021 穴あけドリル機材とゴーレム試運転
光の日。王都の外へ出ての作業を行うため、ロトスを連れて行くことにした。悩んだのだが、おとなしくしていられるようだから、背負袋の中に入れてみる。いつもの魔法袋は薄っぺらの状態にして、その上にリュックを背負ったのだ。
景色が見えるように覗き穴だけは作って、上部から飛び出せないようにしている。
「窮屈じゃない?」
(うん。全然。眠くなったら中で方向転換できるし、毛布も敷いてくれたし)
「だったらいいんだけど」
(ありがとな。外になんとかして連れて行こうとしてくれるの、めっちゃ嬉しい)
本人がとても喜んでいるので、それならいいかとギルドに向かった。
今回のことは、シウが勝手にやっていることだ。しかし、商人ギルドから冒険者ギルドヘ話が伝わり、シウに指名依頼という形で依頼書が出された。
アマリアは冒険者登録をしていないので冒険者ギルドから依頼は出ていないが、商人ギルドでの登録があり、そちらで依頼料を払うようだ。
そのアマリアはしっかりとした冬の旅装で、護衛も連れて待っていた。
背後には荷馬車が幾つも並んでいる。ゴーレムを分解して運ぶのだろう。
土ゴーレムと違って、その場で作るというわけにはいかない。が、作業用ロボットとして考えると素晴らしい。
シウたちには護衛として冒険者ギルドから何人か付けると言われたが、正直なところ低級の冒険者ならば足手まといなのでいない方が良い。
遠回しに伝えると、ギルド本部長には苦笑されてしまった。
さて、そんなこんなで王都の外までは、アマリアの馬車に乗せてもらった。王都の門を過ぎるとフェレスに乗るため、馬車を下りる。
すると、アマリアが、
「寒くありませんか?」
と、心配顔で聞く。彼女は馬車の中でも、冬用ローブに包まれ、もこもこだ。
「フェレスが風属性魔法で周辺を囲んでくれてるから。僕自身の装備も温度調節されてるから、大丈夫だよ」
「それでしたら良いのですが。いつでも馬車の中に戻ってくださいね?」
「はい」
出てきたのには訳がある。フェレスがシウを乗せたがりなのもそうだが、背負っているロトスが喋れないのは辛かろうと思ったからだ。
案の定、彼に話しかけるとホッとした声が背中から聞こえてきた。
(やべえ。めっちゃお嬢様だ! 綺麗だった! シウ、お前、チートハーレムだな!!)
いや、それはどうだろう?
シウは笑って否定した。
「アマリアさん、婚約者いるよ?」
(マジかよ! ちくしょう、出会って数秒で失恋か、くそっ)
冗談だろうが、面白い子である。
ちょっと話題を提供してみようと、キリクのことを話してみた。
「お相手はキリク=オスカリウス辺境伯って言ってね、四十歳なんだよ。隻眼の英雄って呼ばれてるんだけど」
(何その中二病なアダ名。やべえ。ていうか、四十歳って! ロリコンかよ!)
「アマリアさん、十九歳だから、ロリコンではないんじゃないかなあ。確かに歳の差はあるけど」
(めっちゃ羨ましいんだけど! くそー。俺も貴族に転生させてもらえば良かったかな)
などと言うので、シウは貴族がどれほど大変なのかを、実験場所に到着するまで話して聞かせた。
到着する頃には、
(俺、貴族キライ。絶対イヤダ)
と、言うようになっていた。少々脅かしすぎたようだ。
王都の外壁を過ぎても暫くは畑などが続き、やがて森が現れる。森の脇を縫うように街道は続くのだが、大きな森が三つほど続くとやがて広大な草原地帯となる。岩場もあるし、ところどころに小さな森と共に村も存在するが、おおむね草原だ。冬の間はここが一面真っ白い景色となるから、どこまでも白い景色と、灰色の空が広がるばかりだった。
普通ならば、遠く離れた北側にうっすらと山脈が見えるが、冬場は降雪のせいで視界が悪くて分からない。雪も積もっているので、このせいで方向感覚が鈍る者もいる。
せめて街道の場所が分かれば、冬場の移動での不幸な事故が防げるというものだ。
一行は、一つ目の森の手前まで来て馬車を止めた。荷車もギシギシと音を立てて止まる。重い荷物だということがよく分かる音だった。
「まず、試しに機械で穴を開けてパイプを通してみますね。アマリアさんはゴーレムの試運転をお願い」
「分かりましたわ」
時間もないので、各自で試運転を始める。可能ならば今日中に、ゴーレムによって作業を行えるところまでシステム化するつもりだ。
シウは、空いた荷車の一つを借りて、機材やパイプを魔法袋から取り出して置いていく。荷車を運転していた家僕が、ふぇぇ、と驚き声を上げていた。寒そうにしているのでカイロを渡すと、どこかで落としたので良かった、と喜んでいた。聞けばカイロは一日にひとつ、上司から渡されるようになったそうだ。ありがたいと言っていたが、冬の寒い仕事の中、カイロひとつじゃあ足りないだろうにと思ってしまった。
作業中、ロトスも同情していた。
(今の俺は毛皮たっぷりで、あんまり寒さなんて感じないけどさー。雪の降る中でカイロひとつなんて、ブラック企業じゃねえか)
「前は、そのカイロもなかったんだよ」
(マジかよ。なあ、カイロって高いのか? ていうか、カイロあるんだな……)
「作ったからね。あと、特許料取ってないから、そんなに高いはずないんだけど。でも庶民の暮らしって意外と慎ましいし、今まで寒さ対策は魔獣の毛皮、って人がカイロを自腹で買うかなあ? 冒険者は命が掛かってるから、買うみたいだけど」
(……いろいろツッコミどころ満載だな、おい。シウ、異世界でチート楽しんでるんじゃん)
急に機嫌良くなって、ロトスが背中のリュックで揺れていた。
ふっふっふ、というのか、ひっひっひ、というのか妙な笑い声も聞こえてくる。同時に、きゃんきゃんという子狐の鳴き声も聞こえるので二重音声だ。
まあ、楽しいのならそれでいい。
シウの周りではブランカが雪に喜んで走り回っており、フェレスは辺りを警戒してくれている。王都に一番近い森だから常に冒険者が魔獣を狩っているため、安全ではあるが「それが自分の仕事だ!」と張り切っているのだ。
クロは背中のリュックの上で器用に立っているようだった。そこから周辺を見張っているらしい。
「取り付け完了かな。じゃ、あとは回すだけか」
穴を開ける機械は、魔核や魔石を使った魔道具ではなくて、完全な機械式とした。凍らないオイルで歯車に油を注したりする必要はあるが、安上がりで済む。ゴーレムが使えるようにハンドルは大きめにしたが、人力で回す場合のハンドルも用意していた。何らかの要因でゴーレムが使えない時の、バックアップとしてだ。
今回はゴーレム用を取り付けた上で、試し掘りをする。
もっとも、シウは小柄な子供なので当然回せたりはしない。ここは魔法を使う。
ハンドルを挟む形で頑丈な羽根を取り付けて、それを風属性魔法で動かす。いきなり力を強めるとハンドルが壊れるので最初はゆっくり丁寧に、やがて徐々に力を入れた。
グルグル回り始めると、ドリルが地面を掘り始める。
これはとりあえず開けるための穴で、地盤が柔らかかろうが硬かろうが開けてしまう。
ドリルや機械については前世の記憶が役に立った。工場で働いたこともあるし、そうした機材の紹介用パンフレットも作ったおかげで、仕組みには詳しい。
あの頃と違って魔法が使えることや、生産魔法のレベルが高いことで、また違った作り方ができるのも嬉しいことだ。
地下水脈まで到達すると、ドリルはすぐさま引き上げられ、次にパイプを通す機材をセットした。こちらにはパイプを入れながら、弱い地盤で崩れ落ちた部分を整える壁固めの薬剤も注入する。これは最低限の魔核を必要とする魔道具になった。といってもかなり節約しているので、見た目ほどには高い魔道具ではない。
セットしているパイプがどんどん落ちていくのを、見ていた家僕たちや、商人ギルドから来ていた職員が目を見開いていた。
すでに辺り一面に水が出てきているが、温度も予定通り十五度あるので周辺の雪が溶け始めている。その代わり、びちゃびちゃだ。
冬場は泥だらけになるが、差し引きを考えるとまだマシだと思いたい。
そうして地下水を地上まで持ってくるところまでは問題もなく、終わった。
アマリアもゴーレムの試運転が済んで、問題なさそうだった。
彼女にドリルの使い方を教えて、練習をしてもらう間、シウは街道沿いに穴あきパイプを取り付ける作業にかかった。
これは商人ギルド、そして冒険者ギルドの職員も一緒になってメモを取りながら見ている。この作業は単純なので、いずれ奴隷にさせたりするそうだ。
穴を開ける作業や地下へパイプを通す機械は、専門の業者を募って行わせる。
「簡単なんですね……」
「簡単じゃないと、壊れた時に困るからね」
「壊れるのですか」
「物には寿命があるんです。なんにでもね。それに事故が起こるかもしれないし、魔獣が踏み潰すかもしれない」
「ああ、なるほど」
「ではこの部分だけ取り外せば良いということですか。ああ、上手くできていますね」
メンテナンスも含めて、こういったものは考えないといけない。
作りっぱなしは良くないのだ。
「ただ、砂利のところはともかく、土で固めているところは汚れがひどくなるね」
作業しながら振り返ると、すでに荷車を含めて水浸しになっていた。
「でも雪掻きをしないで良いから、足場の掃除ぐらいは楽ですよ」
そんな風に慰めてくれるが、想像以上にひどい。日本だと、アスファルトで舗装していたからできたことなんだなあと思う。その日本でも消雪道路にはデメリットがあったのに。
「……王都の城壁近くに、掃除専門の業者を作っても良いかもしれませんね」
「おお! それは良い!」
「貴族用と庶民用、冒険者用などで分けると、事業が増えますよ。シウ殿、ありがたい!」
商人ギルドは商売の種ができると、すぐこれだ。シウは呆れ顔になりつつ、街道の両端に穴あきパイプを設置していった。
アマリアの方でも、試行錯誤しながらゴーレムに機材の使い方を覚えさせることができた。式紙を何度も書きなおして命令を系統立て、実際に稼働させる職人が簡単に指示できるよう、最短かつ安全に組み立てていた。
昼を挟んで、実験してみたところ、一発で上手くいった。この辺りは、さすがゴーレムのプロ、アマリアだ。
ロトスもアマリア様すげぇ、と喜んで見ていた。
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