025 雪山の採取と狩り、洗礼、子の成長




 木の日は、背中にリュックを担いでロトスを入れ、冒険者ギルドで採取の仕事を受けてから王都の外へ出た。

 フェレスに乗って飛んでいると、眼下に街道で作業をしている人たちを見付けた。早速、事業として立ち上がり、消雪道路造りが始まっているようだ。

 順調に進んでおり、一つ目の森から三つ目の森まで街道がちゃんと見えるようになっていた。

 ロトスにも見えるようにリュックを斜めにしたら、怖い怖いと楽しそうに叫んでいた。


 平面の雪景色が終わると、ミセリコルディアの森が見えてくる。シアーナ街道がうっすら分かる程度に入り口が切り開かれているが、一面雪で覆われていた。

 《全方位探索》を強化してみると、かなり遠い場所を商人たちの一団が進んできているようだ。冬の間でも物資は必要で、こうして無理をしてでも山越えしてくる。そのため、他の季節と比べて魔法使いを多く雇っているようだ。

 騎獣もいるらしいと感じつつ、シウたちは街道を逸れて山の中へ入った。

 よく行く場所なので、フェレスも慣れたものだ。葉が落ちている分、視界が広がるので、冬の山中の移動は逆に楽な部分もある。

 到着すると、すぐさま魔法で雪を払い、小屋を取り出して設置した。

(シウのアイテムボックスすごいなぁ!)

 背中から降ろされたロトスが羨ましげに言うので、

「ロトスが人化できるようになったら、魔法袋あげるよ」

 そう言うと喜んで飛び跳ねていた。

 本当は今でもあげて良いのだが、こう言うとモチベーションも上がるだろう。

 それまで、フェレスが自慢げに自分の魔法袋を見せびらかさないことを祈るばかりだ。


 雪山では採取の仕方を教えながら、フェレスの訓練、そしてクロとブランカの調教を行った。

 クロはもう普通に飛べるようになったが、高度であったり密集した森の中などは経験がない。速さを覚えさせたいフェレスがうずうずしているので、無理はさせないと約束して特訓役はフェレスに任せることにした。

 ブランカは命令の順守だ。運動能力は高いので、森での移動や飛行に関してはフェレス同様そのうち勝手に覚えるだろうが、人の命令はしっかり覚えさせなければならない。

「動いちゃダメ。尻尾、動いてるよ!」

「ぎゃぅぅぅ」

「飛べるようになっても、乗ってあげないよ?」

「ぎゃぅん!!」

 そんなあ! と抗議のような悲鳴が上がったので、シウは苦笑しながらブランカに諭す。

「フェレスみたいにできないと、無理だよ。ブランカ、僕もブランカに乗って飛びたいなー」

「ぎゃぅ!!」

 がんばる、と返ってきたので、また訓練の再開だ。

 ロトスも同じようにしてみせてくれるので、ブランカもやる気になって助かった。

 ロトスにお礼を言うと、何故か知らないうちに自分も従っていたのだと、首を傾げていた。シウも傾げるばかりだ。


 昼は雪景色を楽しみながらバーベキューをした。

(雪の中でバーベーキューって、最高の贅沢じゃね?)

 やべー、と大騒ぎで喜ぶものだから、釣られてブランカも飛び跳ねていた。この二頭は似たような色合いなので、まるできょうだいみたいだ。

 こうして見ると、ブランカもクロには遠慮していた部分があるようだった。

 思い切り絡み合ってゴロゴロ転げ回るというのは、クロでは無理だ。

 フェレス相手だと体格差もあったし、ちょうど良い相手ができてブランカには良かった。

「冷めちゃうよ。早く食べな。ロトス、ブランカの相手はいいから、戻っといで」

(分かったー。ほら、ブランカ、ご飯だってよ。お前、メシメシ言うなって。女の子だろ? あ? 子分の話し方? 意味わかんねー。シウ、こいつらホントはバカじゃないのか)

 笑いながら文句を言ってくる。

「愛すべきお馬鹿ちゃんだよ。でも獣が意思を持っているんだから、すごくない?」

(そりゃ、そう考えたらそうだけど。もしかして、俺も聖獣なのに超賢いとか言われんのかな?)

 顔をにやけさせながら言うので、シウは肯定も否定もせず、笑顔で頷いた。


 午後からは、魔獣狩りを行った。

 少し早いかもしれないが、ロトスに魔獣を倒すところを見せたかった。

 決して聖獣が負ける相手ではないと教えたかったのだ。今はまだ子供でも、すぐ大人になる。恐れる必要など何もないのだ。

 探知の結果、山二つ向こうにいたので、そこまでフェレスに乗って行く。近くまで行き、飛行板に乗り換えると、フェレスの戦い方を上空から眺めることにした。

 今回、ブランカも地上に下ろしている。

 飛行板に乗せられなくなったというのもあるが、フェレスが狩りの仕方を教えると言ったからだ。

 ルプスは三匹おり、シウのいる四メートルほど上空へはジャンプすれば届く範囲にある。

 囮を兼ねてホバリングしていたが、ロトスはここまで来られないと思っているのか、飛行板の先端から覗き込んでいた。

 フェレスが挑発を繰り返し、囮役のシウへ、ルプスが跳躍しようとしたところを一気に間合いを詰めて襲う。

 一発で仕留めろと口酸っぱく言っていただけあって、喉元に噛みつく様は素晴らしいの一言だった。

 間近でゴキッという骨の折れる音と、喉元を噛み切った様子が見え、ロトスは体を震わせていた。

 ブランカは興奮気味だった。

 自分もやりたい、倒したいと思っているが、まだ自分には無理かもしれないという冷静な部分もあって、何度か足を踏み直している。

 いけるかどうか、自分に問うているようでもあった。

 が、間合いの取り方がやはりおかしいのだろう、フェレスが振り返って鳴いて、諭していた。

 フェレスたちの様子を見て、ルプスは狙い目がブランカだと思ったようだ。人間も美味しいが騎獣も好む彼等は矛先を変えた。

 ブランカにギラギラした視線を向ける。

 ロトスをそっと見やると、ハラハラした様子で見下ろしていた。

「大丈夫だよ」

 優しく頭から背中を撫でてやると、ロトスから力が抜けたのを感じた。強張っていたようだ。

「大丈夫。ちゃんとフェレスがいるし、僕も上から見守っている」

(うん)

 言葉通り、ルプスが飛びかかったが、あっという間にフェレスが倒した。一匹は前足で顔を傷つける格好で跳ね除けて、同時に飛んできたもう一匹の喉を噛み砕く。すぐさま、顔を傷めつけられて地面に倒れこんだルプスの喉元へも噛み付きに行った。

(すげー。すげえや、フェレス!)

 尻尾がふるふると感動に打ち震えていた。クロもシウの肩の上で、きゅぃきゅぃ鳴いて、すごいすごいと喜んでいた。


 それから、近くに岩猪もいたので、フェレスに倒してもらった。

 岩猪はその場で解体する。

「こういうの初めてだったら気持ち悪いかもしれないけど、見ていた方が良いから」

(うん、分かった。俺も男だ。ラノベの定番、慣れてやるぜ)

 よく分からない宣言をして、堂々と真ん前で見ていたロトスだが、内臓のあたりでよろめいて離れていった。フェレスに視線を向けると、すぐに気付いてロトスの護衛として付いて行ってくれた。

 ロトスはうぇっと催してはいたが、吐くことはなかったようだ。

 ただし、内臓の部分をご褒美としてフェレスにあげた時には、本気でうぇぇと声を張り上げ、想像したのかちょっぴり吐いてしまったようだった。

 お子様のブランカはまだ興味はないらしく、ふうんと見ているだけだった。



 夕方には王都へ戻り、リュックに背負ったまま冒険者ギルドにも入った。

 ロトスはギルドの中が見たかったようなので、十分楽しめたようだった。

 定番ネタがないとは言っていたが、異世界を楽しんでいるようで、なによりだ。

 そして、疲れたのかブランカともども早い時間に眠りについていた。



 シウはクロとフェレスを連れて賄い室に行き、リュカたちと一緒に過ごした。

 子供の成長は早いもので、シウべったりだったリュカが、師匠のところで学ぶうちに随分と大人になっている。友達もできたらしく、名前や性格などエピソードと共に教えてくれた。

 性に合ったのだろう、とにかく毎日が楽しいと嬉しそうだった。

 手が、薬草で緑色に染まって取れないのだと、笑う顔も柔らかい。

「師匠は怒ると怖いけど、上手くできたら頭をね、こんなにして撫でてくれるの。ちょっと、おとうみたいだったよ」

「大きな手なんだね」

「うん。僕も、あんな手になりたいな」

「なれるよ」

「うん!」

 えへへーと笑って、耳をピコピコさせる。

 子供は笑顔で幸せなのが一番だ。

 この子が、父親を失った悲しみは一生消えないが、その周りを幸せな出来事で埋められると良い。


 ロトスも、この世界で幸せになってくれると良いなと、リュカの笑顔を見てシウは思った。

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