた。カヌーから乗り出して湖の透明さに見入っていたせいで落ちかけたりもしたが、終始楽しそうだった。

 ブランカはフェレスに乗って、遊びながらの飛行訓練をしていた。クロはもう完全に飛べるので、追いかけるように付いて行く。

 時々ブランカが飛ぼうとするのを、フェレスとクロが宥めていた。湖の上での練習は危ないと、諭しているようだった。


 午後からは山の中だ。

 フェレスが今度はクロの特訓をするのだと言って、連れて行ってしまった。順調に子分化計画が進んでいるようだ。あまり無理はしないようにと注意した。まあ、精神的にクロの方が大人なので、上手く躱してくれるだろうが。

 シウはブランカとロトスに採集の方法を説明しながら、山の中を進んだ。

 ブランカもこの頃になると、余計なことはほぼ、しなくなっていた。彼女は散々「やってはいけない」ことをやらかしてきたので、怒られ慣れ過ぎて、豪快にスルーすることも多かった。さすがに本気で叱ると二回目はない。

 振り返って、シウの顔色を伺うという小技も覚えていたが、躊躇してくれるようになっただけ、まだいい。

「ブランカ、前見て歩いて。ぶつかるよ」

 言っているそばから木に頭をぶつけて、敵はお前か! みたいに怒っている。

「ぎにゃっ!!」

「ブランカも八方目を覚えないとダメだね」

(問題はそこじゃねーだろー。ブランカ、マジで騎獣の中でも上位になるのか? やべー)

「……騎獣にも性格があるからなあ」

 そう言って、苦笑しつつロトスを見下ろした。彼もまた、ウルペースレクスとは思えないのだが、そこは黙っておく。

「それはともかく、ロトスも覚えてね。ブランカよりは賢いことを期待しているから」

(げっ)

 藪蛇だーと愚痴を零しながら、雪を掻き分け鼻を突っ込んで、採取できる薬草などを探していた。


 夕方早めに戻ると、採取してきた薬草の処理を行う。

(なあなあ、それってお高いんだろ? 超貴重って言ってたもんなー)

「一冬草? 高いよ。最上級薬に使われるからね」

 現在レシピが一般に知られている薬の中では最高級のポーションの材料となる。

 欠損部位さえも、怪我直後ならば薬剤の組み合わせによっては修復される。

 必要な材料を告げると、ロトスは、

(ファンタジーだ! 竜の肝臓とか、すげえ)

 と喜んでいた。

「一応、内緒ね? レシピも、本当は本職の最高位の人が一子相伝みたいな感じで伝えてるものだから」

(シウはどうやって覚えたんだ? 例のぶっ飛び爺ちゃんは元冒険者で樵だったから、違うだろーし)

 ロトスの中でシウの育て親でもある爺様は「ぶっ飛び爺ちゃん」になってしまっている。シウは笑って答えを告げた。

「禁書庫にあったんだ。一応、許可をもらって見たけど、あんまり普通のことじゃないから。使ったことないけど、もし対外的に説明する必要が出てきたら、爺様に貰ったとか、知り合いのエルフに貰ったとか嘘をつく予定だから、ロトスもそのつもりでね」

(分かったー。お約束だな!)

 何がお約束なのかは分からないが、シウはそうだねと適当に頷いた。

 ロトスはお手伝いしたいのか、せっせと小さな前足で採ってきた薬の材料をまとめてくれている。珍しい虹石は彼が見付けてくれたものだ。とても貴重な視力回復薬の元になるのでお手柄だった。

 触れても大丈夫な葉などは、鼻を使って器用に伸ばしてくれていた。

 リュカもそうだが、これが薬になると思うとやる気になるのかもしれなかった。

(これが金になるとか、考えただけでワクワクするなあ)

 半分ほど、現金なところも混ざっているようだったが。



 食後、温泉に仲良く入っていると、ロトスが質問してきた。

(雪積草ってさ、前の世界でもあったんだろ? こっちと似たようなの、本当に多いんだな)

「意外と似てるよ。そもそも、人型の生物がいるしね。あと、昆虫も」

(おお、昆虫! そうだよ。前世だと、あれは地球外生命体だとか言ってたもんな!)

「魔法があるかないかぐらいで、後はほぼ似てるよね」

(竜はいねえけど)

「昔の地球にはいたかもよ。ほら、恐竜がいたぐらいだし」

 そう言うと、おおーっと興奮してシウの話に聞き入っていた。なんとなく、孫がいたらこんな感じだったのだろうかと思ってしまった。

 熱い湯が嫌いらしいので、温めにしているが、皆ぷかぷか浮かんで気持ちよさそうにしている。遊びたがるので長湯になるから、ぬるめ温度で良かったのかもしれない。

 ロトスも話に飽きたら、夢中で遊んでいるブランカたちのところへ行って参戦していた。

 クロは木桶に乗ってのんびり涼んでいる。たまにお湯に浸かっては、溺れてるんじゃないかというような水浴びをして、元に戻っていた。ハラハラする子だ。

 フェレスとブランカは言わずもがな。バッシャバシャと縦横無尽に走り回っていた。なにしろここには、お風呂で暴れないこととか、のぼせるから早く出てきなさいなんてお小言を言うスサはいないのだ。

 そして、シウは自分でも自覚しているが、彼等には甘いところがある。

 騒がしいお風呂タイムではあるが、他に誰もいない山奥の中だ。誰に憚ることもないと、シウも前世でできなかった、お風呂で泳ぐという行為を十分に楽しんだのだった。

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