水晶竜とオークションと面会までの紆余曲折

029 厳冬で薪不足、魔道具実験の結果




 樹氷の月に変わり、一年で最も寒い季節となった。

 しかも今年は厳冬らしく、気温も低い上に雪が多いので、あちこちで問題が噴出している。

 例えば、王都内の通路という通路には温水が流れ込む仕組みになっている。ところが、庶民街の方はメンテナンス不足もあって、ところどころで詰まってしまった。そのため、道路が雪で埋もれてしまったりする。

 あまりに寒すぎて、庶民用の薪が足りなくなる恐れも出てきていた。

 魔法使いをふんだんに雇える貴族や商人ならともかく、庶民は暖を取るのに普通は薪を使うのだ。この薪さえ、魔法使いの手が入っているものはお高い。

 夏の間に樵に頼んで用意してもらい、乾燥させて使うが、それは次の年のこと。

 去年が暖冬で薪が余っていれば良かったのだけれど、去年も寒かったせいでギリギリだったらしい量が、今年はもう底が見え始めているという。

 こうしたことは国として対策しなくてはならず、薪をてっとり早く用意できる魔法使いを投入するしか無い。

 ところが、国が保有する魔法使い、いわゆる宮廷魔術師は誇り高い貴族出身者が多く、なかなかこうした「庶民向け」の仕事を引き受けてくれない。

 そのため、冒険者ギルドに仕事の依頼が回ってくるわけだ。


 シウがお願いしていた依頼の結果が、ほぼ出ていると連絡を受けてギルドへ赴いたのが、水の日の午後だった。

 慌ただしいギルド内の雰囲気に、シウが冒険者の一人に理由を聞くと、そうした薪不足の話を聞かされた。

 彼も仕事がないので家で休んでいたいのだが、薪がないため寒くて耐えられないからと、ギルドでぐだぐだしているのだそうだ。他の面々も、やることもなく机に上半身を預けてひたすらボケーっとしている。

「仕事ないんだ?」

「魔力も少ないし、第一、火属性魔法とか持ってねえ」

「木属性は?」

「薪を作るのには関係ないじゃん」

 えー、と突っ込みを入れようとしたら、シウの後ろを足早に通りすぎようとしていたクラルが割り込んできた。

「木属性魔法が使えるなら薪を作れるよ! 誰か持ってる!?」

 普段はおっとりと大人しい若者なのに、目が血走っている。

 シウが思わず一歩下がると、クラルが「あ、シウ」と笑顔になった。

「シウも手伝って!」

「え」

「ちょっとだけでも良いから! あと、そのへんでボーッとしている人も、手伝って!」

「えっ、俺らか?」

「仕事だから! 依頼書出すから!!」

 問答無用の様子に、シウたちはタジタジとなりながらクラルに付いて行った。


 木の切り出しは、さすがに国が重い腰を上げて用意してくれたそうだ。

 宮廷魔術師の中で、空間魔法の持ち主が転移して飛び、王領直轄地から専門官の指示により切り倒されたものを運んでくれたらしい。

 冒険者ギルドの第二倉庫には山程の木々が積まれていた。

 そこにはすでに、依頼を受けたらしい魔法が使える冒険者たちが働いており、熱気にあふれていた。

 実際、火属性魔法を使うせいか、倉庫内は暑かった。

 シウと共に連れられて行った冒険者たちは、最初こそ「あったけー」だとか「ここにずっといたい」と騒いでいたけれど、そのうち、暑いとぶつぶつ文句を言っていた。

「ここで薪のサイズに切っていく作業を、お願いします。荷運び仕事もありますから! 受付はあちら。皆さん、張り切って仕事してください!」

「おー、クラル、強い」

「いや、もう切羽詰まってて。宮廷魔術師の人が、嫌がらせのように送ってくるんだ。収容できる量を大幅に超えてて、抗議したんだけど、だったらもう仕事辞めるとか言い出して」

「うわー。ひどいなあ」

「で、さっきも掲示板に新たな依頼書を貼ろうと思ってたところ。ちょうど暇そうな人がたくさんいて良かったよ」

「僕もかー」

「シウは暇人じゃないのは分かってるけどね!」

 もちろん、お互いに冗談を言っているのだ。

 クラルは元は魔力量も一般人の平均弱しかなく、木属性などのマイナーな基礎魔法持ちだったので、自分は魔法は使えないただの一般人としか思っていなかった。しかし、シウの節約術を知ってメキメキ魔法を使えるようになっていた。

 今では、自分の家の分のみならず、冒険者ギルドで必要な薪の用意も彼がやっていたほどだ。

 当然、今回のことでも率先して薪を作っていっているそうだ。ただし、そうは言っても元々の魔力量が少ない。ポーションを飲んで胃がガボガボになって頑張っていたらしい。

「それで発想を転換して、木属性持ちの冒険者を集めて講習会したり、細かく作業を分けることにして、適材適所に配分することにしたんだ」

「冒険者は体力だけはあるしねー」

 二人の視線の先には、のこぎりをたったか使って枝を落としたり、斧でサクサク薪にしていく冒険者の姿があった。

 クラルと顔を見合わせて笑うと、シウも手伝うことにした。



 昼頃、ルランドが倉庫にやってきて、シウがギルドへ顔を出した理由を、クラルとシウ本人が思い出した。

「あ、忘れてた」

「ごめん、僕もだ。職員なのに……」

 二人して落ち込んでいたら、ルランドに苦笑されてしまった。

「ま、ここ数日はクラルもここにかかりきりで、頭がいっぱいいっぱいだったんだろ。シウよ、手伝ってくれて、ありがとうな」

「ううん」

「一段落したら、依頼のあった例の、結果が出ているから説明する――」

 ので来てくれと言おうとしたルランドに、クラルがかぶせ気味に口を挟んだ。

「あ、こっちはもう落ち着いてきましたから!」

「おおう、そうか。分かった。じゃあ、シウを連れて行くぞ?」

「はい。シウ、ありがとう。それと系統立てて各自に役割を割り振るって考えも、分かりやすかったよ。仕事にも活かせそう」

 システム化するよう、勧めたのだ。今後も厳冬なら木々が大量に運び込まれるだろうし、自転車操業でやっていたら皆が疲弊する。

 適材適所にと考えていたクラルだから、やがて思いついただろうが、もっと細分化させてマニュアル化するよう話したのだ。

「こっちこそ、庶民の生活とか教えてくれてありがとう」

「どういたしまして。次の魔道具造りに役立つのなら、いつでも聞いて」

 ルランドはシウたちの話を興味深そうに聞きながらも、歩き始めており、シウは慌てて後を追って付いて行った。



 《魔力量偽装》と名付けた魔道具を十個渡していたが、結局全部試してもらったようで、それぞれに感想文のようなものを付けて戻してくれていた。

 字の書けない冒険者もいるので、綺麗な文字は職員が代筆したのだろう。ところどころに注釈があった。

「えーと、えー、えー?」

 読もうと思って躓いているシウを見て、ルランドが吹き出してしまった。

「ぶはっ、はっ、ははは。いや、うん、分かるよ。ものすごい字だろ? シウはソロでやるから、他の冒険者の実際ってところを知らんのだろうが、これが普通なんだぞ」

 冒険者の中には文字が書けない人もいる、という情報だけでしっかり考えたことはなかったが、つまりそれぐらい学のない人が多いということだった。

 文字が書けたとしても、よれよれになるのは仕方のないことだ。

「それでも真剣に書いてくれたことは、分かるなあ」

 見ているうちに段々と癖が分かってきたので読めるようになったが、これはこれで味があって面白い気がした。

「おっ、読めるのか? だったら、シウにはぜひともギルドで翻訳仕事をやってもらいたいぜ」

 冗談らしいが、それぐらい判読が難しい字もあるのだそうだ。

「今回のこれらは、口頭でも聞いているからな。詳細は俺だけが知っているってわけだ」

「あ、それで、ルランドが担当なんだね」

 中堅職員だから忙しいだろうし、今もまた薪問題でしわ寄せが来ていて大変だろうに。

 シウはサクサク進めようと、冒険者たちが一生懸命書いてくれた感想を読んだ。

 中には大きな文字で、

「まじゅーがよってこねーから、けものばっかりかっちまったぜ!! うさぎうまい」

 と書いてる人もいて、笑う。

 狩ってきた兎の味の感想は求めていないのだが、ツボに入ってしまった。

 代筆してくれているものは、もっと長文だ。ルランドが何度も確認してくれた上でまとめたのだろう。

「……おおむね、問題なさそうだね」

「ああ。俺もまさか、魔獣が人間の魔力量を見ているとは思ってなかったがな」

「そういう器官があるのかと思ったけど、僕もあれから解体したものを詳細に確認したけど、それらしきものがないんだよね」

「獣に備わる、本能ってやつかね? 実際、気配探知なんかもそうだろ? 魔獣は魔力を持っているし、魔法を自然と使う。種族特性はあるが、中にはとんでもないスキル持ちもいるしな」

 人間は誰かに教わらなければ使えない魔法を、彼等は生まれた時から使うのだ。

「俺も冒険者たちに聞き取りをしたが、せいぜいが鑑定程度の探知能力だろうって話だ」

「うん。それほど精度も良くないみたいだしね。人間のパーティーで必ずしも魔力が高い人を、一番に狙うとは決まってなかったし。近くにいたり、襲い易いというのもあるんだろうね。それを本能でできるのが下位魔獣か。……逆に怖いなあ」

「そうか? 実験に協力してくれた奴らは、この事実が分かったとしてもさほど脅威じゃないって結論だったぜ?」

「本能って、魂の根底に縫い付けられた、生き物の持つ底力だよ。人間は弱いからね。生まれたての赤ちゃんが生きていけないように、魔力を上手に扱うことはできない。反面、魔獣は、生まれたての状態からすでに魔獣だ」

「……そう言われたら、そりゃそうだ」

「しかもね。僕、この間上位の魔獣に出会ったけど、人間よりもよほど魔法を使いこなしていたよ? スキル持ちだったし。あれに追いつこうと思ったら、人間はどれだけ努力しなきゃならないんだか分かんないよ」

 ルランドが興味深そうにシウを見たけれど、詳しく聞こうとはしなかった。シウが報告していないということは、話す気がないと分かっているからだ。シウの後ろ盾がオスカリウス辺境伯だということも知っているので、勝手に納得してくれているのだろう。ただ頷いて、一番正しい言葉を返してきた。

「人間が勝るのは、数と、組織化ができるってところだけだな」

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