026 ロマンと検証実験の依頼と自己嫌悪




 金の日の午後、いつも通りに四時限目が終わってから、ヴァルネリがシウにへばりついてきた。だから、先週の続きとして話をすることになった。

「魔力の保有量が多いとやっぱり使える固有魔法も多いんでしょうか」

「そう言われているけど、例外もあるしね」

 と言ってシウを見る。

 シウは表向き、魔力量が一般人の平均しかないと公表していた。ヴァルネリもシウの魔力量が二〇しかないことを知っている。そして幾つかの固有魔法を持っていることも。ただ、何かは言っていない。

 シウは話を少し変えることにした。

「魔獣は人間を好んで食べますけど、魔力があることを本能的に知っているって仮説は?」

「それだよ。そこ、微妙だよね。僕は、魔力探知機能でもついているんじゃないかと思うんだんけど。魔獣の生態には詳しくないから分からないなあ」

 安心してください、専門家のバルトロメ先生も分かっていません。

 内心で返しつつ、続けた。

「僕はあると思うんです。だって、人のいるところを狙って寄ってくるし。あと、魔力量の多い者から狙っている気がする」

 人よりもよほど、探知能力に長けている。匂いも分かるのだろうが、あれはどこかに感知する器官があるに違いない。以前は熱量かとも思ったのだが、それならば選り好みする意味が分からない。

 あるいは、簡易鑑定魔法だ。

「魔力量計測器を作った人間としては、案外簡単に探知できるんじゃないかと。そうすると、阻害も可能かな」

「結界を張れば良いんじゃないのかい」

「おおごとじゃないですか。結界って意外と魔術式複雑で、魔核や魔石を食いますよ」

 結界を張れる魔法使いもそうはいない。高価でも魔道具が売れるわけだ。

「君の作った魔道具はあんまり食わないけどね」

「食いますよ。もし魔獣避けだけを考えるなら、案外もっと安上がりでできそうな」

「複合技?」

「それはもちろん」

「もしかして、新魔術式として登録できそうだったり?」

「結界よりはよほど簡単ですから、可能性は」

「おお!!」

 抱きついてこようとしたので、既の所で躱す。何故か睨まれてしまったが、シウは話を続けた。

「でも、魔力を宛てに探す方法はともかく、魔法を使った残滓を探すっていうのはなあ」

「魔獣は魔法の残滓なんて分からないと思うけどね。これは確かだよ」

「魔人は?」

「この前も似たようなこと言っていたよね。うーん、魔力保有量の高い彼等が、残滓のようなものをちまちま探すかなあ」

 ハイエルフは魔力量が高いが、そうしたちまちましたことをやらかす一族だ。こういう言い方をすると全部がそうだと聞こえるので、心のなかで訂正した。一部の一族だけだ、と。

「でも、ちまっとしたものの為に大量に魔力量を消費する。なんだかロマンだね!」

「ロマンではないと思うけど」

「ロマンだよ!」

「あ、そうですか」

「僕の研究に通ずるものがある!」

 そうでしょうとも。

 シウが苦笑している横で、興に乗ったのか新しく考えた話を始めてしまった。シウが話を振った手前、仕方なく彼の話に相槌を打ちつつ、五時限目の授業を乗り越えた。




 翌日、昨日のうちに作っていた魔道具の最終確認を済ませてから、冒険者ギルドで試作品を試してくれるよう依頼書を出した。

「魔力量の偽装、ですか。これが魔獣避けになるかもしれないと?」

「まだ研究の段階で、本当に魔獣が魔力を探知して人間を探しているのかどうか不明なんですけど。だから、魔獣避け煙草や薬玉を使わない人に頼んでみたいんです」

「分かりました。ですけど、依頼料が高すぎるような」

「あ、だって魔獣避け薬玉を使わないってことは、魔獣を狩ることを専門にしている冒険者でしょう? もし、この魔道具が効いたら、魔獣を狩れなくなるじゃないですか」

「ああ、それで。……ですが、重複依頼の受付も可能としてますよね?」

「同時依頼ぐらいは構わないです。こっちのは大した仕事でもないんだし」

「大した仕事だと思いますが……」

 苦笑して、依頼を受け付けてくれた。シウの場合だと実験が上手くいかない可能性もあるので(なにしろ魔力量が少ない上に、強い騎獣持ちなのだ)、こういう時にギルドの存在は有り難い。

 なるべく多くにお願いしたいので、試作品は十ほど用意して渡した。


 屋敷に戻ると、ヴァルネリに提出する資料を用意する。この研究をするために実験していたら固有魔法がスキルとして生まれてしまったのだ。

 ものすごく簡単で、基礎属性レベルが各種低くても使えるため、基礎属性さえ持っていれば固有魔法として身に付けることは可能だろうと思う。これなら発表しても良さそうだ。

 むしろ発表して覚えてもらう方が、良いぐらいである。もちろん、全ては実験結果如何によるのだが。



 お昼は、ロトスの希望でハンバーグを作った。

 油で揚げないので大丈夫だろうと思うが、幼獣の割にはしっかり食べていた。最初の頃のことが嘘のようだ。

 体も全体的に丸くなって、安堵する。

 救出してすぐは、毛皮のせいで丸かったものの、抱っこしたらガリガリで涙が出そうなほどだったのだ。


 ところで、ハンバーグは、お子様ランチ風にして出してあげたのだが、食べるだけ食べてからロトスに文句を言われた。

(俺、一応二十歳なんだけど)

「うん。精神年齢は、だよね?」

(……お子様ランチは、ないと思うんだよなー)

 その割には、旗があるだとか、ケチャップライスだとか喜んでいたのだが。

 でも確かに子供扱いしたのは悪かった。

「ごめんね?」

(いや、まあ、いいんだけどさー。美味しかったし!)

 自分でもがっついて食べた自覚はあるようで、お叱りはそこで終了した。



 午後からは庭に出て四阿を造り、周囲を見えない結界で覆ってから庭で皆を遊ばせることにした。

 遊びがてらブランカを調教しつつ、フェレスはいつものように訓練だ。クロも一緒に飛んで自主訓練に励んでいた。

 飽きたら、厩舎へ行って馬を見たり、角牛の小屋へ行ってお世話をしたりした。もちろん、フェレスたちがお世話できるわけもなく、ただふーらふらと飛んでいるだけだ。

 クロは背中に乗っていたが、ちょこまか動き回るブランカは角牛に嫌がられているので早々に小屋から出した。

 ロトスは大きすぎる牛に、驚き慄いていた。

(牛って。ありえねーよ。なんだよ、この規格外)

「でも、これで魔獣じゃないし、性格はおとなしくて飼うのは割と楽なんだよ。まあ、怯えて暴れると小屋を突き破るらしいから、こうやって家畜化するのは珍しいんだけど」

(マジかよ)

「うちは、小屋を頑丈にしているからね。美味しい餌も与えるし、すっかり慣れてるね」

(へー)

「角牛の乳は最高級品だから、ブラード家の料理人たちが余ったらお菓子やチーズにしてるんだけど、密かに人気あるんだ。お店に卸しているけど、その売上だけで角牛たちの餌代以上稼いでるから、すごいんだよ」

(マ・ジ・か! だったら、いい!)

 家畜なのに儲けてるなんて、とロトスは興奮して喜んでいた。


 ところで、この後、ロトスは急に落ち込んでしまった。

 どうしたのかと思ったら、

(俺、タダ飯食らいだし、全然稼いでねーし。やばい……)

 角牛は自分たちで餌代を稼いでいるし、馬は仕事をしているのに、と何故か彼等と同列に立って考えてしまったようだ。

「まだ子供なのに。そんなこと考えなくて良いよ」

 大体そんなことを言ったら、クロやブランカはどうなのだ。

 ロトスはなまじ二十歳だった頃の記憶がある分、子供気分になれないのだろう。

 シウも思い当たることがあるので、慰めるのには気恥ずかしいものがあったが、かつて言われた言葉を連ねてみた。

「子供なんだから、子供みたいにしておけばいいんだよ。いつかは大人になるんだから、それまで子供らしくしてればいい」

(でもさあ……)

「無理して大人にならなくたって、いいんだってさ。僕もよく言われたから、ロトスの気持ちは分かるけど」

(まあ、なあ。シウって、元はお爺ちゃんだったんだもんな)

 同情めいた視線と言葉に、シウは苦笑した。

「だから、ついつい大人ぶった言葉遣いや態度になるんだよね。知らない人から見れば、背伸びした子供だから、そりゃあ変な子だったと思うよー」

(痛い子だな!)

「……ひどい」

(あはは! いや、でも、今は普通なんだろ? 懐でっかいなーって思うけど、喋りは子供みたいじゃん!)

「まあね。やっぱり見た目が若いと精神も引っ張られるよ。お爺のままだと、もっと引きこもってた」

(やべえ、引きこもり!)

「今はほら、もっと行動的でしょ? ……だよね?」

 思わず確認すると、ロトスはシウの生い立ちやら今までのことを大まかに知っているので、うんうん頷いてくれた。

(超行動的。チートやってるし。お爺ちゃんのままだったら、絶対やってなかったこと、やってるって。俺も助けてもらったしさ!)

「……だからほら、ロトスも、もっと子供でいいんだって。どうかしたら赤ちゃんでもいいぐらいの」

(あ、それはヤダ! 赤ちゃんプレイ! マジ、無理! 勘弁してー!!)

 きゃっこら笑いながら、ロトスはグルグル回って元気になった。

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