451 狩人の里を出発、討伐証明、領都宿泊 




 風の日の早朝に、シウ達は狩人の里を後にした。

 途中まではランパスとヴロヒ、アネモスが送ってくれた。

 大きな惑い石のところではシウが思った通りに反対側を通って、およそ来た時と同じルートを進んだ。

 惑い石や魔狂石にもかなり慣れ、シウ1人なら迷いなく来られそうだ。

 別れ際にまた来ても良いか聞いたら、もちろんと笑顔で言われ、3人と手を振って別れた。

 ククールスは二日酔いの薬を飲んでいたものの、体調不良はまだ続いてるらしく笑顔の別れとはいかなかったようだが。

「飲みすぎなんだよ、ククールス」

「分かってるって……」

 彼にあげた魔法袋の中には、ここまでシウを護衛したお礼だということで里のベリー酒が大量に入っていた。

 彼等だけで消費しきれないそれらは、本来は付き合いのあるソランダリ領伯へ納められるものらしかったが、多少減ったって良いとのことだった。

 バルトロメの今年の里帰りではベリー酒がお目見えしないかもしれない。

 想像したら面白くて笑ってしまった。

 ククールスが不審そうにシウを見降ろすので、シウはポシェットから飴玉を取り出した。

「今回だけだからね。これ、特効薬の――」

「飲む!」

 奪うようにシウの手から引っ手繰って、ガリっと噛んで飲み込んでしまった。

「あ、飲んじゃった……」

「飲んだらダメなやつか? 確かに大きかったけど、おっ、お? おおーっ!」

「別に効能は同じだけどさ。よく喉に引っかからなかったよね」

 呆れていると、腕を伸ばしてにこやかに体を前後左右に動かした。

「全快! うあー、楽になったぜ!」

 一般の二日酔いの薬程度ではそう完全に回復しないので、効果を強めたものを渡したのだ。いわゆるポーションだ。以前キリクにも納品したが、あれは相当効能が高かったらしいので、ブラード家などで置いているものはレベルを落としていた。でないと、酒を飲みすぎる危険があるからだ。二日酔い知らずで酒量を増やして体を壊すなんて、目も当てられない。リスクがあるかもしれないので、ポーション頼みはよろしくないなと反省したのだ。

「まあ、効いたならいいけどさ。あんまり飲みすぎたらダメだよ」

「へいへい」

 あまり聞いていない感じで返事をして、ククールスは足取り軽く森を進んで行った。


 帰路の途中、湖は通り過ぎようとしたのにククールスが「蟹……」と呟くので、仕方なくまたペルグランデカンケルを釣り上げた。

 そこで早めの昼ご飯にし、午後は急ぎ足で山を下りた。

 どうせだからとアトルムパグールスも狩り、混ざってくる毒持ちの方のロサパグールスも倒した。こちらは討伐部位だけ取って残りは焼却処分だ。

 毒が気になるので、こっそり空間庫に入れたけれど、ククールスには気付かれなかった。


 やがてサトワレ街に辿り着き、ギルドで報告した。

「1週間も山へ籠っていたのですか? まあ……」

 その割には綺麗だし荷物も少ないと、ギルドの受付女性は驚いていた。

「それで、ロサパグールスを狩ってきたんだけど」

「あ、そうですか。では証明部位を」

 そこでようやくシウ達が魔法袋の所持者だと分かったようだ。

「成る程、そうですよね。騎獣がいらっしゃるのだもの、アイテムボックスもお持ちでしょうね」

 シウを貴族の坊ちゃまと思ってくれたのか、女性はにこにこと笑ってロサパグールスの証明部位を確認してくれた。

「ククールス、アトルムパグールスはどこで卸す?」

「時間ないしなあ。帰りに倒した分はここで卸していこうか。安くなるけどさ」

 市場まで行く時間もないので、まとめてやってもらうことにした。

「俺はペルグランデカンケルがあるから、他は要らないぞ」

 彼は良いもの一択主義らしい。シウは苦笑して、ククールスの魔法袋からアトルムパグールスを解体所に持ち込んだ。

「……お前さん達、2人でこれだけ狩ったのか」

「すげえな」

「おい、倉庫に入り切るか?」

「これだけ新鮮なら、明日まで置いといても喜ばれるさ」

 解体担当の職員からは嬉しさ半分、これから大仕事があるのかという複雑な笑顔で応対されたのだった。

「俺達急いでるから、計算は後でいいや。ギルドカードがなくても、振り込みはしてもらえるだろ?」

「はい。でしたら、内訳の書類は」

「俺は要らねえよ。シウ、お前いるのか?」

「僕も別にいいです。ただ、問題があったら困るだろうから、本拠地は今のところ2人ともルシエラ王都のギルド本部なので、そちらにお願いします」

「まあ、はい」

 礼儀正しい発言が珍しいらしく、受付の女性はにこにことシウに微笑んだ。

 それを見てククールスが、

「お前、年上キラーなんだなあ」

 などと妙なことを呟いていた。


 夕方、暗くなっていたが急いでサトワレ街を出て、最短ルートを通ってフェレスに飛んでもらった。

 途中、一度休憩したものの、あとは飛びっぱなしだったのでフェレスもスエラ領都に到着したら少し疲れ顔になっていた。

 回復をかけてあげて、以前泊まった宿へ行ってみると運よく部屋も空いていた。とにかく深夜を過ぎているので寝たいからと、案内などは断ってベッドに潜り込んだのだった。



 それでもいつもの時間に目が覚めた。

 ククールスはまだ寝ており、フェレスもピクリともせずにお腹だけを動かして寝ていた。

 クロとブランカはシウが起きたせいか目を覚ましたので、授乳させ、またふぁぁと欠伸をしたのでフェレスのお腹の上に乗せてあげた。

 不思議なもので、フェレスは寝返りを打つ時に絶対、彼等を巻き込んだり潰したりしない。父性なのかなあと思っている。


 シウは部屋を出て、宿の受付に出向いた。

「あら、もう起きられたのですか?」

「いつもこの時間に起きるので、習慣で。ところで、お願いがあるのですが」

「はい。なんでございましょう」

「今日の飛竜便を取ってほしいんですが、できますか?」

 帰りの予定が立たずに予約していなかったのだ。転移に慣れているせいで、どうもこうしたことを忘れてしまう。

 昨夜は遅かったし、思い出して朝のうちにと思ったのだが。

「では、聞いてまいりましょう。どちらへ行かれますか」

「ルシエラ王都です。来る時にも乗ってきたんです」

「承知しました。では、ご連絡は係の者にさせますね。ご朝食はいかがされますか?」

「同室の者がまだ寝ているので……。あ、そうか、準備ですよね。昨夜はすぐ寝たいって我儘を言ってしまって」

 すみませんと謝ったら、笑われた。

「お客様なんて我儘のうちに入りませんわ。では、ご起床されたら教えていただけますか? もし、遅いようでしたら、周辺のお勧めの店などもご紹介できますのでお気兼ねなく仰ってくださいね」

「はい」

 返事をして部屋に戻った。

 ククールスが1回転しており、フェレスは尻尾でクロとブランカを包んでいたが、まだ寝ていた。

 それを横目に、シウは朝のストレッチや、結界を張った中での運動などを行って時間を過ごした。


 その後、飛竜便の結果を教えに来てくれたが、午前は埋まっており一番早くて午後の便になるということだった。

 仕方なく、今日中の帰宅を諦めた。通信魔法でブラード家に連絡を入れたり、脳内であれこれと算段を付けていたらククールスが起き出してきたので、その旨を伝える。

 フェレスも、お腹を派手に鳴らしながら起きた。その時クロとブランカがころんとベッドに落ちたので、フェレスは慌てて舐めていた。

 自分で尻尾に包んでいたのに、無意識にやるせいか気付かなかったようだ。

 落っこちたクロとブランカは特に痛がりもせず鳴かなかったが、フェレスは何度も何度も舐めていた。

 お詫びなのは分かっているが、お腹をグーグー鳴らしながらなのでちょっと怖い。笑っていると、ククールスも笑ってフェレスを指差した。

「おい、それやめろよ。食い物を味見しているみたいだぜ」

「にゃっ!」

 違うもん! とお怒りのようだ。

 お腹が空いているせいもあるだろう。とりあえず、先に食事をさせようと魔法袋からアトルムパグールスの身と味噌の部分を食べさせた。

 ククールスが羨ましそうに見るので、苦笑する。

「僕等はちゃんと店に行こうね。もうちょっと我慢して」

 クロとブランカを抱っこひもに入れると、もう食べ終わったフェレスを綺麗にして部屋に浄化を掛けた。

 受付で精算した後、教えてもらった美味しいブランチを食べさせてくれる店に行ったが、歩いて数分のところにあり、裏通りの道や公園の緑が見える良い場所でなかなかのお勧めスポットだった。味も美味しかったが、女性向けなのかボリュームが少ないのが難点だ。

 店を出ると、時間があるのでスエラ領都を観光しながら、屋台で幾つか買い食いをした。シーカーだと学校から屋敷が近いし、屋台もなかったので久しくしていなかったが、買い食いはいいものだ。

 ククールスも両手に肉を抱えて頬張り、幸せそうだった。

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