013 久々の学校と黙ってられない幼獣と




 週が明けて、火の日となった。

 学校の始まりだ。

 シウはロトスとできるだけ一緒にいたが、時間も時間なのでギリギリに屋敷を出た。

 馬車を出そうか言ってくれたが、馬車より歩いた方が早いので断った。このやり取りは何度か行っているのだが、家僕のリコは親切に聞いてきてくれる。

 庭の隅の雪を横目に裏門から出て、石畳は温水効果で雪が積もっていないため、濡れた道路を進んで学校へ入った。

 停留所には次々と生徒を乗せた豪華な馬車がやってきて、渋滞している。冬は特に時間がかかっているが、着ている服のせいかもしれない。もこもこした格好にローブを着て、生徒たちが次々と本校舎内に入っていった。

 シウも徒歩で進み、ロッカールームを確認してから、二年次になったことで場所の変わったクラスのミーティングルームへ、そして授業を受けるために研究棟へと向かった。

 

 初年度生以外は、新年度の挨拶などは行われない。普通に新しい年度の授業が始まるのだ。連絡事項はすべてロッカー、ないしミーティングルームにて記されている。

 古代遺跡研究科のクラスへ行くと、生徒のほとんどが揃っていた。

「お、シウ。遅かったな」

「おはよう。ミルトは相変わらず一番乗り?」

 みんなが挨拶を返してくれる中、ミルトがおうよと胸を張った。

「一番は気持ちが良いからな」

 なるほど。こういう性質は獣人族だからだろうか。別の獣人族も似たようなことをしていた気がする。シウが内心で笑っていると、彼の従者であるクラフトが、

「ブリッツの奴らのことを思い浮かべただろ?」

 と、当ててきた。シウは曖昧に笑っただけだった。同じだと言うと、ライバル心のあるミルトがムッとするだろうからだ。

 どちらにしても、ミルトはクラフトの発言にムッとしていたけれど、シウは素知らぬ顔で授業を受ける態勢に入った。


 久しぶりの授業だったが、特に進んでいる様子もなくて、後で教師のアルベリクから補講用の資料を渡してもらえることになっただけだった。

 ちなみに、新年度になったが、新規受講者はなかった。

 あとは初年度生に賭けるしかないと、アルベリクが悲壮な顔で宣言していた。

 どうかすると勧誘も視野に、とか言い出して、クラスリーダーのフロランという男子生徒が張り切り始めたのでミルトが必死で止めていた。

 フロランとアルベリクに頑張られると周りが大変な目に遭うので、ここで止めた方が良い。

 どちらにしても大変だなと、他人事のようにシウは見ていただけだった。



 午後は、魔獣魔物生態研究科のクラスで、同じ研究棟にあるため移動は楽だ。

 昼ご飯もいつも通り、教室で摂る。

 一度屋敷に戻ろうかとも思ったのだが、ロトスには慣れてもらう必要もあるし、ジッと我慢の子だ。

 教室には全員が揃っており、久しぶりに会う面々を懐かしがっていた。

 中にはエルフのプルウィアもいて、シウとも仲が良いことから来てくれた。

「長い休みだったわね。ククールスが暇だってぼやいていたわよ」

「連絡あったの? 僕には一度もなかったのに」

「里帰りだって知ってるからじゃない? でもこの時期、彼みたいなタイプの冒険者は暇だろうから、遊び相手が欲しかったのかもね」

 ククールスもエルフだが、護衛仕事が多いので移動する人がいなければ必然的に暇になる。冒険者の多くは、避寒の為に南へ行く貴族や商人の護衛をしてそのまま南部で居着くこともあるらしいが、ククールスは今年の冬は戻りの便に付き合って王都まで戻ったらしい。去年もそうだったので、冬場の大型魔獣討伐の際には駆り出されていた。冬の冒険者は貴重なのだ。

 その冒険者にはキリギリスタイプが多く、特に一流冒険者に名を連ねるククールスは、冬の間仕事せずとも大丈夫なぐらいには稼いでいる。まあ、キリギリスなので貯金はできていないようだが。

 ところで、そんな話をしてくるということは、プルウィアと話をしたということだ。

「……気を遣ってくれたんじゃないの、プルウィアに」

「えっ?」

「だって、冬の間プルウィアも王都にいたんだよね? 里へは帰らない宣言してるわけだし」

「あ、そうね」

「彼も里から追い出されたって言ってるし。プルウィアが寂しがってないか、気にしてくれたんだと思うよ」

 そうした風に見えないところが彼の損な部分だが、案外情に厚い男なのだ。

「そうかしら? だって、その話をした時ものほほんとしていたし、本当に地に足がついていないっていうか。のんきな人よ?」

 プルウィアには全然伝わっていない。

 同族として気にかけてくれている大先輩にも、この態度だ。プルウィアは大物だとシウは思う。


 さて。

 この魔獣魔物生態研究科には、生徒たちが連れて来ている小型希少獣がたくさんいる。彼等も久々の再会に喜び合っていたが、問題はブランカだ。

 プルウィアとの話を終えると、昼ご飯もそこそこに彼等の会話に交ざることにした。

 くぇくぇ、きーきーと休みの間の出来事を話している希少獣たちは可愛いのだが、ちょっとした問題もある。

 彼等は、嘘が言えない。素直というのか、ようするに少々人間よりも知能が幼いのである。

 そしてブランカはその最たるものだ。

「ぎゃぅ、ぎゃ、ぎゃぅぎゃぅ」

 もう可愛く子猫のようには鳴いてくれなくなったブランカが、大人の声そのもので近況を語ってくれる。

 ただし。

「ぎゃぅぎゃぅぎゃぅ」

「こら、ブランカ!」

「ぎゃぅっ!!」

 慌ててビックリして、ぴょんと飛び跳ねていた。

 彼女は、こぶんがふえたんだよー、きつねのこだよ、と話していたのだ。

 あれだけ話すなと言ったのに、と腰に手を当てて睨むフリをしたら、視線をそっと外した。悪いことをしたという自覚はあるようだった。

「こわーい人間から隠れてるって話したよね? みんなは嘘がつけないから、最初からお話しちゃダメだって言ったよね?」

「……ぎゃぅぅ……」

 前足を揃えて、そこにおでこをくっつけ、ブランカはぎゃぅーと反省の鳴き声で謝ってきた。その横ではフェレスが、他人事のようにシウの話を聞いている。その上に乗っていたクロが申し訳なさそうに俯いていた。どうやらクロは止めようとしたようだ。

 一番年上のフェレスが全く申し訳無さそうにしていないのがミソである。

「しようがないなあ。もう。あのね、みんな。狐の子は隠れているから、絶対に誰にも言わないでね? もしバレちゃったらひとりぼっちにされてしまうんだ。可哀想だよね?」

「キーキーキーキー!!」

「くぇ!」

 ひとりぼっち可哀想、だとか、言わない! と宣言してくれる子ばかりで良かった。

「ご主人様と離されたら、みんなも寂しいし、怖いよね? だから、そんな目に遭わないように『しー』だよ」

 全員がきゃっこら騒いで「わかったー」とのお返事をいただけた。

 それから、小声になって「可哀想」だとか「ひとりぼっち怖い」とぼそぼそ話し合っている。こういうところは幼児レベルよりも上なのだ。

 で、本物の幼児に向かうと、シウはしゃがみこんで頭を撫でた。

「もう怒ってないから。そんなに落ち込まないで、ブランカ」

「ぎゃぅぅ……」

「家に新しい子が来たのが嬉しかったんだね?」

「ぎゃぅ」

「うん。お友達として嬉しかった気持ちは分かるよ。でも、ちゃんと理由があるから、お願いしているんだよ。分かった? 新しいお友達のことは、他所では言っちゃいけないよ」

「ぎゃぅ」

 賢いお返事に、シウは笑って頭をぽんぽんと叩いた。

「よし、じゃあ次はクロだね」

「きゅぃ」

「クロが落ち込まなくても良いんだよ」

「きゅぃぃ……」

 だって、と子供みたいな返事だ。彼にしては珍しく、可愛い受け答えとなった。可愛いけれど、このままだと行き過ぎた責任感の塊みたいになるので、ほどほどにさせないといけない。

 優しく頭頂部から背中にかけてを撫でてやり、笑顔で告げた。

「ブランカの失敗はブランカのものだよ。クロは気付いて止めようとしてくれたんだよね?」

「きゅぃ」

「それでダメだったなら、仕方ないよ。頑張ってくれてありがとう。でも、ブランカのことでクロが悪いと思う必要ないんだからね」

「きゅぃー」

「もしかして、仲間のつもりかな?」

 うんうんと嬉しそうに頷くので、笑ってしまった。クロにとっては、この仲間がパーティーメンバーなのだろう。

 そこで自分の役割についても考えたらしい。

「よしよし。君は賢いから、考え過ぎちゃうんだね。でも、一人で背負い込まなくても良いんだからね? 何のために仲間がいると思う?」

「きゅぃ?」

「お互いに助け合うためだよ。ブランカの失敗をクロが助けようとしたように、僕もフォローのために、みんなに言わないでねってお願いしたでしょう?」

「きゅぃきゅぃ!」

「失敗はね、いくらでも挽回できるんだよ。だから、一人で落ち込まないこと。分かった?」

「きゅぃ!」

 死にさえしなければ、人生なんて何度でもやり直せるものだ。どうとでもなる。

 だから自分ひとりの責任だと思い込まなくて良いと、そんな意味を込めて伝えた。

 そして賢いクロは、それをちゃんと受け止めているのだった。


 ちなみに、フェレスはやっぱり他人事のようにふわぁぁぁと大きな欠伸をした後、何言ってるの? という顔でシウたちを見ていた。

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