022 仕事紹介と招待状2つ、凹む子狐




 週が開けて、火の日になった。

 ロトスはお出かけできたことが嬉しかったらしく、昨晩はずっと王都の景色がすごかったと楽しそうに話していた。

 今朝も尻尾を孔雀のように広げて振りながら、機嫌よくお見送りをしてくれた。

 今日は人化を頑張るのだと宣言していたが、さてどうなることやら。


 学校ではいつものように授業を受けた。途中、話の継ぎ穂で、プルウィアたちに冒険者ギルドでの仕事の話をしてみた。

 街道以外の、ちょっとした周辺地域などの雪掻き作業を募っていると伝えたら、お小遣い稼ぎにやってみるわと返ってきた。

「休みの日だけになっちゃうけど」

「もちろん。学校終わりだと時間もないし、夕方なんて危険だよ」

「ねえ、でも、街道の雪掻きは必要なくなるんでしょう?」

「だけど畑へ行く人の道や、城壁周りは手付かずだからね。そのへんは水を出しっぱなしにするわけにはいかないから」

「冬に畑へ行くの?」

「そうだよ。あれ、知らないの? 冬の寒さで野菜が甘みを蓄えて、美味しくなるものもあるんだよ?」

 あえて、置いておくのだ。自然の冷蔵庫のようにして。人間の知恵だなあと思う。

「冬でも野菜が食べられるの、なんでだと思ってたの」

 シウが問うと、プルウィアは目を泳がせる。

「……だって、エルフの村では冬場は保存食ばっかりで新鮮なのってなかったもの。王都だから、てっきり魔法か何かで? あるのかなって」

 確かに、ハウスのようにして育てているところもあるようだが。それは手間暇とお金がかかっているので貴族や王族用である。

 あとは、お金をかけたアイテムボックスなどで保管もしているのだろう。

「でも、奴隷と一緒に仕事をするのはちょっと嫌かも。親には怒られるだろうな」

 貴族出身のルイスが困ったように言う。本人は参加はするつもりらしいが、微妙なところらしい。

「軽微とはいえ犯罪奴隷だもんね。あ、でも、魔法使いには冒険者が護衛について一緒にいくし、奴隷の人たちはそれこそ街道にパイプ設置をする下働き要員として連れて行くって言っていたから、大丈夫じゃないかな」

 バッティングはしない気がする。

「そうなの? だったら、わたしは全然構わないわ。ルイス、あなたも級数上げたいって言っていたし、こういう地道なのは喜ばれるそうだから一緒にやりましょうよ」

「そういうことなら、大丈夫だと思う。ウェンディやキヌアはどうする?」

「わたしは止めておくわ。寒いの苦手なの」

 本当にもう嫌、と顔を顰めて言うので、プルウィアが笑う。

「ウェンディ、パンツスタイルが良いって毎朝言っているものね」

「ちょ! レディの秘密をバラさないで!」

「あはは」

 女子二人が騒いでいると、キヌアが苦笑した。

「そういったことを、バラされる側の気持ちにもなってほしいよね?」

「本当に。でも女性のスカートが意外に寒いということは分かったね」

「レナートはどうするんだい?」

「僕も参加しようかな。ギルドのレベルアップに数えられるなら、有り難いし」

「じゃあ、アラバさんやトルカさんたちにも声を掛けておこうか」

 アラバやトルカは古代遺跡研究科の生徒なのだが、同じ研究棟にあり、シウを介して魔獣魔物生態研究科のクラスメイトたちとは仲が良い。昼ご飯を一緒にすることも多かった。

「とりあえず、そういう話だから受けられる人はギルドへ行ってみてね。僕、家に待っている子がいるからもう帰るよ」

「分かった。シウ、情報有り難う」

 互いに手を振り合って、まだ女子二人が騒いでいる横を通りすぎて帰った。

 冬場のギルドの仕事は生徒が受けられるようなものがなかったので、ちょうど良いお小遣い稼ぎになって良かった。



 屋敷に戻ると、ロランドから手紙を渡された。

「あ。まずい」

「で、ございますよね……」

 ロランドも差出人名を見ているので、同じようにふうと溜息を吐いていた。

 シュヴィークザームからだったのだ。

 ご丁寧にヴィンセントの封蝋を使うという姑息な技だ。自分のものもあるだろうに、シウが無視すると考えたのかヴィンセントのものを使ってきた。

「行くしかないか」

 中身は、冬休みが終わったのに全然来ないのは何故なのか。また飛んで行くぞという脅しのような愚痴と、早く遊びに来いという催促だった。

 もう少しロトスが落ち着いてからと思っていたが、学校に行っている間はちゃんと待っていられているようだし、少しぐらいは大丈夫かと諦めることにした。

「お返事はいかがいたしましょうか」

「うーん、そうだなあ。明日の午後で。どうしよう。昼ご飯待ちだろうなあ。午前の授業が終わったら急いで行きます」

「ではそのようにご連絡致しましょう」

「ありがとう」

「それと、こちらも」

「えっ、まだあるの?」

 差し出された手紙は、シウ宛だった。裏を見ると、エドヴァルド=グランバリと記されている。

「あ、同郷人会かあ」

「そうしたお話があったのでございますか?」

「らしいね。カスパルにも来てる?」

「ございました。では、調整する必要がございますね」

「調整?」

 聞けば、カスパルは年明けからずっとあちこちに引っ張りだこで忙しいらしい。

 アマリアとキリクの婚約を成功させた立役者として――事実はどうあれ、実際にカスパルの父が仲人にもなるので――名が売れてしまった。

 要らぬ仕事を増やしたようだ。

「うわー、謝っておこう……」

「いえいえ。坊ちゃまにはちょうど良いのです。社交界に出たがらないので、お父上も嘆いておりましたから。しかし、この度のことではとてもご立派にされております。良い機会だったのです」

 そうかなー、と思ったものの、ロランドは若様が社交界で人気者になるのは嬉しいらしいので、シウは黙った。


 夜、遊戯室でカスパルに古書を献上してから、エドヴァルドの手紙のことを聞いたら、やはり同郷人会によるお茶会への招待状だった。

 気を遣ってか、風の日の午前中になっている。

「夜会の翌日だから、それでも辛いと言えば辛いが」

「週末は夜会続きだもんね、カスパル」

「仕方ない。貴族の家に生まれたものの宿命だ」

 と言いつつ、面倒だというのが顔に出ている。

「ま、シウには古書を献上されたし」

 にまっと笑って、本の表面をそっと撫でた。

「一時の事だ。我慢するさ。夏ほど人が多くないから、それだけが幸いだね」

 人も少ないので、そのうち夜会も収まるだろうと溜息交じりに教えてくれた。

「ところで。君、拾ってきた子は全然顔を見せないけれど、本当に大丈夫なの?」

「うん。一応。人に見付からないと分かっていたら元気。やっぱりまだ、廊下に人の気配があると警戒しているみたいだね。僕が一緒だとそうでもないんだけど」

 カスパルはどこか心配そうな、それでいて面白そうな顔で一つ頷いた。

「まあ、大丈夫なのならいいよ」

 せめて人化できれば、おおっぴらとまでは行かなくとも外に出してやれるのだが。


 部屋に戻って隣の彼の部屋に行ってみたら、はっきり分かるほど落ち込んでいた。

 全くもって人化の欠片も感じられなかったようだ。

 こればかりはシウも分からないので、悩ましい。

 あとは明日のシュヴィークザームとの面会如何による。しかし、あの常識を知らない素直な聖獣にどこまで話が通じるのか、それが問題であった。



 しばらくすると、ロトスが様子を窺っているのが分かったので彼のいる部屋へ移動した。

 こうして静かに待っているのかと思うと、胸が痛む。

「どうしたの? まだ寝てなかった?」

(うん。あのさー。あの、俺、全然バカでごめんな? 迷惑ばっかりかけて)

「かけてないよ。気にしないでいいって言ってるのに」

(うん、だけどさあ……)

 もじもじして、前足を踏み変えている。俯いて、今朝の様子とは全く違った。

「……僕こそ、チートじゃなくてごめんね?」

 え? と顔を上げる子狐に、シウは笑顔を見せた。

「チートだったら、聖獣を取り上げられないだけの力を持っていただろうし、ロトスを辛い目に遭わせた王を懲らしめられたのにね」

 ぽかんと口を開いていたロトスが、やがて耳をピコピコさせて、尻尾を忙しなく動かし始めた。

(……や、あの。それやっちゃうと、ほら、魔王とか? そんなレベルになっちゃうじゃん。魔王チートも面白いけどさ! いくら俺でも、王族とか貴族のヤバさって分かるし。ここで生活していくんだったら、ここのルールに従うべきだし。つまりだから、シウは全然悪くない! 俺がダメなんだって)

「ロトスは悪くないよ。まだまだ幼獣でさ、転生したばかりなんだから分からないことだらけで。人化も焦らなくて良いよ。またリュックに背負って連れて行ってあげるから」

「きゃん……」

 うん、と小さく答えて、ロトスは獣の習性なのかシウに体を擦りつけてきた。そして照れ臭いのか、にゃははと笑って、お気に入りの毛布で作った布団に逃げ込んでしまった。

 後を追いかけるように、ブランカ、そしてクロもついていき、最後にフェレスがその周囲を取り囲んだ。まるで、自分たちも仲間で見守っているんだからな、と言っているようだった。

 落ち込んでいたロトスも、これで少しは気が紛れるだろうか。

 ホッとしつつ、シウも自分の部屋から毛布を持ってきて、フェレスに寄りかかって寝ることにした。フェレスの尻尾が体に巻き付いてきて、温めてくれる。

 フェレスの自然に出てくる優しさに、シウは救われているなあと思う。

 こんなに良い子に育ってくれて本当に良かった。

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